夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
馬車に乗って一時間弱。やっと目的の場所に付き馬車は止まった。
星桜はその一時間弱は生きた心地がしなかったらしく、馬車から降り、胸を大きく広げ深呼吸している。
「死ぬかと思った……。空気の圧で……」
胸をなでおろし、顔を青くしながら星桜は降りてきた弥幸の近くに隠れるように移動した。
「ねぇ、さっきから何? 鬱陶しんだけど」
「慣れるまでこのままで居させて」
「君って人見知り激しいタイプなの?」
「そういうわけじゃないけど……。なんか、あの人達はダメ。怖い」
「正直なんだね。まぁ、僕もいい気分ではないかな」
そんな会話をしながら魅涼に付いて行くと、大きな屋敷が見えてきた。
弥幸の家と比べるとものすごく綺麗で、外観からも新しいとわかる。
赤色メインの屋敷の大きさは弥幸の家と変わらないが、綺麗と言うだけで見え方が違う。
人が歩きやすいように整備されている石畳。陽光を反射している池。
それだけではなく、屋敷の光沢も眩しく輝いている。そのため、星桜は「眩しい!!」と、思わず目を閉じてしまった。
「馬鹿にしてるの?」
「え、なんで?」
「君のそういう所本当に嫌い」
「え、ちょ、置いてかないでよ赤鬼君!!」
星桜と弥幸がそんな会話をしながら付いてきていることに、魅涼は微笑ましいというような笑みを浮かべる。
碧輝は先程と変わらず怒っているような顔を向けていた。
「楽しげな二人ですね。学生さんとはこんな感じでしたかね、碧輝」
「知らない。そもそも、俺達には無縁な事だっただろうが」
「それもそうですね。学校など、行かせて貰えませんでしたから」
悲しげな声は星桜の耳にも届いたらしく、不思議そうに首を傾げ魅涼の方に目を向けた。
「では、行きましょうか。足元にお気をつけください」
星桜の視線に気づいた魅涼は、優しい笑みのままそう口する。
二人の前へと移動し、一つの部屋まで案内を始めた。
☆
中も本当に綺麗で、高価そうな壺が何個も廊下の端に置いてある。壁には景色画も飾られていた。
貴族の家なのかと思うこの外観との違い。
綺麗な廊下を進んで行くと目的の部屋に辿り着いたらしく、魅涼は一度立ち止まる。
後ろを振り向き、彼は笑みを浮かべながら「どうぞ」と襖を開けた。
中は和風テイストで固められており、落ち着く。部屋の作りなどは弥幸の部屋と似ていた。
中心には大きめの四角いテーブル。その回りには赤い座布団。
床は畳になっているため、森林の匂いが鼻をくすぐる。
魅涼が二人を座布団へと案内する。その際、星桜は落ち着くことなく周りを見回し、頬を染め楽しげに笑みを浮かべていた。
「何してるの。子供じゃないんだから、早く座りなよ」
「あ。ご、ごめんなさい」
弥幸に指摘され、星桜は慌てて隣へと移動し座布団へと座る。
三人が座ったことを確認すると、魅涼は説明を始めてくれた。
「では、改めて自己紹介をさせていただきます。私はこの水泉家長男、水泉魅涼。こちらが次男の碧輝です。貴方達のお名前などよろしいですか?」
魅涼が二人に目線を送り、そう言った。
彼の目線を受け取り、星桜は慌てて自身の名前を口にする。
「あ、はい。えっと。私は翡翠星桜と言います。赤鬼君とは学校が同じで、偶然一緒に行動するようになったと言いますか……。私自身特別な力がある訳ではないのですが、少しでも赤鬼君の力になるために来ました。ご迷惑にならないように気をつけます。よろしくお願いします」
必死に自己紹介する星桜。そのあと、二人は弥幸に目線を送ったため、彼も嫌々名前などを口にした。
「赤鬼弥幸。赤鬼家、次男」
「────え、それだけ?」
「それ以外に何か必要? 相手は名前を知りたがってただけだし、これだけで充分でしょ」
そう言うと、弥幸は口を閉じてしまった。
「面白い方ですね。名前が分かれば問題ありませんよ」
「なんか、すいません」
「お気になさらずに」
星桜が申し訳ないと頭を下げ、魅涼は笑みを崩さず頭を上げさせた。
「では、説明に入らせていただきますね。少しはメールで送ったのですが、重要部分は口頭の方がよろしいかと思いまして」
今の言葉で、先程弥幸が見ていたメールは魅涼からの物だとわかった。
星桜は「あぁ、あの長文……」と思い出している。
「あのメールを簡単にまとめれば、二十五メートル級の妖傀が現れた。そのため、退治を手伝って欲しい──みたいな感じだと解釈した。間違いない?」
「はい、間違いありませんよ。ここまで大きな妖傀は初めてでして、我々だけでは手に負えないのです」
「まぁ、そこまで大きくなれば手に負えないだろうね。それは何回目なの?」
「二回目ですね。一回目でも十五メートルはありました。なので、次は三十行ってしまう可能性があり……。そうなってしまうと、我々は手の出しようがありません」
「二十五メートル級のは倒したの?」
「いえ。退治する前に朝が来てしまい、本人が目を覚ましてしまったのです。そのため、抜き取ることが出来ませんでした」
魅涼は悲しげな表情を浮かべ、ゆっくりと首を左右に振った。
星桜は今までずっと黙って聞いていたのだが、会話の内容を全て理解できたらしい。
そのため、驚きのあまり途中で大きな声を上げてしまった。
「に、二十五メートル級?!?!!」
「っ、うるさい!!!」
星桜のいきなりの声に、弥幸は思わず右手を振り上げた。
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