夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
「本当にすいませんでした……」
「いえいえ。少し驚いただけですから。それより、貴方達の方が大丈夫なのでしょうか?」
星桜が大きな声で叫んだ直後、弥幸が驚きのあまり彼女の頭にげんこつを落とした。そして、今は頭を擦りながら頭を下げ謝っている。
弥幸は耳元で叫ばれたことにより、耳が痛いのか壁まで離れ耳を摩っている。まだ警戒しているような態度に、彼女は眉を下げ申し訳ないという顔を向けていた。
「まぁまぁ。このような話は慣れないとこうなってしまいますよ。貴方もそうだったのではないですか?」
魅涼が星桜を庇うように弥幸に言った。だが、その言葉に彼は睨むだけで言葉を発しようとしない。今だに警戒しており体を縮こませている。
「────猫?」
「おや、貴方は狐ではなく猫だったのですか。それは驚きですねぇ」
「君達全員、僕を馬鹿にしてるの?」
「「いえ、全く」」
星桜も魅涼も首を横に振り否定するが、弥幸は威嚇してしまって戻ってこようとしない。
どうすればいいのか分からず悩んでいると、魅涼が先程の説明を噛み砕いて話し始める。
「先程の話なのですが、二十五メートル級は本当に珍しいのです。そこまで恨みが大きくなるということは、その人自身への負担も大きくなるということ。そうなると、本人の精神が持たなくなります」
「精神が持たない?」
「精神が崩壊し、自我を保てなくなるということです。そうなればもう、我々はどうすることもできません。ですが、まだ妖傀が出てきている状態ならどうにかできます。そのために、今回は応援要請をさせて頂きました」
魅涼の事細かな説明に、星桜はしっかり理解出来たらしく頷いている。
「そういえば、貴方は赤鬼家の者では無いのでしょう? でしたら、何故あそこにいる猫さんと一緒にいるのでしょうか」
「誰が猫だ」
弥幸のツッコミを無視し、魅涼はそのまま話を続ける。
「もしかしてですが貴方、精神の核をお持ちなのでしょうか?」
「え、なんでわかったんですか? 私、よくわかんないんですけど、精神の核っていうもの持っているそうです」
星桜は驚きつつもそう返事をし、魅涼は「そうなんですね」と怪しい笑みを向けた。
弥幸は目を細め、何かを探るような目を魅涼に向けている。
「でも、それがどうしたんですか?」
「いえ、羨ましいと思いましてね。精神の核は我々みたいな者からしたら、喉から手が出るほど欲しい代物ですから」
「あ、それは赤鬼君も言ってましたよ!! 精神力の量がすごいんですよね!! 私でも役に立てるなんてって嬉しく思ってます」
満面な笑みを浮かべる星桜に、魅涼は意味ありげな笑みを向ける。何かを企んでいるような笑みに、弥幸は何も発すことはしないがジィっと視線だけは送り続けている。
「貴方はお優しい方なのですね」
「へっ!? い、いえいえ。そんなことはありませんよ」
「そんなに優しいと、付け込まれてしまいますよ? 色んな方に──ね」
「は、はい……。気をつけます?」
星桜はよく分からないと言ったような返答をし、魅涼は「それならよかった」と言葉をこぼす。
「ねぇ、さっさと本題に入ってくれる? 僕は君達みたいに暇じゃないんだけど」
弥幸が不機嫌にそう口にし、その言葉が気に入らなかったらしい碧輝が弥幸を黄色い瞳で睨みつけた。
「申し訳ありません。つい脱線してしまいましたね。話を戻しましょうか」
魅涼が申し訳ないと言うように眉を下げ、弥幸へと向き直す。
弥幸はやっと警戒を解いたのか、星桜の隣へのそのそとゆっくり戻った。
「その二十五メートル級か、それ以上の妖傀が今晩現れる可能性があります。それをご一緒に退治していただきたいと思います。貴方の神力はなんですか?」
「炎」
「そうなんですね。私達は水です。残念ながら合わせ技などは難しそうですね。でしたら、個々でダメージを与え、最後は仕留められそうな方が臨機応変にお願いしましょうか」
「ま、待ってください!!!」
魅涼の言葉に、星桜は手を挙げ意見を述べようとストップさせる。
「どうしたのですか?」
「あの。仕留めるって、退治することですよね」
「そうですよ。三つの石を集めなければなりません。そうしなければ永遠とさまよい歩かれてしまいますからね」
「今回の妖傀は、赤鬼君が浄化します!!」
「────は?」
星桜のいきなりの提案に、弥幸は目を見張る。魅涼や碧輝もキョトンとしたような顔で、動かなくなった弥幸に目を向けた。
「だから、最後は赤鬼君にお任せ下さい!! そうすれば一回で終わります!! ね、赤鬼君」
星桜は期待の眼差しを弥幸に向けそう言い放つ。その目はキラキラと純粋に輝いており、流石の弥幸もすぐには答えられていない。
口を結び、嫌そうな顔を浮かべていた。だが、否定することが出来なかったようで、眉間に深い皺を寄せ「わかったよ……」と小さく答えた。
「ということなので!! よろしくお願いします!」
星桜は元気いっぱいに魅涼に頭を下げた。だが、思っていた反応ではなかったらしく、彼女は首を傾げながら顔を上げる。
魅涼は何かを碧輝に伝えており、碧輝も眉間に皺を寄せ何かを考えている。
「あ、あの。何か?」
星桜がおそるおそる聞いてみると、魅涼はまた優しい笑みを浮かべる。そして、そのまま星桜と弥幸に目を向けた。
「申し訳ありません。貴方達の言う浄化について、教えていただいてもいいですか?」
その言葉に、星桜は驚き弥幸はなんの反応も見せなかった。
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