夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜   作:桜桃 

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「君は君で居られなくなる」

 星桜は周りの人に聞きながらなんとか歩みを進めていた。

 

「赤鬼君ってもしかして方向音痴?」

「自覚はしてるよ。でも、今回は地図があるし大丈夫かなって思ったけど、やっぱりダメだった。逢花も連れてくるべきだったかな」

「事前準備を趣味としているんじゃなかったの?」

「事前準備として地図を見ていたんだけどね。残念残念」

「はぁ……」

 

 弥幸は表情一つ変えずにそのまま歩いている。星桜もなんの疑いもなく歩き出そうとしたが、人に教えられた道とは違うところに行こうと彼が進んでしまう。その度に首根っこをつかみ「こっち!!!」とズルズルと引っ張り目的の場所に辿り着いた。

 

「ここみたいだよ」

「こんなに奥じゃ分かるものも分からないでしょ。この港って本当は迷路を作るために作られたんじゃないの? 今度から水光の港じゃなくて迷路港と命名した方がいいんじゃない? 語呂もいいし」

「良くないよ。それに、赤鬼君が勝手に迷路と思い込んでいるだけでしょ? 方向音痴だからだよ」

 

 星桜が溜息をつきながら言っていると、弥幸はドアをノックした。

 

 篠屋紅美歌の家は、瓦屋根の家と家の間の奥に続く道にあった。

 ここは港の中では古民家と言われる建物で、木製の柱で屋根も瓦では無い。隠家(かくれや)と言われてもおかしくはない。

 そこまで大きくないため、少し馴染みやすい建物だ。

 扉の隣にはおまじないなのか分からないが、たぬきの置物が置かれていた。その手には煙管が持たせられており、可愛いとはとても言えない。表情も変にリアルで、星桜は思わず声を漏らしていた。

 

 弥幸が扉に付いている分かったを手にし、ノックした。

 それから数秒後に扉がゆっくりと開き、一人の女性が顔を覗かせる。

 

「あの、どちら様ですか?」

「僕達はある人のご依頼でこの港に来た者です。少しお話を聞きたいのですが、貴方が篠屋紅美歌さんでお間違いないですか?」

 

 弥幸がよそ者モードを発動して、いつもは動かない表情筋を動かし優しそうな雰囲気で問いかけている。星桜はそれを見た瞬間顔を背け「うっ」と唸っていた。

 

「そ、そうですけど……。話ってなんですか?」

「一度聞かれているかもしれませんが、貴方は今悩み事などはありませんか? それを少しお聞きしたくまいりました」

「……なんでそれを貴方が知っているのですか? それに、見知らぬ人に話す義理はないかと思います。申し訳ありませんがお帰りください」

 

 そのまま紅美歌は扉を閉めようとしてしまったが、弥幸が我慢の限界というように扉の隙間に足を入れ、手で思いっきり開いた。

 

「きゃっ!?」

「ちょっ、赤鬼君やりすぎだよ!!!」

 

 紅美歌はいきなり扉が引っ張られたことにより体をよろめき、弥幸へと倒れ込んでしまう。それを弥幸が受け止め、耳元で静かに囁いた。

 

「このまま想いを閉じ込めておくと、君は君では居られなくなるけど、それでもいいの?」

 

 弥幸の心配するような、訴えるような。そんな言葉と声に、紅美歌は驚きの表情を浮かべゆっくりと体を起こした。

 彼の顔を見つめ、嘘ではないかを見極めている。そのうち嘘じゃないと思ったらしい紅美歌は一人で立ち「少しだけ、お待ちください」と扉を開けたまま中へと戻って行く。

 

 中を覗くと一本の廊下があり、中も一般家庭並の大きさだった。まるでおばあちゃん家のような雰囲気で、暖かく安心する家だった。

 

「赤鬼君、さすがにやりすぎじゃない? これで警戒されたら元も子もないじゃん……」

「でも、少しは話せる状況になったじゃん。結果オーライってやつだよ」

「そうだけどさぁ……」

 

 弥幸の強引さに、星桜は溜息をつき奥に行ってしまった紅美歌を待つことにした。

 

 ☆

 

 それから数秒後、紅美歌が戻ってきて二人をリビングへと案内した。

 中は落ち着いた雰囲気で、大きなテーブルに座布団。テレビが壁側にあり、壁には折り紙や写真などが飾られている。

 その写真のほとんどが、紅美歌の成長記録のような物ばかりだった。

 

 弥幸と星桜は案内されるがままリビングの中心へと移動し、座布団の上に座る。

 

「あの、今は貴方だけなのでしょうか?」

「いえ。お母さんもいますよ。もう少しで来ると思います」

 

 紅美歌は星桜の正面に座りながらそう答える。すると、リビングの入口から母親らしき人が姿を現し、手にはお盆を持っていた。その上にはコップが四つ置いてある。

 

「初めましての方達ですね。こちらをよろしければ」

「い、いえお構いなく……」

「ありがとうございます」

 

 星桜は遠慮気味にしているところに、弥幸は堂々とお茶を受け取り口をつける。

 

「少しは遠慮したらどうなのさ」

「出されたものを逆に貰わなければ、それこそ失礼に値するぞ」

「ぐっ、確かに……」

 

 星桜はまたしても弥幸に負け、肩を落とした。そんな二人を、紅美歌と母親が物珍しそうに見ている。

 

「──あ、すすすすすいません。うるさくしてしまって……」

「あ、いえ。貴方達は水泉家の者では無いのですか?」

 

 母親が紅美歌の隣に座り、星桜達にそう問いかけた。

 

「自己紹介をお先に失礼します。僕は赤鬼弥幸。隣に座っておりますのが僕のげぼっ──コホン。助手になります」

「…………助手の翡翠星桜と言います」

 

 弥幸の言いかけた言葉に何か言いたげだった星桜だが、直ぐに気持ちを切り替え名前を口にした。

 

「赤鬼君と翡翠さんということですね。私は紅美歌の母、久美江(くみえ)と言います。そして、隣に座っていますのが娘の紅美歌です」

「どうも」

 

 母親である久美江は微笑みながら自己紹介をし、紅美歌の方も一言発しながら頭を下げた。




ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです

出来れば評価などよろしくお願いいたします(*´∇`*)
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