夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
「グッ!! な、なに……」
「お前の精神の核は、俺達が貰う」
碧輝は星桜の正面に立ち、なんの合図もなく右手を伸ばし首を掴む。そのまま上へと持ち上げ、鎖で繋がれている女性の隣まで移動する。
何とか逃れようと星桜は首を掴んでいる手を離させようとしたり、足をばたつかせるが意味はない。
何も出来ないまま、女性の隣に投げ出され背中を壁に叩きつけてしまう。
「かはっ!! ゴホッゴホッ……」
背中を強く打ち付けてしまったため、星桜は咳き込みその場に四つん這いとなり咳き込む。それでも碧輝は躊躇ることなく、髪を鷲掴み顔を上げさせた。
「い、痛い!!」
「お前の精神力、頂くぞ」
碧輝は釘を四本取り出し、星桜に見せつけた。その後なんの戸惑いもなく、彼女の左胸に突き刺す。だが、本当に突き刺しているのではなく、そう見えるだけ。なので星桜に痛みはない。
星桜はわけも分からないまま精神力を奪われているため、下唇を噛み碧輝の手を強く握り爪を食い込ませた。
碧輝は星桜の抵抗など毛ほども感じないらしく、徐々に精神力を奪い取っている。
すると────
「……なにっ?」
碧輝が突き刺した釘にヒビが入り、その瞬間二本同時にバラバラに砕け落ちてしまった。
「何をしているのですか碧輝。そんなに勢いよく精神力を吸い上げてはダメですよ。貴方の体がパンクしてしまいます。そうなれば、貴方自身神力を失い、
魅涼は簡単にそう説明するが、碧輝は予想外のことに動けなかった。
星桜は碧輝が驚いている隙をつき、両手で思いっきり押す。その際に髪の毛が何本が抜けてしまったがそれより逃げることを優先し、星桜は距離を置いた。
左胸にはまだ釘が二本、輝きながら刺さっている。それを星桜は、自身で抜こうと引っ張る。
「おっと、そちらを無理やり抜かない方がいいですよ」
「……どうしてよ」
「無駄に精神力が溢れ出てしまい勿体ないので。それに貴方も、精神の核をお持ちだったとしても限界はあります。精神力が無くなれば貴方がどうなるか──私でも分かりません」
困ったように眉を下げ、笑みを浮かべる魅涼はそのまま星桜に近付こうとする。それを後ろに下がり、近付かせまいと彼女は警戒していた。
「自分で抜くのがダメなのよね。なら──」
彼女はしたり顔を浮かべ、両手を胸の辺りで組む。そして、ロウソク訓練の時みたく目を瞑り集中し始めた。
「何を……」
魅涼は何をしでかそうとしているのかわからず、困惑の表情を浮かべていた。
その時──
「なっ。釘が……」
刺さっていた残り二本の釘にもヒビが入り、そのまま壊れ地面に落ちてしまった。
星桜は「やった!!」と額に汗を滲ませ、地面に落ちた釘を見ながら喜び笑顔になる。
その事に魅涼と碧輝は予想外の出来事に顔を青くし、目を見開いた。
「何と。これは一体……」
釘が壊れるのを初めて見たらしく驚きの声を上げているが、星桜を見つめる魅涼の目は困惑だけでない。なぜか楽しげにも見え、口角が上がっている顔は酷く歪んでいた。
口元に浮かぶ笑みを隠すように魅涼は手で覆い、その様子を碧輝は恐れているような迷いのある瞳で見ている。
「兄貴……?」
「これは、これは素晴らしい。素晴らしいですよ翡翠さん!! 貴方は精神の核を持った人達の中でも、素晴らしい物を持っているみたいですね!! ここまでの精神力をお持ちの貴方が羨ましい!!」
魅涼は突如として豹変し始めた。
先程までは少し不気味な雰囲気はあったものの、それでも紳士的な態度や言葉遣いだったため話しやすさはあった。だが、今の魅涼には紳士的な物は一切なく、とち狂ったのかと思うほど狂気的な笑い声牢屋の中に響き渡る。
星桜はその笑い声を聞き、恐怖で顔面蒼白となってしまう。
このままここに居ては不味いと本能的に察し、逃げようと走り出す。だが、それを素早く魅涼が阻止し腕を掴んでしまった。
「いっ!!」
「あぁ、貴方は本当に最高の逸材だ。貴方のような方が私の元へ来てくれるなど。こんな素敵なことがあってもよろしいのでしょうか!? いや、いいんですよね。だって、貴方は自らここに来てくれた。私の所に!!!!」
星桜の腕を握る力が徐々に強くなる。そのため、腕が白くなり痛みで顔を歪ませてしまう。
「やっ、やめてください!! 私が精神力を分けます!! まだ頑張れます!! なので、その子は返してあげてください!!」
女性は怯えたような目を向けながらそう甲高い声で訴える様に叫ぶ。鎖をガシャガシャと鳴らしながら必死にそう訴えているのだが、その声はまるで聞こえていないかのように魅涼は何も返さない。それだけではなく、目線すら向けない。
「貴方は──」
星桜は目に涙を浮かべ、顔を歪ませながら女性の方に目を向ける。
体中にある傷。特に左胸にある複数の穴は痛々しいもので見るに堪えないものだった。
掴まれている腕を彼女は払おうとするも、それは上手くいかず痛みが増すだけ。
魅涼は絶対に逃がさないというように手が白くなるまで強く握っており、さすがに危険と感じたのか碧輝が魅涼の肩を掴み止めようとした。
「兄貴!! もう離してやれよ、どうしたんだ!!」
「うるさいですよ碧輝。この方を逃す訳にはいかないのです。ダメなのですよ。私にはこの方の精神力が必要なんです。邪魔はしないで頂けますか」
魅涼の目は何を映しているのか。今までの彼とは大分変わってしまい、碧輝は絶望したような顔を浮かべこれ以上言葉を繋げることが出来なかった。
星桜はよく分からない状況で徐々に力が増していく魅涼の右手に、掴まれている腕が限界になった。
何とか離させようと、歯を食いしばり空いている方の手で勢いよく平手打ちをした。
乾いた音が牢屋に響く。その時、一瞬だけ力が緩んだため、その隙に払い女性の元へと走る。
「まっ、待ちなさい!!」
魅涼は右頬を抑えながらも星桜の元に駆け寄ろうと手を伸ばす。だが、狐の鳴き声がいきなり地下室に響き、近付くことが出来なかった。
────コーーーーーン
炎狐が星桜を護るように前に出て、口から炎を吐く。
威力はそんなになかったため、魅涼は両腕を前に出し防ぐことが出来た。
「貴方、何故ここに。寝ていたはずではなかったのですか?」
恨みが込められている血走らせた目を、牢屋の外に立っている人物に向けた。
「うるさいよ。どうでもいいでしょ」
牢屋の外には、眠たそうに欠伸をしている弥幸が、蝋燭の光に反射している刃を右手に持ち立っていた。
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