夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜   作:桜桃 

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「ください」

 外へと向かう星桜と女性。

 振り落とされないように炎狐に捕まりつつ、星桜は彼女が心配で後ろを何度も振り向いている。

 

「赤鬼君、私は何をすればいいの……」

 

 女性は星桜の服を掴み何も話さない。そのうち、前方が徐々に明るくなっていく。

 

「外だ!!」

 

 炎狐は光に向かって走り、外へと出た。

 外はもう明るくなっており、太陽が登りきっている。今まで暗い所に居たため太陽の光が眩しく、目を細める。

 

 炎狐は外に出たのと同時に地面に着地し、星桜は直ぐに降りて地下に戻ろうと走り出す。それを、女性が服を握り止めた。

 

「待って、戻ってはダメ」

「でもっ──」

「貴方が戻ってしまったら、あの方はなんのために私達を逃がしてくれたのか分からないわ」

 

 その言葉に星桜は言葉をつまらせてしまい、顔を俯かせる。

 

「赤鬼君は、私に何をさせたかったんだろう。わかんないよ」

「貴方はその人とは伴になっているの?」

 

 女性の力ない問いかけに、星桜は首を振る。

 

「そう。精神のコントロールは出来る?」

「少しだけ。でも、赤鬼君の力がないとまだ無理」

 

 服を掴み、自身の情けなさに打ちひしがれている。その時、女性が星桜の手を優しく包み顔を上げさせた。

 

「精神の核には様々な力があるの。私はできなかったけれど、貴方なら──いえ、貴方達なら出来るかもしれない」

「出来るって、何が?」

「伴になっていなくても、()()()()()を利用し操作する事が出来るの。自身の精神力を送り込む必要があるけれど。それをするには甚大なる集中力と想いが必要よ」

「想い?」

「そう。助けたい、倒したい、役に立ちたい。そのような強い想いが必要なの。私は貴方達なら出来ると思うの。さっきの会話を見ている限りね……」

 

 そう説明する女性の手には力が籠っており、星桜と弥幸に期待しているような目を向けている。だが、星桜は最近精神力のコントロール修行を始めたばかりなため無理があった。

 それに、弥幸はいつも合理的で自分主義。そんな人が星桜みたいな素人にそのようなことをさせるか。それも星桜にとって不安の要素の一つだった。

 

「私にはむずかっ──」

 

 星桜が不安に満ちた表情を浮かべ首を横に振ろうとした時、地下の方から地響きと共に爆発音が聞こえた。

 

「な、なに!?」

 

 地響きにより、元々弱っていた女性は簡単に地面に膝を着き倒れてしまった。星桜は女性に手を伸ばそうと動いたが、それよりいきなり地下室の出入口から大量の水が溢れ出るのを目にし驚愕した。

 

 大量の水の中には、弥幸が刀を手にし押し出されている姿があった。それだけではなく、碧輝が弥幸の両腕を掴み身動きを封じている。

 

 碧輝の頭やお尻には、狼のような半透明な水の耳や尻尾が生えている。

 弥幸の腕を掴んでいる手は、動物の手のように爪が鋭く尖っていた。少しでも掠れば深く切れてしまいそうだ。

 

「赤鬼君!!!」

 

 星桜は、水と碧輝によって押し出されている弥幸を呼ぶ。その声に彼は下を確認したかと思うと、大きな声で叫んだ。

 

「逃げろぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 いきなりの言葉に星桜は思考が追いつかず、立ち竦んでしまった。その時、目の端に勢いよく星桜に向かって来る物が見えた。

 咄嗟に後ろへと避けようとしたが、足が上手く動かなかったためもつれてしまい尻もちを着いてしまう。

 

 転んでしまったがそれが幸をそうし、飛んできたものから避けることが出来た。

 横を確認すると屋敷の周りを囲って立っている木に、水の弓矢が刺さっているのが見えた。

 

「な、なに……」

 

 何が起きたのか全く分からない星桜は、体を震わせ弓矢を凝視している。

 反対側から足音が聞こえ、驚愕の表情を浮かべながらゆっくりと振り向いた。そこには、先程と変わらない。

 口角を上げ、優しげな笑みを浮かべている魅涼が星桜に向かって歩いていた。

 

 顔は笑っているが目は全く笑っていない。逆に怒っているような雰囲気を纏っており、星桜はその場から立ち上がりいつでも逃げれるようにした。

 女性は魅涼を目にした途端、頭を抱え何度も「ごめんなさい、ごめんなさい」と目に涙を浮かべる。

 星桜はその様子を横目で見て不思議に思い、心配そうに見下ろす。

 

「貴方も、私にそのような態度を取るのですね。残念です」

「何の話か分からないけど、一体何がしたい訳なの貴方達」

「単純ですよ。私は貴方が欲しいのです。貴方の持っている、精神の核を──」

 

 魅涼は星桜を求めるように右手を前に出し、妖しい笑みで口にする。

 

「ください。貴方の精神の核を。そうすれば、私はもう何も考えなくていい。我慢しなくていい。こんなまどろっこしいことをしなくてもいいのですよ。貴方さえいれば全てが解決するのです。なぜなら、貴方の精神の核は普通の人とは違うのだから!!!!」

 

 徐々に落ち着きを失っていく魅涼は、興奮するように顔を高揚させ星桜を求め続ける。その様子を星桜は顔を青くし、悲しげな瞳を浮かべ見上げている。それだけではなく、軽蔑や、はたまた同情か。

 そのような複雑な感情が今の彼女の瞳に乗っていた。

 

「い、意味がわからないけど。貴方はただ、精神の核が欲しいだけなの? 欲しいだけなのにこんなことしたの? 早く赤鬼君に攻撃するのを止めて!!!」

 

 星桜は横で碧輝と殺り合っている弥幸を指さしながら叫ぶ。

 

 弥幸は掴まれていた腕を振り払うため、空中にいる間に体を捻り右足で碧輝の横腹を蹴った。

 それを防ぐため、手を離してしまった碧輝の腕を蹴り瞬時に離れ地面へと着地する。

 

 碧輝も地面へと着地し、休む暇を与えず鋭く光っている爪を前方へと出し走り出す。

 その爪を、弥幸は刀を横にし左手を刀の(むね)に添え受け止める。そのまま、弥幸は彼の右腕目掛けて左足を蹴りあげた。だが、それを碧輝は左腕で防ぐ。

 

 弥幸は息を思いっきり吸い込み、口を細くし隙間から炎を繰り出した。それを碧輝は顔を歪めながらも、瞬時に地面を蹴り左手側へと避け回避した。

 

 どちらも引かない攻防を繰り広げており、そんな二人を目にし魅涼は眉を下げ困ったように口を開く。

 

「あの方が牙を向けてくるので仕方がないのですよ。私もなるべくならこんな手荒な真似、したくありませんよ」

 

 そう口にしているが、口元には変わらず笑みを浮かべていた。だが、目だけは笑っていなため恐怖を感じる。

 

 星桜と魅涼の目が合い、彼女はその光がない濁っている黄色の瞳を見て体を震わせた。




ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです

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