夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
「ふふっ。怖がらせてすいません。ですが、我々にはもうこれしか残っていないので」
魅涼は言い終わるのと同時に一瞬で距離を詰め、星桜が手を伸ばせば届く距離まで移動している。そして、なんの反応もできない彼女に手を伸ばした。
「さぁ、貰いますよ。貴方の精神力の核を──」
彼女は胸辺りに手を伸ばされ、触れる1歩手前。恐怖で足が震えているため、逃げることが出来ない。
その時、上から急かすような声が聞こえた。
「上に手を伸ばせ!!」
その言葉に従い、咄嗟に彼女は右腕をあげる。すると、しっかりとした大きな手に捕まれ、地面から足が離れた。
いきなり浮遊感に襲われた星桜は、何がなにやら分からず、おそるおそる下を向いた。
大きな水泉家を上から見下ろすことができ、星桜よりだいぶ大きかった碧輝と魅涼が米粒ぐらいに小さくなっていた。
それを確認した彼女は、元々青かった顔をもっと真っ青にし甲高い叫び声を上げた。
「ひっ?! いゃぁぁぁああああああ!!!!!」
「うるさい」
「へっ?! あ、赤鬼君!! あれ、炎鷹!?」
再度下を向くと炎狐はいつの間にか居なくなっており、その代わりに炎鷹が姿を現し弥幸を自由の空へと羽ばたかせていた。
炎鷹の翼は炎で作られており、火花が舞っているが当たっても熱くない。
「こんなことも出来るんだ」
「安心している所悪いけど、まだ終わってないよ」
弥幸が冷静に言うと、測ったかのように下から水の弓が飛んできて星桜達を襲う。それを、炎鷹を操り何とか避ける。だが、何度かかすりそうになり、星桜はその度に小さな悲鳴をあげていた。
「君、腕力に自信ある?」
「今関係ないと思うけどとりあえずあまり自信はないかな!!!!!」
星桜は泣き叫び、弥幸の質問に答えてながらも振り落とされないように両手で弥幸の手をがっちり掴み見上げている。
次の攻撃がどこから来るのか気が気では無い様子だ。
「そっか。まぁ、どうでもいいけど。死にたくなかったらしっかりと掴んでおいて」
「だから何をっ──へぁ?!?!」
星桜が泣き叫びながら怒りの声をあげていると、いきなり弥幸が彼女を引き上げ腰に腕を回す。
こんなに異性と接近したことは無かったため、顔を林檎のように赤く染め口を無意味にパクパクと動かしている。
「ねぇ、どこでもいいから掴んで。どこでもいいから。まぁ、死にたいなら止めないけど」
「死にたくない死にたくない!!!」
星桜は息を飲み、弥幸の腰と肩に腕を回し落ちないように掴んだ。
「嫌だろうけど、今回だけは許してね」
「──えっ?」
弥幸は下を見ながらボソリと呟いたが、その後すぐに弓矢が飛んできてしまう。
星桜が落ちないように弥幸は腰に手を回し「動くよ」と伝えた。すると、スピードが一気に上がり風が顔に当たり痛む。
次から次へと飛んでくる弓矢を避けていると、複数飛んできていたうちの一本が炎鷹に当たってしまった。
そのことにより、炎鷹が暴れてしまい弥幸が手を滑らせてしまい空中へと投げ出された。
「やばっ」
「嘘嘘嘘嘘!!!!! いやぁぁぁぁあああああああ!!!!」
港を見渡せるほど高く飛んでいたため、このまま勢いよく落ちてしまうと体が打ち付けられ死んでしまう。もしかすると落ちている途中、重力で体が引き裂かれてしまうかもしれない。
星桜は恐怖のあまり白目を向き弥幸に抱きつき悲鳴をあげ、彼は頭から落ちてしまっているが気にせず上着の内側から御札を取り出し下へと投げた。
「引き裂け【
弥幸が投げた御札が地面に落ちる前に炎が燃え上がり、そこから白銀のたてがみを靡かせ、咆哮と共に炎の狼が姿を現れた。
炎狼が落ちてくる弥幸と星桜を背中で受け止め、そのまま魅涼達の方向に駆け出す。
弥幸は星桜が振り落とされないように引き寄せ、自身も落ちないようにしっかりと炎狼に捕まっていた。
「こんなに早く式神を切り替えるなど。貴方は本当に何者なんですか!!!」
魅涼は怒りか焦りか。顔を真っ赤にし怒鳴りつけるように弥幸へと叫び、十本の弓矢を一度に放った。それと同時に、碧輝が走り出し弥幸に殴り込もうと拳を握る。
今は魅涼に近づくため地面スレスレを走っていた。そのため、上から弓矢が降り注がれ横からは碧輝が襲って来てしまった。
弥幸は冷静に二人を見定め、右腕を上へと伸ばし結界を張る。碧輝には、炎狼が咆哮を放った。
炎狼の咆哮は、向けられて人に熱風をぶつけ火傷させるもの。碧輝はただの咆哮だと思っていたようで、顔の前で両手をクロスさせ防ごうとした。だが、腕に熱風を思いっきり食らってしまったため、唸り声を上げ逃げるように横へと転がり避ける。
「碧輝! 大丈夫ですか?!」
「問題ない」
口ではそう言っているが、袖は破れ両腕には酷い火傷負っている。酷いところでは、血が流れ肉が見えていた。
風が当たるだけで激痛が走るらしく、口では大丈夫と言っているが歯を食いしばり痛みに耐えていた。
「だからあまり出したくなかったんだけど……。もうこんなことはやめようよ。話せばわかる時もある。だから──」
弥幸が二人に訴えようと炎狼を止め、見下ろしながら抑揚の無い口調で言う。そんな彼の態度が気に触ったらしい魅涼は、怒りが頂点にまで達してしまう。
肩を震わせ拳を強く握り、歯も食いしばり恨みの籠った黄色く濁っている瞳で弥幸を睨みつけた。
「そうですか、わかりました。貴方は私達を傷付けないように手加減をしており、今回も仕方なくその式神を出したと。つまり、貴方は私達よりも勝っており、精神力、神力共に有利に立っていると。そう言いたいのですね」
「っ、そこまで言ってないよ。ただ僕は、無駄な争いをしたくないだけ──」
弥幸が魅涼の殺意のこもった目に圧倒しまいながら、負けまいと自身の意志を伝える。だが、そんな彼の言葉など聞こえていない魅涼は、喉が切れてしまうほど凄まじい声で叫び散らした。
「許さない許さない。許さねぇぞ貴様!!!! 力を持っているにもかかわらず、その力を使わず話し合いなどで済まそうなど!! その力はなんのためにあるのですか。貴方の力は、精神力はなんのためにあるんだ!!! 要らないのなら。使わないのなら!! 私に寄越せぇぇぇええ!!!!」
めちゃくちゃな口調で、魅涼は弓を右手に持ち弥幸達へと突っ込む。
炎狼は弥幸の指示がなくとも魅涼を切り裂こうと前の右足を上げ、鋭く光っている爪向けてしまう。
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