夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
「………んっ。あ、あれ。私……」
星桜はゆっくりと目を開けた。そして、体を起こそうと動かす。
「っつ!!」
腕と足に痛みが走り、涙を浮かべまた倒れ込んでしまう。
葉が下敷きになっており、クッションの役割を果たしている。
「あ、足と腕が……」
痛みが走ったところを確認するため、体に負担をかけないよう顔だけを動かす。
左腕は青く腫れているため、骨が折れてしまっている可能性がある。
右足は腫れていないものの、深い切り傷がふくらはぎ辺りにあり、血が尚流れ落ち、緑を赤く染めていく。
他にも、所々に切り傷があり、血が流れてしまっていた。
身体中の痛みに耐えながらも、星桜は先程の状況をゆっくりと思い出そうと、木々が覆い被さっている空を見上げる。
「……なんで。なんで、凛が私を突き落として──」
星桜が崖から落ちる前にした光景。
凛が笑みを浮かべながら両手を前に突き出していた。それは、星桜を突き落とすため、両手で背中を押すための行動だ。
その顔を思い出してしまい、星桜は悲しみと怒りで体を震わせる。
「ど、どうしよう。このままここにいる訳にはいかないし。かと言って、無闇に動けば遭難しちゃう……」
周りを見回すと、少し前に汚れてしまっている自身の鞄を見つけた。
体に負担をかけないよう体を起こし、腫れていない左手と、右足で少しずつ近付き、鞄に手を伸ばす。そして、チャックを開け中からスマホを取りだした。
「これで連絡すれば──」
スマホは画面が割れてしまっており、電源ボタンを何度も押したが動いてくれない。ずっと暗い画面のままで、自身の悲しげに歪ませた顔を映し出すだけだった。
「そんなぁ……」
肩を落とし、項垂れる星桜。
周りはすっかり暗くなってしまっており、先を見通すことが出来ない。そもそも、ここは森の中。仮に明るかったとしても、森の中を歩きなれていなければ、道から逸れてしまい遭難してしまう。
スマホを握りしめ、俯いてしまったまま彼女は動かない。そのうち、スマホの暗い画面にポツポツと雫が落ちた。
「なんで、なんでこんなことになるの。私は、凛に何をしてしまったの……」
その雫の正体は、星桜の後悔の涙だった。
星桜は涙を流しながら、なぜこうなってしまったのか考えていた。だが、何も思いつかない。涙を拭い、顔を上げる。
空には月が見え、木々の隙間から月明かりが注いでおり、この月光が星桜にとって救いだった。
雲があり月明かりが隠れてしまっていたらこの明かりもなかったため、本当に真っ暗闇に取り残されてしまっていたかもしれない。
「私、ここで死んじゃうのかな……」
また顔を俯かせ下を向いた星桜。
暗い画面で何も映さないスマホに目を向けると、星桜の悲しげな顔ともう一つ、肩越しに男性のような顔が映り出した。
「ひっ!!」
いきなりのことに顔を青ざめ、咄嗟に後ろを振り向く。そこには、体長170近い男性が立っていた。だが、普通の男性ではなく、目は黒く窪んでおり、肌は真っ黒。
左右には腕が二本ずつ生えており、お尻にはワニのような太く硬そうな尻尾が生えていた。
見た目からして人間ではないそれは、気持ちの悪い呻き声を上げながら、星桜に右手を伸ばす。
「い、いや……」
足を引きずり、彼女は折れていない方の左手でなんとか後ろに下がっている。だが、目の前の化け物はそんな星桜の様子など気にせず、ヨダレを垂らしながら手を伸ばし続けた。
『あ、ぁぁぁあああ。あああ……ああぁぁぁああ』
呻き声を上げながら、化け物はだんだん星桜との距離を詰めていく。
顔を青くし、涙を流しながら後ろに後ずさる星桜だったが、とうとう背中が崖に当たってしまい、これ以上後ろに下がることが出来なくなってしまった。
それでも化け物はお構いなく歩いてくる。
「や、やめて……。お願い……」
震える体は言うことを聞いてくれない。ただ、か細い声でそう口にするしか今の星桜に出来ることは無かった。だが、そんな声など化け物に聞こえるはずもなく、四本の腕のうち、右側二本を振り上げる。
「ひっ。おね、がい。やめて……」
震える体で化け物を見上げ、カチカチと歯を鳴らしながら祈願する。
『あ、おえあ、おあえお、うっお……』
化け物は何かを話しているような言葉を口にしていたが、そんな言葉に耳を傾ける余裕など星桜にはない。
『ううはない。おあえは、おえの──おえのものだぁぁああ!!!』
「いやぁぁぁあああ!!!!」
化け物が振り上げた二本の腕を、星桜目掛けて思いっきり振り下ろした。
涙を流し、頭を抑え助けを呼ぶように叫び声を上げた。
その時、突如として崖の上から人影が現れ、化け物に向かって降り立つ。
────だから言ったのに。
ザシュッ─────
『がっ、あ、あああ、ぁぁぁぁああああああ!!!!』
星桜は恐怖で目をつぶっていたが、化け物の声でゆっくりと開けた。
彼女が最初に映したのは、薄紅色のスニーカー。
瞬きしながらゆっくりと顔を上げると、化け物から星桜を守るように、一人の男性が立っていた。
その人は、大きな襟付きのノースリーブに、片方の肩が出るくらい下がってしまっている上着を身にまとっていた。
背丈はそんなに高くない。160〜170センチくらいの青年。
銀髪を風に靡かせ立っている彼は、星桜の方にゆっくりと振り向く。
その人の目元は、白い狐の面で隠されていた。
そして、その人からは甘い、花の匂いが漂っていた。
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