夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜   作:桜桃 

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横と縦の繋がり
「どういたしまして」


「魅涼だよね。どうしてこんな奥に居るの。君を悩ませているのは何?」

 

 弥幸は魅涼に近付き、隣に座り優しく問いかけた。だが、その問いかけに返答はなく、膝を抱え顔を埋めている状態から動こうとしない。

 

 暗闇の中に静寂が訪れる。

 重苦しい闇の空間に、弥幸は少し息苦しさを感じ始める。どんどん息が荒くなっており気泡が上がる。

 早く話をしなければ、弥幸はこのまま魅涼の想いの中に閉じ込められてしまう。

 

 今弥幸が居る空間には、魅涼の想いが沢山詰められている。それは明るく楽しい正の感情ではない。その逆の感情。悲しい辛い、憎いといった負の感情が集められた想いの奥底。そこは負低層(ふていそう)と呼ばれている。

 

 ここまで沈んでしまうと、弥幸でも浄化するのに時間がかかる。それだけではなく、負低層に長い時間居れば、本人の負の感情が送り込まれ自我を保てなくなる場合があった。

 急ぎすぎず、時間をかけすぎない。その絶妙なラインを攻めていかなければ浄化など不可能。

 

 弥幸は名前こそ知っているが、経験はしたことない。汗を滲ませ、言葉を選びながら魅涼に伝える。

 

「えっと。君はなんでそんなに自分を責めるの? 君も凄い技術を持っているのに。どうしてそこを褒めないの」

 

 返答はない。聞こえているのかも分からないため、弥幸は少し距離を置きながらも話しかけ続ける。

 

「……我は、自身の精神力が他の人より少しばかり多いとは思っている。だが、多いからと言って、それを全て使えているかは話が別になる」

 

 焦りを感じさせず、弥幸は淡々と話し続ける。

 

「君は精神力をそこまで持っていないかもしれない。でも、その代わりに持っているものがある。違うか?」

 

 何も反応がない。弥幸は横目で確認しつつもそれでも話し続け、心に寄り添おうとする。

 

「人それぞれ得意分野を活かせばいいと思っている。我にはできない事を君はしている。それだけで誇っていい」

 

 弥幸のその言葉に、ずっと黙っていた魅涼がやっと口を開いた。

 

『…………私は。私は君が羨ましい』

 

 魅涼が弱々しく口にした。

 か細く、意識しなければ聞き取れないほど小さい声。だが、弥幸は耳を澄まし、魅涼の本当の想いを聞き取ろうと耳を寄せる。

 

『私の家系は代々、精神力が人並外れていたのですよ。碧輝のように……』

 

 口にするのと同時に、ゆっくりと顔を上げる。肌は黒く表情が分かりにくい。だが、それでも今の彼の表情が悲しげなのは感じ取ることが出来た。

 

 表情を見た時、弥幸は驚きで息を飲む。

 今までの人達は皆人を恨み、憎み、妖傀を作り出していた。だが、魅涼の場合は違う。

 

 先程までは強い憎しみに蝕まられ、妖傀に乗っ取られていた。だが、今は少し落ち着きを取り戻し、普通に会話ができるようになっている。

 

 自分に寄り添ってくれる人がいるだけで、少しは落ち着きを取り戻すことができていた。

 

「そっか。君も苦しんだんだね」

『私は、私を認めて欲しかった。でも、精神力が少ない私など見てはくれなかった。両親でさえも……。碧輝ばかりを溺愛し、私など見てはくれなかった』

 

 苦笑し「情けない」と呟く。

 魅涼は自分のやってしまったこと、やらかしてしまったことを悲観している。

 

「情けないなんてことないと思うよ。我も同じ立場だったら同じようになっていた。君だけではない」

 

 魅涼は弥幸の言葉に顔を上げ、切ない顔を向け目を閉じる。

 

『ありがとうございます。ですが、私はやってはいけないことをしてしまった。妖傀を倒す側だと言うのに、生み出してしまった。もう、元の生活には戻れないでしょう』

「冷静なんだね」

『そうでしょう。冷静にもなります。どうすることも出来ないので、慌てる必要も無い』

 

 諦観してしまい、魅涼は俯いてしまった。

 弥幸はそんな魅涼を見下ろし、先程と同じように淡々と話す。

 

「今は何を言ってもどうすることも出来ない。まずは話し合う必要があると思うよ」

『貴方の方がよっぽど冷静ですね。普通に、大丈夫だよとかは言ってくれないのですか?』

「我にはわからない。これからの道は、君本人でどうにかする必要がある。我が大丈夫と言ったところで、本当に大丈夫になるわけが無い」

『まったくですね。ありがとうございます、赤鬼さん』

 

 諦めてしまった顔を浮かべてながら、魅涼の体はどんどん薄くなる。だが、肌の色は徐々に明るい肌色へと変化していった。

 そんな彼の瞳から一粒の涙が流れ、無いはずの地面へと落ちた。

 

 今回は恨みではなく、悲しみという感情で妖傀は生まれてしまった。

 浄化されているということは、悲しみという感情がなくなった。つまり、魅涼は完全に諦めてしまったということ。

 全てを諦めることが出来れば、悲しいという気持ちすら現れるわけは無いのだから。

 

 弥幸は消えていく魅涼を見届けるように見つめ、そっと口を開いた。

 

「君なら、大丈夫だと思うけどね」

 

 心のこもった弥幸の言葉は魅涼の耳に届いたのか。先程までの苦笑ではなく、少し驚きに目を開いたあと、優しい笑みにに切り替わる。

 声はなぜか聞こえなくなってしまったが、口の動きだけで弥幸は魅涼の言葉を受け取った。

 

「──どういたしまして」

 

 弥幸も優しく笑みを浮かべ、返した。

 

 そして、弥幸の姿も徐々闇に溶け込まれるように、姿を消した。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです

出来れば評価などよろしくお願いいたします(*´∇`*)
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