夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜   作:桜桃 

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「馬鹿だよね」

 弥幸が動かなくなってから、星桜、碧輝、女性はずっと見上げていた。

 女性は魅涼の頭を自身の膝に乗せ、優しく頭に手を添えている。

 

「赤鬼君、大丈夫かな……」

 

 星桜が不安そうな声を出すと、炎狐が頬を舐める。安心していいよというように。

 

「ふふっ。そうだね。大丈夫だよね。だって、赤鬼君は強いもん」

 

 無理に笑顔を作り、炎狐を優しく抱きしめ再度上を見上げる。すると、妖傀が少し動き出した。

 

「あっ──」

 

 妖傀が動き出したことにより、碧輝は警戒を強め女性も体を強ばらせた。だが、星桜だけは安心したように眉を下げ、炎狐にすり寄った。

 

「やっぱり、君の主は強いね」

「コーーン」

 

 その言葉に答えるよう、弥幸が翼を動かし始め右手を抜き妖傀から離れた。そのまま、フラフラと星桜達に近づき地面へと両足を付ける。

 それと同時に、炎鷹が弥幸から切り離され姿を現した。

 

「赤鬼君、お疲れ様」

「…………ん」

 

 弥幸は星桜の胸に刺さっている釘を取り、同時に碧輝のも抜いた。

 

「大丈夫なのか」

「…………」

「? 赤鬼君? だいじょ──ぶじゃない!?? ちょっ、あ、かぎくん……思ってたより、重い……」

 

 弥幸は星桜が問いかけている途中、いきなり倒れてしまった。

 星桜が咄嗟に手を伸ばし支えることが出来たため、地面に激突することは無く無事。だが、それでも男性の体重を一般女子高生が支え切るなんて不可能。

 そのまま後ろに倒れ込んでしまいそうになる。

 

「うわっ!! あ、碧輝さん。ありがとうございます」

「電池でも切れたのか」

「浄化には大量の精神力を使用するらしく、私が送り込んでも倒れてしまうらしいです。詳しくは分かりませんが……」

「そうか」

 

 碧輝は星桜を後ろから支え、二人を見下ろしている。その際、弥幸の右手に握られている何かが淡く光っているのに気づいた。

 

「おい、それはなんだ」

「え、あ。赤鬼君すごいな。気絶していてもそれは離さない……。えっと、確かいつもポケットから空の小瓶を出して、その中に入れていたはずです」

 

 星桜が思い出しながら伝えると、碧輝がなんの遠慮もなく弥幸のポケットへと手を突っ込む。そして、空の小瓶を取り出した。

 

「躊躇がないですね……」

「構わんだろ」

 

 小瓶の蓋を取り、弥幸の右手首を掴む。

 握っているものを落とさないよう、碧輝は小瓶を添え手を開かせた。

 そこから現れたのは光り輝く物。小瓶の中に入ると、それは黒い液体となる。

 

 彼はそれを見て不思議に首を傾げながらも、全てを小瓶の中へと入れ蓋を閉める。

 

「これが、浄化」

「みたいですよ。私はよく分からないのですが……」

 

 力なく倒れている弥幸の背中に手を添え、心配そうに揺らめいている瞳を向ける。

 傷自体はないが、体は冷たく顔色が悪い。

 

「…………赤鬼君、お願い。今だけ、起きて……」

 

 星桜は弥幸を支えながらその場に座り、膝に彼の頭を置く。

 彼の口元に手を添え、星桜は安堵の息を吐く。

 

 銀髪を優しく撫でていると、少し離れたところに座っていた女性が少し不安げに人の名前を呼んだ。それにより、碧輝はその場から女性へと駆け寄り、星桜も顔を向ける。

 

「魅涼さま……?」

「兄貴!!!」

 

 魅涼の肩がピクッと動き、ゆっくりと瞼を開け黄色の瞳を現す。だが、まだ視界がはっきりしていないらしく、目を細め瞳だけを周りに向け状況を確認していた。

 

「…………何が、起きたんでしょうか……」

「兄貴、覚えてないか?」

 

 頭を支え、魅涼は上半身を起こす。頭痛がするらしく顔を歪めている。

 碧輝が隣にしゃがみ、心配そうに魅涼を見ていた。

 

「……………いえ。覚えております。覚えて……いますよ……」

 

 苦笑し、頭を支えていた手を下げる。

 顔を俯かせ、何も話さなくなってしまった。

 

 誰も何も発しなくなり、今は鳥のさえずりや風の音しか聞こえない。星桜も、そんな三人に目を向けるが何も口にできず、弥幸の頬に手を添える。

 

「私、何か。何か、できないかな……」

 

 そう呟くと、彼が少し動き星桜の手に自身の手を重ねた。その事に彼女は驚き、咄嗟に頬を染める。

 狐面を目元に付けているため、表情は分かりにくいが目を覚ましたことだけは分かった。

 

「あ、赤鬼君。大丈夫?」

「君にはこれが大丈夫に見えるんだね。なんて薄情な人なんだ」

「大丈夫そうで安心したよ」

 

 いつも通りの弥幸に、星桜はある意味安心したらく苦笑いを浮かべる。そんな彼女の表情など一切気にせず、弥幸は体を起こし三人に目を向けた。

 その様子を見て呆れたようにため気を吐き、狐面を取ると立ち上がる。そして、当たり前のようにふらつく足取りで近づいて行った。

 

 近づいてきた弥幸に、碧輝と女性は顔を上げる。だが、その目線より弥幸は、俯き続けている魅涼を見下ろしていた。

 

「どう? 全ての感情を爆発させて、清々しい?」

 

 嫌味の含まれた言葉に、碧輝がいち早く反応。勢いよく立ち上がり胸ぐらを掴む。

 

「た、碧輝さん!! 赤鬼君もまだふらついているんです! あまり無理させないで……」

 

 星桜が止めようと手を伸ばすが、碧輝は止まらず顔を近づかせ怒りの声をあげる。

 

「てめぇ。それが今の兄貴にかける言葉か? てめぇには感謝している。だが、今の言葉は許さねぇぞ」

「許して欲しいなんて思ってないし、別に構わないよ。僕は悪いことなんて言っていない」

「ふざけんなっ!!!」

 

 勢いで碧輝は右拳を作り、弥幸を殴ろうとする。女性は目を開き、星桜は手を伸ばし止めようとした。だが、静かで冷静な声が聞こえ、碧輝の拳を止める。

 

「待ってください碧輝」

「…………兄貴……」

 

 やっと口を開いた魅涼は、顔を上げ弥幸を見上げる。その表情は、もう全てを諦めたような。

 黒くにごっている瞳に、口元には薄く笑みが浮かんでいる。

 濁っている瞳はどこを見ているのか。何を映しているのか分からない。それに対し弥幸は目を細め、真紅の瞳と魅涼の黄色の瞳を合わせるため片膝をついた。

 二人の視線が交差し、緊張の糸が張る。誰も無闇に口を開くことが出来ず、星桜は固唾を飲む。

 

「…………君は、確かに天才ではない。精神力も人並み程度。一般人と変わらない」

 

 弥幸の言葉に碧輝がまたしても反応するが、それを星桜が腕を掴み止める。

 

「そうですよ。私の精神力は人並み程度。いや、それより少ないかもしれない。だから、精神の核が必要なんです。それが無ければ、私は何も出来ない。この、水泉家の長男として、責務を果たすことが出来ません」

 

 魅涼は悲しげに口にし、また目をそらす。それを聞いた弥幸は、一言だけ言い放った。

 

「君って──馬鹿だよね」




ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです

出来れば評価などよろしくお願いいたします(*´∇`*)
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