夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜   作:桜桃 

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風の退治屋
「終わらせるよ」


 満月が闇に染った住宅地を照らす。そんな中、人間ではない異質な影が、左右に二本ずつ生えている腕を広げていた。目の前には、腰が抜けてしまい地面にしりもちをついている女性が一人。

 目から涙が溢れ出ており、長い髪はその涙のせいで顔に張り付いてしまっている。

 体をカタカタと震わせ、目の前にいる化け物。妖傀(ようかい)を見上げていた。

 

「こ、来ないで……」

 

 女性の震える声は虚しくも、妖傀には届かない。左右に広げられた両手を、女性へと勢いよく伸ばした。

 

「キャァァァアア!!!!」

 

 女性の悲鳴が夜闇に響く。衝撃に備え、咄嗟に顔を両手で隠す。

 その時、どこからか炎が放たれ妖傀の腕を燃やした。

 

 女性は衝撃が来ないことに不思議に思い、そっと顔を隠していた腕を離し前を見る。

 妖傀の左側に生えていた二本の腕は燃えて無くなり、焦げていた。

 

 妖傀は何が起きたのかわからず、自身の無くなった腕を見下ろし口元を歪める。そんな時、周りに立ち並んでいる住宅の屋根から、一人の影が地面へと降りた。

 

 銀髪を靡かせ、少し長めの上着が揺れる。腰に差されている刀の柄頭に左手を添え、狐の面を目元顔半分につけた男性は二人をじっと見た。

 突然見知らなぬ人が現れ、女性は顔を青くしたまま狐面の男を見ている。そんな時、女性の後ろへと小走りで近づいていく人影が二つ。

 

「もう、大丈夫です」

「後は任せて」

 

 一人は白無垢を主体とした動きやすい服を身にまとっている。

 頭部と振袖部分、帯は白無垢のイメージが残されている。胸元は大きく開き中には、赤い水着のように見えるようデザインされている服が見え隠れしていた。お腹辺りは大胆に空いており、太もも上までの白いスカートを履き、後ろの腰あたりに大きなリボンが飾りとして付けられていた。

 足元は下駄なため、歩く度カラン、カランと音が鳴る。

 

 袖が長いため、女性に合わせ座ってしまうと地面に付いてしまう。だが、そのようなことを気にせず女性の肩に手を置いている。

 

ホシ(星桜)。私も──」

「うん。あかっ──ナナシをお願い、リン()

「わかった」

 

 白無垢のような服を身にまとっているホシ、もとい星桜は、隣で立っている(リン)に向けて笑みを向け期待の眼差しを向けた。

 

 凛は今、動きやすい服装を身にまとっていた。

 ノースリーブの白いワイシャツの上に、黒い袖の広いジャケット。黒いネクタイが巻かれており、ワイシャツなどは胸辺りまででお腹が大胆に出ている。

 短い黒い短パンに、太ももまで長いロングソックス。足元は、下駄をモチーフにされている青いスニーカーだ。

 腰には、狐の面が付けられていた。

 

「ナナシ。私もやる」

「了解だ」

 

 そう口にすると、凛は銀髪を靡かせている彼の隣へと移動し、腰に付けられていた狐面を手に取り顔へと付けた。

 

 妖傀は失った二本の左腕を再生させる。そして、目の前に立ちはだかる二人に苦い顔を向けた。

 左右に生えている四本の腕を広げ、ナナシへと走る。だが、何故か彼は動こうしない。

 

「残念だが、我は今回何もせん。狙う相手を間違えている」

 

 そう口にするのと同時に、妖傀の後ろから鎖鎌が投げられ、妖傀の動きを封じるようにぐるぐると鎖が巻かれる。

 その鎖鎌の刃先には、赤い炎が灯されていた。

 

 妖傀に放たれた鎖は、顔や肩。腕や腰などに巻き付く。

 完全に動けなくなってしまった妖傀は、誰かに助けを求めるように大きな声で叫び散らした。

 

「ありがとう、ツキ(翔月)

「問題ない」

 

 鎖を辿ると、そこには翔月(かける)が両手に鎖をまきつけ奪われないように握っている姿があった。

 服はナナシと同じで、大きな襟付きのノースリーブに、ジャージ。そのジャージのチャックは胸元まで下がっているため、左肩から落ちている。

 

 両足を肩幅に広げ、引っ張られないように踏ん張っている。それでも妖傀は、四本の腕を前へと伸ばし、足掻き続けた。

 

「ここからは、私の番よ」

 

 凛はそう口にすると、ナナシの前に立つ。

 大きな左袖に右手を入れ、何かを取り出す。その手に握られているのは、魔法使いがよく使いそうな細い棒。木製で、長く使わているのか少し黒ずんでいるところがある。持ち手から先端にかけて細くなり、少しの衝撃で折れてしまいそうだ。

 

 そのような杖を取り出し、凛は瞳を閉じ大きく深呼吸をし気持ちを落ち着かせる。

 

「……──終わりにするわ」

 

 スッと目を開け、視線を妖傀に向ける。

 杖を握っている右手に力が込められた。それに連動するように、杖が赤く染まり先端に炎が少しずつ現れる。それはどんどん大きくなり、一つの赤く燃える炎の玉を作られた。

 

 右手を一度左側に寄せ、勢いよく炎を妖傀へと放つ。一つだった炎は、徐々に分裂していき五つの炎の玉が四方から妖傀を襲う。

 

『オエワァァァァァアアアアアア!!!!!』

 

 逃げ出そうと体をねじるが、翔月がそれを許さない。そのまま放たれた炎が妖傀を襲い、燃やし尽くす。

 耳が痛くなるほどの叫び声が響き渡り、襲われていた女性は耳を塞ぎ涙を浮べる。

 星桜も顔を歪めているが、それでも女性を気遣い肩を支え続けた。

 

 翔月と凛は耳を塞ぎ、ナナシはなんともないように妖傀へと近づいていく。

 そして、腰に差されていた刀の柄を右手で握り、歩きながら引き抜く。

 銀色に輝く刃が姿を現し、月光を反射する。

 

「一回目は、これで終わらせるよ」

 

 燃え上がっている妖傀の前に立ち止まり、刀を左側へと寄せる。そして、勢いよく横一線に薙ぎ払い、妖傀の首を──­­斬った。




ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです

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