夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
次の日、星桜は怪我をしてしまっていたので学校を休んだ。
右手にはギブスが巻かれており、痛み止めがなければまだ辛そうに顔をゆがめている。それに加え、怪我をした方はちょうど利き手なため、動きにくそうにしていた。
ご飯は箸ではなくスプーンやフォークを使い、勉強はスマホを利用している。
そんな中、星桜は自身の部屋の壁側に置かれているベッドに寝っ転がりながら、天上を仰ぐ。
「どうして凛は、私を突き落としたんだろう」
昨日の出来事を思い出し、独り言をこぼしていた。
落ち着かないようで、右腕に気をつけながら何度も寝返りを打つ。
「明日、凛に聞いてみようかな」
不安げに目を揺らし、自身のギブスに目を移す。
あの時の凛は、わざと星桜を崖に近付かせ、乗り出したタイミングで背中を押し落下させた。
あの高さなら場所が悪ければ死んでいた可能性だってある。今回はたまたま木や葉っぱがクッションとなり衝撃を和らげ、化け物に襲われた時には謎の狐面の男が助けてくれた。
偶然が重なり今、星桜はこうして生きていることが出来ているのだ。
「────酷い」
星桜は憎しみの声を出し、顔付近に置いていた左手を強く握り締め、下唇を噛む。
思い出せば思い出すほど、あの時の凛の顔が怖く、それでいて憎く感じていた。
「どうして、私は──何もしてないのに……」
か細くそう零した。
その後は、少し落ち着きを取り戻し、部屋から出て、家族と一緒に過ごした。
☆
次の日の朝、ワイシャツを着るのにいつもの倍の時間がかかったが、今は無事学校に登校出来ていた。
廊下を進み、自身の教室のドアを開ける。
その音に気づき、中にいたクラスメートは皆、星桜の姿を確認するため顔を向ける。
彼女の姿を確認すると、心配そうに駆け寄り、声をかけていた。
それに対して、星桜は笑顔で対応している。だが、目だけは何かを探しているように、至る所へと泳がしている。
すると、1つの場所で泳がしていた目を止めた。その目線の先には、顔を青くして目を見開き、星桜を凝視している凛の姿があった。
「な、なんで。あんたが、生きて……」
凛は体を震わせ、疑問が口からこぼれ落ちる。だが、そんなの関係なしに、星桜は自分を心配してくれている人達をかけ分け彼女へと近付いた。そして、正面で立ち止まる。
「星桜、なんであんたがここに──」
凛が話出そうとした時、バチンと言う、乾いた音が教室内に響いた。
周りの人は口元を抑えたり、驚きで目を見開いたりしており、何が起きたのか理解出来ていない。
その中で唯一、この状況を理解している星桜は凛を睨み、右側に放った左手を、ゆっくりと横へと戻し垂らす。
凛は何が起きたのか分からないらしく、赤くなった頬を触り、ゆっくりと星桜の方に目を向けた。
「何をするのよ。痛いじゃない!!!」
「そりゃ痛いよね。でも、私はもっと痛かった。体じゃない、心が、痛かった」
その言葉に凛は何かを言い返そうとしたが、星桜の表情を見ると口を閉じてしまった。
今の星桜の表情は悲しげで、苦しそうに歪めていた。
目が揺らいでおり、今にも泣き出しそうな顔を浮かべ、目を離さずに凛を見続ける。
その視線に耐えられなくなった彼女は、舌打ちをしながら顔を逸らしてしまった。
「なによ。なんであんたに、そんな顔されなきゃいけないの。そもそも、あんたが悪いんだよ」
「私が悪い? 何が──」
「そうやって。そうやって何も分からないふりをしてさ!!! 本当はわかってんじゃないの?! 私の気持ちが! 分かってるからこそそうやってバカにしてんでしょ!!」
心に押え込めていた思いが、先程の星桜から放たれたビンタにより弾けたらしく、凛は大きな声で叫びながら星桜に怒鳴りつけ始めた。
周りの人達はなにがなんだかわからない様子で、止めたくても凛の迫力で口を出すことが出ない状態になっている。
「り、凛?」
さっきまで悲しげな表情を浮かべていた星桜だったが、凛の豹変っぶりに驚きの表情に変わる。
「あんたが悪い!! 私は何も悪くない。あんたが周りの人の物を奪うからそうなるんだよ!! だから、たまには奪われた方の気持ちも感じた方がいいんじゃないの!? 今回は学習できて良かったじゃん、星桜さぁ!」
口角を上げ、凛は全てを吐き出すようにそう叫び散らす。
星桜は何度か口を挟もうとしたが、それを全て凛が遮り、言葉を伝えることが出来ない。
「そんなの、ただの自分勝手な解釈じゃん!!」
だが、言われるがままも癪に障ったらしく、我慢の限界に達した星桜は、凛に負けないくらいの声量で、教室全体に聞こえるように叫ぶ。
「私は何も知らない! 何も奪ってない!! 貴方が勝手に思い込んでるだけじゃない!!」
「なにっ!! 私が悪いって言うの!? 奪われた私が全て悪いとでも言うの!?」
「そうやって被害者面するのもやめてくれない!? 私は何も奪ってないし、あんなことされる筋合いもない!! 私はあんたに殺されそうになったんだ、許せるわけが無いでしょ!?」
「あんたこそ被害妄想すぎるんじゃないの?! あんな高さから落ちたところで人間は死なないのよ!! だったら、もう一度落としてやろうか!!」
凛の最後の言葉に対し、今まで我慢していた怒りの感情を爆発させるように、星桜はまたしても左手を振り上げた。
「なら、あんたが落ちなさいよ!!!」
星桜の振り上げた左手が凛の頬を殴ろうとした時──
パシッ
振り上げられた左手を、横から伸びてきた腕に掴まれ、凛にビンタをすることが出来なくなってしまった。
「邪魔をしないで──」
星桜が血走った瞳で横にいる人物に目を向ける。そこには、彼女を見下ろす弥幸の姿があった。
弥幸は、星桜の腕を掴んだまま、左手でマスクを少しだけ下げ、口パクで内容を伝える。
『お れ に つ い て こ い』
そう言われ星桜は少し迷ったが、舌打ちをし凛を再度睨んだあと、弥幸に引っ張られるように廊下へと出ていった。
ここまで読んでいただきありがとうございます
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