機動戦士ガンダム 天使の飛ぶ空   作:からすにこふ2世

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逃避行

「シャア・アズナブルに正体がバレた。MP(軍警察)に連れて行かれたからしばらく時間は稼げるけど、脱出プランを教えて」

 

 レストランに急行してきた車に乗り込み、ドライバーに事情を話す。

 

「……なんつー。まあ、わかった。町の外れに燃料満載の飛行機を用意してある。そいつで逃げな。パイロットスーツも後部座席にトランクがあるだろう。その中に入っている」

「機体の種類は」

 

 カラーコンタクトを外し、髪を括って服を脱ぎ、コルセットを外して、と。狭い車内で苦戦しながら着替え始める。ドライバーはなるべくルームミラーを見ないように車を運転し、返事をする。

 

「コア・ブースターだ。部品ごとにバラしてちょっとずつ持ち込んで組み立てた。燃料はジオンに渡す分を横流しして貯めておいた。ただし弾は規格が違うから少しだけしかない」

「悪くないわね。で、あなたたちはどうするの。協力したからには、ジオンから処罰を受けると思うけど」

「最後に面白い話が聞けたのと、綺麗な嬢ちゃんの裸が見れたんだ。悔いはねえ」

「そう。いいのね。いいならいいわ」

「ああ。いいのさ……ちぃ、検問だ。突破する! 頭下げて舌噛むなよ!」

 

 グン、と車が加速。続いて激しい衝突音、衝撃、車に銃弾が当たり、弾かれて、窓ガラスにクモの巣状のヒビがいくつも入る。

 

「本当に大丈夫なんでしょうね!」

「VIP仕様だ! モビルスーツでもなきゃ止められねえ!」

「ザクに遭わないことを願うわ」

 

 キッとハンドルを切って車の進路をずらすと、車のそばを銃弾だけでなく、ロケット弾まで飛んでいく。

 

「皆が足止めしてくれるさ!」

 

 そう叫ぶと同時に、詰所に自動車が突っ込み、爆発炎上。さらには後方にマズルフラッシュが光り、銃声が響く。

 

「爆弾は持ち込めないんじゃなかったの!?」

「知ってるか、ガソリンって爆発物なんだぜ! あとカミカゼじゃぁないから安心しな!」

 

 そう叫ぶとさらにアクセルを踏み込み、車はさらに加速。平坦な道を車は時速200キロで爆走する。燃費は一切気にしない。

 

「ところでお嬢ちゃん。夜間飛行の経験はあるか」

「訓練でだけ」

「……落ちるなよ」

「アメリカ大陸で一番高い山は?」

「高さ6200m、デナリ山だ」

「じゃあそれより高く飛べば問題ないってことね。で、飛んでどこへ下りればいいの」

「西へ飛べ。詳しい位置は機体が教えてくれる」

 

 しばらく道なりに進むと、道路の横にぽつんと何の変哲もない倉庫があった。そこで車が止まり、降りてシャッターを奇妙なリズムで叩くと、勢いよく開いて中から光が零れた。中は明らかに機体が入るサイズの格納庫ではないし、どこにも見当たらない。

 しかし、どこからかエンジン音がする。足から振動も伝わってくる。

 

「クソッタレ、やっと来やがったな!」

 

 ついでに口の悪い、作業着の中年男が現れた。

 

「さあこっちだ!」

 

 倉庫の中にはエレベーターがあった。地下に降りると広々とした格納庫があり、その中央に軍曹の見慣れた機体があった。翼をたたんで小さくしてあるが、見間違えることはない。地表に見える倉庫は偽装だったようだ。

 

「早く乗れ、エンジンは温めてある!」

「ありがとう!」

 

 はしごを使って登り、コックピットに座ってベルトを締めて、ヘルメットを被る。作業着の男性が壁のボタンを押すと、天井が揺れて土ごと持ち上がりはじめ、星空が見えた……いや、持ち上がっているのは天井だけではない。機体の乗っている部分が床ごと持ち上がっているのだ。

 揺れが収まって、格納庫の床が地面と同じ高さになる。そこからはいつも通りの出撃動作だ。

 

「STOL(短距離離陸)モードで……表示は夜間飛行に設定。翼を開いて、よし」

 

 滑走路代わりの道路に出て、スロットルを開く。エンジンに燃料を投入して燃やす。加速して、道路を猛進していく。空力特性無視の、エンジンの力だけで飛ぶようなモンスターマシンだ。間もなく加速が完了し、空に上がるだろう。

 

 シートに体を押し付けられる。ヘルメットで覆われた視界に表示される計器をにらむ。時速400kmまで加速。操縦桿を引く。ふあ、と腹の底に浮遊感を感じる。地面から離れ、高度が上昇していく。

 

「失敗なんて情けない……やっぱり私って、殺すしか能のない女ね!」

 

 さらにスロットルを開く。機体は急加速、急上昇。ヘルメットの示す方角へ、西へ機体を向けて、ぐんと加速する。

 

 

 

 一方独房では。

 

「フッ……認めたくないものだな。私自身、若さゆえの過ちというものは」

 

 マスクを没収されたシャア・アズナブルが固いベッドの上に縮こまって座っていた。

 

「おい、聞いたかよ。あれシャア少佐なんだってさ」

「少佐ってのは、ロリコンでもなれるもんなんだな」

「しかもガルマさまの友人だそうだ」

「なんてこった。ガルマさまは悪い人じゃねえんだが、友人は趣味が似るって言うし、まさかガルマさまも?」

「それはないだろう。エッシェンバッハの娘と恋仲らしいからな」

「こんな情けない友人を持ってかわいそうに。友達は選ぶべきだろう……」

 

 看守と物珍しさにやって来た兵卒たちからぼろくそに言われていた。

 

「ガルマ……早く来てくれ……」

 

 しかし迎えは朝まで来ない。なぜなら外では工作員が偽装のためにレジスタンスを扇動し、蜂起しているおかげで、その鎮圧のためにガルマ・ザビはパーティーを打ち切って指揮を執っての大忙し。会場へ電話をしたところで、混乱の収拾と比べると優先順位は低い。後回しにされるのも当然であった。

 

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