水を得た魚ならぬ翼を得た破壊/守護天使が地表スレスレをアフターバーナーで飛翔、ほぼ直角の急上昇によりガウ級攻撃空母を真下から襲う。ビーム砲が一条、胴体を貫き、爆散。翼端をオレンジに塗ったコア・ブースターが爆風から離れてすり抜ける。クジラの腹を食い破ったシャチのように。
クジラの腹から生まれるはずだった子供<モビルスーツ>は、母親が抱える爆弾ごと空中で爆散し、極小の太陽として咲いて消えた。
進撃する連邦軍の後方へ空挺降下を狙っていたガウの編隊の内、一機が落ちた。護衛戦闘機のドップもいたが、セイバーフィッシュ隊との戦いに気を取られて、地表付近を飛ぶ機体にまで反応できなかった。対応する余裕もなかった。
そして爆発に気を取られたドップはセイバーフィッシュ隊の連携攻撃によって落とされ、連邦空軍は数の優位を増す。護衛戦力が減ったガウは余裕ができたセイバーフィッシュ隊にノーロック対艦ミサイル、バルカン砲をぶちこまれ、守護天使のビーム砲に貫かれ、次々と落ちていく。地上部隊の爆撃に成功したガウは一機も居なかった。
「守護天使様は今日も絶好調だな」
「ああ。上は気にしなくていい。おかげで任務に集中できる」
それを後方から見守るミデア<輸送機>の群れ。彼らのコンテナの中には、連邦軍の量産型モビルスーツ・ジムが満載されている。地上にもはるか後方に、拠点粉砕用の陸上戦艦ビッグ・トレーとその他輸送機に乗せ切れないモビルスーツが輸送車両に寝かせられて進軍中で、それらを守るように周囲を多数の61式戦車とガンタンクが固めていることから連邦軍の本気の攻勢であることがわかる。
ガウ級攻撃空母が6機、ドップ戦闘機が24機。この群れはこれを察知したジオンの先遣隊であったが、ついさっき全滅した。健気にも対空攻撃の間を縫って降下したモビルスーツたちは、戦車とガンタンクの群れと急いで起動したジムの群れに集中砲火を浴びて、わずかな損害を与えて全滅した。新型、旧型、精鋭、新兵など関係なく、数の暴力には勝てない。
北米大陸を縦断する連邦地上軍は、絶えず送られてくる迎撃戦力をMS隊と航空支援により正面から粉砕し、東海岸沿いを北上。また航空隊は大きく二部隊に別れ、西海岸・東海岸を担当。西海岸を担当する部隊は先行し、大きな港湾部を空爆して潜水艦基地を叩いた。そこへパナマ運河を通って西海岸へ回り込んだ、連邦軍水上・水中艦隊が到着。空母を座礁覚悟で突っ込ませて強襲揚陸艇とし、モビルスーツ隊を下ろして素早く敵の抵抗を排除して制圧。
……もちろん、ジオンも指を咥えてただやられていたわけではない。大西洋側にて通商破壊を行っていたジオン水泳部はどうしようもなかったが、北極海で活動していた通商破壊艦隊が急ぎ南下。さらにはハワイ諸島からも戦力を引き込み、キャリフォルニアに戦力を結集して徹底抗戦を行った。
水中用モビルスーツの開発が進んでいなかったために、ジオン水中戦力に連邦海軍は大きな打撃を受けた。撃沈・または航行不能に追いやられた艦は、動員された内のおよそ三割に及ぶ。連邦軍の誇る対潜番長、ドン・エスカルゴの手厚い支援があって三割である。
東海岸は地上戦力がメインだったため、兵器の質は互角で、数の優位が活きた。空中給油で航続距離を伸ばした戦闘機で制空権を確保。偵察機が巡航ミサイルの誘導を行い、基地を攻撃して対空火器を破壊。安全になった空を爆撃機が飛んで爆弾を落として。
このように航空機による波状攻撃で、地上戦力の露払いが行われる。そこへ遅れてやってきた輸送機が本命のモビルスーツを投下。ジオンと対等に戦える武器<モビルスーツ>を手にした、復讐に燃える精鋭空挺モビルスーツ部隊が航空支援を受けながら戦闘を行い、ジオンの戦線に穴を空ける。さらに地上を足で進む部隊がなだれ込み、穴を広げて突破。勢いを止めることなくジオンの拠点へと殺到して、数を頼りに制圧・占領。そして置いてきたジオン軍に反転し、逆転攻勢をかける。拠点を取られ、補給を絶たれたジオンは、偵察機に指示を受けたビッグ・トレーとガンタンクの砲撃で分断され、ジムと戦車の群れに各個撃破されていった。
占領した拠点を前線基地として、滑走路へミデアを下ろす。ジャブローから空輸された物資で、モビルスーツ隊は補給と修理を済ませて出撃。また空軍も、戦闘機、偵察機、爆撃機の順番で出撃していき、また次の拠点へ襲いかかる。航空部隊に痛めつけられたジオンは、殺到する地上部隊に圧殺される。かつてジオンが連邦軍にした電撃戦は、より洗練された形でやり返されていた。
当然連邦軍にも損害は出るが、すべて予定の範囲内であった。戦争なのだから、戦えば死人が出るのは当然。犠牲のない勝利などありえない。対してジオンは制空権を取られているため、地上と空の両方から攻撃を受けて、ろくに戦果も上げられずに死ぬしかない。慈悲はない。
守護天使は忙しく、コア・ブースターで次々とキルカウントを増やしていた。モビルスーツの登場で近接航空支援の必要がなくなったかというと、むしろ増えたために。61式戦車が地上の主力だったころは、支援要請を出す間もなく・出しても持ちこたえられずに全滅ということも多かったが、モビルスーツ・ジムは戦車と比べて頑丈であるため、交戦しながら持ちこたえて要請を出す、ということもできるようになったのだ。
本来ならジムはザク程度なら正面から圧倒できる性能を持つのだが。大多数の兵士にとって初めてのモビルスーツ戦であるため、その性能を十分に発揮しきれずにいた。
ともかく。ザクは頑丈なジムの撃破のために武器を『足を止めて、しっかり狙って当てる』必要があり、上空から見れば止まっているでかい的であった。
そこへ支援要請を受けたコア・ブースターが上空から襲い掛かる。最初のアプローチは遮蔽物をバルカン砲で吹っ飛ばし、二度目に本命のビーム砲でぶちぬく。それを燃料切れか弾切れまで繰り返し、切れたら補給に戻って、仮眠をとって再出撃。要請があったところまで飛んでいき、空中支援を繰り返す。物資が切れたら補給に戻り、以下略。破壊神とまで呼ばれるほどの活躍であった。
それを見て士気を上げ、前進を開始する多数のジム、迎え撃つのは数の減ったザク。そのまま押し込まれてスクラップの仲間入りをするザク。それをあちこちで何度も何度も繰り返して、連邦軍は北上を続けた。
ときどき腕利きパイロットの乗ったドムやゲルググ、グフなどの高性能モビルスーツが航空攻撃をすり抜けてジムをばったばったとなぎ倒して戦線を引っ掻き回すなどしたが、一部を抑えたところでそこ以外でも戦いは進む。彼らが健闘している内に、迂回され、包囲され、退路を断たれて物資切れまで追い込まれて捕虜になるか戦死することとなった。
追い詰められ、街に逃げ込むジオン兵も居た。さすがに連邦軍も街ごと吹き飛ばすわけにはいかず、こうした兵には降伏勧告を行いつつ、降伏しない場合はレジスタンスに情報を提供してもらい、対モビルスーツ特技兵を潜入させて狩り出した。平地では自殺に近い特技兵の攻撃でも、入り組んだ市街地でなら犠牲も少なく、十分な威力を発揮できた。
捕虜になったらなったで、手厚い歓迎が待っている。不幸なことに投降直後に『病死』する捕虜も少なからず居たが、そういった一部の例外を除き、通常捕虜は、占領した拠点の独房へ詰め込まれて放置。拠点が近くになければ、独房の数が足りなければ、近隣の刑務所にぶちこまれた。階級の高いパイロットや指揮官などは、連邦軍の負傷者などと一緒に後方へ輸送されて、連邦軍の誇る諜報部による尋問フルコースの歓迎を受けた。素直に情報を吐けばそれなりの扱いを受けたが、吐かない場合は肉体的・精神的・性的暴力に薬漬けなど、命を奪う以外のありとあらゆる手段を駆使して吐かされた。用済みになれば証拠隠滅に消された。
捕虜の虐待・拷問は南極条約違反だが、証人や証拠もなく、訴え出る被害者も共犯者も居なければ問題にはならなかった。
そうやって得られた情報を元に、作戦に細かな修正を加えたりもしたが。戦略、大勢にはあまり影響なく、概ね予定通りのスケジュールで北米奪還作戦は進行していった。
「圧倒的ではないか。わが軍は」
快進撃を続ける地球連邦軍。テーブルに広げられた地図の上に、いくつものピンが立っている。その州の主要都市を制圧したことを示すピンだ。北米大陸の下半分と、西海岸の広域が地球連邦軍に奪還されている。
リモートで参加中のゴップ大将は、そう歓喜の声を上げる。
「順調に行き過ぎている、と私は思うのだが。諸君らの意見を聞きたい」
同じくリモートで欧州から会議に参加するレビル将軍は、厳めしい顔を崩さず、状況を楽観視せず、北米を攻略中の部下たちに意見を求める。
「量産したモビルスーツの性能。航空隊との連携。司令官の不在。納得できる理由は十分にあるが?」
「後退するフリをして戦力を集めて、正面決戦を挑むつもりではないでしょうか」
「制空権を取られているのに決戦はないのでは。遅滞戦闘で時間を稼いで、その間に宇宙へ戦力を逃すつもりでいるとか」
「打ち上げ施設に動きは?」
「高速偵察機を飛ばしましたが、ミノフスキー粒子が濃く何もわかりません」
「見られたくないことをしている。それだけわかれば十分でしょう。地上戦力には余裕がありますし、航空支援を減らし爆撃隊を向かわせ焼き払うべきではありませんか」
「北米奪還後のことを考えれば、できれば無傷で接収したいところですが」
「地上は連邦軍のホームグラウンドですが、宇宙はジオンのホームグラウンドです。宇宙に逃がして好き放題されるよりも、可能な限り地上で数を減らすべきでしょう。私は、爆撃に賛成です」
「空挺MS部隊を使って占拠するべきでは?」
「いくつも障害があるが。防備の厚い場所へ降下できる保証はない、降下できたとして占拠できる保証もない。よしんば占拠できたとしても、敵地のど真ん中だ。維持ができない。かといって破壊すれば奴らは背水の陣になる。玉砕覚悟で突っ込んでこられたら被害が増えるだけだ。そこまで大勢が逃げられるわけでもなし、あえて逃げ場は残しておいてもいいのでは?」
「大勢に逃げられるさ。降下に使ったHLVがそのまま打ち上げに使えるのだから」
将官・佐官クラスの人間が集まって延々会議を行う。しかし、レビル将軍の中でどうするかはすでに決まっていた。あえて黙っているのは戦況が優勢であることと、部下の育成のためだ。
ジオンに兵なしとは言ったが、連邦も大規模な作戦の指揮を執れる将が少ない。ルウムの敗戦では、連邦軍の将来を担う将兵の多くが死んだ……今回の北米奪還作戦を経験してもらい、一人でも多くの将官に、己の後釜を担える程度に育ってもらいたい。そのような思いがあった。
話が己の思っていた通りの方向へ纏まってきた時点で、大将は口を開く。
「偵察機を飛ばして物資と兵の流れから物資の集積地を探し、そこへ適切な配分で戦力を割く。これがジオンに出血を強いる最善だと思うが、どうかね」
「……」
連邦軍の最高指揮官に異を唱えられる人間は居なかった。