機動戦士ガンダム 天使の飛ぶ空   作:からすにこふ2世

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北米奪還作戦 その後

 北米大陸で、ジオン軍と連邦軍が本格的な衝突を始めてから二週間。朝も夜も関係なしに、大砲の音が鳴りやむことはなかった。

 爆弾と砲弾で大地は耕され、煤の混じった黒い雨が耕された大地に降り注ぎ、数えきれないほどの水たまりを作った。

 所々にスクラップ。死体は大体蒸発するか、死肉漁りが食べやすいサイズの細切れになり、巣に持ち帰られて戦場には残らなかった。そんな状況が二週間ほど続いたある日のこと。状況は突然に変わった。

 

 ニューヤークの郊外。戦場から離れたジオンの物資集積地では、いくつもの巨大な火柱が上がっていた。それは交戦によるものではなく、これ以上北米大陸を維持することは戦力を徒に消耗させるだけで、戦略的に無意味と判断した司令部が、兵器や兵士を宇宙へ撤退させるために宇宙から地上へ下ろして、荷物を積んでまた打ち上げられるHLV(重量物打ち上げロケット)であった。

 ゆっくりと戦線を後退させて時間稼ぎをしていた少数のジオン兵たちは、打ち上げられるロケットを見て、自分たちの役目が終わったと理解し武器を置き、事前の指示通り情報や新型モビルスーツだけはしっかり破壊してから降伏した。反骨精神あふれる者は、いずれ来る逆襲の日を夢見てモビルスーツを隠し、市井に紛れた。

 

 こうして、攻略開始から二週間。およそ半年ぶりにホワイトハウスに地球連邦軍の旗が掲げられることとなった。ジオンに最初から大陸を維持するつもりがなかったのか、それとも連邦がうまくやったのか。どちらにせよ、双方最低限の被害で、最短の期間で奪還・撤退に成功した。

 地球連邦軍の得たものは、熱烈歓迎な市民……ではなく腹をすかせて物資の支援を求めるばかりの市民たち、同じく腹をすかせた捕虜。ザクのスクラップに、工場地帯。資源や資金、情報の大半は持ち去られて、工場は壊され畑と食料は焼かれて、連邦軍には何一つ渡さないという意思が透けて見える撤退ぶりだった。

 焦土作戦である。ガルマ・ザビが指揮を執っていればまず行われなかったであろう非人道的な、しかし嫌がらせとしてこの上なく効果的なやり口に連邦軍はオデッサへの援軍をいったん延期とした。

 地球の名を看板に使っている軍隊として、飢えた市民を放り出してオデッサへと向かうわけにはいかなかったのだ。

 

 復興そのものは順調に進んだ。上記の作戦のせいで生産能力は著しく低下していたが、工場は修復すれば使えるようになる。畑はもう一度耕して、食料、種はよそから持ってくればいい。都合のいいことに重機(モビルスーツ)は大量にあった。建物を解体したり、大きながれきをビームサーベルで切り分けたり、重い資材を高所へ持ち上げるクレーン替わりにしたり。モビルスーツは戦闘だけでなく、工事にも役立つのだ。モビルスーツが宇宙用作業服の発展形だとすれば原点回帰であり、当然のことなのだが。それはさておき……連邦軍は治安維持のための部隊と、工場復旧のための工兵部隊、食料の輸送部隊とその護衛を置いて、北米大陸奪還作戦の完了を宣言した。

 

 そしてアメリカの辺境の病院。

 

「……シャア<ロリコン>め。何が勘違いされたまま死なれるのは本望ではない、だ……これでは死んでいたほうがマシではないか」

 

 顔にひどいやけどを負い、全身に包帯を巻き、虚ろな目で天井を見上げて掠れた声でぼやく、おそらく年若いであろう男がベッドの上にいた。

 彼の名はガルマ・ザビ。友人と思っていた男に裏切られ罠に嵌められてすべてを失った男。手柄に目がくらんで部下を失い、恋人は自分が死んだという誤った情報で悲しみに狂い敵を討とうとして死亡、祖国では大々的に国葬が行われた故に死人扱い。死人に地位や財産などあるはずもないだろうと、無一文で裸に剥かれて病院へと放り込まれた。

 美青年、貴公子と散々におだてられてきた顔は無残に焼け、父が好きだと言ってくれた声は煙を吸って掠れ。恋人に褒められて以降、手入れを怠ったことのなかった髪は燃え尽きた。

 親しい者でなければ……いや、親しい者であっても、彼がガルマ・ザビ本人であると理解してくれるかどうかわからない。

 親友の言葉を聞いてから気を失い、病院のベッドの上で目が覚めて窓の外を見れば、地球連邦軍の軍旗が風に揺られてはためいていた。

 眠っている間に自分の指揮すべき軍隊が敗北し、アメリカ大陸が奪還されたことに深い絶望を覚えるも、こぶしを握り締め、歯を食いしばることしかできなかった。何もできない。

 もしも地球連邦軍に、ガルマ・ザビが生きていると知られれば、敵対国家元首の家族であり、北米大陸の元指揮官。情報を引き出すために命を奪う以外のあらゆる手段を取るだろう。

 もしもジオン公国軍に、ガルマ・ザビが生きていると知られれば、奪還のために多大な犠牲を払い兵士たちの命を無駄にすることになる。あるいは、その情報を握りつぶされるか。そうして身内に二度目の死を与えられるだろう。それでは悲劇を通り越して喜劇だ。どちらにせよ本望ではない。

 

「……」

 

 号令一つで軍が動かせていた己が、今では自分の体一つさえ満足に動かせない。手足は骨折のため固定されて動かせず、寝返り一つ打てもしない。排泄さえも自分ではできない。

 圧倒的無力感。ああ、文字通り天から叩き落されたのだ。下水を走り回るドブネズミでさえ自分の意志で動けるというのに、今の自分はそれ以下だと思うと全くみじめであった。医者の監視がある中では自分の命さえも自分の意志で閉ざせないことが、さらに追い打ちをかけた。

 食事を断って死のうとしたこともあったが、栄養を点滴で送り込まれて餓死することもできなかった。思いつめて死なせてくれと頼んだが、医者からひどく怒られた。

 ここにいるのはかつてガルマ・ザビだった、今は名もない無力な誰かだ。

 

 この現状はシャア・アズナブルが当初予定していた復讐の形とは異なる。彼は、最初ガルマ・ザビを殺すつもりであった。

 だが長く親友として付き合って、実行の直前に誤解からとはいえ独房へ入れられて、これまでの付き合いを振り返って……思い直した。反省したとも言える。家族を奪い、己にみじめな暮らしを強いたザビ家は憎い。だが、だからといって親の罪で親友を殺してしまってもよいものかと。だがこの機を逃せばもう復讐のチャンスは巡ってこない。深く、深く悩んで、墜落していくガウを見て決めた。

 彼はザクで墜落するガウに飛びつき、コックピットを叩き割ってガルマを引っ張り出した。

そして、ガルマ・ザビは死んだと報告した。実際は半死半生の状態で命以外のすべてを失って惨めに生きているが、公的には死んだことにされた。

 全身にやけどを負い、骨も折れて、何もしなくとも放っておけば死ぬ状態のガルマをザクの手のひらに乗せて運んだ。その気になれば容易に握りつぶせるような、見殺しにできるガルマの命を、シャアは奪えなかった。病院へ放り込む際に、「ロリコンと誤解されたまま死なれるのは本望ではない。生きて私の苦しみを少しでも理解してくれれば幸いだ。それと、これまで隠していたが私の本当の名はキャスバル・レム・ダイクンと言う。もう会うことはないだろうが、覚えておいてくれ」と伝えて立ち去った。

 

 

 





シャアは反省を促されたのでガルマを殺しませんでした。
生きているというだけで、おそらくもう出番はありません。


細身のイケメンガルマは志々雄誠みたいな全身やけどで包帯グルグルな感じになりました。
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