万事が順調に進んだ北米奪還作戦とは違い、オデッサ方面は激戦であった。
理由はジオンの兵器の更新による対空攻撃能力の向上である。侵攻を開始してから早い段階で陥落した北米とは違い、欧州のジオン軍は常に航空機による攻撃に悩まされ、侵攻の手が止まっていた。どこかの撃墜王の仕事の成果もあるが、それ以上に連邦の航空機の性能がジオンの上を行っていたことによる方針転換だ。
そのため、ジオンは航空機の性能向上はあきらめ、モビルスーツに対空攻撃能力を付与しようという試みが早くから実行されていた。ゲルググやドムといった高性能MSにはもちろん、旧式となりつつあるザクにも大口径砲を搭載して射程距離を強化。マゼラアタックは分離機能をオミットして仰角を大きくし対空砲としての運用を可能にしただけでなく、砲弾にも改良を加えた。時限信管による炸裂により、対空攻撃能力を強化した。
あとは艦砲なみの大口径砲を搭載した大型戦車による攻撃、ダブデ陸戦艇も加わり、オデッサ及び周辺拠点は対空砲の針山という有様であった。おかげで連邦軍は爆撃機の損失が増えて頭を抱える羽目に。射程距離の向上した対空砲は水平使用すれば対地攻撃にも十分な威力を発揮するため、押し寄せる地上軍に対しても有効打となった。量産されたジムに対しても、相手を上回る射程距離で性能差をカバーすることができたのだ。
そして何より、地上に降りてからずっと空の脅威に怯え、戦い続けてきたベテラン兵士たちの活躍が大きい。航空機の姿が見えれば即座に火力投射、近寄ることを許さなかった。
だがそれでも防戦一方であり、反撃に出る余裕はなく、少数の通商破壊部隊による後方撹乱が精一杯。ジャブローからの連邦軍の増援が到着すれば崩れる、薄氷の拮抗であった。
それを理解する指揮官、マ・クベは拮抗している間に北米と同じ手を使うことにした。地上が抵抗している間に、可能な限り資材をかき集めて、兵と一緒に宇宙へ打ち上げる。モビルスーツなど、資源と工場さえあればいくらでも作れるが、それを使う兵士は違うのだ。新人を教育するには時間がかかる、教育するにも経験豊富な兵士の指導がなければレベルは下がる。
……しかし、撤退するにも時間を稼ぐ必要がある。補充で送られてきた新人では時間を稼ぐ前にすり潰されて死ぬだけだ。ベテランを使えば多少は時間を稼げるが、どっちにせよすり潰されて死ぬだろう。マ・クベは自分が嫌われ者であることを自覚していた。その自分の命令で捨て駒を引き受けてくれる兵士が一体どれほど居るだろう。自分の手足として働く忠実な部下くらいか……とそこまで考えて、いっそ自分の所属する派閥の主のために悪役に徹しようと、他派閥の兵士を密かに、しかし速やかに調べ上げるように部下へ命令した。
切り捨てれば当然、その部下、派閥からは恨まれることになるだろう。だがとっくの昔に嫌われ者なのだ、自分を恨む名前も顔も知らない人間が今更増えたところで何だというのだ。
とはいえ、同じ祖国を持つ兵士であることに違いはない。死んだところで痛くも痒くもないが、死なせずに済むのならそれに越したことはないのも事実。
「そのためには……キシリア様と、ギレン閣下に許可を仰ぐ必要があるな」
戦術的な采配は一任されているが、上にお伺いを立てるということには重要な意味がある。問題が起きた際の責任を押し付けるために。
何より越権行為などという下らない理由で処分されては、自分の仕える主に申し訳が立たない。
場所は変わって、大西洋。オデッサへの増援として派遣された地球連邦軍水上艦隊は、地中海へ入るためにジブラルタル海峡へと差し掛かる。北米で水中用MSに大損害を与えられた経験から、対水中戦力としてドン・エスカルゴを複数飛ばして、海中を透明に。怪しいものがあれば爆雷を落として、生産したばかりの水中型MS、アクア・ジムで戦果を確認。航路の安全を完全に確保してから地中海へ侵入した。道中二度潜水艦とMS部隊に襲撃を受けるも、対潜哨戒機での早期発見、艦隊行動による数の暴力で撃退。アクア・ジムで追いまわして追い散らす。病的なまでに慎重に航路を進め、無事に連邦が奪還した港……へは寄らず、沖でタンカーに資材を載せ換えての陸揚げをした。狭い港では急襲された際に身動きが取れず、一方的に大損害を被る可能性があるから。ではなく、単純に船が巨大すぎて入れる港がないからだった。
なお、ここでも重機としてMSを利用できないかと試みが行われたが、揺れる船上ではモビルスーツをうまく動かせず、MSが転落する結果となり試みは失敗に終わった。落ちたのがアクア・ジムでなければ重大な労災だった。
ともあれ、艦隊の目的である物資と戦力の輸送は達成できた。艦載機も……目標物のない海上、かつミノフスキー粒子下では通信もできず、帰還も困難となるため、自衛分に最低限だけ残して陸揚げし、艦隊は陸上部隊への砲撃支援のため、作戦地域付近を航行した。
航空機とパイロットは最寄りの基地へと運ばれて、そこから作戦指示を受けて出撃する。オデッサ攻略作戦は地上戦では過去最大の戦いとなる。その意識は上から下まで刷り込まれているため、準備は綿密に行われた。出撃前には時間の許す限り厳密な整備点検、兵士たちは作戦目標の確認をして……11月某日。オデッサ攻略部隊の増援が戦地入りした。
破壊天使こと、レオナ・ネーレイドの所属する部隊に与えられた任務は、空挺MSの輸送護衛と、その航空支援。対地攻撃部隊と地上のMS部隊の連携で、敵砲撃型MSの撃破を狙う、危険度の高い任務。それだけにスコアの高いエースパイロットを集めた精鋭部隊であった。目的が目的だけに、元急降下爆撃隊のメンバーが大半を占める。
モビルスーツも開発・量産したが、地上戦の主戦力は相変わらず航空機だ。その航空機の威力を十分に活かすためにも、対空兵器の排除は急務であった。しかし、ジオン製砲撃型モビルスーツの機動力、耐久力は従来の対空砲と比べて非常に高いため、機動力と火力を両立する空挺部隊と戦闘機(コアブースター)隊が投入されることとなった。