機動戦士ガンダム 天使の飛ぶ空   作:からすにこふ2世

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天使の帰還

 レオナ含む戦闘機隊は空挺部隊の着陸地点を確保するために、6機小隊を半分に分けて、担当エリアの制空権と着陸地点の安全を確保しようとした。

 ジオンの航空機部隊も当然迎撃に出てくる。地上から砲撃用MSに支援させて動きを縛り、ドップが動きの鈍った航空機を追い込んで、ガウが後方からメガ粒子砲を打ち込んで落とす混成部隊。陸空の連携の取れた攻撃で、連邦の航空戦力を叩き落としてきた精鋭たちだ。彼らの不幸は、いつもの相手はセイバーフィッシュかフライマンタで、今回もそうだろうと思いこんでいたこと。

 コアブースターは少数生産の高級品で、一部の精鋭部隊にしか与えられていない。破壊天使という個人は個人だから出会うことはほぼないし、出会ったら大体死ぬ。そんな噂レベルの相手が群れで出てくるなんて、思いもしないだろう。

 いつもならガウのアウトレンジ攻撃で先制するところを、逆に相手からビームを撃ち込まれて、対応できなかったドップが数機叩き落された。

 

「ビーム兵器だと!?」

「まさか、精鋭とでも言うのか!」

 

 編隊を立て直す前に空を担当するコアブースター隊は突撃。ドップ隊のど真ん中を突破して、ガウ級攻撃空母に殺到した。弱い相手、落としやすい相手からたたいていく。それが戦いの定石。ガウの火力は機体サイズ相応に巨大だが、懐に潜り込まれれば鈍重で、俊敏な戦闘機からすれば浮いているだけの的であった。

 ろくに抵抗することもできず、ビームに貫かれて花火になる爆撃機。戦闘機隊は機首を反転させて、追いかけてくるドップ隊に逆撃を仕掛ける。邪魔者のいない、純粋な実力勝負の空戦が始まった。

 

 一方、地上を任された部隊を率いるのは破壊天使。階級が低いため隊長は他に居るが、実力・戦績・好戦性いずれも隊の中では最上位のために、指示を受けて先陣を切ったのは彼女だった。ジオンにとって不吉の象徴、死神の代名詞と化した、夕暮れ色の翼が地面に向かってほとんど垂直に落ちていく。砲撃機とは射程を強化したもので、射程を活かすためにカメラの性能も向上している。つまり、急降下してくる翼端をオレンジに塗ったコアブースターを見てしまった。

 

「破壊天使だ……」

 

 そうつぶやいたザクキャノンのパイロットはコックピットの中で小便を漏らして、機体を垂直に貫いたビームに強制的に乾燥、蒸発させられた。最期の呟きは味方にも聞こえ、恐怖が伝播する。地面スレスレで機首を上げて反転、空中へ飛び去っていく破壊神の機体。その尻を撃とうとするMSは、僚機が放ったビームに撃ち抜かれた。

 最初の襲撃を生き延びたMSは増設された砲を乱射するが、急降下を繰り返すせいで本来の使用距離から外れて全く当たらず、手持ちの武器で狙うほうがいいと気付くまでに、そのエリアのジオン砲兵MS部隊は半壊、恐慌状態に陥って逃げ出そうとする者も現れた。

 そういった者は後回しにして、反撃を諦めない根性あるパイロットが先に殺された。逃げ出したMSも見逃されたわけではなく、後回しにされていただけで、もちろん制空権を確保した後で処理された。

 

「こちらイレイザー。着陸地点の掃除は完了した。安心して積荷を下ろしてくれ」

「こちらストーク1。迅速な仕事に感謝する。天使様に礼を言っといてくれ」

「了解。たしかに伝えておこう。では空挺部隊の皆様、健闘を祈る。輸送機を送り届けて、補給が終わり次第戻ってくるが、我々の仕事を残しておく必要はないぞ」

「空軍はたっぷり給料もらってるんだろう? そんなことを言わずに頑張ってくれ」

「激務でね。金はあっても使う暇がない」

「オデッサが落ちれば少しくらいは休暇がもらえるかもな。じゃ、行ってくる」

 

 地上と空の安全が確保されてから輸送機部隊が空挺MS部隊と指揮車両を降下させた。彼らのMSは通常のジムよりもセンサー類を強化、その他出力も大幅に向上させたカスタム機で、ジム・ナイトストーカーと呼ばれる。武装はビームライフルとビームサーベル、マシンガン、ミサイルポッドの重装備。彼らはこの後地上を探索して、事前に定めた通りに砲兵陣地を襲撃して回り、それに合わせて主力部隊が突撃。膠着した戦線を一気にこじ開ける予定となっている。回収は信号弾の打ち上げを合図に行われる、その際のエスコートも航空部隊の仕事だ。

 

「隊長、まだ燃料弾薬に余裕があります。戦果を拡張するべきではありませんか」

「だめだ。輸送機の護衛が任務だぞ、忘れたのか」

「了解しました」

「急がなくても、輸送機を無事送り返したら補給を済ませて再出撃だ。敵は探せばいくらでもいる。今日は一段と忙しくなるぞ。一番多く落としたやつには飯をおごってやる」

「そんなこと言うけど、MVPは毎回天使さまじゃないですかー……」

「レオナ軍曹。今度はどこへ行きたいですか?」

「……私はどこでもいいんだけど」

「貴様らの気合が足りんから子供に負ける。精進しろ」

 

 小隊長は天使の提案を却下し、周りは楽しそうに話を続ける。彼女は部隊の華としてかわいがられ、しかし当人はかつてない厚遇にどうすればいいのかわからずに居る。戸惑いながら環境を受け入れようとする美少女、しかし戦闘となれば誰よりも早く敵に食いつき、叩き落す凶暴なトップエースという二面性が彼女の部隊内での人気を後押ししている。

 なお空軍に入って以降、サービスは一度も行っていないし、求められてもいない。人気といっても健全な人気だ。高官の愛人という立場と、空にいても地上にいても類を見ない強者であることが、彼女の周囲に不埒な輩を近づけさせない。

 

 この後、輸送機を無事に基地まで送り届けて、補給の間にデブリーフィングを行った。搭載された機体カメラでそれぞれの戦果のすり合わせと、戦闘機動の指導が行われるが。

 

「レオナ軍曹。君が今回の出撃での撃墜数ナンバーワンだ。おめでとう、とほめてやりたいところだが、僚機にもっとスコアを譲っていい。急降下攻撃は体への負担が大きい。あまり無茶な動きばかりしているとパイロットとしての寿命が縮まるぞ」

「ご心配ありがとうございます」

 

 上官が心配してくれているので、愛想笑いで返事をする軍曹。内心は、長生きどころか明日のことさえ考えていない……今が絶頂で、先のことなんてどうでもいい。平和になって元の生活に戻るくらいなら、いっそ戦いの中で死んだほうが、とも考えている。

 

「素直で結構。貴官は優秀なパイロットだ。歳さえ足りていれば隊長の任を譲ってもいいくらいにな」

 

 男の相手に慣れたせいで、自分を隠すことが年不相応に上手くなった軍曹。優しい隊長は声だけではとても見抜くことができず、素直な返事にひとかけらの疑問も持たなかった。

 優しい隊長が殺しについて何も言わないのは、コロニー落としで家族が故郷ごと消えたから。ジオン憎しが行き過ぎて倫理観が吹っ飛んでいる。ジオン星人は人じゃないからいくら殺してもオッケー、むしろ積極的に駆除すべき害虫とまで考えている。

 軍曹は害虫をたくさん駆除してくれるいい子だから。死んだ子供が同じくらいの年だから、つい甘やかしてしまうのだった。

 

 




現在現実で戦争真っ最中の場所を書くのは大変不謹慎ですが怒らないでください。
私だって書き始めたときはこんなことになるなんて思ってなかったんです。
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