機動戦士ガンダム 天使の飛ぶ空   作:からすにこふ2世

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少女従軍す

「レオナ・ネーレイド、貴様を正式に二等兵として任官する。続いて貴官を第四偵察小隊配属とする。以後小隊長の指示に従うように」

「二等兵? 備品から昇進ですか」

 

 基地の司令官に報告書が出され、その後呼び出しがあって出てきてみれば、なんと備品から正規兵への昇進が言い渡された。驚くべき出世である。

 これには宇宙世紀の冷たい荒波にもまれてすり減った少女も動揺を隠せない。

 

「ああそうだ。現時刻をもって貴様はもう備品ではない、兵士だ。そして私は上官にあたる。今後はその人を舐め腐った態度と言葉遣いを直して兵士らしくするように。でなければガキだろうと容赦なく独房に叩き込んでやるからな」

「……質問の許可をいただけますか」

「許可する」

「二等兵としての職務に以前のような『サービス』は含まれますか」

「一切許可しない。ガキの売春など不適切極まる」

「了解しました」

「質問はそれだけか」

「はい。以上でございます」

「退室を許可する」

「失礼いたします」

 

 少女は見よう見まねの言葉づかいと敬礼をし、堂々とした態度で衛兵と共に部屋を出ていく。

 その背中を見送った司令官である中佐は、机に肘をついて大きなため息を吐いた。

 

「医務室に放り込まれた二人の処罰だが、あの娘を殴ったバカは独房へ。もう一人は行き違いがあっただけだ。不問とする」

「よろしいのですか」

「何がだ」

「売春婦を正規兵へ登用することです。基地から追い出すだけでよいのでは?」

「少尉。貴様、私の顔に、いや地球連邦軍の看板に泥を塗る気か? 私を殺したいのか? ん?」

「は? いえ、そのような意図は……」

「あのガキを追い出すとして、だ。近くの町へ解放するとして、そこで奴は恨みを込めて悪評を振りまくだろうよ。地球連邦軍は少女の売春婦を基地で囲っている。その中にいる兵士は素手の売春婦に負けるような腕しかない。ただでさえ市民の支持が下がっている中でそんなことを言いふらされてみろ、あっという間に噂が広がって、市民はジオンのクソ共に寝返るしジオンのクソ共の士気は大いに盛り上がる! 連邦軍恐れるに足らず、腐敗した連邦軍を今こそ討つべし! モビルスーツの団体様が地響きを鳴らしてこの基地に押し寄せてくる!! それがわからんか!!」

「し、失礼しました! 発言を撤回します!!」

 

 すさまじい剣幕で、デスクをこぶしで殴りつけ、まくしたてる司令官。慌てて謝罪し発言を撤回する士官。大柄な司令はひとしきりがなり立てた後に、胃薬の錠剤を水で流し込んで、イスに深く座り込む。

 

「よろしい。撤回を受け入れる」

「……」

「では、三日後に第四小隊を偵察任務に出す。そのように通達せよ」

「……はい」

「誤解してくれるな。私とて本意ではないのだよ」

 

 最低限の訓練すら積んでいない子供を小隊に配属し、戦闘の可能性がある任務に出す。これの意図するところを理解できないほど察しが悪ければ、兵隊どころかまともな仕事につくことさえ難しいだろう。

 

 

 翌日。ぶかぶかの制服に身を包んだ新人二等兵が訓練場に姿を現した。ただでさえ女性兵士が少なく、その上体も小さいため、フィットするサイズがなかったのだ。

 備品扱いから一転、正規兵として認められた少女が、大人に混じって遅れることなく

グラウンドを周回する姿。通りがかった人間全員が二度見するほどの異様な光景だった。

 

 二日後、疲労で動けなくなる、といったこともなく。食堂で堂々と食事をし、訓練を行い、女性兵士に交じってシャワーを浴びて。行く先々で侮蔑、憐憫、同情、少なくとも好意的ではない視線に晒されながらも、一切気にすることなく。擦り寄ってくる男を司令官の命令だからと拒絶して回り、その日を終えた。

 

 三日目。第四小隊に、偵察のため出撃命令が出た。出撃メンバーには当然、新人二等兵も含まれていたが、軍事に疎い彼女はそういうものかと特に疑問を抱くこともなかった。しかしそれ以外の隊員は異常を察していながらも、小隊長の「任務だ」の一言で黙らされる。

 一人を除く全員、約30名が沈痛な面持ちで数台の電動トラックに乗り込み出撃した。

 

 出撃から数時間後。事前の航空偵察で入手した情報をもとに、ジオン軍の野営地の詳細な情報を得るため進路と計画を決定した。その情報が誤っていたとも知らず。

 

「ん? ざ……ザクだー!!」

「総員降車! 降車ァ!!」

 

 予定よりも一時間早い地点で、哨戒に出ていた緑の巨人に遭遇してしまった。三機で一個小隊の、緑色の巨人。ザク。彼らに見つかってしまい、120mmという馬鹿げたサイズの機関砲を頭上から数十発と叩き込まれ、トラックの群れは一瞬で爆発四散。

 脱出が遅れた兵士は鉄と血肉の合い挽きミンチに。即死できた人間はまだ幸運で、脱出しても着弾の衝撃で手足が吹き飛んだ者は激痛と出血に苦しんで死ぬことになる。無事だった人間も戦友を見捨てたことへの後悔と、鋼鉄の巨人、ジオンへの憎悪と、それに手も足も出ない無力感に苦しめられながら、林の中に逃げ込んだ。

 そこへ容赦のない追撃、目障りな蚤をつぶすように、ザクマシンガンによる掃射が始まる。降り注ぐ砲弾により木々の幹は容易く砕かれ、身を守るどころか押しつぶす脅威に加わる。部隊は散り散りになり、小隊は分隊に早変わり。

 

 少女は幸いなことに、いち早く降りて林へ逃げ込んだため無傷。仲間との付き合いは薄く、自分を買っていた客が死んだ、くらいにしか思っていなかったため、心の傷もないに等しい。

 理不尽な目なら、すでに散々遭ってきたため動揺も少ない。地獄の真っただ中にいるにもかかわらず、彼女は冷静だった。スラムでは前触れのない銃撃戦など日常茶飯事だったから慣れている。体を隠せる程度の穴を見つけ、潜りこみ、地面に伏せて機銃掃射をやり過ごした。

 機銃掃射が終わり、地震のような足音が遠ざかってから穴から這い出る。周りを見れば大惨事、木々は幹を失ってなぎ倒され、地面は穴だらけ。ところどころ赤色の物体が見える。なんの赤色かは気にしない。コロニーが落ちた日も見た色だ。

 

「……生きてる人が居るといいけど。だれかー! 生きてますかー!」

 

 頭や服に被った土を払い落とし、大声を張り上げる。生きている人がいれば返事があるだろう。誰もいなければ、この地獄を生み出したジオンに身を寄せることも考えよう。バカでかい足跡についていけば、その内基地なり野営地にたどり着くはずだ。

 そう考えていると、まだ動ける人間が林の中から這い出てきた。

 

「小隊長……」

「……なんだ。お前も生きてたか。生き残りを探すぞ」

 

 言い方に引っかかるものを感じながら、少女は命令通り生き残り探しを始める。死体は無視。小隊長は生き残りを探しながらも飛び散った死体からドッグタグを拾って集める。

しばらく探した結果、無事な人間は少女を含めてわずか三名。小隊長に、三日前に少女に玉を蹴られた男のみ。最後の一人は飛んできた枝に腕が当たり骨折していた。生きている人間は他にもいたが、残りは木の下敷き、手足が足りなかったり腹に枝が突き刺さったりで、ちゃんとした設備で治療を受けなければ助からない、間もなく死ぬ者ばかりだったため、小隊長が直々に楽にして回った。

 結果を確認して、小隊長は頭を抱えて蹲った。

 

「たったこれだけ……これだけか? 30人居た小隊が、3人だけか! しかも一人は子供!! 一人は骨折!!」

「隊長、これからどうするんですか?」

「おいおい……」

 

 ヒステリックに叫ぶ小隊長に、空気を読まないレオナ二等兵が話しかける。生き残ったもう一人がためらいがちに諫めるがしかし、軍人としては二等兵が正しい。作戦行動中、上官は確固とした意志を持ち指揮をとらねばならない。部下の前でうろたえるなど、教官が見たら修正ものだ。

 

「……一分くれ。考える」

「了解しました」

 

 小隊長は倒れた木の上に座り、考える男のポーズを取る。隠れるという考えはないらしい。それほど追い詰められているという証左だろうが、二等兵は気にしない。一分数えたら容赦なく口を開く。

 

「それで、私たちはこれからどうすればいいんですか小隊長」

「トラックに戻って使えるものを探す。無線も落としてしまったから救援も要請できない。からな。

無線が回収できればそれで救援を要請して、合流ポイントを指定してそこまで移動する。徒歩で戻るには、俺たちの基地は遠いからな……あのザクは哨戒行動中だった。つまり、敵の基地が近いということだ。残党の掃討に歩兵が出てくる。その前に隠れる」

「乗り物を奪えば帰れませんかね」

「馬鹿か貴様! 戦えるのが一人だけ、しかもライフルだけで勝てるわけがないだろう!」

「し、失礼しました!」

「……偵察は失敗、小隊は全滅。処罰は免れんな。せめて三人だけでも生きて帰るぞ。何としても……」

「イエスサー!」

「イエスサー」

「クソ。地獄だな、ここは……」

 

 小隊長のぼやきを咎める者は、ここには誰も居なかった。

 

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