機動戦士ガンダム 天使の飛ぶ空   作:からすにこふ2世

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核ミサイルサイロ破壊作戦

「えー……では、これよりジオン核ミサイルサイロ破壊作戦のブリーフィングを開始する。エルラン中将、元中将だな。彼が持ってきたものは忘れてくれ。本作戦は三段階で構成されている。本命二段階、保険に一つだ。

第一段階、急降下爆撃隊が先行して突入し対空兵器を排除。

第二段階、急降下爆撃隊に反応した対空兵器を、デプロッグ隊が絨毯爆撃で排除しつつ目くらまし。それに紛れて本命のレーザー誘導したバンカーバスターでサイロを吹き飛ばす。

もしもバンカーバスター搭載機が破壊されたら第三段階。急降下爆撃隊が垂直降下攻撃でサイロを破壊する。敵の配置は諜報部隊と偵察隊が確認してくれたが、モビルスーツは移動能力が高い。数以外はアテにしすぎるな。質問は?」

「もし三段階目でも失敗して、ミサイルが発射されたら?」

「ブーストフェイズで撃ち落とせ」

「無茶言うぜ」

「無茶をせずとも済むように、万全の体制を整えている。航空支援の分も削ったせいで地上部隊から大量の文句が来ているが、失敗すれば彼らは全員死ぬことになることになるから気にしなくていい。オデッサを取れなければ、我々に待っているのはみじめな敗北だ。繰り返すようだが、失敗は許されない。まあ、一騎当千の精鋭に万全の支援体制だ。できる最善を尽くしてあるのだから、これで失敗するはずがないと私は信じているがね」

 

 説明する将校からの信頼に、説明を受ける部隊の雰囲気が和らぐ。

 参加する部隊の数は十を超える。急降下爆撃隊、コアブースターが六機二部隊、デコイ役も兼ねた爆撃隊デプロッグが九機三部隊。バンカーバスター搭載機が一機。爆撃機の護衛としてセイバーフィッシュが十二機。補給機が三機。空中管制機が一機。エルランの持ってきた作戦とは比べ物にならない戦力、圧倒的大部隊だ。

 なお、エルランへの尋問の結果、彼はオデッサ作戦進行中にジオンへ亡命する予定だったらしい。その際の手土産に、ジオン最大の敵といわれるレオナ軍曹を罠にはめて暗殺しようとして欲を出した結果が廃人だ。因果応報である。

 

「これ以上の質問はないかな。では出撃準備! 出撃時刻は厳守! 君たちなら必ずできる、頑張ってくれ!」

 

 将校の敬礼に参加者たちはガタガタと席を立ち、姿勢を正して敬礼を返す。そして入口に近い順から整列して退室し、格納庫へ向かっていく。彼らの間に私語はない。皆任務の重要性がわかっているからだ。

 コロニー落とし以外の兵器では最大の破壊力を持ち、おまけに広範囲に汚染をまき散らす害悪きわまる武器だ。オデッサは鉱物資源だけでなく、広大な農地も備えている。そんな土地を核兵器で汚染されれば、アースノイドの多くは汚染された食料を食べじわじわ苦しんで死ぬか、餓死するかの二択を強いられることになる。どのみち碌なことにならない、地球に住む人間としては、阻止する以外の選択肢はない。

 

 

 時間は飛んで、大部隊も飛び立った。出撃部隊の規模と方向から目的を察知したジオン軍も、重要拠点の防衛のため迎撃に出てきた。

 

「空中管制機より報告。敵部隊出現。戦闘態勢を取れ」

 

最後尾にガウが三機、ドダイに乗ったザクが九機。ドップが十二機。後方からガウが砲撃してかく乱、ドップがかく乱した敵を食い散らし、ゲタ履きがMSの重火力を打ち込む定番の編成だ。

お互いに後に引けない状況であるために、稀に見る大規模空戦が始まった……が、数の差はない以上どうしても機体性能と練度の差が大きく出る。

 

「コアブースター隊、二番機から三番機までは私とガウを落としに行く。四番から六番はゲタ履きを落とせ。セイバーフィッシュ隊はドップの撃退、爆撃機を守れ」

「いやぁ、下駄履きは固いし強いしなのにキツイ仕事を押し付けますねえ!」

「セイバーフィッシュでも落とせるんですから。火力の上がった今の機体なら的ですよ。怖がらずに行きましょう」

「子供に言われてるぞ。ビビるなよ」

 

 デプロッグは頑丈性が売りの一つ。ドップではエンジンかコックピットを直撃しなければ撃墜は難しい。しかし、防御用レーザー砲と護衛戦闘機隊が悠長に狙う時間を与えてくれない。損傷は与えられても、致命的な損害にはそうそうならない……が、不運にもガウの砲撃の直撃を受けて一機が落ちた。いくら頑丈でもビーム砲の直撃には耐えられなかった。

 セイバーフィッシュは小さく運動性も高いため、そうそう当たるものではないが。当たればタダではすまないので、気を配りつつドップの迎撃をしなければならない。

 ドップの間を擦り抜けて、コアブースター六機が飛び去って行く。三機はゲタ履きの手前で高度を急激に下げ、残る三機はガウに向けて全速力で飛翔する。ドップ隊はそれを追いはしない。優先順位の問題だ。爆撃機を撃墜できるかどうかが、地上戦の勝敗を左右する。彼らはなんとしても、最悪特攻してでも爆撃機を落とすように命令されている。

 ……結果、全機ロストと引き換えに追加で一機を撃墜、二機を基地へ帰還させることに成功した。彼らには不幸なことに、連邦にとっては幸運なことに、本命のバンカーバスター搭載機は無事だったが。

 

 さて。ゲタ履きについては精鋭中の精鋭が急降下からの急上昇で、一度に三機、ドダイの腹に

にビーム砲をぶちこんで空中でバラバラに引き裂かれた。上昇して、反撃をよけつつ頭上を取ってからの急降下、追加で三機。最後にもう一回下からの攻撃で、二分とかからずゲタ履きは全滅した。

 ガウについてもほとんど同じ結末になった。護衛機がなく、対空火器は連射の利かないメガ粒子砲しかない爆撃機は三機からの同時攻撃をくらいあえなく爆散。それを三度繰り返して、迎撃部隊は殲滅された。ジオン軍は最初のまぐれ当たりと特攻以外では大した成果もなく、大きな犠牲を払い、最初の迎撃に失敗した。

 連邦軍も被害は小さくないが、ここで止まるわけにはいかない。エンジンを片方つぶされた爆撃機は基地へと帰還するルートを飛び、残る部隊は速度を合わせて足並みをそろえる。

 

「航空部隊は今ので全部だ。無視できる損害ではないが、我々は止まるわけにはいかない。輸送機隊、前へ。戦闘機隊に補給を。爆撃隊は損害を報告。補給はコアブースター隊が優先だ。くれぐれも事故は起こすなよ」

 

 無事に補給を済ませた飛行隊は、目的地に向けて引き続き飛行する。対空砲の射程を逃れるために、高高度を飛んで。通信は短距離用レーザー通信で。

 砲撃型MSの射程内に引き寄せて迎撃されていたなら、連邦軍の被害はさらに拡大していたかもしれない。砲撃型MSの運用開始からそれほど時間が経っておらず、航空隊との連携が研究されていなかったことが、連邦にとっての幸運だった。

 

「急降下爆撃隊へ。サイロを目視した。周辺に対空砲が隠れているはずだ。降下して対空砲の攻撃を誘え」

「誘うのはいいが、別に倒してしまっても構わんのだろう」

「無理は厳禁だ。これは重要な戦いだが、君たち精鋭はこんなところで失われていい戦力ではない」

「対空砲陣地に突っ込むだけでもなかなか無理を言われている気がするんだが。まあ行かなきゃ始まらん。なら行くしかないわけで……一番槍は誰が行く?」

「私が行きます」

「いつも通り天使様か。いいぞ、行こう」

 

 高高度で機体をひっくり返して背面を地面に向ける。そこからピッチを上げて、垂直に落ちていく。一機が下りると、それに釣られて残りの機体も垂直降下を始める。急速に近付いていく地面。地表でいくつもの光が瞬き、砲弾が空中で炸裂する。時限式で炸裂するよう設定された対空砲の爆発を置き去りにして、天使は落ちていく。精密射撃用の照準を引き出して、敵に狙いを定める。操縦桿を動かして微調整し、操縦かんの頭についたボタンを押し、爆弾を投下。Gに逆らって操縦桿を全力で引く。後続機からも爆弾が投げ落とされ、地面にいくつもの大爆発が起きる。爆発に巻き込まれてMSも吹き飛ぶ。爆発をバックにコアブースター隊は上昇。低高度を維持して、対空砲がさく裂している高度を逃れる。頭上に網を張られているのと同じで、排除するまで高度を上げられない。

 

「こちらAWACS。敵の位置を補足した。データを送るから連中の頭の上に爆弾の雨を降らせてやれ」

 

 爆撃機隊が爆弾倉を開き、この作戦のためだけに用意された有線式の誘導爆弾を落としていく。セイバーフィッシュ隊も先の対空戦闘では使わなかったミサイルポッドから、温存していたミサイルを地面に向けて撃ち込んでいく。コアブースター隊も逃げるばかりではなく、低高度からビーム砲を撃ち込んで数を減らす。交戦距離が近い分、お互いに正確な攻撃ができる。コアブースター隊はどんどん対空砲を破壊していくが、少しずつマシンガンを使った反撃で被弾する。ボロボロになっていく機体。

 

「ブースター部分が限界だ。パージする」

 

 ついに脱落者が出る。ブースター部分を切り離して、コアファイター部分のみで飛行。ただし頑丈なだけで武装は貧弱なので、全力で基地に向かって離脱する。

 しかし、常に先頭を飛ぶ天使だけは無傷。撃墜スコアだけを増やしていた。

 

『作戦を第二段階に移行。作戦を第二段階に移行。作戦を第二段階に移行』

 

 今回の作戦専用に増強された通信装置で、AWACSが繰り返し命令を伝達する。最初から使わなかったのは、強度の高い通信を行うと優先して狙われる可能性があったためだ。ある程度対空兵器の排除が進んだから、段階を移行した。

 コアブースター隊が急上昇し、デプロッグ隊が入れ替わりに高度を下げて、ミサイルサイロの周辺に通常の爆弾が落とされる。対空砲が撃ち込まれるが、持ち前の耐久力で耐える。

 

「思った以上にやばいな。長くは持たん。早くサイロを破壊してくれ」

「バンカーバスター投下。誘導を頼むぞ」

 

 高度を上げたコアブースター隊。その隊長機が、機首を下げて胴体にぶら下げたレーザー発射装置を地上のミサイルサイロに向けて照射する。爆弾がレーザーの照射される場所に落下していく。

 正確な照射により、爆弾は狙い違わずミサイルサイロに直撃。一拍遅れて、地面の穴から巨大な爆炎が吹き上がる。衝撃が地面を揺らして対空砲の狙いが狂い、その隙に爆撃隊が上昇して離脱する。

 

「ブルズアイ! ど真ん中に落ちたな。これにて任務完了だ。帰ろうぜ」

「一個だけで終わり? 楽でいいですね。もう少し狩って行きましょう」

「だめだ。目標は達成した。高度を上げて速やかに帰還する。帰り道にも戦闘があるかもしれんのだ、余力は残しておかなくてはならない」

「そうそう。帰るまでが作戦だ」

「……わかりました」

「殺し足りないか? 安心しろ。この先いくらでも機会はある。今日は帰ろうじゃないか」

 

 不服そうな軍曹だが、殺した数はいつもとそう変わらない。不満なのは、仲間を守り切れなかったこと。上官の命令に従った結果とはいえ、仲間が死ぬのは気分が悪いらしい。その苛立ちを敵にぶつけたいのだが、冷静になってみれば武装にそれほど余裕がない。

 自分が死ねば、この先多くの仲間が死ぬことになる。その言葉を思い出して、渋々命令に従った。

 

 彼らが基地へと帰還した直後、偽装したサイロから核ミサイルが発射され、それがホワイトベース隊のガンダムによって撃墜された。これには航空隊全員がブチ切れた。出撃した部隊には少なくない犠牲が出た。その結果破壊したのが、偽の核ミサイルだったと。偽でなくとも、核は二発あったのだ。諜報部の落ち度は変わりない。諜報部が正確な仕事をしていれば、MSによるミサイルの迎撃などという危険な賭けをする必要もなかった。結果的に成功したからいいものの、ホワイトベース隊が失敗していた場合、戦争の結果が変わってしまうところだった。

 諜報部の責任者には厳重な注意が出された。諜報部も手を抜いているわけではない。むしろ見抜かれれば拷問死が確定している中でよくやってくれている。今回の件は確かに問題だったが、結果的に何事もなく済んだ。犠牲は無駄ではなく、戦死者には勲章を、遺族には死亡手当もしっかり出す。負傷者には治るまで休暇を、被害を受けた機体も新品を支給するから、と丸め込まれた。

 しかし、機体に損傷がなくパイロットにもケガがない。そんな隊員は再び前線へと駆り出された。隊長と、軍曹の二名のみだが、対空戦闘も対地戦闘も一人で十人分の働きができる彼らを遊ばせておくはずがなかった。

 

 隊長はともかく軍曹は……ケガをしていないように見えて、内臓や骨格には深刻なダメージが蓄積している。鍛えている成人でも苦しいのに、幼い体で無茶な機動戦を行うからだ。それでも外見には現れないし、本人も申告しない、顔にも出さないので問題ないと判断されて出撃する。精密検査を受ければ一発で出撃停止と療養命令がセットで出るだろう。

 戦争は続く。死ぬ前には限界がきて動けなくなるだろうが、その時が戦場で訪れるかどうかで、生き残れるかどうかが決まるだろう。

 


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