ジオンの切り札である核ミサイルは不発に終わり、連邦軍の士気はこれまでになく高まった。ド腐れ悪党のジオン星人はコロニー落としに飽き足らず核まで持ち出した。奴らが生きている限り地球の未来はない、やはり連中は絶滅させなければならない、と。口には出さずとも、作戦に参加した連邦軍兵士たちの思いは共通している。
ジオン軍の間にも諜報員を通じて、えらい奴らは俺たち下っ端を置いて宇宙へ逃げるつもりらしい、戦っても無駄死にするだけだ、とうわさを流して士気の低下を図った。
締めにレビル将軍の演説を行い、最後の準備とした。
陰に日向に激しい戦闘を繰り広げ、お互いに大量の犠牲者と兵器の損失を出しながらも、連邦軍地上部隊はいよいよ鉱山基地までジオン軍を押し込むことに成功した。
明日は地球上からジオンを宇宙へと叩き出す決戦の日である。これが地上での最後かつ最大の、きわめて苛烈な戦いとなるだろう。だがそれでも、我々は勝利せねばならない! いいや、必ず勝利する! なぜなら、我々は奴らによって犠牲になった無辜の人々の無念を背負っているからだ! 正義は我々にある! 以上!
そんな演説は一切聞かずに、レオナ軍曹は決戦前日に持ってこられた……というか押し付けられた新型機の受領を行っていた。ハービックとアナハイム・エレクトロニクスの二社から渡されたのは、前者が航空機で後者がMSだ。
彼女は連邦軍の中でも兵器調達に大きな影響力を持つゴップ大将の愛人であり、同時に地球連邦軍空軍の看板<トップエース>でもある。彼女のご機嫌を取ることは即ち大将と実戦部隊の両方に好印象を与えることである。将と馬を同時に射抜けるのだから狙わないはずがない。今後の兵器注文のシェアを握るための打算から、わざわざ新商品を無茶苦茶なスピードで開発して、地上戦の最終局面に間に合うように持ってきたのである。
「明日の戦いにはぜひ当社の戦闘機を。宇宙空間での性能も折り紙つきです」
片方は前進翼とカナード翼、姿勢制御スラスターと双発三次元偏向ノズルを搭載し、垂直尾翼の間に目玉じみた球形のビーム砲を積んだ、ワイバーンのようなフォルムをした巨大な戦闘機。とてもカッコイイ。
「宇宙に上がれば戦闘機もモビルスーツも同じ条件で戦うことになるのです。条件が同じならMSが戦闘機に負けることはありません! ぜひ我々アナハイム・エレクトロニクスのMSを」
もう片方は完全な異形。子供が定規で線を引いて描いた人間のようなシルエット。胴体は板だ。航空機の主翼のように薄いものが工の字に配置されている。手足も胴体同様にまた細く、薄い。明らかに
……これに乗りたいという人間がどこに居るんだろう。
似たような話を延々と繰り返す営業に、軍曹は心底うんざりしていた。出撃で疲れていて、明日に備えて早く寝たいのに、しつこい営業のせいで落ち着かない。殴っていいなら殴りたい。それほどイライラしているのに、察しの悪い二人はこっちに話しかけながら相手を牽制している。器用なことだ。
「わかりました。では……」
「ハイ」
「ハイ」
「明日それぞれ持ってきた機体に乗って出撃してください。二人のうち、多く敵を撃墜した方を先に試乗します」
一人だけ機体をアップグレードしたらほかのメンバーと連携が取れないだろ、機体の転換訓練もなしにいきなり乗れるか、インテリのくせにそんなこともわからないのか、試験運用済ませて分隊の人数分機体をそろえて出直してこいぶっ殺すぞマヌケ。
と叫んでぶん殴ってやろうかと思ったが、あまり下品なことを口にすると保護者に叱られるので、こうなった。軍曹の予想ではこれで二人は濡れた犬のように静かになるかと思ったのだが。
「お任せください。わが社の商品の性能をとくとご覧に入れましょう」
「地上戦では航空機に分があるとは言わせません。誰よりも多くジオンを倒し、これからはMSの時代だということを証明して見せますよ」
予想に反して二人ともなぜかやる気になってしまった。予想外の返事に驚き、同時に腹が立った。しかも片方は撃墜王の自分よりスコアを稼げると言い放ったぞ。本気でできると思っているのか? プロパガンダを真に受けて、他人の手柄を奪って成り上がった偽物の撃墜王だと思って舐めてるのか? スラムの掟、「なめられたら殺す」を実践しそうになったが、やはり自分を立ててくれている保護者の顔を思い浮かべて踏みとどまる。
「えぇ……」
軍曹が散々暴れまわったデータを受け取り、それを元に開発をしているハービック社の方は、とんでもないことを言ってのけたアナハイムの社員に引いている。
これからはMSの時代が来る、その点は一部同意するが、破壊天使とまで呼ばれるレオナ軍曹を含めた誰よりもスコアを稼げると豪語するとは。一体アナハイムはどれほどのMSを開発したのか……MSの生産を開始して一年も経っていないのに、ブレイクスルーを起こすほどの技術がアナハイムにはあるのか。兵器の開発は積み重ねだからそれは考えにくい。となるとただの現実を知らない愚か者か。
しかしスラム育ちの少女が少し動かし方を聞いただけで操縦できるのだから、MS生産企業の社員なら、万が一もあるかもしれない。帰った時の弁明を考えておく必要があるな。と、ハービックの社員は営業スマイルで心の中を隠した。
「明日死んでもいいように知り合いに電話をしておいてください」
とにかくさっさと切り上げて寝たい軍曹は、二人を置いて自室へ戻っていった。引き止められても無視。追いかけられたが、営業二人は整備兵たちのタックルを食らって足止めされ、引き離された。実力があり、見目麗しく、人徳のあるエースパイロットともなれば、ある程度周りが考えを察して動いてくれる。
決戦前夜で可能な限り、作戦に参加するすべての機体の点検を命令されている整備兵たちは、くそ忙しい中で試験機という大変すばらしいプレゼントを持ってきてくれた二人への「お礼」も兼ねて、しっかりと二人を隔離したのだった。
戦闘機はACのモルガン
モビルスーツはACのフラジール。もしくはOOのフラッグをペラペラにしたような感じ。