機動戦士ガンダム 天使の飛ぶ空   作:からすにこふ2世

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ジャブロー

¥ オデッサを制圧し、ジオン地上軍が宇宙へ逃げ出すのを止められなかった地球連邦軍。

 地球を占領しきれずに、各地の大型拠点を放棄して撤退の構えを見せているジオン軍。

 ジオンは戦略目標の達成に失敗し、連邦軍は成功した。サイド3で演説をしていくら士気を盛り上げようが、事実は変わらない。連邦軍は間もなく地球で量産したMSを宇宙へ打ち上げて、再建した宇宙艦隊と合流させ、地球圏内からジオン軍を追い出す。

 そのあとは国力差をもって、ソロモン、ア・バオア・クーを順番に攻略しサイド3へ迫り講和を迫る。これが既定路線だ。

 

 ……そしてオデッサを攻略した部隊の多くは、休む暇もなくジャブローへと呼び戻された。占領したオデッサには、軍隊を宇宙へ打ち上げるための資材がないからだ。それぞれが輸送機、輸送船に乗せられて、空の旅、または海の旅を行った。海を旅するならまだいいが、空の旅では休む暇がない。兵士たちの疲労は大きかった。まして、少なくない犠牲を出した大作戦の直後だ。肉体だけでなく、精神面での疲労を愚痴という形で発散する兵は多かった。

 

「隊長はケガして寝てるし、人数は半分以下になっちまったし、この部隊この先どうなるんだろうなぁ……」

 

 酒保で酔っ払いながら愚痴をこぼすのは、急降下爆撃隊の一人。部隊の人数が半分以下になってしまえば、それはもう全滅扱いだ。精鋭部隊だっただけに仲間の喪失とはしばらく縁がなかったが、それほどの激戦だった。

 喪失感をアルコールで埋めるだらしのない大人を見て、軍曹はなぜ他人の死がそれほど悲しいのかまでは理解できなかったが、こうはなるまいとひっそりと思った。オレンジジュースとケーキを交互に口に運びながら。酒よりも需要がないため、酒一杯よりも高かった。

 

「解体されて、適当な部隊に組み込まれて宇宙へ。じゃないの?」

「あぁ……そうだろうな」

 

 そんなことを言ってほしかったわけではない、とでも言いたげにグラスに酒を追加する男。そういえば、以前はこんな男の相手をよくしていた、と軍曹は思い出す。まだ一年も経っていないが、随分と昔のことのように感じる。

 こういう状態の男がよく自分を買っていた。つまり、そういうことを求められているのだろうか、と軍曹は一般的ではない人生経験から答えを導き出した。

 あまり気は乗らないが、自分に良くしてくれた相手が落ち込んでいるなら励ましてあげたい。その優しさから、男の手を取って、自分の胸に持って行った。

 周りに人がいるのにかまうことなく。

 

「…………」

「…………」

 

 栄養状態が改善されて成長を再開した少女の体は、胸も年相応、一般的なサイズに育ちつつある。

 そして男は長らく作戦続きで女の体とはご無沙汰であり、酒に酔っていることもあって本能に抗いきれずに、その胸部を揉みしだき、少女の柔らかさを堪能した。

 周りで人が見ているのにかまうことなく。

 

「……………憲兵――――!」

「違う!! 待ってくれ!! 誤解だ!!」

 

 叫び声で我に返るが、時すでに遅く。警備兵に両腕をつかまれて連行されていった。

 誘う場所がまずかったか、と反省する軍曹であった。

 その後一人でゆっくり甘味を楽しんだら、警備兵に「連れていかれた彼は、落ち込んでいるから励ましてあげようと思って自分からやったことだから、処罰はしないであげてほしい」と伝えて。一人で格納庫へ向かった。

野郎どもの中に少女が一人でうろついて大丈夫なのか、と思うだろうが、胸にぶら下げた大量の勲章を見ればどれだけ酔っぱらっていても一発で酔いが覚めて敬礼をする。それでも手を出そうとする勇者はスラム仕込みのベースを軍隊で鍛え上げた格闘術で、勲章が飾りでないことをわからされる。

食後の運動に散歩がてら、徒歩で格納庫へ向かう途中。不意に視線を感じて、遠くの何もない岩場に目をやった。

 

「……」

 

 赤い人影が見えたような気がした。しかし、北米にオデッサにとさんざん叩いたばかりのジオンがまさか地球連邦軍の本拠地に乗り込んでくるなんて思うわけがなく、気のせいだろうと無視して散歩を再開した。

 いい具合におやつも消化しきれた頃に、格納庫へ到着。整備兵に愛機の状況を尋ねる。

 

「はっきり言ってもう駄目ですね」

「だめなの?」

「はい。御覧の通り傷だらけですし、内部にも相応にダメージが蓄積しています。戦闘機動には機体が耐えられません。特に軍曹は激しい操縦をなさる傾向にあるようなので。データを取ったらバラして使える部品を補修用に回すことになります」

「予備の機体は?」

「少々お待ち下さい。確認します……」

 

 整備兵が端末に触れて検索するのを横からのぞき込む軍曹。機体の番号とセットで、パイロットの名前と階級がずらりと並ぶ。

 

「……残念ですが、コアブースターの予備機はないようです。どれもパイロットが使用中ですね。セイバーフィッシュならありますが、今更旧型に乗ってもらうわけにはいきませんし。自分は兵站担当ではないので確かなことは言えませんが、ハービックに注文となると、打ち上げ予定日には間に合わないでしょう」

「アナハイムとハービックが置いていった実験機は?」

「現在テスト中で、その後データ取りに回される手筈です」

「うーん……困った。宇宙で何に乗ればいいんだろう」

 

 辞令は出ていないが、完全に宇宙へ行くつもりの軍曹。地球に居ろと言われても宇宙へ行くつもりだが。しかし搭乗する兵器がなければ戦えない。セイバーフィッシュは、重力下でこそザク相手に優位に立ち回れたが、宇宙ではそうはいかないことくらい、学のない軍曹にもわかる。重力の鎖から解き放たれたMSと戦ったことは一度もないが、要するにMSがドップ並みの機動力で襲ってくるわけだ。セイバーフィッシュでは厳しい。

 

「モビルスーツに乗り換えようかな」

 

 連邦のMSも、ジオン同様に重力の制限から解放されているのだ。条件は同じ。ただし宇宙に上がればザクよりも強力な機体が出てくるだろうから、性能の差は埋まる。あとは腕で勝負が決まる。

 慣れない環境、慣れないMSで一体どれほど戦えるかわからないが、戦わないという選択肢はない。

 

「軍曹のモビルスーツ適性はそれほど高くなかったはずでは?」

「乗れなくはない。シミュレーター訓練も続けてる。宇宙は上がったことがないからわからないけど、それはほかのパイロットも同じでしょ」

「軍曹ほどの航空機パイロットがMSに乗るのも勿体ない気がしますが……」

「乗る機体があればそっちに乗るけど。ないんだもの。仕方ないじゃない」

「新しい機体が届くまで待機して、それから宇宙に上がるというのは?」

「ほかの兵士が戦っている間、自分だけ待ってるのは性に合わないの」

「軍曹は整備士にはなれませんねえ……」

「なる気もないわ」

「負荷をかけまくる無茶な機動をした機体の整備を任される我々の気分をわかってもらえませんか。残念です」

「感謝はしているわ。形が欲しいっていうならお礼もしてあげるけど」

「気持ちだけいただいておきます。自分は年上が好みなので」

「そう。残念ね。邪魔をしてごめんなさい、仕事に戻ってちょうだい」

「いえ。ちょうどいい休憩になりました」

 

 ボロボロになった愛機との別れを済ませたら、整備士に挨拶して格納庫をうろつく。もちろん、他人の邪魔にならないように。

 ジャブローはMSの量産体制を整えており、格納庫には生産されたばかりのMS、RGM-79、通称ジムがたくさん並んでいる。モビルスーツは量産できるのにコア・ブースターは量産できないというのはどういうことなんだろう。モビルスーツを量産しているからコア・ブースターが量産できないのだろうか。

 馬鹿な自分が考えても仕方がないことだと割り切り、実機で操縦の練習をしたいと伝えて一機借り、エネルギーを充填したビームスプレーガンをもらい、案内に従って射撃訓練場へ向かう。連邦軍本拠地だけあって、実弾訓練を行う余裕すらあるのだ。

 これから宇宙へ上がるのに、地上での訓練にどれほど意味があるのかわからない。しかし、全くの無駄にはならないはずだ。

 

『軍曹……軍曹! 大きな作戦が終わったばかりだというのにもう訓練かね? 全く勤勉なことだな』

 

 モビルスーツの射撃訓練中、コックピット内にゴップ大将からの通信が入った。しかし射撃を止めることなく返事をする。

 

「あら、大将閣下。たかが一人の兵士に声をかけるとはずいぶん暇なんですね。時間があるならハービックにコア・ブースターの供出を要請してもらえませんか?」

『暇ではない。用事があるからこうして探して呼び出しているのだ。新しい階級章を渡すから私の部屋へ来なさい』

「後ではいけませんか?」

『ダメだ。暇ではないと言っただろう。三十分以内に来なければ処罰するぞ、いいな』

「了解しました」

 

 使用済みの武器を返却して、ジムを元あった場所へ戻そうと移動していると。

 

「!!」

 

 突如、爆発音、それに伴う振動。遅れてサイレンが鳴り始める。

 

『第五ブロックにて火災発生! ジオン軍MSを確認! 繰り返す! 第五ブロックにて火災発生! ジオン軍MSを確認! MS隊は直ちに出動せよ!』

「……大将閣下? この場合はどっちを優先すれば?」

『…………出動が優先だ。用意した階級章が無駄にならないように頼むぞ』

「了解!」

 

 イキイキした声で返事をして、エネルギー充填済みの武器をもう一度受け取ったら、警備で巡回していたMS隊に合流するように判断する。第五ブロックに敵がいて、その場所はわかるが、道順がよくわかっていない。というあたりが子供らしく抜けている軍曹であった。

 

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