地球連邦軍の宇宙攻略に向けた戦力打ち上げは、ジオン地上軍残党による潜入・工作部隊の破壊活動により初手からケチがつくことになった。ジャブローで生産中だったモビルスーツを工場ごと破壊されて、当初の予定よりも打ち上げするMSはわずかに減少。
おまけにその打ち上げ予定のMSは、たかが一機のモビルスーツに五機がかりで撃墜どころか、四機が返り討ちにされ、一機が中破。しかも敵にはまんまと逃げられた、という不愉快な結果が知れ渡れば、MSへの信頼性が損なわれるのは当然であった。V作戦、およびRX計画と、それを推し進めたレビル将軍への評価もわずかに低下した。
これにより、打ち上げは少しだけ延期し、その間にRGM-79、ジムの戦力再評価が行われることとなる。もちろん低い方への評価だ。
また、精密検査を終えた軍曹改め准尉は医師の判断で入院となり、絶対安静。当然訓練も出撃も中止するように命令が出された。ただし、アナハイムと連邦軍のMS技術者たちによる調査への協力は体への負担がない程度に許可された。
調査する内容は、もちろん前日の交戦について。破損した機体はドック入りしてバラされて、部品単位でデータを取られた。それとパイロットの口から出た情報のすり合わせが目的だ。戦闘中に何があったか、どのような操縦を行ったか、なぜその行動をとったのか。結果どうなったか。微に入り細に入り聞かれて、准尉は自分の知識と記憶で答えられる範囲で答えた。
答えられないことに関しては、シミュレーターで体への負担をいとわずに再現して協力した。戦場へ出られなくとも、仲間の死者を減らすためにできることなら何でもする、といった具合で積極的に。
その甲斐あって、問題点はしっかりと洗い出された。パワー・反応性・耐久性・耐熱性など。ザクを相手にするなら十分な性能でも、それ以上を相手にするには不十分。ジムでは役者不足な場面が出てくるだろう、という結論が出た。
今後開発・生産されるモビルスーツには、これらの課題を解決したものが求められる。とはいえ、コストが……生産性が……と頭を悩ませる技術者たち。しかしそれを解決するのは准尉の役目ではないので、あとはシミュレーターで戦闘訓練を開始した。シチュエーションは宇宙。母艦の援護はなし。自機はコア・ブースター。標的は赤いザクの、各性能を三割増しにしたものと、一対一で。
大勢のパイロットたちが見守る中で、いざ戦闘が始まろうというときに。
「私は休め、という命令を出したつもりだったのだがね」
「休んでいますが」
腹のデカイ保護者に引っ張り出された。
「訓練は禁止だ、ばかもの。解散、解散!」
大将の命令には逆らえず、野次馬に集まっていたパイロットの人込みは蜘蛛の子を散らすように離れていく。訓練室に残ったのは准尉と大将の二人だけだ。恐れ知らずのつわものたちが何人かだけ入口のドアの隙間からこっそりとのぞき込み、成り行きを見守る。
悪びれることなく堂々と胸を張る准尉と、あきれた顔でどう説教したものかと考える大将。
功績がほかの誰よりも巨大なだけに、あまり強く怒れない。
「私は君のことを心配して言っているのだよ」
「暇なんですか?」
「私が忙しいのは君も知っているだろう。宝石よりも貴重な空き時間をたかが一人の士官のために浪費していると思うかね?」
「いいえ」
「わかっているなら仕事を増やさないでくれ」
「閣下。質問があります」
「なんだね」
「私はいつ出撃できますか」
「……医者がいいと言ったらな。それまでは安静にしていろ。安静の意味がわかるかね? 食事とトイレと入浴以外はベッドで寝ていろということだ。わかったかい」
「了解しました」
「本当に?」
「本当です」
親子みてえだ……と、入り口で見ている兵士がつぶやいた。幸いにも二人の耳には届かなかったが、一緒に覗いていたつわものたちにはしっかり聞こえた。確かに、二人の距離は愛人というよりも親子関係のそれに見える。養子にとってしまえばいいのに、とある兵士が言ったが、それにまた別の兵士が反論する。大将閣下と親子、つまり家族ってことになったら色々めんどくさいしがらみが生まれるだろう、閣下は権力闘争に巻き込みたくないのさ。あと軍曹――いや今は准尉だったな――は兵士が天職だ。本人も戦うのが大好きでな。家族になったら情が湧いて止めたくなるだろう、娘に嫌われるのは避けたいのさ。
外野が適当なことを好き放題言って盛り上がり、この日以降、二人のことを温かい目で見る兵が増えた。
一方で、アナハイムとハービックの二社には厳しい要求が与えられることとなる。
連邦軍上層部からはジムと、ジム各種バリエーションの性能向上。コアブースター量産命令。
入院中の准尉からは、シャア・アズナブルをぶち殺せるモビルスーツ・航空機を用意しろと。具体的な要求は、モビルスーツには近距離武装の充実。航空機にはより厳しく、近接兵装の充実。モビルスーツ・航空機のどちらにも、シャアが腹に潜り込んできても万全に対応できるような、そんな武装を要求した。しかも期間は自分が退院して、宇宙へ上がるまで。当然無茶の極みである。
だが、もしもアナハイムとハービック、どちらか片方がオーダーの達成に成功した場合、成功したほうが今後の兵器生産のシェアを握ることとなる。兵器だけでは儲からないが、多くの産業において傘下の企業に融通を利かせ、広く多くの分野で利益を得られるようにするのだ。