機動戦士ガンダム 天使の飛ぶ空   作:からすにこふ2世

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少女の初陣

 残り三名となった第四小隊は、ザクによって粉砕されたトラックに資材を求めて戻ってきたが。

 

「ご丁寧に踏みつぶしてやがる」

「これでは探すだけ無駄か」

 

 そこにあったのは、120mm砲弾の直撃を受けて大破したのち、さらにザクの足で踏みにじられプレス加工されたトラックの残骸。ザクの重量は60トンを超えるほどで、元の形を知らなければトラックだったもの、とはわからないほどにまっ平、スクラップを通り越してもはや一枚の板であった。

その中でまだ使用に耐える物品など、ありはしない。

 

「これからのことを考える。ひとまず林に隠れるぞ」

「イエッサー」

「イエッサー……」

(この二等兵、こんな状況でも平気なツラしてやがる。一体どんな環境で育ってきたんだこのガキは)

 

 まったく動じていない二等兵と、露骨に士気の低い上等兵。上等兵は、隊員を失うことはこれが初めてではない。元々は別の部隊、対MS特科に所属していたが、その部隊が戦闘で壊滅したために、第四小隊に編入となったのだ。

 二度も同僚を部隊ごと失えばいやにもなるか。小隊長は隊をほぼ丸ごと失うのはこれが初めてだが、この感情を二度とは経験したくない。

 だが、自分も立場というものがある。部下を奮い立たせねば。

 隊長の心中はそんな感じだった。

 

「子供のほうが声がでかいぞ。タマ落としたか?」

「この前私がつぶしました」

「……つぶされたのか?」

「つぶれてねえです!」

 

 上等兵が叫んだ直後、二等兵がぴくりと耳を動かして、地面に伏せて、耳を地面に当てた。

 地面から聞こえてくるのは、遠ざかっていくズシンズシンという地響きと、逆に近づいてくるタイヤが転がる音。トラックだろう。

 

「どうした二等兵。具合でも悪くなったか」

「タイヤの音が聞こえます。隠れませんか隊長」

 

 小隊長の的外れな気遣いに、二等兵は冷静な顔を崩さずに提案を行う。

 

「ああそうだな、隠れよう。足跡は消しておけ(くそ。襲われてから二十分も経ってないぞ、それだけ敵の拠点が近いってことか? 事前の情報ではもっと距離が……航空機の偵察情報が間違ってたなら最悪だな。生きて帰れたらぶっ殺してやる……いや殺すのはまずい。顔の形がわからなくなるまで殴ってやる)」

 

 小隊長は胸の内に物騒な思いを抱きながら、隠れるように指示。三人は荒れ果てた林の中に逆戻りし、再び身を隠した。ジオン軍の歩兵を乗せたトラックがやってきたのは、その数分後であった。

 

「げぇ、ほんとに来やがった……」

「ハンヴィー2台、一台につき……4人で8人。これを襲うのは厳しいな」

「隊長。私が投降するフリをして出ていきます。うまくやれば二人までなら拳銃でも殺せると思いますが」

 

 さも当然のことのように、軍人にあるまじき偽装降伏の提案を行う二等兵。顔をしかめる小隊長。いくら戦争でも破ってはいけない最低限のルールというものがある……その中に、降伏を偽装することが入っている。スペースノイドの住処であるコロニーを地球に落として、無差別大量虐殺を行ったのはいいのかと言えば、もちろんレッドカード。一発退場ものなのは置いといて。そのルールを平気で破ろうとするこの少女に、気分が悪くなるのは当然であった。

 ……本来ならばみっちりと教育を行うところだったが、そんな暇もなかったのだから、知らないのも仕方ない。

 

「ガキが。馬鹿言うんじゃない」

 

 万感の思いを込めて出たのがその一言であった。

 

「ではどうやって基地に帰るんですか隊長」

「それは……むむむ」

 

 建前はさておき、現実をどうするかも考えなければならない。基地までは数十キロ。水も食料もなし。レンジャー課程を修了した隊長一人ならまだなんとかなるかもしれない。だが負傷者と戦力外の少女を連れて、ジオンの追跡を避けながら、徒歩で三人そろって帰還するのは、不可能だ。考えるまでもない。

 

「いいじゃないですか隊長。失敗しても仲間のところへ行くだけです」

「…………ダメだ。私は、子供をこんなところで死なせる屑にはなれない。投降するぞ。彼らが南極条約を順守してくれることを願おう」

 

 まず小隊長が両手を挙げて、茂みから出て行った。続いてケガをした上等兵、遅れて二等兵が。ジオン兵が3人に気づいて銃口を向ける。

 

「撃つな! 我々は投降する! 我々は投降する! 南極条約に準拠した、捕虜としての待遇を求める!」

 

 小隊長が全員に聞こえるよう、ハッキリと大きな声で叫ぶ。向こうも気が付いたようで、銃こそ下ろさないものの、さっきまでの物々しさは失せた。それどころか二等兵の姿を見て、戸惑い同情じみた顔を浮かべるものも居た。

 

『貴官らの投降をうけいれる! そこを動くな!』

「感謝する!」

「ち、ひどいジオン訛りだ」

「聞こえたらどうするんですか。機嫌を損ねたら殺されますよ」

 

 二等兵(子供)にたしなめられる上等兵(大人)に、立場が逆だろうとため息をつく小隊長。そんな3人のもとへ、銃を構えた兵士たちが警戒しながらにじり寄る。

 ジオン兵たちが投降の受け入れのためにボディチェックを始める。二等兵と隊長は黙って受け入れるが、上等兵だけは……

 

「ベタベタさわんな宇宙人がよ! ぺっ!」

「貴様ぁ……!」

 

 ボディチェックを行う兵士に唾を吐きかけて、銃床で殴られて土の上に倒れた。その上に兵士が3人がかりで抑え込み手錠をかける。それでも暴れるものだから寄ってたかって足蹴にされて銃床で殴られて、散々痛めつけられて、ようやくおとなしくなった。

 

「うぐぅ……ちくしょう……ちくしょう……」

「抵抗するなシグ! これは命令だ!」

 

 上等兵の名はシグというらしい。二等兵はここで初めて、自分を買った男の名前を知った。しかし興味もないので見向きもしない。涼しい顔で、どこかいやらしい手つきのボディチェックを受け入れる。いまだ幼い自分を女として見てくるのは、ジオンも連邦も一緒か、とため息をついてあきれるだけだった。

 ただ、色情を優先して胸や股間ばかりを触るせいでチェックが甘い。子供だからと油断しているのもあるのだろうか。

 

「連邦軍は子供まで徴兵しているのか?」

 

 車の中から隊長らしい人物が現れ、比較的訛りの少ない言葉であきれたように言った。

 

「どっかの宇宙人がコロニーなんてものを落としてくれたせいで、大いに人手不足でな!」

「黙れ上等兵! 部下が失礼をした。改めて、投降を受け入れてくれたことに感謝する」

「ああ、かまわん。我々は戦争中なのだ。まして散々踏みにじられた敵だ。言いたいこともあるだろう」

 

 ジオンの隊長は怒るでもなく見下すでもなく、何の感傷もなく、興味もなく、その言葉を受け流した。そこに見えた余裕に、上等兵は歯を砕かんばかりに食いしばる。

 

「では、手錠をかけろ」

「りょうかいしました!」

 

 かくして、3人は手錠をかけられて車に乗せられた。三人まとめては乗り切らないので、上等兵と小隊長は二人セットで、二等兵だけはもう一台の方、ジオンの隊長の乗る車に乗せられた……

 

 男組は別段何事もなくジオン軍の拠点まで運ばれたが、二等兵だけは移動中、ジオンの隊長にべたべたと体を触られていた。さっき上等兵に興味を持たなかったのは、女が居たから些細な挑発などどうでもよかったのだろう。

 二等兵は勝手にそう考えていた。自分の武器が通用する相手だとも。

 

「……ジオンには女性がいないんですか?」

「居ないわけではないが、軍隊というのは基本的に男の世界だ。ましてこんな前線だ。ほとんど居ない……連邦もそう変らないはずだが、君はどうして軍隊に? どうしてこんなところに?」

「それは……こういうことですよ」

 

 そっと、太ももを優しくなでる。男が震える。顔を覗き込めば、目をそらされる。

 

「……」

「私、三日前に軍人に『させられた』ばかりなんです。一番したっぱの二等兵として。備品としてしっかり『サービス』してたのに急に殴られて、抵抗したらうっかり倒しちゃったものだから、きっと口封じに送り出されたんです……だから、連邦なんかどうでもいいんです。優しくさえしてくれたら、ジオンでもなんでも……」

 

 同情を誘うように、保護欲を引き出すように、できるだけか細く、か弱い声で囁く。さらに涙目に上目遣いも追加で、女の武器をフル活用する。

 戦争中の前線、女と無縁の環境、ストレスが溜まっており、耐性も下がっている。加えて14歳の少女のまだ幼いといえる外見が警戒心を緩めて、矛盾する女の仕草がそこにつけ込む。

 

「手錠を外してくれたらあとで『お礼』もしますよ」

「……わかった。基地に戻ったらな」

 

 隊長という責任ある立場であっても、落ちるのは仕方ないことだったかもしれない。

 

「……隊長ばかりいい目を見てずるいっす」

「お代さえいただければ、ほかの皆さんにもサービスしますよ」

「ホントか!? やったぜ!」

「おいおい相手は子供だぞ、何盛ってんだよ……」

「我慢したいなら我慢してりゃいい。だが俺は頼むぜ」

「……」

 

 規律を正すべきトップが崩れたら下も崩れるのは当然のことで、拠点にたどり着くまでのわずか二十分の間に、車内の人間は少女の毒に中てられた。基地についてからも、男二人は手錠をかけられたまま捕虜の収容部屋に放り込まれたが、二等兵だけは士官室へと連れ込まれて。何時間か後には、シャワーを浴びて、手錠も外されて基地の中を自由に歩きまわっていた。

 

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