「第四小隊、隊員三名、ただいま帰還いたしました!!」
「……ああ、ご苦労。よく帰ってきてくれた。偵察機からトラックの残骸を発見したと聞いた時にはダメかと思ったぞ。一度休んで、報告書を出すように……」
「報告いたします! 我々三名は敵基地を粉砕し、ザク六機を撃破、三機の鹵獲に成功いたしました!」
「…………なんだって?」
「繰り返します、我々三名は敵基地を粉砕し、ザク六機を撃破、三機の鹵獲に成功いたしました!」
「そうか。これは夢か。夢なら目を覚まさなければな……仕事は山ほどあるのだ、寝ている場合では……ぬぐぅい!?」
「司令官殿! 衛生兵! 衛生兵!! 司令が負傷したァー!!」
報告を聞いた司令官は、思わず手に持っていたペンを勢いよく自分の手に突き刺したという。医務室に運ばれて処置を受けた司令官曰く、「夢かと思ったので確かめてみたら現実だった」とのこと。
怪我をしながらも、現実だと分かってからの動きは速かった。腐っても基地司令、腐っても佐官の階級は飾りではなく。直ちに偵察ヘリが飛び立ち敵基地の崩壊が事実だと確認し、基地所属の機甲部隊と工兵隊が出撃して残党を掃除して占領し、情報や物資を確保。同時に小隊長に報告書の作成命令が出された。
さらに南米ジャブローの地球連邦軍本部にも報告を送る。十分で返事が来て、一時間で最寄りの空軍基地より、別の補給任務から帰還したばかりのミデア輸送機が、給油も済ませずに飛来。残った基地の人員総出で鹵獲したザクの格納に取り掛かった。その時間で輸送機に乗ってきた美人の女性士官と話をしようと、下心を隠した司令がのこのこ出てきたが、時間がないということで受領書の確認だけしたら追い払われた。時間がないというのは建前で、休憩なしで飛び続けて疲れてるのにエロジジイの相手なんてしていられるか、というのが本音だろう。
四苦八苦しながらザクをコンテナに積み込んだら、ミデアは全速力でジャブローへ飛び立っていった。この基地で給油をしないのは、道中で空中給油機がスタンバイしているらしい。
輸送計画であれ何であれ、本来であれば諸々手順と承認を踏んで行われるものだが、本部の特権で特例として事後承認とすることで、例外的な速さでことが進んだ。過去に例のない特急便だ、ここまで急ぐ理由は現在の戦況にある。
ジオン公国が地球連邦に対して宣戦布告してから二か月、北米にジオン軍が降下したのが一週間前で、その極めて短い期間で西海岸を奪われている。圧倒的な大敗だ。しかも負けはここに限ったことではなく、アフリカ、オセアニア、アジアとどこもかしこも占領されている。欧州は鉱山地帯のオデッサを取られ、あとの地域は占領地の足場固めを優先して攻撃されていないだけ。見逃されているだけだ。攻略戦を再開すれば風に吹かれたろうそくのように、あっけなく消え去るだろう。
そんな中でジオンの電撃作戦成功の一翼を担う、主力兵器ザクを入手した。しかも無傷で、三機も。嵐の海で灯台を見出したようなものだ。前例主義や規則などかなぐり捨てて飛びつきもする。
ザクを載せたミデア輸送機がジャブローへ向けて飛んでいくころ、この大戦果を作り出した小隊長は報告書の作成をどうするかで頭を抱えていた……ザク三機の鹵獲、他六機と戦車複数台の撃破。基地の破壊。捕虜の救出。これらの戦果は、すべてレオナ二等兵によるもののためだ。わずか14歳の少女が一人でやらかしたことだと、事実をそのまま書いたところでいったい誰が信じてくれるものか。
そうは言っても報告書に虚偽を書くわけにはいかないので、隊長は二等兵に聴取を行いながら徹夜で書き込んだ……事実をありのままに書いた書類は、こんなふざけたことが現実にあるか、あってたまるかと基地司令に突き返され、三度にわたるリテイク命令で原型を失った代わりに、「幼女が一人で基地を壊滅させた」よりはマシな程度にリアリティが備わった報告書が出来上がった。
内容は、ザクにトラックをやられた後、二等兵をおとりに基地に侵入、その後隊長と上等兵がアクション映画も真っ青な大立ち回りでばったばったと敵兵をなぎ倒して回りザクを入手、そのザクで基地を破壊して凱旋。血まみれのコックピットの説明はない。
基地司令がジャブローからお叱りの電話をいただき、オリジナルの報告書を提出してもう一度電話越しに怒鳴られたのは言うまでもない。これが現実なんですと叫ぶ司令に、そんなわけあってたまるかバカヤロウと叫ぶ偉い人。一時間ほど同じやりとりを繰り返し、しまいには司令が心労で泣き出して、いったん事実として扱うことになった。
三日ほど時は飛んで、この報告書には軍上層部も頭を抱えた。報告書を読んだ誰もが信じられないとデスクを叩いて叫ぶが、過程がどうあれ現実に戦果・結果が存在するのだ。技術部から送られてきたザクのレポートがデスクの上に積み重なり、これが現実だといやというほど教えてくれる。事実なのだ。評価をしないわけにはいかないのだ。書類から逃げるな。
……第四小隊の三人をどうするか、という話題でも大いに荒れた。戦果に値する勲章を与え、それに合わせて昇進も行うことは確定した。問題はそのあとについて。報告にあった、航空偵察の情報が誤っていたという点はまず見逃しがたい。基地の書類をひっくり返して調査する必要がある。14歳の二等兵についてもだ。それが色仕掛けを駆使して基地を一人で壊滅させた? 馬鹿じゃねえの? と会議室に座る誰もが考えて、言葉を選んで口に出した。
ただ、それが事実だと報告が来ているのだから、ひとまず事実として扱おうということになった。だが彼女はどこから湧いてきたのか。書類では出撃の三日前に二等兵として配属されたとあるが、義勇兵を受け入れた記録はない。そもそも14歳は兵士として受け入れられないはずだ。民間人を基地に連れ込んでいたのなら、それは重大な問題だ。スパイが入り放題ではないか。もしや彼女はスパイではないか。尋問が必要だろう。まだ子供だぞ、そんなわけがないだろう。どこの世界に基地を一人で壊滅させる子供が居るのかね。少女を基地に連れ込んで一体何をしていたのか、調査する必要があるな。場合によっては佐官が一人飛ぶかもしれん。
やいのやいの。わいわいがやがや。
…………大変にぎやかな会議であったが、実りは少なかった。とりあえず三人をジャブローへと呼び出すことだけは決定したので、三人の到着までまた戦略会議と並行して処遇を話し合った。
連邦軍星条勲章を授与されることとなり、隊長は中尉から大尉に。上等兵は軍曹に二階級特進、二等兵も上等兵に二階級特進……二等兵のみ後日もう一階級昇進で、伍長となる。
開発部に送られたザクはネジの一本に至るまで分解され研究し尽されて用済みになった後、そのザクはエリートパイロット率いる部隊へ送られて、変装した兵士による戦線の後方攪乱と、MSの戦術的運用の研究に役立てられることとなるのはまた別の話だ。