機動戦士ガンダム 天使の飛ぶ空   作:からすにこふ2世

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実戦配備

 5月。欧州戦線にて空飛ぶザクが目撃されたという噂が起こる。そんな馬鹿な、ザクが空を飛ぶなどあり得ん、空挺降下の見間違いではないか、というのが連邦軍上層部の意見だったが、実際に5月に入ってからというもの、デプロッグの撃墜数が顕著に増加していた。

 主に被害を受けていたのは、自衛用レーザー砲でも十分ドップを落とせると油断して、護衛戦闘機を連れずに飛んでいた部隊だ。

 撃墜された機体を回収し調査したところ、噂が現実のものだと裏付けるいくつもの重要な証拠が発見された。ほぼ水平位置からザクのマシンガンを受けていたこと、パイロットの音声ログに「飛行機の上にザクが乗っている」と残されていたこと、そして何より、ひらべったい飛行機の上にザクが乗っている姿が写真に収められていたことより、それが事実であることが判明した。連邦軍はこれをゲタとゲタ履きと呼称することとなった。なおジオン軍の正式名称はドダイYSである。

 

 また同時期、連邦軍にも新兵器が産声を上げていた。V計画の産物で、新型戦闘機もロールアウトした。コア・ファイターと呼ばれる小型戦闘機である。ルナ・チタニウム合金製の装甲に強力なエンジン、高性能なコンピューターを装備していたが、武装が対空ミサイルと貧弱なバルカンのみで生産価格の割には人気がなかった。

 あくまで開発中のモビルスーツの脱出装置という評価で、後に強化用パッケージのコア・ブースターが発表されるまで空軍には見向きもされず、空軍の兵器開発もしっかりしてくれと要請が出るのみであった。しかし連邦軍本部はモビルスーツ開発にリソースを集中していることと、セイバーフィッシュで敵の航空戦力に十分対抗できていることからこれを却下。ただし武装のアップグレードは行うことは検討した。

 結果、空軍はいましばらくセイバーフィッシュで戦うこととなる。

 

 一方少女は速成教育を終えて、戦闘機パイロットとして欧州戦線へ参戦した。与えられた機体はセイバーフィッシュ。主な任務は制空権の確保・爆撃機の護衛・地上への航空支援の三つ。

 そしてドダイを最初に撃破したのはレオナ伍長だった。遭遇したのは初陣。爆撃機の護衛中のこと。爆撃機狙いのドップ相手にノーロックミサイルをぶち当てて叩き落していたところへ、三機で一個小隊を組み、低空から急上昇してきたゲタ履きザクと遭遇したのだ。

出会い頭に撃ち込まれたザクマシンガンの射線を回避しつつ、バルカン砲で反撃するもザクの装甲に阻まれて有効打にならず。仕方がないので下に回り込んでゲタを機銃で撃ち落とした。足を失ったザクはそのまま地面に向かって墜落。

 それからゲタは脆いぞと僚機に伝えて、一度高度を下げて、もう一度アプローチ。動きの鈍いドダイの下側へ回り込み、隙だらけの腹に向けてバルカン砲を撃ち込んで追加で一機ゲタ履きを撃破した。

 

 

 

 初出撃以降、少女のキルカウントは大きく増えた。ドップにドダイ、マゼラアタック。そしてザクも。ゲタに乗ったザクを地面にたたき落としただけではない。地面にいるザクも撃破している。

 

 地上のザクの最初のキルは、ミノフスキー粒子が濃く通信不良の中で飛行中、地上にザクが見えたので一気に急降下して対艦ミサイルを直撃させて、撃墜してしまったことから始まった。癖になったのだ。それからは対艦ミサイルよりも安く、威力もあり、外しても損傷を与えやすい大型爆弾に換装して何度も何度も急降下爆撃を行っている。大きな陸上戦闘艇のようなものも一つ仕留めて勲章をもらった。

 以降は彼女と整備兵との会話である。

 

「なんでセイバーフィッシュに爆弾を満載してるんですか? 戦闘機ですよね?」

「それはね。ザクをぶち殺すためだよ」

「なんでセイバーフィッシュでザクをぶち殺せるんですか? 戦車でも苦戦する装甲なんですよ?」

「それはね。持って行った爆弾を脳天からぶちこめば死ぬからだよ」

「なんでロックオンできないのに当たるんですか?」

「それはね。あたる距離まで急降下で一気に近づいて放り出すからだよ」

 

 古き良き戦法、ナチスドイツ空軍が誇る急降下爆撃である。技術の発展により、より小型で、より高威力な爆弾が開発されているため、直撃で、かつ当たり所が良ければザクを撃破することも可能となったのだ。なおデプロッグはこれをグロス単位で投下する。

 

「WW2かよ。何年前の戦術だ、頭おかしいんじゃねえの」

「人殺しの手助けをしてるのに、自分はまだ正気のつもりなの?」

 

 この後に少しばかり口論となり、二人して飛行基地司令に怒られるなど。少々問題はあったが、実際に戦果が上がっており、真似をしてしまう隊員も増えたため真面目に戦術として研究が行われることとなる。試験的に急降下爆撃中隊……ではないが、セイバーフィッシュによる対地攻撃部隊が編成された。

 重爆撃機侵入前に低高度から戦域へ侵入し、使い捨てのロケット砲や爆弾で対空火器とゲタを速やかに排除。可能ならばザクなどモビルスーツも攻撃し、使用後はパージして上昇。以降は軽量化した機体の運動性能とバルカン砲、AAMで制空権を確保する、という運用がなされた。

 が、この部隊は一か月ほどで解散させられることとなる。解散理由は『危険だから』。

 戦果を挙げることには成功したが、敵が対応に慣れると反撃を行うようになり、攻撃時に高度を下げることで被弾することが増えた。撃墜こそされていないが、これ以上続けてはその危険も出てくるのではないか、と議論が起こった結果だ。連邦軍は「ジオンに兵なし」と笑った。しかし連邦軍とて余裕があるわけではない。ジオンに好き放題やられて「連邦に兵なし」と言われては笑えない。実際地面と宇宙はそうなりつつある。空軍は戦果よりも優秀なパイロットを失うリスクを取ったのだ。

 

 では対空砲は放置していいのかと言うと、対空攻撃による爆撃機の損耗率は低く、装甲で対空攻撃を耐えながら爆弾を落としても問題ないと上層部は判断した。現場パイロットからは不評だったが。

 ミノフスキー粒子のせいで正確な対空射撃ができないがために、ジオンは航空機相手に苦戦しているのだ。しかしだからといってミノフスキー粒子を使わなければ、レーダーを使用した精密爆撃が可能になるので、連邦以上にジオンの被害も増える。ジオン地上軍はどうしようもなかった。

 損傷した機体は後方へ送り修理して、パイロットには後方から送られてきた補修済みの機体に乗って出撃してもらうことで、連邦軍は前線に張り付く戦力を維持し続けた。

 

 なお、ゲタについてはザクという超重量物を載せて飛んでいるだけあり運動性能が劣悪、おまけに装甲も薄く、鈍重な爆撃機はともかく戦闘機隊にとってはさほど脅威ではなかった。

ほとんどは爆撃機に近づくことさえできず護衛戦闘機隊によって叩き落されるため、脅威度はドップより低く設定された。ゲタによる被害は空軍よりも陸軍のほうが大きかったりする。

 空と陸では速度の基準が違う。空にとっては鈍足きわまる時速200キロでも、陸戦兵器には極めて速い部類に入る。低空飛行で地形を無視し、爆撃を掻い潜っての急襲をかけられ、陣地の後ろを取られてザクが降下。その後にゲタからの対地攻撃とザクの地上掃射を受ければ、戦車隊には辛いものがあった……かといって爆撃機隊から戦闘機を外せば、今度はドップに襲われる。

 このように空は連邦優勢で、地上はジオン優勢という状態がしばらく続いた。戦線は膠着し、一進一退の攻防が続く。

 

 開戦から半年。7月に至ってもまだ、ジオンと連邦はお互いに大量の血を流しながら戦争を続けていた。

 その中でレオナ伍長は快調にスコアを伸ばし続けて、かなり好き放題やっていた。禁止されている急降下爆撃でザクを山ほど撃破して、戦果報告をせずに撃墜者不明のザクがやたらと増えたり。地上部隊から守護天使と呼ばれて爆弾の矢を番えたキューピットのエンブレムを贈られたり。翼端をオレンジに塗られて、夕焼けの色、あるいは地獄の炎の色をパーソナルカラーとされたり。

 対地用の爆弾を的がでかいからとガウに当てて撃破して、また勲章をもらったり。

 14歳で最年少エースパイロット・兼撃墜王扱いされたり。

 あとは『ジオンのプロパガンダ放送で〈連邦軍は子供を戦わせている〉と流されて、市民から抗議の声が上がってるから飛ぶのやめて広報部に入らない? 勲章あげるからさあ』と太った狸じみた将校に言われて『二度と私に飛ぶな、と命令しないのであれば勲章を受け取ります』と返して、受勲の機会を逃した。やり取りを見ていた基地司令は真っ青な顔をしていた。話を盗み聞きした前線部隊からは猛抗議が上がった。

 

 

 

 一方宇宙では地球とは違って重力がないため、MSも戦闘機も同じ土俵で戦わざるを得なくなり、火力と装甲の差で連邦はぼろ負けしていた。ジオンはザクの改良型をどんどん送りこんできているのに、連邦宇宙軍はルウムの敗戦の損害を埋めきれず、装備のアップデートも追い付かず、重要拠点とその宙域を押さえるので精いっぱい。たまに奇襲攻撃を試みてはその都度返り討ちにされる、という醜態を晒していた。

 重要なエリアを奪われずに踏みとどまっているだけ頑張っている、ともとれるが。

 

 

 そして7月。ついに連邦軍のモビルスーツのプロトタイプ一号が完成。各地でプロトタイプをベースにした量産型が生産され始める。その頃には伍長は従軍してから半年が経った。撃墜数をザクだけで50に迫る勢いで増やし、軍曹へと昇進し、備品扱いの少女の娼婦は立派な撃墜王に生まれ変わった。後部座席で副操縦士という名の索敵担当をしていたシグ伍長も併せて昇進した。

 その戦績から新兵器、コア・ブースターのテストパイロットに選ばれて、実戦へ出撃。急降下爆撃の機動を取り、爆弾ではなく新型のビーム・キャノンでザクを撃ちぬいてからの急上昇…………で、負荷に耐え切れずファイターとブースターの継ぎ目が折れて操舵不能に。それでもなんとか副操縦士の機転で連邦軍の勢力方面に向けてブースターを吹かして、緊急通信で回収部隊を配置させ胴体着陸…………岩にぶつかり木をへし折り、数百メートルにわたって滑って停止。少々の骨折と打ち身で済んだのは幸運によるではなく、ファイター部分の異常なまでの頑丈さによるものであった。

 この後メーカーには撃墜王を殺すところだったと猛抗議が行き、パイロット二名にはお詫びの札束が山のように届いた。使う暇も、使う場所もありはしないのでほとんどは戦災復興のために寄付をした。

 結果ブースター計画は問題ありとして少し遅れることとなる。もうしばらくセイバーフィッシュの酷使は続くらしい。

 

 

 さらに一か月。治療を済ませた二人組が廊下を歩く。

 

「軍隊っていうのは意外といいところなのかしら。昔よりもずっと気分がいいわ」

「そう思うのはお前がおかしいからだよ。普通の人間には耐えられん」

 

 怪我をすればきちんとした施設で手厚い治療を受けられる。

 勲章をぶら下げて廊下を歩けば畏敬の念を込めて敬礼をされる。

 近接航空支援で助けた戦車部隊からの礼状が部屋にぶら下げられる。

 誰にも見下されることがない。誰からも敬意を示される。

 誰もが自分を必要とする。自分の体ではなく、自分の能力を求めている。

 半年前までは誰からも見下され、虐げられるばかりの生活をしていたときからは考えられない。

 かつてない充足感を覚えながら、少女は問題点を改良したというコア・ブースター実験機2号と向き合う。急降下爆撃に使うんじゃない、Gでつぶれるぞと言われたが知ったことではない。少女にとっては自分の体よりも、いかに多く殺すかが大事なのだった。

 

 

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