あとこのプロローグ、非常に短い。
――凱旋門賞のゴール板を最初に駆け抜けたのは、日本調教馬だった。
二〇一二年。例年の如く芝巧者が集ったフランスのロンシャン競馬場で開催される凱旋門賞。
それらを蹴散らし、その最強牝馬は凱旋する。
日本競馬の悲願とされる前人未到の大偉業。それが遂に果たされたのだ。
ロンシャン競馬場には大歓声が響き渡る。勝者を称えると同時に、絶対女王の凱旋を祝福するかのように。
最強牝馬の鞍上は腕で目元を拭い、スタンドに大きく手を振るう。
鞍上――
これは夢なのではないか。しかし夢ではない。これが現実だ。
薫仁は自問自答しつつも、歓喜に浸る。自身を再生させてくれた牝馬とここまで来れたのが、何よりも嬉しいのだ。
彼女に騎乗し、共にGⅠを勝ち、そして世界の頂に立った。
薫仁の胸中からは、熱い感情が漏れ出していた。
彼は彼女と共に上り詰めた。そう――世界の頂へと。
誰もが感動し、誰もが歓声を上げた凱旋門賞。
日本調教馬が悲願を成就させ、日本競馬史に新たな一ページを刻んだあとのこと。
最強牝馬は、ラストランに臨もうとしていた。
最後の大舞台である府中の二四〇〇メートル。GⅠジャパンカップ。
三冠馬が三頭も集結した、夢のようなレース。
対峙するは、新規気鋭の三冠牝馬と、凱旋門賞でもぶつかり合った金色の暴君。
今日の府中は大盛りあがりであった。どの三冠馬に賭けるか。競馬場はその話題一色となっている。
ドイツ産の天才牝馬か、破天荒な金色の暴君か、豪脚を炸裂させる貴婦人か。
誰もが胸を踊らせ、いまかいまかと発走を待ち侘びていた。各々夢を託して。
牝馬に騎乗し、改めて乗り心地を確かめる。
やはり、彼女はとてもいい馬だ、と薫仁は内心で呟く。
いままで以上の緊張が身体を駆け巡る。けれども、乗っていると自然と落ち着いてくる。
薫仁は返し馬として駆け出させる。調子は上々、歩調もよい。
ゲート前まで走らせたところで止める。そこに係員が速歩きでやってくると、牝馬を引き、薫仁共々ゲート入りを完了させた。
暴君、貴婦人も続く形でゲート入りを済ませる。
ポツリと、誰も聞こえないような小声で薫仁は呟く。
「――必ず、勝ちにいこうな」
その刹那、ガコンという音を立ててゲートが開く。
それと同時に、各馬飛び出していく。
もちろん、薫仁の乗ったドイツ生まれの三冠牝馬もだ。
声援に包まれる東京競馬場。
そこでまた、一頭の名馬がターフに別れを告げた。
最強女王の名は――デインドリーム。
これは、あり得ないIFが基となり生まれた、もうひとつの世界。その世界に存在するデインドリームの物語である。
次に投稿する予定の一話から『ウマ娘』。