日本中央トレーニングセンター学園。通称トレセン学園。
桜舞い、激戦が始まりゆくなか、今日のトレセン学園は平時以上に賑やかだ。
胸を弾ませて談笑し合うウマ娘たちがいれば、闘志を燃やし、新たなるライバルを見つけんとするウマ娘もいる。
桜が舞い散りゆくなか、彼女らが話し合う話題。それは――新入生となるウマ娘たちのことだ。
中等部の生徒も、高等部の生徒も、せっせと新入生を迎え入れる準備をする。
今年はどんな者が入学してくるか、どんな走りを見せてくれるのか、新たな時代を創るウマ娘は現れるのか――。
そんな期待と、それでも勝つ、と闘志を燃やす。
学園全体が賑やかなムードのなか、ひとりのウマ娘が校門前で学園を見上げていた。
口を開き、感嘆を漏らす。
ウマ娘が小柄なことも相まって、見上げる様はまるで何かに憧れる小学生のようだ。
深呼吸して、目を瞑り、思い描く。
これから幕を開けるであろう、自身の競走生活を。
「……よし!」
目を開き、彼女は進み始める。
このまま直進していく。覚悟の決まった表情で、校門を潜っていく。
――これが、彼女の最初の一歩であった。
迷った。ウマ娘がそれに気づくことができたのは、直進し始めてから何分か後のことだ。
流石にこればかりは頭を抱えてしまう。
なにせ、日本のトレセン学園はあまりにも広大だ。少し道を間違えただけでいつの間にか外のコース場にいそうなぐらいである。
さらにいえば、このウマ娘は日本のトレセン学園の内部をあまり知らない。
不慣れなことも合わさって、下手に動くとさらに迷ってしまうという悪循環に陥ってしまっているのだ。
廊下の壁にへたり込み、半ば絶望するウマ娘。
もはや言葉も出てこない。日本のトレセン学園入学初日からこの有様だとは。
涙目になりながら、何もない壁に向かって手を伸ばす。助けを求めるかのように。
ああ、救世主よ、と祈りつつ震える手を伸ばしていると――。
「んー? どうしたの? 見たところ、新入生のようだけど……」
若干困惑した声音で迷えるウマ娘に手を差し伸べたのは、のほほんとした雰囲気を醸し出す、黒鹿毛のウマ娘だった。
「ああ……お迎えが……お迎えがおいでなすった……」
「ほらほら、泣かない泣かない。入学式の会場まで連れて行ってあげるから」
予想していなかった救世主に背を撫でられつつ、廊下を進んでいく。
半泣き状態のウマ娘と、それを慰めながら連れて行くウマ娘。迷子の子供とお姉さんのような光景に、通りすがるウマ娘たちはやや戸惑っていた。
「……そういえば、名乗ってなかったね」
失念していたとばかりにコホンと咳き込む黒鹿毛のウマ娘。
「センパイからも、相手の名を訊ねたいときは、自分からの名乗りが大切だと教わったしね」
ひまわりのような笑顔を浮かべて、迷子となっていたウマ娘の前に立つ。
「アタシはブエナビスタ! こう見えてもGⅠウマ娘だよー!」
胸を張って、ふんすと鼻息を立てて決まったとでもいわんばかりの表情を浮かべる。
そして、身体をぷるぷると震わせている迷子のウマ娘を指さす。
「さあさあ! 次はアナタの番だよー! 名乗れ名乗れぇー!」
その直後だった。
先ほどまで迷子だったとは思えないほどの俊敏さで片手で片目を覆い隠す。
それはまるで――。
「我が名はデインドリーム! ドイツ出身! 好きなものは我を疼かす言霊! 食べ物! 我を揺るがす強者! よろしく頼む!」
――痛々しいまでの、中二病特有の構えだった。
中二病っ娘っていいよね(ぐるぐる目)。