無個性でもヒーロー目指す!。   作:斬る斬るティー

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勝つのは

底辺から這い上がって来た一騎か
常に上位を歩き進み続けた爆豪か


第33話:決勝戦

 

 

相手は爆豪。個性で見ると轟ほど危険では無い。せいぜいAクラス。高く見てもA+なのだが、アイツは戦闘能力が高い。

個性とアイツの戦闘能力が合わされば最低でもA+はあるからなー。

 

 

「・・・ユエは大丈夫かなー?」

 

八百万が居るから大丈夫だと思うけど。心配だ。

 

「始まるまで少しあるから散歩するか」

 

――どかん!

 

乱暴だな、足でドア開けるなよ。親からどう教育受けてんだよ。

 

「ああ?なんで無個性野郎が、ここ2の方か」

 

 爆豪は一騎が控え室にいたことに疑問を持つが自分が部屋を間違えたことを理解する。

 

「・・・まあ、なんだ。此所でゆっくりしたら俺散歩に行こうと思ってたから」

「待てや無個性野郎」

 

 席を立って出ようとしてした一騎を爆豪が止める。それを面倒いと心の中で思いながら一応話は聞く。

 

「なに?」

「重り付けてなんて舐めプしねぇで、全力で来い。全力のテメェを完膚なきまでに叩きのめしてそして俺が1位だ!」

 

 血走った目でメンチを切る。だがそんな目を向けられても一騎は一切動じず言い返す。

 

「嫌だよ」

 

 否定の言葉を。

 

「ンだとテメェ!・・・!」

 

 その言葉に掴み掛かろうとしたが、その手を掴まれ机に流れるように投げられぶつかる。

 

「テメェ」

「いや、お前の今までの行動見てたら当然の対応だろ。それに」

 

 睨む爆豪に冷たい目を向ける。

 

「なんで人をちゃんと名前で呼ばない奴の言うこと聞かないとダメなの?寝言は寝てから・・・・いや、お前風に言うなら寝言は死んでから言いやがれ。

 幼稚園から人としての常識学び直したら」

 

 言い終わると待機室を出て自分は通るステージへの出入り口に向かう。

 

「・・・クッ!」

 

 ユエとほぼ同じ事を言われた爆豪は一騎が出て行ってから少しして机を爆破して物に八つ当たりをする。

 

「クッソがぁああ!!!」

 

 

 

 ☆

 

 

 

『遂に!最後の試合の時!!泣いても笑ってもコレがラスト!全力出せよお前らぁ!!』

 

 一時間の修理の時をえてようやく雄英体育祭の決勝戦が始まる。

 

『爆破と言う強個性を持ち!常に上位を歩み続けてきた男! 爆豪 勝己!!

 (バーサス)

 無個性でありながら、一切諦めず!頂点へ昇り詰めてきた男! 不死黒 一騎!!』

 

「殺ス」

「殺さない程度でどう勝とうかな」

 

 爆豪は両手を後ろに向けて構え、一騎は右足を後ろにして踏み込んだ一撃を放てるように構える。

 

『スタァーート!!』

 

「爆速ターボ!!」

「天童式戦闘術!」

 

 連続爆破を起こし高速で一騎に迫る。

 だが、高速移動程度の速度なら一騎は完全に捉えることが出来る。

 

「1の型8番 虎搏天成!」

 

 右のストレートパンチを放つが爆豪は目眩ましを兼ねた爆破で背後を取る。その動きは初のヒーロー基礎学の戦闘訓練で爆豪が緑谷にした動きだった。

 

「二虎流 水天・橾流ノ型」

「シネェ!」

 

 後頭部を狙った強めの爆破。しかし。

 

「うっ!」

 

 攻撃をモロに食らったのは爆豪だった。

 

「天流車輪」

 

 水天ノ脱力で爆破を受けその威力を橾流で体中に回転力として回し倒立前転の要領で爆豪の鳩尾に踵をたたき込み勢いよく回り地面に叩き付ける。

 しかも、叩き付けたあと全体重を踵一点に集め爆豪の内部にダメージを与えた。

 

「がっは!」

「金剛ノ型」

 

 既にダメージを与えてる似も関わらず、一騎はバク転で爆豪の上から退いて。

 

「鉄砕・蹴!」

 

 顔を上げた爆豪の顔面に強烈な一蹴りをたたき込み蹴り飛ばす。

 

『強烈な一撃ィイ! 爆豪顔面大丈夫かぁ!?』

 

 少し吹き飛んでから止ると鼻を抑えながらも立ち上がり一騎を睨み付ける爆豪。

 

「クソが!なんで全力で来ねぇ!」

「なら、俺から全力を引っ張り出してみてよ!」

 

 あえて縮地を使わずに辛うじて爆豪の目でも終える速度である火天ノ型・烈火で距離を詰めて攻撃を仕掛ける。

 

『不死黒!ラッシュ!ラッシュ!ラッシュ!! 爆豪へ猛攻の嵐ィ!!つぅーか、反撃を封じてからの攻撃が速すぎねぇかあ!?』

 

 マイクが実況するように反撃を封じてから攻撃に転じる速度は尋常では無かった。

 

 腕を上げようとすれば即座に叩き落とし、その腕を伸ばし爆豪の顔を殴る。

 手を上げきれば爆破を使う前に横にずれて手首を掴み引き寄せそのまま殴る。

 一歩踏み出せば足払いでバランスを崩させて腹に重い一撃を入れる。

 

 截拳道(ジークンドー)を使い直突きを基点とした高速のコンビネーションで反撃を封じ攻撃をする。

 しかもこれプラス他にも色々な方法で攻撃をして爆豪に爆破を使う隙とタイミングを掴ませない。それどころか遂に爆豪に腕を上げての防御態勢に手一杯にさせた。

 

「調子のんじゃ、ねぇえええ!!」

「っ!」

 

 だが、流石は爆豪か。ここまでボコボコにされても闘士は消えず、目眩まし極振りの爆破を使い周囲を爆煙で包む。

 

「目眩まし・・・か?」

 

 一応、バックステップで距離を取ると更に爆発音を聞き、警戒をする。

 

「爆豪は・・・・・上空?逃げたのか。なら!」

 

 気配探知で爆豪が上空に避難したのを感知すると足の裏が天を向く程に上げると勢いよく振り下ろす。

 するとその衝撃波だけで爆煙は晴れる。そして全員が見たのはゆっくりと立ち上がる一騎を中心に少し大きめの蜘蛛の巣状の罅が入ったステージだった。

 

「爆豪勝己様ともあろう御方が逃げるのかよ?」

「ああ?」

「無個性相手に、びびってるんですかぁあ?」

「クッ!!」

 

 自他共に認める程の分りやすい挑発。そんなものに爆豪が乗らないことは分っている。しかし、乗らないだけでほんの一瞬、怒りで集中が乱れる、その瞬間を狙う。

 

「オッラァ!」

 

 立ち上がる時に掴んだステージの蹴り砕いた破片を気のそれたタイミングで豪速球の投石を行なう。

 その投石は爆豪は何とか避けるが、一騎は更にステージを蹴ったり殴ったりして弾を補充して爆豪に投げつける。

 

「チィイ!」

 

 だが爆豪は会場を飛び回り逃げる。それが十秒ほど続くと一騎は投石を止め、最初の開始位置に戻る。それを見た爆豪は更に怖い顔になり一騎を睨むが一騎の無視を見て舌打ちをすると爆豪も開始位置に戻る。

 

「テメェ!虚仮にすんのも大概にしろよ! デクより、半分野郎より上に行かなきゃ意味ねぇんだよ!! なんで全力で来ねぇ、なんでお前は此所にたってんだぁ、クソがぁあああ!!!」

 

 爆豪は叫ぶが一騎の心は動かない。・・・いや、正確には動いてるがそれは鬱陶しく思っていた。だって待合室でも言っていたが、なんで人の名前もちゃんと呼ばない奴のお願いを聞かなければならないのだ?聞いてやる義理が無い。これが緑谷や轟ならやったかも知れないが・・・。

 

 それにそもそもの話、一騎が全力でいくと間違い無く爆豪は殺される。爆豪の戦闘センスはずば抜けて高いが、それでも一騎に比べると戦闘IQ、技術、パワー、タフネス、素早さ、経験、その全てが劣っている。言ってしまえば個性があるからギリギリ追いついているのだ。

 

「全力全力うっせぇな。さっきも言ったがなんで人の名前もちゃんと呼ばない奴の言う事を聞かないとなんねぇんだよ。

(最初っから本気でして欲しいのなら、1度で良いから名前で呼べや)」

 

 一騎は爆豪に冷たい。それも当然、さっきも言ったが人の名前もちゃんと呼ばない。なのに自分の要望は通そうとする。そんな奴に良い印象なんか持てるわけが無い。それに爆豪は自分の大事な妹をクソガキ呼ばわりな上に最初の頃に殺すと言っているのだから尚更だ。でも、流石にイラつきが頂点に達したのか一騎は力強く右足を一歩前に出して腰を少し低くして構える。

 

「けど、一度だけ全力を出してやるよ」

 

 その言葉を聞いた爆豪は一度だけって言葉に苛立つも全力を出すって言葉に内心「ようやくか無個性野郎」と悪態を着いて「剃!」 構える

 

――ドカン!!

 

 前に会場に爆発したかの様な音が鳴り響いた。

 

『は?え?・・・・・・・いや、え?』

 

 あのマイクですらなにがあったのか分らず実況が出来ない。

 それもそのはず、爆豪の後ろの壁がいきなり爆発したかと思えば煙を上げ、爆豪が居る・・・否、居た位置には一騎が立っているのだ。

 

『え、ええっとー・・・い、イレイザー。見えた?』

『いや、見えなかった。けど、予想は付く』

『プリーズ!!』

『恐らくだが、勢いよく走って爆豪を殴ったか、蹴り飛ばしたかした』

『・・・ふぁ!?』

 

 相澤の想像通り。一騎は瞬時にその場で地面を10回程蹴って凄まじい反動エネルギーを生み爆発的な速度で爆豪に接近すると跳び蹴りをお見舞いしたのだ。

 無論、普通に跳び蹴り(飛斧脚)を使うと爆豪を殺してしまう為に、膝を曲げクッションにして威力を殺し押し出す形で蹴り飛ばしたのだ。

 

 その速度はプロヒーローでも見極めれた者は少なく、生徒では一騎が何かすると察して視力を赤鱗躍動で底上げしたユエと対象物にロックオンして決してブレず目で追う機能のある発目の二人だけだった。

 会場全体ではエリク、ハンター、エリザベートで、一騎の動きを目視出来たのは合計で20にも満たないだろう。

 

「ば、爆豪君戦闘ふ「待て!」 え?」

 

 ミッドナイトが爆豪に確認を取ろうとするも一騎が止める。理由は「まだ終わって無い」だった。しかし誰がどう見ても終わりで爆豪の負けだ。壁に埋もれて場外では無いが、10メートル以上も吹き飛ばされて壁に叩きつけられて意識を保っていられるわけが無い。

 

「10・・・9・・・8・・・」

 

 いきなりのカウントダウン。それがなにを意味するのかは全員理解は出来る。だからミッドナイトもマイクも口出しはしない。

 

「4・・・3・・・

 

――BOOM!!

 

 やっぱり」

 

 ぎりぎりの所で意識を取り戻した爆豪は爆破で空中に飛ぶ。

 そして両手を左右逆方向に向けて爆発を連続発生させ、その反動で錐揉み回転しながら一騎に突撃する。

 

「それは流石に・・・・・・・・・・・・・キツいかな?」

 

 なにをするのか理解出来た一騎は冷や汗を一つ流し構える。

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!!」

 

 爆豪が持つ最大火力が一騎を襲い会場に爆煙が立ちこめる。

 

『まさに人間榴弾!! なんちゅー威力だぁ! これ不死黒生きてんのかぁああ!!!』

 

 マイクの叫びから少ししてどんどん爆煙は晴れステージが見える。

 

『おぉっっと!!不死黒は耐えてるぅ!! ん?』

 

 一騎はステージの反対側の線ギリギリで四つん這いの体勢で耐えきった。

 しかし全員は一騎の両手、正確には両指から伸びている10本の赤い線に目が行った。

 

「あー痛い痛い。おー痛い痛い」

 

 そんなことを呟きながら両指を見る。正確には全ての爪が剥がれた10指だが。

 

「ふ、不死黒君!?」

「あー大丈夫ッスよ!」

 

 心配して声を掛けたミッドナイトに一騎は笑顔で手をひらひら振って答える。

 だが、誰がどう見ても大丈夫じゃない。10本の指全ての爪が剥がれたんだ、痛みは相当な物のはずなのに一騎は痛がっている様子を一切見せず平然と笑顔を浮かべる。

 まあ幼少の頃から暴力を振るわれて過ごしてきた一騎に取っては今更爪が剥がれたことはわーわー騒ぐ事では無くこの程度扱いになるのだ。

 

 

「流石は爆豪。本当に凄い」

 

 笑みを浮かべながらゆらゆらと立ち上がり爆豪を称賛する。

 一騎は爆豪が嫌いだ、大っ嫌いだ。だが、爆豪の頭脳や戦闘技術は上から目線になるが評価している。だからハウザーインパクトの凄さに思わず笑みを浮かべて称賛する。

 

「なにへらへら笑ってんだ、無個性野郎!・・・・・っ!?!?」

 

 爆豪が笑みを浮かべてる一騎に文句を言ったそんなとき、一騎の上の服はハウザーインパクトでボロボロになり千切れ落ちた。そして露わにされた一騎の上半身を見て爆豪は言葉を詰まらした。

 

 否、爆豪だけでは無い。会場で歓声を上げていた者、売り子をしていた者、戦いを分析していた者、実況していた者、その全員が息を呑み黙り込んだ。

 

 

 一騎の高校生とは思えないほど綺麗に無駄なく鍛えられた肉体に驚いた? 否!断じて否!全員が驚いたのはそんな小さな事では無い。全員一騎の高校生とは思えないほどの上半身の無数の傷跡を見て驚愕した。

 

 刃物で切られたり刺されたりした切創の痕、熱した物を押し当てられたりタバコを押しつけられた火傷痕、更には凍傷や打撲痕とその他にも色々な傷の跡が有る。傷跡が無いのは両手や首から上ぐらいだ。

 それを見て、A組は全員理解した。授業のあとどれだけ暑くても一騎は決してUVカットウェアを脱がないどころか袖を捲らない。その理由があの傷に有り、自分たちに見せないようにしていたと。

 

「・・・やっべ」

 

 一騎も服が脱げて焦っていた。自分の体(体中の傷)が醜い事を理解していたから見せないようにしていた。知っているのはユエ、エリ、発目家族、そして雄英教師数人だけだ。あの才子にすらバレないように気を付けていたから、こんな大勢の所でバレて内心凄く焦る。しかし、一騎が次に取る行動は

 

「べ、気にしないで良いよー。所詮は無個性差別で付いた傷だから!」

 

 動揺しながらも敢えて陽気に振る舞うことだった。自分が気にすると周りも気にすると思い気にしないようにして爆豪に構える。

 

「い~く~よぉ~!!」

 

 爪が剥がれようと関係無く、力強く拳を握り掛け声と共に烈火で急接近して拳を突き出す。その攻撃は当てずに顎を寸止めにする。しかし爆豪は反射的に顔を後ろに引いてしまう。

 そこを狙い足払いでバランスを崩させると橾流・水天ノ型 水燕で不規則の攻撃のラッシュを繰り出す。

 

(クソが。さっきよりも威力もスピードも違ぇ!・・・・こいつ)

 

 一騎は更にギアを上げて攻撃する。そんな嵐の様な攻撃の中、爆豪は一騎の攻撃が荒くなったのに気づく。

 だからそこを攻める。

 

「気づいてくれて良かった」

「ガフ!」

 

 しかしそれは一騎の罠で爆豪ならそれに気づき仕掛けると、確信していた。だから爆豪が突いてきたときに強烈な一撃を入れることに成功した。

 

(無個性野郎が、調子に――)

 

 しかし、それが爆豪に更に火を付けた。

 

「乗んじゃねぇええ!!」

 

 自分すら巻き込む爆破を地面に向かって放つ。

 

「!?」

 

 それにより、真下から吹き上げる風に一騎はバランスを崩してしまう。

 そして一騎は身体の傷跡を見られたことは自身が思ってた以上に動揺しており、ちょっとの意表の反撃で次の判断が遅れ決定的な隙を見せた。無論爆豪はその隙を見逃さなかった。

 

「シネェえええええ!!!」

 

 がら空きになった一騎の腹に何発も爆破を喰らわし最後に両手の平を腹に当て大爆破を放つ。

 

「がッ!!・・・・・・っ!」

 

 吹き飛ばされた一騎はなんとか止まり場外は免れると、即座に立ち上がるが、目線の先には爆豪は居なかった。

 

「どこ・・・・!」

 

 爆豪は気づいていたのかはたまた戦闘本能がそうさせたのか、一騎の見えづらくなっている右側に回り込んで投球の体勢を取っていた。

 球威に爆風を乗せて何かを投げるのを見た一騎は避けようとするが、強烈な爆破の衝撃からか不意に足の力が抜け動けなくなる。

 

「あ・・・・・・やば」

 

 そして左の額にその物が激突する。

 目を背けたくなる音と共に一騎の体は大きく仰け反り一回転してうつ伏せで地面に倒れる。

 

 放送事故。間違い無く放送事故だ。唖然として誰も声を出せない。爆豪ですらだ、だって彼は絶対に避けると思っていたから。

 爆豪が投げたのは一騎が砕いていたコンクリの破片。それが豪速球で額に当たったのだ。一騎の額は間違い無く割れ、流れた血が目に入り左目は真っ赤に染まる。

 

(クソ、抜かった。不壊は筋肉の少ない頭部には使えない。・・・あれ?俺なにしてたんだっけ?なんでこんなに頭が痛い?

 あーそうだ体育祭で爆豪とヤり合ってた。違う、戦ってた。立たないと・・・身体がダルい、眠い)

 

 無理矢理意識をはっきりさせると体に力を入れて立ち上がるが、力を入れる程頭に血が上り出血と共に激しい頭痛に見舞われる。

 しかも足に手を置いて立ち上がるも直ぐにバランスを崩して倒れる。それでもまた、立ち上がろうとする。

 

「ふ、不死黒君!それいじょ「だい、じょうぶ!!」・・・!」

 

 心配して声を掛けるも即座に返され思わずミッドナイトは黙ってしまう。

 

「おい!もう止めろよ!」「そうよ!頭にコンクリが当たったのよ!重傷じゃ無い!!」「止めさせろよ!」「殺すきか!!」

 

 試合をなかなか止めない教師陣に観客達が声を掛ける。それは1回戦の時とは違った声色だった。

 そして別に教師達も一騎が嫌いで止めないわけでは無い。教師達は絶対にそれが出来なかった。できない理由があった。

 

 雄英高校はヒーロー公安委員会から通達で無個性をヒーロー科に入学させるとはどういう事だと理不尽なお叱りを受け、即座に取り消し、又は除籍をさせるのを指示されたが、根津はソレを拒否。

 その為に一騎の入学を認めるために出された条件が勉学は無論戦いにおいての知識に戦闘能力が同学年の者達に劣れば即座に退学させるように言われているのだ。無論、問答無用で。

 

 だから教師達は安易に棄権させられない。棄権させる、それはつまり一騎の今までの努力、野望を全て潰すことになる。教師陣の中に一騎の人生を潰す覚悟のある者は居ない。

 

「グッがぁあああ!!!」

 

 無理矢理立ち上がるもまた膝から崩れ手を着く。その姿を見て爆豪はさっさと諦めろと・・・・・・・は言わない。彼も壁に叩きつけられたときに一騎の一声があったから敗北にならなかった。だからその借りを返してるだけだ。

 

 そして観客からは。

 

「もう良いよ!」

「っ!」

 

 優しい言葉が一騎に投げかけられる。

 

「そうだ!良くやった!」「無個性なのに頑張ったよ!」「凄いぞー!」「もう、休め!」「っ」「全員お前を認めてるよ!」「無個性を見直したよ!」「来年優勝すれば良いよ!!」「次がある」「チッ」「此所で棄権しても誰も文句は言わねぇよ!」「自分の体を大事にしてー!!」

 

 投げかけられる言葉は今まで否定され続けてきた一騎には何よりも優しく、甘美で、嬉しく、幸せで、甘い甘い

 

 

 

 最低最悪な毒だった。

 

 

 

 

 今まで否定されてきたからこそ、進んで来れた。今までにも、ユエ、才子、エリ、発目家族、雄英教師、A組と認めてくれた者達も居たがこれらを合わせても100にも及ばない。

 だが、いまこの会場に居る観客の9割以上の者が一騎を認めて称賛している。今までに無かった数の人に認められ一騎の心は安らいでしまった。だから

 

「休んでも良いのかな」

 

 そう思った。

 今まで休まず1人で進み続けてきた。前も足もとも見えず暗いところを1人で歩き続けた。初めて会えた無個性でもヒーロー目指す男は再会したときは個性持ちになり普通に目指せるようになっていた。結局はまた1人で歩み続けた。

 だから、ただ一度、たった一度ぐらいは休んでも良いかと考えた。そうするともう体に力が入らなくなってくる。とてつもない眠気が襲い更に力を奪う。このまま意識を手放せばどれだけ楽かを考えて、意識を手放す――

 

 

 

 

 

「さっさと立ちなさい不死黒一騎ィイ!!!」

 

 

 

 

 

 直前に一騎に立て、まだ戦えと言った声が届く。その声は他の声を抑えて遥かに大きく聞こえ、一騎も含め周りはその言葉を発した人を見る。

 

「さ、い、先輩」

 

 見づらくなっている目でも一騎はその人物が才子だと分った。

 そして才子は観客席の1番前まで行くと手すりを握り身を乗り出し、我を忘れて叫ぶ。

 

「貴方ともあろう男が何時まで座って休んでいるの!貴方、言ったわよね! 無個性を平気で差別するこの腐った個性主義社会をぶち壊して無個性も笑って暮らせる世界を作るって!!

 日本に留まらず、世界中に無個性を認めさせるんでしょ! その為に貴方はここまで突っ走ってきたんでしょ!! なのに・・・なのに! なにたったこれっぽっちの、たったこれだけの少人数に認められただけでいい気になっているの!!貴方の夢は野望はそんな、ちっぽけなくだらない夢だったの!! 違うでしょ!!!」

 

 少人数?違う、そんな訳無い。体育祭の会場は12万人は収容可能で、会場の外やテレビを見ている者の多くも一騎を見て認めている。その数は30万人は優に越える。だが、それは一騎の世界中に認めさせる、それに比べるとゼロと言ってもいい数でしか無かった。

 

「それに!貴方の後ろ姿は、戦う姿は、光で希望なの!! 私の様な没個性の者でも努力次第ではヒーロー成れるって! 多くの者に夢を希望を見させるの! だから、夢を希望を見させた者の前に居るときは

 

 格好いい姿を見せ続けなさいよ!!! このバカァアァアア!!!!」

 

 

 才子の叫びが会場にこだまする。静寂が支配したその数秒後。

 

「そうだ!不死黒!!」

 

 次は普通科の方から声が飛ぶ。

 

「お前言ったよな! ヴィラン向きな個性の俺にヒーロー向きな個性だって!無個性の俺がヒーローに成るためのスタートラインに居るんだから個性を持ったお前がヒーローに成れない道理は無いって言ったよな!?

 

 なら!証明の手始めに、そんな奴に勝ってこの雄英体育祭、優勝して見せろ!!」

 

 2人の叫びの後の静寂が数秒過ぎてからマイクが気まずそうに喋る。

 

『いや、俺もたって欲しいとは思うよ? でも至近距離で大量に爆破喰らってゼロ距離での大爆破。しかも頭部にコンクリ当たってのダメージ。

 個性無きゃプロヒーローでも耐えら「「「「うおぉおおおおおお!!!」」」は?』

 

 耐えられない。そう言おうとした瞬間に観客から大きな歓声が沸き上がった。それに驚いてマイクがステージに目を向け見たのは立ち上がった一騎の姿だった。

 そして一騎は爆豪を見ると不適な笑みを浮かべる。

 

「待っていてくれたのか。優しいねぇ」

「チッ!」

「来いよ。叩きのめしてやる!」

 

 一歩踏み出した瞬間に一騎の両手両足の重りがガチャンという音と共に落下する。

 重りの無い一騎を見て爆豪は狂気にも近い笑みを浮かべる。

 

「悪かったな。こっからは正真正銘の本気でやってやるよ」

「ブッコロス!」

 

 最初に爆豪は爆破で推進力を生み一騎に向かい爆速の跳び蹴りを放つ。

 

「金剛ノ型・不壊!プラス三戦(さんちん)!!」

 

 打撃の瞬間に不壊であらゆる打撃に耐える。しかもそれだけでは足りないと判断し、極めればあらゆる打撃に耐え滅多に倒れないとされる三戦を掛け合わせる。

 それにより少し後ろにズレるだけで倒れることも吹き飛ばされる事もなかった。

 

「っ!?」

 

 それをみて驚くも爆豪は瞬時に攻撃に移る。着地と同時に回し蹴りをするも避けられ、攻撃を繰り出すも全てを避けられいなされる。

 

(どういう仕組みだァ!?)

 

 爆豪も感じたとおり、一騎の動きは本来可笑しかった。今の一騎はダメージが多く、体力が大幅に減っているにもかかわらず動きに変化はあまりなかった。

 理由は二虎流の技にあった。

 

「――橾流ノ型・極 傀儡」

 

 必要最小限の力だけで体を動かし、満身創痍であっても一切疲れを感じさせないスムーズな動きを出来る技。

 

 両眼はほぼなにも見えて無いと言ってもいいぐらいに視界は悪い。右はUSJの出来事で極端に視力は落ち、左は血が入り視界が真っ赤になっていた。

 それでも爆豪の動きを見えてるかのように動けるのは一騎の戦闘の感で爆豪の攻撃を捌いていた。

 

「橾流ノ型・柳」

「なっ!」

 

 攻撃されると掴み柳で力の流れを乱し

 

「金剛ノ型・鉄砕!」

「がっは!!」

 

 出来た隙に鉄砕の強烈な一撃を胸にたたき込む。

 

「火天ノ型・幽歩」

「っ!」

 

 更に隙が出来ると幽歩で死角から背後に回り込み

 

「水天ノ型・首断!!」

「がッガアアア!?!」

 

 背中合わせになり喉に両手を回して組んで前屈みになり、爆豪の頸部を締め上げると同時に海老反りで背骨を苛む技を極める。

 

――BOOM!!

 

「・・・1の型5番・焔火扇!!」

「グッごっおお!?」

 

 爆豪は頸部に関節技をキメられたことを悟ると即座に爆破を使いバク転の要領で抜け出す。が、即座に一騎は渾身の右ストレートで爆豪の腹を殴り吹き飛ばす。

 

「はぁあああああ!!!」

 

 しかし!爆豪は殴り飛ばされたあとは爆破で体勢を整えて距離を取ると右手を一騎に向け左手で右手首辺りを握る。

 

――BOOM!!!

 

 麗日戦で使ったのと同等かそれ以上の爆破を放つ。またしてもの大爆破だがもう誰もなにも言わない。マイクですらもう実況を忘れて、会場の全員は手に汗を握って黙って見ていた。

 

「チッィイ!」

 

 腕の痛みに顔を歪めるもしっかりと前を見る。爆煙が晴れると一騎は立って爆豪に笑みを向けていた。それを見ると爆豪は心底鬱陶しそうに舌打ちをして苛立ちを見せていた。

 

 爆豪勝己は不死黒一騎が大嫌いだ。

 彼は昔、無個性を理由に幼馴染みを虐めていた。暴力を振るいある日は自殺教唆まがいの事を言ったこともあった。

 

 そして雄英に入ると初日に無個性人間がヒーロー科にいてしかも個性を使ったテストでは自分より上だった。その後の戦闘訓練も自分より好成績で、一騎の言う講評も叱りも全部がほぼ的を得ている為になにも言い返せなかった。

 

 USJ事件では本来個性持ちの自分に守られるべきクソモブ(無個性)が自分を守り、剰え動きを目で追いつけない脳無と渡り合い勝利した。その後も体育祭があると同時に一騎が首席と知り、もう色々と一騎に遥か上に、遥か先に行かれてる事を思い知らされた。

 

 しかし、爆豪は一騎の存在を認められない。一騎を認めると今まで自分が無個性の緑谷にして来たことを否定する、つまりは自分の考えを否定するのと同じだった。だから一騎の存在が認められない。

 

 そして一騎は無個性なのに多くの者に認められた。完全にアウェーな事を言ってまで一騎を鼓舞して応援してくれる(才子)が居た。会って間もない(心橾)も応援してくれた。

 それを見て爆豪は一騎にどうしようも無い羨ましさと嫉妬感を覚えた。覚えてしまった。だから攻撃が感情的になり、全てをいなされた。

 

「とっとと!クタバレやぁああ!!!」

 

 だからこの攻撃も気を付けていた右の大振りで仕掛けた。そして

 

「ゴフ!?」

 

 綺麗にカウンターを喰らった。

 

――金剛・火天ノ型『瞬鉄・砕』

 

 攻撃に合わせ一騎は前のめりになり右拳を突き出す。

 その技は爆豪の一撃を避け、爆豪の顔面にカウンターで良い一撃を入れた。その為に爆豪はほんの僅かに意識が飛び、一騎はそこを見逃さなかった。

 

 伸びきった右腕を掴み大外刈りに近い形で爆豪を投げ飛ばし、その勢いのままに倒れた爆豪の顔面に鉄砕の拳を叩き込む。

 

「金剛!水天ノ型!! 鉄砕・廻ィ!!」

 

――ゴン!!

 

 爆豪の顔面に一騎の拳がめり込みステージにサンドされる形になる。しかもステージには爆豪の後頭部を中心に蜘蛛の巣状の亀裂が入っていた。

 

「・・・」

 

 一時間とも思える程永い一秒が何秒か経った後に爆豪のピンと伸びきっていた手足は力が抜けダンと落ちる。それを朧気の視界でみて、気配も無くなったのを感じ気絶したと判断すると拳を退ける。

 

「・・・っ!」

 

 そして駆け付けていたミッドナイトが見たのは白目を向いて悔しそうな顔で気絶している爆豪だった。

 

「ば、爆豪くん。戦闘不能」

 

 一騎はゆっくりと体を起こし、しっかりと立ち上がる。

 

「勝者!一年A組!!」

 

 右手を限界まで天に伸ばす。

 

「不死黒一騎ィイィイイイイ!!!」

 

 

 勝利を掴み取ったと言わんばかりに力強く拳を握る。

 

 

 

 

 

 

「「「「うぉおぉおおおおお!!!」」」」

 

 

 

 

 

 数秒の沈黙の後に比喩ではなく会場が僅かに揺れ動くほどに大大大歓声が響いた。それは会場の外で巨大モニターで見ていた客や屋台の人達のも混じり、隣のエリアでやっていた二年エリアまで響いていた程だった。

 

 そして一騎はうれし涙か痛みからか、涙が流れて左目の血は洗い流された。それで視界が少しは戻った一騎は才子の方を向いてピースサインを向ける。

 

「うん、うん!・・・・・・・うっうう」

 

 その姿を見た才子は何度も頷いて一騎が別方向を見ると腰が抜け、手すりを掴みながら座り込み右手で口を覆い、声を殺しながら涙を流す。そんな才子の元には関係は知らないが何人もの女性の人達が涙を流しながら駆け寄り「良かったね」と声をかける。

 

 次に一騎は普通科の観戦席を見ると心橾を見つけ握り拳を突き出す。

 

「・・・・ちゃんと見届けたよ」

 

 心橾も拳を突き出し合わせるようにする。そして一騎が別の所を見ると小さく呟いてから力が抜け後ろに倒れそうになるがクラスメイトが慌てて支え席に座る。

 

 最後に一騎はA組の席を見て手を振るが、

 

「ユエが居ない?」

 

 観客席を見てもユエがいない事に気づくが遂に目も使い物にならなくなったと思うと、それと同時にもう倒れると悟り速く退場しようと通路の方を向いて一歩踏み出した瞬間に前のめりに倒れる。

 一騎が倒れるのを見てミッドナイトは急いで駆け付けようとしたが爆豪を抱えて担架ロボに乗せようとして出来なかった。が、それで良かったのかもしれない。

 

「・・・え、ユエ?」

 

 一騎は来る痛みに覚悟したがそれよりも柔らかくて温かい感覚に驚いて顔を上げると目の前にユエの顔があった。

 

「はい、お兄様の妹のユエです。急いで怪我を治しますね」

 

 そう言って治癒をかけようとするがそれを一騎が止める。それにユエは首を傾げて疑問を浮かべる。

 

「一つ聞いて良いか?」

「はい」

 

 力を振り絞ってユエから離れると目をしっかりと見る。

 

「俺はユエが胸を張って自慢できる兄に少しでも成れたかな?」

「っ!・・・・・・」

 

 ユエが胸を張って自慢できる兄になること、これは誰にも言った事の無い最初の夢。

 

 ヒーローを目指した最初の理由もヒーローが格好いいからでは無い。子供の頃まだ純粋にヒーローに憧れていたユエにお兄様がヒーローになったら絶対に格好いいし自慢になります!と言われたから目指した。

 個性主義社会をぶち壊し無個性の色眼鏡で差別されてる人達も笑って暮らせる世界を作る、は後付けだ。

 

「何言ってるんですかお兄様」

 

 そしてユエの返す答えは

 

「お兄様は最初っから私が胸を張って自慢できる世界一最高のお兄様です」

 

 肯定だ。それを聞いて一騎は安堵したかのように微笑んだ。

 

「良かった」

 

 心底安心したかのように呟いてから意識を手放し、体をユエに預ける。

 ユエは一騎を抱きしめると幸せそうに微笑む。





勝ったのは一騎だぁ!え、分ってたって?(´・ω・`)

因みに今回の戦闘のいくつかはいくつかのアニメのオマージュ?です!

次回「表彰式」

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