無個性でもヒーロー目指す!。   作:斬る斬るティー

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今回も一騎が馬鹿げた技を使うぜ!!

あと、沢山の誤字脱字報告ありがとう御座います


第51話:一騎VSミルコ

 

『不死黒 試験スタート』

 

「始まったか」

 

 風で靡く髪を手で抑え開始の放送を聞き目を瞑り、耳を澄ますと勢いよく此方に向かって来る足音が聞こえ小さく笑みをこぼす。

 

「二虎流・金剛ノ型!」

 

 目を開けると直ぐ側に一騎が迫り飛び上がっていた。

 

「飛斧脚ッ!!」

「フッ!」

 

 胸部を狙った強烈な跳び蹴りに対してミルコは横回転して強烈な回し突き蹴りで向かい撃つ。

 

「・・・クッ。やっぱムリか」

 

 足が地に着いてる者と着いていない者とでの蹴りの踏ん張りでは分が悪く、吹き飛ばせないと悟った一騎はバク転で距離を少し開けて着地するとゆっくりと体をおこす。そのあいだ不敵な笑みは一切消さずに。

 

「大抵の奴は今ので吹っ飛ばせるんですけどね」

「ハ!だとしたら相当な雑魚だな」

「言ってくれますね」

 

 目を瞑ってやれやれいったポーズを取るが内心、跳び蹴りでの十八番なのにと若干ショックを受けていた。

 しかし直ぐにミルコに向き直るとニヤリと笑みを見せる。

 

 少し息を整え一騎は動き出す。

 

「オッラ!」

 

 急接近すると中段上段への2段蹴りをするも余裕で対処され、着地と同時に足払いを仕掛けるもジャンプで避けられる。しかも落下の勢いを使った踵落としをされ横に跳び退き何とか躱す。

 

(クソ、やっぱ攻撃見透かされてるよな~。さっきの場所地面抉れてるし。・・・どうしよう)

 

 一騎は悩む。今回の戦闘も足技縛りで手を一切使わないルールがあった。

 どれだけ武に長けている一騎でも足技を限界まで磨き上げてきたミルコにはどうしても技術面で大きく劣る。

 しかもそれを抜きにしてもミルコの個性は『兎』。兎っぽいことが兎以上に出来る。

 

 兎の耳は3キロ先まで聞こえ、

 兎の鼻は敵や味方のにおいを嗅ぎ分けることが出来、

 兎の舌は8,000種類もの味を判断出来、

 

 そして兎の脚は50センチはジャンプでき、1m位の距離は軽く跳べる。時速は40㎞で走る事が出来る。

 これらをミルコは倍以上でする事が出来るのだ。そんな人間の脚力など通常な訳がない。

 

 詰まり今の一騎は脚力も技術(足技)もミルコに負けていた。

 

「ま、それでも勝たなきゃな」

「勝てんのか?」

「勝つさ。大事な妹が見てるんだから、格好付けさせて貰うよ」

 

 遠くにある監視カメラを親指で示し言い終わると同時に走り出す。一騎の動きを見てミルコは残念とでも言うかの様な表情を一瞬浮かべてから一騎の攻撃を軽く捌いていく。

 

(私相手にも手加減するお前じゃ勝てねぇよ)

 

 

 ☆

 

 

「お兄様・・・」

 

 モニタールームで一騎のコスチュームのコートと全てのアイテムを預かったユエはそれらを抱きしめて苦戦する一騎を心配の眼差しで見つめ呟く。

 

「不死黒さんは絶対にクリアしますわ。ユエさん」

「当然。お兄様は絶対に勝ちます!」

 

 胸を張って告げた後に一騎のアイテムを身に着けコスチュームコートを羽織って胸を張るユエを見て八百万は笑みをこぼす。のと同時にモニタールームに教師陣が入って来る。

 

「やぁ!僕達も此所で見学しても良いかな?」

「えぇお好きにどうぞ」

 

 根津の言葉にユエは刀を腰に挿し銃を両足に引っ提げながら答えビシッと服をただす。

 

「あらユエちゃん、似合うじゃない」

「黒と白、最強のコンビ!ベストマッチ!!てやつです」

 

 ミッドナイトに褒められユエはキッパリと言い切る。

 いまこの部屋には保健室に運ばれた緑谷と爆豪、医者としてリカバリーガール、看病でオールマイト、眠り香で眠った瀬呂以外のA組と試験に関わった教師全員が集まり戦いを観戦していた。

 

「ユエ、お前から見て不死黒はどう思う」

「・・・最終的にはお兄様が勝ちます」

「過程は」

「お兄様が女性に対する手加減をどうするかですね」

「そうか」

 

 相澤とユエの話を聞いて意味を理解出来たのは根津だけで、他の皆は一騎は男女で戦いの扱いが違うと言う事だけしか理解出来なかった。

 

「あ!お兄様!?」

 

 カウンターで一騎の顔面にモロに蹴りがたたき込まれ、そして蹴り抜かれ大きく吹き飛ばされるところがモニターに映し出されユエが叫ぶ。

 

 

 ☆

 

 

「痛って~」

 

 顔を蹴り抜かれたときに口の中が大きく切れ口内に血の味が広がり、不自然に少し笑う。

 溢れ出た血に唾液を混ぜで吐き出すと傷口を舐めるとゆっくりと立ち上がるのだが能が揺れているのか前のめりに倒れ手を着く。

 

「クッソ・・・不意打ちでもダメ。一発も当たらねぇ」

「当てる気ねぇえだろ」

「な、にを」

「いや、正確には当てるが手加減してる」

「・・・」

 

 静かに語るミルコに一騎は黙り話を聞く。

 

「あれだろ? 相手がヴィランなら女でも容赦なく顔面や致命傷を狙えるが、ヴィランじゃない相手なら顔や致命傷は狙わない、狙ったとしても手加減している。無意識か意識してかはわからないけどな」

 

 言われた言葉に一騎は反論出来なかった。

 意識していた。人を傷付けるヴィランは人に傷付けられる覚悟があるだろう、だからそれなりに攻撃が出来る。けど、味方にはそれがどうしても出来ない。自身の体にも無数の傷があるのだから傷が永遠に残る可能性の有る攻撃をできない。

 

 しかし女子だけでは無く男子にも手加減している。顔や致命傷を狙うときは力を抜いてやらず全力でやるとほぼ間違い無く殺してしまう。だから全力でやるのはエリクや翠鈴のみだ。

 

「けど、そんな気遣い関係無い。私には殺すきでかかってこい」

「っ!」

「そんな手加減して私に勝てると思うなよ」

 

 途轍もない気迫が一騎を襲い二人の間に風が吹き抜けるしばしの沈黙が続く。

 

「は、はは。あっははははは」

 

 一騎が笑い出す。体育祭の時に轟にほぼ同じ事を言った。それがまさか自分に来るとは思わず、つい可笑しくなり笑った。

 少ししてから大きく息を吐くと頭を一発強く殴り脳の揺れを抑えると立ち上がる。

 

「初めて言われた」

「だろうな」

「・・・本当に良いんですね」

「あぁ。受け止めてやる」

 

 風に靡く髪を両手でかき上げ耳の後ろに回すとそのまま手を頭の後ろに回した状態で勝ち気な笑みをするミルコ。

 普通ならセクシーと思うポーズでもいまの一騎にはそんな感情は無く、途轍もないわくわく感に獰猛な笑みを浮かべ八重歯を剥き出しにする。

 

 二人はゆっくりと歩きだし、遂にお互いが脚を伸ばせば当たる距離まで近づくと風がピタリと止む。

 

「「ッ!」」

 

 二人は同時に回転して右の突き蹴りを放つ。

 

 ――ドンッ!!

 

 蹴りがぶつかり合った瞬間に途轍もない音と衝撃が周囲に広がり草を激しく揺らす。

 

「橾流ノ型・柳」

「なっぁ!?」

 

 足をほんの僅かに動かすだけでミルコの力のバランスを崩す。

 しかしミルコはバランスを崩されるも直ぐに体を反回転させ一騎のこめかみ目掛けてハイキックを放つ。

 

「!?」

 

 だが、ハイキックは一騎に当たるどころか掠りもせず空振り、それどころかミルコは一騎の姿を見失う。

 回転の際、背中を見せるほんの一瞬。瞬きほどの時間が有るかも妖しい間に一騎は頭を地面すれすれまで下げて右足を振り上げていた。

 

「ガッハァ!!」

 

 一騎が繰り出した技の名は『卍蹴り』。

 膝抜きと呼ばれる古武術の技術で、姿勢を低くしながら相手の足元へと移動し、その勢いを利用して強烈な蹴りを放つ躰道の技。

 

 その一撃で股から喉元にかけて縦一直線の味わったことの無い打撃。しかも喉元にはつま先が食込み呼吸困難を引き起こす。

 

「アッァ!?(呼吸が・・・!!)」

「まだまだ!」

 

 打撃を与えられバランスを崩したミルコに一騎は止らず、跳ね上がるようにジャンプするとそのまま胸椎、頸椎、後頭部の順に蹴りをたたき込む。

 

「あっあぁ・・・ッ!?」

 

 後頭部を蹴られた際に意識が飛び前のめりに倒れるも直ぐさま気を取り戻し、一歩足を踏みだし倒れるのを回避し前を向くが、それと同時に顔面に蹴りが迫る。

 

「金剛ノ型 鉄砕・蹴ゥ!!」

「ガッァ」

 

 人を蹴って鳴っていい音とは思えない音がミルコの頭部から聞こえるも、一騎は気にせず脚を振り抜く。

 頭部が後ろに大きくそれると吹き飛ばされ地面を数回バウンドをしてから激しく転がり止ると、ミルコはゆっくりと仰向けになり雲一つ無い空を見てから両足を上げてネックスプリングで起き上がり一騎を見る。

 

「出来んじゃねぇか一騎。・・・ペッ」

 

 ひとりごちると折れた歯を吐き捨ててから浮かべる表情に恐怖も痛みからくる苦しさも無く途轍もない笑み。

 

 ミルコは成功した、一騎に遠慮無く攻撃させる事を。其処らのヒーローなら今ので良くて顔面崩壊、悪ければ死んでいた。なのにミルコは歯が折れる程度で済ませた。

 

「なぁ賭けをしようぜ」

「賭け?」

「あぁ。よくある負けた奴が勝った奴の言う事を何でも一つ聞くってやつだ。面白そうだろ?」

「良いですよ」

 

 提案に一切迷う様子なく答える一騎にミルコは「即答かよ」と言ってから構え、その姿を見た一騎は無駄な力を抜く。

 

「全部出し切らせてやるよ一騎」

「全部受け止めてくださいルミ姉」

 

 穏やかな言葉使いとは裏腹に、二人の浮かべる笑みをもし子供が見たらガチ泣きしてしまう程に怖かった。

 

 二人が睨み合っている時にラスト8分と放送がながれた瞬間、ミルコが先に動いた。

 

「シッ!」

 

 ミルコが走り出すと同時に地面が爆ぜた様に抉れ地面が掘り返えされる。

 そしてそのような力で走り出したミルコは30メートルもあった距離を瞬く間に詰め肉薄すると、前転の要領で回転すると脚を思いっきり振り下ろす。

 

「フッ!」

 

 強烈な右の踵落とし。しかし一騎は体を横に向けるだけで避け、眼前をミルコの脚が通過する。

 

 避けられるも、即座に右脚で胴を狙うミドルキックを放つ。

 しかし一騎は後ろに体を反らすだけで避け、次に放たれた左足の飛後ろ蹴りをジャンプして両足の裏をミルコの足裏に合わせ、力を利用して一騎が入って来たゲート付近まで大きく後に跳ぶ。

 

「逃がすかァ!!」

「っ!??」

 

 後に跳んだのを見るやいなや走り出し、着地寸前の一騎に目掛け強烈な跳び蹴りを打ち込むミルコ。

 

「橾流ノ型・流刃」

 

 だが一騎はつま先が地面に着くと瞬時にバク転をして振り上げた足でミルコの脚の側面を蹴り、最小限の力で軌道を逸らす。

 

「あぶなっ!」

「なぁにがだァ!」

「は?」

 

 声が間近で聞こえたことで、咄嗟に振り返ると直ぐ側までミルコの蹴りが迫っていた。

 

半月狩り(ルナハント)!」

 

 後ろに逸らした。あの速い速度を逸らせば遠くに跳んでいるはずなのにミルコは真後ろに立っていた。

 理由が原因が分らなかった。だが、蹴りを見た瞬間に一騎の体は反射的にジャンプして蹴りに足裏を合わせまたしても後方に大きく跳ぶ――ハズだった。

 

「ッツ!?」

 

 回避行動を見たミルコは蹴りが足裏に当った瞬間に斜め下方向に叩きつける様に体勢を微調整をして脚を振り、一騎を吹き飛ばし地面に叩き付ける。

 

 地面に斜めの方向から激突した一騎はうめき声と共に2、3回バウンドした後に地面を転がるも、即座に体勢を整えて止る。

 

「イッテテ(流石はミルコさん。まるで上から叩きつけられた感じだった)」

(流石は一騎だな。異常な速度で私の攻撃に対応している。少し全力で行くか)

 

 一騎は立ち上がり少し深呼吸してから集中し、ミルコは軽くジャンプしてから一瞬腰を落とすと一騎に急接近する。

 

「?」

 

 急接近するが途中で進路を変え、10メートル距離で円を描くように一騎の周りを走り出す。

 

「何が・・・!」

 

 目的が分らずにいた時に一騎を驚愕させる攻撃が広がる。

 

「・・・はは、すご」

 

 それはミルコが増えているのだ。ミルコが速度を上げる度にミルコの数も増え、今では一騎の周りを取り囲むミルコの数は10を越えている。

 

 一騎の作った火天ノ型・極二式 蜃気狼。火天ノ型の足捌きをフルに使い、かつ穏急を織り交ざた足捌きと身体の動かしによる残像を作る技術。

 それに対しミルコは一騎と違い、一騎が絶対に出来ないやり方。圧倒的な速度で残像を作っている。しかも残像の姿数は一騎より遥かに上。

 

 円から飛び出し急な線の動きから点の攻撃。大量の残像を残せる程の速度で行なう跳び蹴りはあり得ない速度を誇る。

 

「ハッ!マジか」

 

 しかし一騎はその攻撃を避けた。 

 避けられた事でまた、10メートルの位置まで離れると先程と同じ様に周りを走る。だが、今度は何度も攻撃(跳び蹴り)を行なう。

 

月華(ルナフラワー)

 

 ミルコの残像で一騎を中心に白い花が咲く。

 

「は、はっはは」

 

 華が咲いている様に見えるほどでの攻撃、しかしそれを一騎は・・・全てを避ける。

 

 

 ☆

 

 

「あ、ありえない!!??」

 

 一騎の避け続ける姿を見てユエは叫び、全員の目を集める。

 

「ゆ、ユエさん? どう、しました?」

「あり得ない。確かに、確かにあの説明では理論上再現可能。でも、本当に、ぶっつけ本番でやるなんて!!」

「ユエさん!!」

 

 ぶつぶつ呟くユエを見て八百万は肩を掴み名を呼ぶ。

 呼ばれた事にハッとしてユエは八百万の顔を見ると心配する表情を向ける八百万が目に映る。

 

「どうしたんですの?」

「見てたら分るよ」

「え?・・・っ!?」

 

 言われるがまま、一騎の避ける動きをジッと凝視し、有ることに気づく。

 

「避ける距離が短くなっている!!」

 

 そう、一騎はミルコの蹴りを躱す距離が段々近くなっているのだ。

 最初は大きく身を動かし躱していたのがどんどんギリギリまで近づいていっている。今では正に紙一重で躱す。だがユエと八百万が驚いたのはこれだけが理由では無い!

 

「あの動き! 翠鈴さんと同じ、攻撃の前から動いている!?」

 

 八百万の言う通り、一騎は攻撃される前に少し動いて攻撃の軌道上から避けている。

 

「あれは、え、ええ、ど、どうやって?」

「不死黒君は、恐らく計算しているのさ」

 

 全員が思うどうしてそんな事が出来るのか。それを答えたのが他の誰でもない、最高の頭脳を持つ根津だった。

 彼は一騎の動きを見て予想して仮説を立てたが、ユエの呟きを聞いて確信した。

 

「そうなんだよね、ユエ君」

「はい。お兄様は前に、

 

『相手を観察して、対象の思考を読み取る事が出来ればどう攻撃するか、どう避けるか等の攻撃方法や対処方法を掌握できる』

 

 と、言ってました」

 

「そんな事が出来ればそれは最早一種の未来予知に他ならない!」

「言うは易し行うは難しの次元を遥かに超えてます!!?」

「だが、彼はやってのけた。桁外れの観察眼と豊富な経験を総動員をして」

 

 

 モニターには超ギリギリでミルコの跳び蹴りを回転して躱し、背中に強烈な回し蹴りを打ち込み吹き飛ばす一騎の姿が映る。

 

 

「もしお兄様の」「不死黒君の」

 

「「この技に名を付けるなら――」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「完全掌握(パーフェクトビジョン)」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミルコは背中を蹴られ吹き飛ばされるも空中で身を翻し、バックステップで勢いを徐々に殺し立ち止まり一騎の説明を聞いていた。

 

 

「パーフェクトビジョンだぁ?」

「えぇ」

「はっはは。そんなもん技術の範囲超えてんだろ」

「失礼な、列記とした技術ですよ」

「・・・(確かに昔、強姉も似たようなこと言ってたな)」

 

 子供の頃、ミルコは強香に抱っこされながら『ルミちゃんの思考を把握したらどんなことも予測出来るのよ♪つまり私からは逃げられないの♪』と、満面の笑みで言われたのを思い出し内心「血は争えんな」と呟く。

 

「ま、じゃぁ残る手は一つだよなぁ~」

「どうします?」

「予測できようが、反応出来ない速度で叩き潰す!」

 

 言い終わると低い体勢、クラウチングスタートに似た構えを取り脚に力を込める。するとボンっとミルコの脚は一回り以上大きくなり、もの凄い力が込められているのが分る。

 

 完全掌握(パーティービジョン)で動きを予測されるのなら、最初っから一直線で、真っ正面から挑み、予測よりも速い速度で接近し叩き潰す。

 しかも一騎ならこの作戦をとれば左右や後ろに逃げないとミルコには確信が、信頼があった。 完全に完全掌握(パーティービジョン)の攻略法。

 

「「・・・」」

 

 ミルコは集中し、最高潮に達したとき、超圧縮されたバネの様に跳ね一騎に迫る。

 

 走り出して一拍遅れで脚に接地していた地面が爆発したかと見間違えるように抉った地面を舞い上がらせ、40メートル近くもあった距離をたったの3歩で埋めると体を縦回転させる。

 

「ッ!?」

 

踵半月輪(ルナアーク)!!」

 

 限界まで溜められた力から出された脚力は脳無以上の速度を誇り、一騎ですら目で追うことは出来ず気が付いたときには既に強烈な踵落としが振り落とされていた。

 

 

 ――ドゴォン!!!

 

 学生に放っていいとは到底思えない踵落としが一騎の脳天に放たれ・・・地面を陥没させ、巨大な蜘蛛の巣状の罅を作った。

 

 

 

 

「なっはあ?」

 

 

 いまミルコは困惑していた。

 組手で一騎を蹴飛ばしたときには必ず木か岩を蹴ったような感覚が脚に来ていたのに、いま来たのはそんなモノじゃなかった。いや、それどころか感覚が来なかった。

 

 ただ、感じたのは落ちてくる落ち葉を・・・・いや、羽毛を蹴ったような何も来ない感覚だった。

 

「・・・ッ!」

 

 そして、縦回転した一騎と目が合った。

 

 

 二虎流にはかく四つの型に極がある。そして『不知火』や『鉄砕・廻』のように他の方を合わせた複合技が存在する。そこで一騎は考えた、複合技でも極を作れるのではないかと。

 

 そして一騎は本当に作った、水天・橾流ノ型 『天流車輪』を更に極めたもの。その名も――

 

 

 

 

「水天・橾流ノ型 極『消力(シャオリー)』」

 

 

 

 

 普通の人間は防御するときには無意識にも力を入れて防御する。しかし一騎の使った消力は守りの方、その無意識に力を入れる事すらしない!

 攻撃が当たる瞬間でも極限まで身体から力を抜いてリラックスすることによって、相手の攻撃を受け流し無力化する。

 

 しかも受け流した力を一騎は攻めに全利用して自身の力に変える。

 

「見よう見まね――」

 

 一騎が繰り出すのは、ミルコの渾身の踵落とし!

 

 

 

 

 

偽・踵半月輪(ルナアークⅡ)!!

 

 

 

 渾身の力を込めた一撃(踵落とし)がミルコの脳天に目掛けて振り落とされる。

 

 

(あぁ~)

 

 だというのにミルコの心の中は何処までも穏やかだった。

 

(強姉。・・・・一騎は私なんかより凄く強くなってるよ。いずれは絶対に強姉より強く成長するよ。自慢のおとう――――)

 

 

 ――ドゴンぉん!!

 

 

 凄まじい轟音と衝撃が響き渡る。

 

 

 

 ミルコが最後の攻撃を仕掛け一騎が消力を使い反撃したのは五秒間の間に起きた出来事だった。

 

 強烈な攻撃で大量に土煙が立ち上がり二人の姿を覆い隠すも、風が吹き土煙を吹き飛ばす。

 土煙の中から現れたのはうつ伏せに倒れたミルコとそのミルコの頭部に脚を乗せた状態の一騎だった。

 

「ハァハァ・・・・・・俺の、勝ちです」

 

 ゆっくりと脚を退けて笑顔をミルコに向け、一騎は勝利宣言すると同時に前のめりに倒れる。

 

「ま、まだ・・・おわれ、な・・・い!」

 

 腕の力だけで無理矢理起き上がりゆっくりとミルコに近づくと手を取りカフスをかける・・・。

 

「・・・違う」

 

 事はせず、手を離すと更に進み、ミルコの右足にカフスを着ける。ミルコは蹴り技がトップのヒーロー。ならカフスを掛けるのなら手では無く足にしてこそ真の確保だと一騎は思ったのだ。すると直ぐに一騎の試験クリアの放送が流れる。

 

 

 勝者:不死黒一騎。 試合時間:18分58秒。 決め手:偽・踵半月輪(ルナアークⅡ)

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「うっ・・・うぅうう」

「目覚めましたか?」

「・・・」

 

 目覚めたミルコは痛む頭を無視して状況把握を始める。

 一騎に背負われ、エリアに行くときに通った道を歩き脚にカフスが着けられている。これだけで直ぐに分る。

 

「負けたのか」

「勝ちました♪」

「・・・そうかよ」

 

 嬉しそうに言う一騎にミルコは素っ気なく言ってから頭上に顎を置く。ただ、その顔はふてくされてる感は一切無く、寧ろ清々しいまであった。

 

「ミルコさん。自分で歩きますか?」

「やだ。背負ってけ」

「はい」

 

 即答された一騎は背負い治し普通に歩き出す。

 

(強姉、・・・強姉は不本意かもしれねぇけど、強姉が出来なかった一騎の成長・・・私が見届けるよ、絶対に)

 

 ミルコは誓う。何が有ろうと一騎を守り続けると。

 自身の両親をおろそかにするわけでは無いが、両親よりも好きだった強香がしてくれたことを一騎にすると。一騎の幸せのために、そして強香への恩返しのために。

 

 

「ミルコさん、少し離れてくれませんか?胸が凄い当たってますよ」

「あ~当ててんだよ。勝者特権だ、堪能しとけぇ~贅沢もん」

「そんなもんですか?なら、堪能させて貰います」

 

 などと軽口を叩くが二人とも至る所が折れている上に内出血もして、満身創痍である。ミルコに限っては脳へのダメージも酷すぎて徐々に痛みを通り過ぎて何も感じず体が動かないのだ。

 

(~♪)

 

 そしていまのミルコは一騎の背中が強香に似ていて幸福を感じていた。

 彼女は嬉しいのだ。戦い方が、思考が、優しさが、癖が、その殆どが強香に似ていて心の底から喜びを感じている。いまも背負いかたも凄く似ていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「テメェー!!何羨ましいことしてんだぁ!アァ"!!」

「ミルコの胸はどんなんだったどんなんだった!?」

 

 建物に戻った一騎達はユエに大至急で治癒をして貰い、今は峰田や上鳴に密着した状態で背負っていた事を問い詰められていた。

 ただ、上鳴は試験クリア出来なかったこと、峰田は・・・まぁ言わずもがなで、二人とも只の八つ当たりだった。

 

「羨ましいことなのか?」

「はは、堪能してたくせに疑問文浮かべんなよ」

 

「「こんの!!裏切り者がぁ~!!!」

 

 ここでミルコが笑いながら言ったせいで二人の攻めが更に酷くなる。のだが、ユエが割って入り一騎の前に立つ。

 

「・・・」

「ユエ?どうし・・・!」

 

 無言で立つ為に声を掛けた瞬間、ユエは一騎の両手を掴むと自身の胸に手を当てる。

 

「ユエ!?何してんの! とりあえず手を離し・・・・離せない!? てか何で赤鱗躍動使ってるの!!」

 

 突然の行動で驚くも手を離そうとするが、まさかの赤鱗躍動を使ってる所為で話せず無理矢理引き剥がす事も出来ない。

 

「なあユエ」

「なんですか?」

「もしかして何かに怒ってる? 怒ってるならさ、謝るから」

 

「・・・はぁ~。そうですよね、お兄様はそこら辺理解出来ないですよね」(小声

 

 首を傾げて心配する目で見てくる一騎にユエは小さく呟いてからパッと手を離し笑顔を浮かべる。

 

「別に怒ってないですよ~」

「そう、なのか?」

「はい~」

 

 と、言うが実際ユエの内心は。

 

(胸を堪能したいのなら私ので良いじゃないですか。ももちゃんには負けますがミルコさんよりかはあるんですよ?多分・・・きっと。同い年の皆と比べたら有る方!だと思う・・・)

 

 もの凄い嫉妬していた。まぁ当然一騎と轟以外の全員はユエが嫉妬している事に気づいている。

 

 少し色々有ったが10分の休憩の後に覚醒とはペアと一緒に担当になった教師に講評を受ける。

 

「お前に対する講評は特に無し!」

「ウッス!」

 

 

 他の組みより速く終わった一騎はどうしようか考えていた時にミルコが真剣な表情で問いかける。

 

「なあ一騎、その右眼どうした?」

「・・・っ。この傷はUSJで着いた物ですよ」

「違ぇ。目、視力の方だ」

 

 

 問いかけに一騎は直ぐに答えられず少し沈黙をしてからミルコの目を見て、自分の右眼がもう見えていないことを確信していると知り、諦める。

 

「因みにいつから?」

「違和感は初めて見たときから有った。だから異形型の立て籠もり事件やヘドロ事件でお前を映っている所や戦ってる所を何度も見返して分った。右の視力が極端に無いか完全に無い隻眼だと確信した。それで、どうなんだ?」

「・・・USJの時に視力は極端に落ち、ステイン戦以降は完全に無くなりました」

「そうか・・・」

 

 当たって欲しくない予想が当たったことにミルコは目を伏せる。

 

「てか何で分るんですか?これを知ってるのはエリク・・・えっとーまぁヴィランですね。そいつだけですよ」

「此奴らは誰も知らないのか?」

「知られるわけにはいきません。特にユエと八百万には絶対に、何が有っても」

「理由は?」

「二人は素直で優しい子です。これを知れば自分を責めます」

「そう」

「はい。ですので」

「皆まで言わなくても分ってる。誰にも言わねーよ」

 

 何処までも人の為に隠し事をする一騎の姿にミルコはどうしようも無く強香を重ねる。彼女も苦しくても誰にも迷惑を掛けまいと一人で抱え込むタイプの女性だったから。

 

「お前らしいな」

「何がです?」

「なんも。(けど、そこは似なくても良いのに)」

 

 耳朗と共にマイクからの講評を受けているユエを一騎は優しい目で見ているのを見たミルコは小さく笑う。

 

 講評が終わりこっちに来るユエに座ったまま手を振る一騎を見てミルコは少し悪戯を思いついた。

 

「なぁ一騎」

「何ですか?ミルコさッ!」

 

 胸のことでユエが嫉妬した。だから目の前で一騎の頭を撫でてやろうと、ほんの出来心だった。

 

「・・・え」

 

 だから後悔した。あの一騎が弱々しい子供のように腕で自分の頭を守る姿をみて。

 

「お、え?い、一騎?」

「え?あ、あれ?俺なんで?ん??」

 

 一騎自身、自分があのような行動を取ったのか理解出来ず困惑していた。

 

「お、お兄様!」

「あユエ。い、いや何でも無いよ」

 

 ミルコは後ずさり二人から徐々に離れていく。

 

「・・・ち、違う」

 

 彼女はヒーローだ。当然活動中には暴力に晒され続けた子供や虐待された子供も見て来た。そしてさっきの一騎の行動はその子達と似ていた。

 

「違う。私は別にそんなつもりじゃ」

 

 一騎に暴力を振るわれると思われた。一瞬見せたユエの目が敵を見る目だった。状況が分らず、全く理解出来なかった。

 

 彼女は嫌な事を考えてしまった。一騎は幼少の頃に虐待を受けていたのでは無いかと。





ミルコ、ごめんね☆


次回「地獄のショッピングモール」


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