無個性でもヒーロー目指す!。   作:斬る斬るティー

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遅れながら!誤字脱字報告ありがとう御座います!


第73話:俺はもう戻れない。進む道を決めている

 

 

「よし、準備できた」

 

「お兄様手続き終わりました」

「ありがと」

 

 

 荷物を鞄に詰め終えた一騎は最後に忘れ物がないか辺りを見渡しているとユエが退院手続きを終わらせ来たことでそちらを振り向き笑みを浮かべる。

 

「えへへ~・・・」

 

 久しぶりに撫でて貰えたユエは幸せそうに頬を緩め一騎の右腕に抱きつくも僅かな違和感を感じ一瞬真顔になるも直ぐ笑みを作り一騎の手を引っ張っていく。

 

「さぁ行きましょ~」

「あぁ」

 

 手を引かれるまま一騎は病院の裏口へと移動する。

 正面は未だに大勢のマスコミが待機しているためにもし見つかれば車を発進できなくなる可能性を考え根津の提案で裏口からこっそり出て行くことにした。

 

 

 

「おっ来たか」

「元気にしていたかい一騎君」

 

 妖しい人物がいないか警戒していたミルコとトウシは一騎を見つけると手を軽く上げて声をかける。

 

「ミルコさんトウシさん!」

 

 二人を見つけ一騎は急いで近寄ると深く頭を下げる。

 

「この度は多大なるご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

 

「「・・・」」

 

 今までと違う他人行儀な謝罪に二人はショックを受け固まるも一騎が頭を上げる前に急いで笑顔を作り安心させる。

 

「なに大人ぶった口調で言ってやがる」

「子供が迷惑かけることを気にする必要無いぞ」

「え?」

 

 ミルコに背中を叩かれ困惑して顔を上げる一騎にトウシも気にしなくて良いことを伝える。

 

「いいんですか?俺かなりの厄ネタ持ちですよ?」

「それが何の関係あんだ?」

「君は君だろ?だから気にすることないさ。ほら帰ろ」

「あ・・・はい」

 

 一騎はあのAFOの弟の子孫でタルタロスに入った水無月 水重の息子で『不老不死』の個性を与えられた存在。あり得ない程の厄ネタの存在だが二人は気にした様子もなく簡単に受け流す為に困惑する。

 

「乗りましょお兄様」

「えあうん」

「ほら荷物かしなトランクに積むから」

「あ、ありがとうございます」

「どうした一騎堅ぇぞ」

 

 困惑して硬い反応の一騎にミルコはバシッと背中を叩き両手で硬い表情をする一騎の顔を揉んで筋肉を緩ます。

 

「みりゅこひゃん?」

「よし・・・」

 

 訴えるような目を向けられようとミルコはしばらく一騎の顔をムニムにしてるとパッと手を離し笑みを見せる。

 

「ガキはガキらしく私達に迷惑かけてろ。お前に迷惑かけられた程度で困るような生き方はしてねぇよ。それに、私は強姉に何度も迷惑かけてきたからな」

 

 あははと笑い「だからお前等は私達に迷惑かけろ」と言ってもう一度一騎の背中を叩きミルコは車に乗るように促そうとするが少し先を見て動きを止める。

 

「ミルコさん?」

「・・・一騎お前に客だ」

「え?・・・・・・客って、え」

 

 客?こんな所で?と疑問に思いながらも前に進み誰かとみて絶句して動きが止まる。

 だってその場に居たのは

 

「お、お兄ちゃん・・・」

「翼・・・くん?」

 

 そう目の前に居るのは職場体験の初日に一騎の元に現れた無個性の男の子だ。

 

「なぁっんで、ここ・・・に?」

 

 考えもしなかった子の登場に一騎は言葉が詰まりながら問いかけると翼は不安な顔をしながらこたえる。

 

「えっと、黒髪のお兄ちゃんにこの時間にここにいればお兄ちゃんにあえるって教えてもらったの」

「そうなんだ・・・黒髪、エリク?」

「あ!うんそんな名前だった」

 

 一騎の中で黒髪と言われると真っ先に思い浮かんだのがエリクだった為に名を呟くと翼は頷く。

 

「そっか。それでどうしたの?」

 

 片膝を着いて翼と目線を合わせると安心させるように優しい笑みを作り翼の言葉をまつ。

 少しの沈黙の後に翼はさっき以上の不安な顔をして問いかける。

 

「お兄ちゃんは雄英をやめないよね?」

「・・・」

「お兄ちゃんは僕のあこがれなんだ、なん・・・です。だから「ダメだよ」・・・え」

「俺に憧れるのはだめだよ」

「なん、で」

 

 そんな酷いことを、と思いもう一度一騎の顔を見て驚く。その顔は優しい笑顔なのに優しさは一切感じず子供の翼ですら感じ取れる寂しさがあった。

 

「君は神野の事件は見たかな?」

「うん」

「なら知ってるはずだ。俺が何をしたのか何をしでかしたのか。・・・だから俺に憧れるのは止めな。この世には俺より凄いヒーローは沢山いる。その人達を憧れにした方が良いよ。」

「そんな」

 

 ショックを受け泣きそうな顔をする翼に罪悪感で苦しむも一騎は自分に憧れる方が辛くなるだろうと思い冷たい言葉を繋げた。

 だって一騎は知ってる世間では自分をオールマイトを終わらせたヴィラン又は犯罪者予備軍と言ってる人達がいることを、タルタロスに入れろと言う人が居ることを新聞、ニュース、討論番組で見たから。

 

 

「ごめんね、俺は君に憧れて貰える程の人間じゃなかった」

 

 これは翼君の為と思い自分から離れるように言う。

 

 しかし!

 

「やだ!!」

「うん。わかってくれたのならよか・・・え、やだ?」

 

 世界を変えようと動いた男に心から憧れた男の子がそう簡単に引き下がるわけがない。

 先ほどとは違い覚悟の決った目を向ける翼に一騎は衝撃を受けた。

 

「うんやだ!僕はお兄ちゃんがいい!」

「なんで?ミルコさんやベストジーニストやホークス、エンデヴァーとかの方が良いだろ?」

「ミルコたちは凄いけど!皆ちがう」

「違う?」

「みんな個性を持ってる でも!お兄ちゃんは無個性でもヒーローなの!えっとそれで・・・その・・・」

 

 なんて言えばいいのか分らず言葉を探す翼にミルコは近づき少ししゃがんで優しく頭を撫でる。

 

「ほら、想った事を全部言えばいいんだよゆっくりでもな」

「うん」

 

 ミルコに言われ翼は一度大きく深呼吸をするともう一度一騎の目を見て話す。

 

「ぼくいままで友達やちかくに居たヒーローの人には無個性ではなれないっていわれてた。でもお兄ちゃんがいて無個性でも努力次第ではヒーローになれるって教えてくれた。だからお兄ちゃんは!僕に取ってホークスよりエンデヴァーよりもオールマイトよりも凄く格好いい

 

 

 

 №1ヒーローなんだ!!」

 

 

 

「ッッ!!」

 

 子供ゆえの純粋無垢で一切裏のない綺麗な言葉。それは一騎に今まで感じたことも味わったこともない衝撃を与えた。

 驚きで一騎は反射的に後ろに後退る。

 

「№1?俺が君の?」

「うんお兄ちゃんは僕の」

 

 人の嘘を見抜く術を持つ一騎の目でもその言葉は嘘偽りの無い物とわかり動揺を隠せずにいた。そのおりに翼の母が声をかける。

 

「不死黒さん。此方を」

「これは・・・」

 

 見せてきたのはスマホ。その画面に映し出されているのは翼の部屋だろう可愛らしい(子供らしい)部屋だった。

 だがその壁紙には一騎の体育祭のときや職場体験と様々な所で撮られたと思うただ歩いてる姿だったり戦闘の姿だったりミルコにお姫様抱っこされている姿の写真やポスターが沢山貼られていた。

 

「この子は貴方に憧れて毎日貴方の映ってる動画を見ているんです。それに戦闘の姿は動きを真似て勉強しているんです」

 

 見せられた動画には「てっさい!」と可愛らしく叫んでパンチの練習している姿だった。

 

「これだけじゃなく最近は体を鍛えたりして貴方みたいになれるように」

「おれ、みたいに。・・・俺なんかで良いのか」

「お兄ちゃんがいいの!」

「!」

 

「だから待ってて!約束絶対に果たすよ!」

「約束?」

「僕は絶対にお兄ちゃんの後輩になってみせる!」

 

『君が後輩になるの、楽しみに待ってるよ』

 

「その、言葉は」

 

 あの日一騎が翼に送った言葉。

 

 本当に、本当に翼はあの日から一騎に言われたとおり一騎の未来の後輩になれるように努力をし続けていた。

 それを知ってしまった一騎は膝を着いてもう一度翼と目線を合わせ僅かに震える手で翼の肩を掴み震えながらも口を開く。

 

「君は本当に俺の言った言葉を・・・信じて突き進んでいるのか?」

 

「・・・うん! だからお兄ちゃんヒーローを止めないでね」

「っ!・・・ごごめん、ごめんね」

 

 優しく抱きしめながら一騎は謝る。なんで謝られているのか分らず困惑するも翼は一騎の背中をさする。

 

 二入の遣り取りの姿を見てミルコは何時も男勝りの勝ち気な笑みをを浮かべる彼女からは想像出来ない程の母性に溢れた笑みを浮かべ、運転席に乗っていたトウシは静かに涙を流していた。

 

「・・・」

 

 しかし先の二人に比べユエだけは複雑な苦しい笑みを浮かべていた。それは一騎の謝罪の理由をわかっていたからかもしれない。

 

 

 

 

 

「ごめんね・・・」

 

 

 

 

 

(俺は君のように強くはなれない)

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「ようやく帰って来れたな」

「そうですね~」

 

 ようやく家に帰って来れた一騎は一週間ぐらいしか経っていないのに数年ぶりの帰宅の様に感じ感傷に浸るも直ぐに荷物を持つ。

 

「さぁユエ、あと一時間ぐらいで先生が来るから出来る限りの準備をしよっか」

「・・・はい」

「?」

「あ、そのことだが一騎私達も」

「ごめんなさいミルコさん。これに関しては俺とユエで」

「そっか。ならメトリ姉の方にいるからなんかあれば呼べよ」

「はい」

 

 

 今日は雄英から根津と相澤が全寮制の件で12時頃に訪問することになっている為にミルコは保護者枠でいようとするもやんわりと断られしょんぼりと耳を垂れさせる。その姿を見て一騎は申し訳なさを感じてしまう。

 

「不死黒さん!!」

「明!・・・ゥギャ!?」

 

 帰って来たことを知った明は家を裸足のまま飛び出し門扉を開けようとした一騎に体当たりするように抱きつく。

 体勢が整っていなかった一騎は明を受け止めそのまま後ろに倒れこむ。

 

「イッテテ・・・どうした明」

「・・・」

「? お~い明?」

「・・・・・・よかった

「?」

「ちゃんと帰って来てくれてよかった・・・・です」

「!?」

 

 離れた明の目尻には涙が溜まり今にも泣き出しそうな顔をしているのを見て一騎は衝撃を受ける。

 

「本当によかったです」

 

 発目明は人に寄っては病的なまでの自己中心的と言われたりするほどの性格をしている。よくも悪くも自分の作るアイテムの開発に一直線な彼女は余りアイテム作り以外で感情を爆発させることはない。だが明は二回だけ感情を爆発した。

 一度目は体育祭の騎馬戦時の物間が一騎に言った言葉に対して。そして二度目がいまだ。

 

「どうした?なんでそんなに泣きそうなんだよ」

「一騎君、明はもの凄く心配していたのよ。アイテム作成が出来なくなるぐらいに」

「・・・は?」

 

 メトリに言われた言葉が衝撃過ぎて思わず間抜けな声が出る。

 明はいままでどんなことがあってもアイテム作成をし続けてきた。やり過ぎて風邪でダウンしても咳き込みながらして、暑い日には服を脱いで上裸でしているところを一騎に見られても軽く流して布を胸に撒いて続けて作業するあの明がアイテム作成できなくなる。それがどれほど衝撃発言か。

 

「え、は? なんで?」

「そりゃ心配しますよ、不死黒さんは大事な人なんですから」

「そっかごめんな心配かけて」

「いえ!これで私も心置きなくアイテム作りをで、き・・・・ま・・・・・」

「明?」

「ZZZZZZ」

「寝た!・・・ごめんな」

 

 心配でアイテム作成が出来ないどころか不眠気味だった明は一騎に抱きついたまま安心して寝落ちする姿を見て一騎は申し訳なさから頭を撫でもう一度謝る。

 

「一騎君」

「あはい」

 

 寝落ちした明をトウシは一騎に声をかけてから抱きかかえ家に入り部屋へと連れて行く。

 見送った一騎は立ち上がりながらできるだけ心配かけないようにしようと決めメトリに心配かけたことを謝り今度こそ家に入ろうとしたときメトリが声をかける。

 

「なんですかメトリさん?」

「昨日雄英から全寮制の説得の為に来たわ。それで一騎君は・・・」

「もう決めてますよ」

「・・・」

 

 ニコリと笑う姿を見てメトリは強佳の姿が思い浮かび全てを悟る。

 個性の為の苗床としての結婚とわかっても受け入れて笑顔で去った強佳と同じ笑顔をする一騎にもう何を言ってもダメだと。

 

(なんで強佳ちゃんの悪いとこまで遺伝して似るのよ・・・!!)

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「やあ!こないだぶりなのさ!」

「元気にしていたか」

「お久しぶりです」

「・・・」

 

 訪問に訪れた根津達を出迎え軽い挨拶をする一騎にたいしユエは一騎の後ろで無表情で出迎えていた。

 

 

「さぁどうぞ」

 

 二人を招き入れ一騎とユエの保護者不在の家庭訪問が始まる。

 

「どうぞダージリンティーです」

「ありがと」

「・・・気にしなくてもいいぞ」

「客人にはちゃんと対応をです」

「そうか」

「良い香りだね」

 

 出された紅茶の香りと味を根津は楽しむなか相澤は家に入ってから思っていた保護者の居ないことを問いかける。

 

「不死黒保護者の方は?」

「すみませんやはり来て頂くことは難しそうでした」

 

 入院中に全寮制の話しの為に一騎は保護者にメールを送ったがやはり会うことはできないとのメールが帰って来ただけだった。

 

「ですがこう言うメールもきました」

 

 そのメールは

 

『会うことは出来ませんがこれだけは言えます。貴方の人生は貴方が悔いのない方を選んで下さい。

 寮に入ろうと雄英を辞めて安全な場所で安全に暮らすも好きに選んで。

 私はただ貴方が選んだ道を応援するだけです。あ、お金の心配もしなくても大丈夫ですよ』

 

 

 とのことだった。

 

 

「そうか」

 

 メールを見て会えないその人物に怪しさを感じるが失礼すぎる為に表には出さない。

 

「それじゃぁ不死黒君」

「待って下さい。寮の話しの前に私からいいですか?」

「ユエ?」

 

 相澤がプリントを出して根津が話しだしたタイミングでユエが待ったをかけ一騎の方を向いて真剣な眼差しを向ける。

 いまじゃないといけないのか?と思い目を向けると考えてることを察したユエは「あえていまじゃないとダメなんです」と告げる。

 

「ふぅ~」

 

 右手を胸に当て深く深呼吸してから覚悟を決めるとユエは口を開く。

 

「お兄様、一緒に雄英を辞めませんか?」

「・・・は? いまなんて?」

「一緒に雄英を辞めましょう」

「なんで」

 

 ユエの発言に一騎だけではなく相澤達も驚き驚愕の表情を向けるとユエは一騎に理由を聞かれ答える。

 

「今の雄英は信用できないからです」

「信用?」

「はい。雄英に入ってからお兄様は傷ついてばかりです」

「それは俺が弱いから」

 

「違います。職場体験はともかくUSJと今回の林間合宿襲撃は雄英側の落ち度です。しかも林間合宿はミルコさんが警護の提案したのに根津校長が断わり結果襲撃されお兄様に尻拭いさせました。襲撃されない対策をしていてもされた後の対策をしていなかった」

 

 根津たちにとって痛い言葉ばかりだった。特にミルコの件に関しては更に責め立てる言葉だった。

 そしてそれを聞いた一騎は一瞬驚きはするも直ぐに元の表情に戻し次の言葉を待つ。

 

「雄英にいれば更にお兄様が傷つくだけです。なので一緒に雄英を辞めましょうヒーロー科を雄英を辞めて一緒に安全な場所で暮らしましょう」

「安全な場所って」

「これです」

 

 差し出されたのは1枚の写真。

 

「これは?」

「とある南の島の写真です」

「なんで?」

「ここに住むためです」

「住むって・・・」

「できますよ。此所は才ちゃんが持ってるプライベート島です」

「プライベートビーチじゃなくプライベート島!?所有物!?」

「はい。複数有る内の一つで滅多に使わないらしいです。なのでお兄様が雄英を辞めて静かに暮らしたいのならここの別荘を好きに使ってくれて良いと既に才ちゃん初め印照家のご両親と話しは付けています」

「・・・けど」

「あ、このことはミルコさんは勿論のこと明ちゃんたち全員に話してます。みなさん賛成してました」

 

 ミルコたちは既に知っていて賛成していたことに一騎は驚いて一瞬なに言えばいいのか悩むもなんとか口を開く。

 

「ご、めん。それは出来ない」

「何故ですか」

「俺はヒーローになると決めたから」

「なら雄英を辞めましょ」

「だから・・・」

「雄英を辞めて他のヒーロー科のある学校に行きましょう」

 

 写真をしまい次にとある学校の編入パンフレットをさしだす。

 出されたものは広島にあるヒーロー校で雄英に比べると質は明らか落ちるも広島の中じゃそこそこ有名の学校。

 

「この学校は?」

「広島にあるヒーロー学校です」

「・・・ユエこの話はいまじゃないとダメなのか」

「ダメです」

 

 こんな大事な話はいまじゃなくもっと前に出来たのにユエはいま話す。苦し紛れとわかっていても問いかけるとユエはバッサリと一言で切り捨てる。

 

「なんで」

 

「あの日、先生方はお兄様が雄英を辞めると言った時に話しを有耶無耶にしましたよね」

 

 あの日とはいつの日のことを言っているのか三人には分る。一騎が目覚め相澤達がお見舞いに来た日のこと。

 確かにあの日は結果的にいえば根津は一騎の言った雄英を辞めるという話しを有耶無耶にした。そしてその事をユエは気に食わなかった。

 

「何故ユエ君がそのことを」

「それは今関係ありません。私がしてるのはあの日貴方たちが有耶無耶にした話をいましっかりとしてるだけです」

 

 あの日その場に居なかったユエがその内容を知っているのは液体操作の応用。舌動脈や口内、口周りにある血管の血液の動きでなにを喋っているのかを把握できる。

 結果ユエはミルコと話しながら病室で一騎達が何の話しをしていたのかを知っている。一騎の弱音を後悔の言葉を。

 

 だから一切の優しさのない目と声色で根津の質問を切り捨てる。自分が弱音を吐いていたのを知っているのを一騎に知られないために。

 

「それでお兄様、一緒に雄英を辞めましょう。できればヒーローを目指すのも辞めて一緒に静かに暮らしましょう。静かに平和に」

「待ってくれ」

 

 ユエの言葉に慌てて相澤が待ったをかける。その為ユエは僅かに苛立ちを見せ相澤の方を向く。

 

「なんでしょうか」

「今回全寮制にするのは生徒達の危険対策の為だ」

「それに今の君達はよくも悪くも有名でもし雄英を辞め他に行ったとなればどのような者達に狙われるか分らない。危険すぎるんだ」

「それは危険があるために今度こそ自分たち雄英側が私達を守ると?身の安全を?」

 

 相澤の言葉を引き継いで要った根津に問いかけると根津は首を縦に振り「そうだよ」と言って肯定するとユエは不敵に笑う。

 浮かべた不適の笑みに相澤は不気味さを感じるも意味を聞くとユエはゆっくりと答える。

 

「お兄様が頷いて私と一緒に静かに平和に暮らしてくれるのでしたら。――エリクが全力でヴィランから国家から世界から守ってくれると約束してくれました」

「なっ!?」

「・・・それはエリクから直々に聞いたのかい」

「はい。お兄様が目を覚ましたそ同日夜に」

「あの男は俺達より信用できると」

 

「言えますね。だってエリクはお兄様の先祖の与一さんの時からお兄様に至るまで全員をAFOから守ってくれていたらしいので」

「え俺初耳」

「その情報は「それに」 」

 

「お兄様の中に入れられた個性『不老不死』はエリクの物です。お兄様を思ってエリクはお兄様に自分の個性を渡しました」

 

「ユエ、エリクのことは信用できるのか」

「出来ます。あの男は嘘を付いたりしますがお兄様のことに関しては嘘を付きません。これはミルコさんにメトリさんも言ってましたが、お二人はエリクは強佳御母様のことに関しては嘘は言わなかったと」

 

 ここまで聞いてもうわかる、現時点でエリクはユエ達から自分たち以上の信頼を受けていると。

 それに根津も思わず納得してしまった。安全な本土だろうと本土から離れた島だろうがエリクが油断なく全力で守るのならその方が安全な人生を送れるだろうと。

 

「ですからお兄様一緒に雄英を辞めて安全に暮らしましょう。それか他の学校に行きましょう」

 

 一騎の両手をしっかりと握りしめ目を見て言うユエ。いつもの一騎なら頷いているが今回ばかりはできない。

 

「ごめん。俺は雄英でヒーローになる」

「何故ですか!」

 

 握っていた手を解かれ頷いてくれなかった一騎にユエは思わず叫んでしまう。

 

「俺は雄英でヒーローになると決めたから」

「私が小さいとき、純粋で無垢で・・・無知でバカで愚かな世間知らずのクソガキの私が一緒にヒーローにるなんて言ったからですか!?」

「それは・・・」

「お兄様がこんなに傷つくのでしたらヒーローなんかに雄英なんかに憧れなかった!!お願いですお兄様雄英を辞めて静かに暮らしましょう! ね?」

「・・・ごめん」

「ッ! だから何故ですか!お兄様は知らないでしょうが!あの家で虐待を受けていたお兄様を見捨てたヒーローの約7割何でしたら8割の人間が雄英のOB・OGなんですよ!!!」

 

 ユエの発言に一騎は驚き目を見開く。そしてそれは根津達も同じ。

 

 どれだけ世界に名を馳せる名門校だろうとそこを卒業した全員が社会で成功するわけではない。中には事業で失敗し負け犬の人生を送る者も居る。

 そして雄英もそう。卒業後大物ヒーローの元でサイドキックに付けてもいざ独り立ちして事務所を構えてもいままでが嘘のように上手く行かず経営が傾き事務所は潰れ多額の借金だけが残った者も居る。そしてその者達は多額の借金返済の為に差し伸べられた水重の甘い言葉に乗り手を取り、言いなりの傀儡となった者も多数いた。

 

 このことは水重がタルタロスに入れられた以降根津が調べ上げ真実を知りその事は雄英の教師達にも知らされた。だって傀儡となった者の中には相澤達の先輩後輩そして同じクラスイでヒーローを目指した者の名前もあったのだから。 

 

 しかし自分を見捨てていたヒーローの半分以上が雄英生だと知っても一騎の意思は変わらない。

 

「そんなの関係無い」

「っ」

「いまの雄英や先生達には関係のない事実だ」

「ッ!!お兄様!!!」

 

 悲痛な表情で一騎の肩を掴み僅かに涙を流しながらユエは声を荒げる。絶対に一騎に向けるとは思わなかった声と目を向けて。

 

「俺は多くの無個性や弱い個性の人に希望を見せたから」

「確かに!お兄様の登場で個性関係で無個性者の自殺はなくなりました!」

 

 無個性を理由にした自殺者は世界中で年間200件を越えていたが雄英体育祭で一騎の登場以降ぱったりと自殺者は消えた。

 

「でも完全に無個性差別がなくなったわけじゃない」

「そんなの、そんなのお兄様がやらなければならないのですか! いま無個性差別がなくなってなかったのはいまの大人やヒーローのせいじゃないですか!! オールマイトが只の一言でも無個性や異形型への差別はヴィランがやることとでも言えば差別はなくなってた!!でも彼奴はやらなかった! お兄様は先人がしなかったことの尻拭いをさせられているだけじゃないですか!!」

 

「違うよ。例えそうだとしてもコレはもう俺がやらないといけないこと」

「そ、れは・・・」

 

 ユエが言うとおりオールマイトが個性の差別はヴィランがすることなど言えば爆豪の様な性格面の問題者は置いといて差別者は限りなくゼロに近くなっていただろう。しかしオールマイトはそれをしなかった。だからいま一騎が差別をなくせるように動いている。頑張っている。

 

 それが分っているからユエの表情は歪む。

 

「この世に、この世にヒーローなんて居ないんですよ。一体誰がお兄様を助けてくれましたか?」

「ミルコさんがいる」

「違う!ミルコさんはその前に私達のお姉ちゃんです!! この世に私達のような者を助けてくれるヒーローは居ないんです!!」

「だから俺がなるんだ」

「は?」

「ヒーローは誰も助けてくれなかった。助けてと手を伸ばしても。だから!俺はそういった手を掴むんだ」

「何をいって・・・」

「そういったヒーローがいないから俺がそういったヒーローになる!」

「!?」

 

 驚愕し言葉に詰まるも数秒後にユエの顔からは表情が消え無表情になると冷たい声で話し出す。

 

「その道は茨の道とか修羅の道とかのモノではなく地獄道ですよ」

「わかってる」

「雄英でヒーロー科に入れなかった先輩達には悪意を向けられますよ。既にお兄様を良く思わない先輩達だっているのに」

「知ってる」

「・・・」

「ユエ」

 

 

 

「お兄様」

 

「なに?」

 

「私は今から酷いことを言います」

 

「うん」

 

「私は今から最低なことを言います」

 

「うん」

 

「私はお兄様に嫌われてもしかたないことを言います」

 

「うん」

 

「お兄様」

 

「なに?」

 

 

 

 

「万人のヒーローではなく、私の私達だけのヒーローに成って下さい」

 

 

 

 その言葉に一騎の心臓は締め付けられる。

 ユエの言う私の私達だけのヒーローはユエの為にヒーローを目指した一騎に対して途轍もなく重い言葉。自分が頷いてユエと過ごすだけでユエが笑って幸せになってくれるのならそうしたい。

 

「ごめん」

 

 でももう出来ない。

 

「俺はもう戻れない。進む道を決めているんだ」

「――ッ」

 

 返事を聞いてユエは目を瞑る。

 数秒間静寂の中にユエの泣きそうなのをこらえて深呼吸をする音だけが聞こえる。

 

「ゆ「わかってました」 」

 

 ユエは一言呟くと顔をおろす。その顔は今にも泣き出しそうな表情でポロポロと涙が零れていた。

 

「わかってました。才ちゃんも明ちゃんもメトリさんもトウシさんもミルコさんも私のこの提案には賛成してくれましたが私を含め全員お兄様が頷かないことを。それにメトリさんとミルコさんが言ってました、お兄様は強佳御母様と似ていると。時折する癖が、見せる笑顔が、言葉が、作る料理の味が」

 

 ゆっくりと話し出すユエの言葉を一騎はしっかりと聞く。

 

「そして似て欲しくない悪い部分も。進む道の先が地獄だろうと一度決めれば絶対に曲げない諦めないと、悪癖までそっくりだと」

「・・・ユエ」

「わかりました。そこまで覚悟が決っているのでしたら私も折れます」

「ごめんな」

「お兄様が謝ることはないですよ」

 

 涙を拭い無理矢理笑みを見せるユエに一騎の表情が一瞬歪む。けれどこれで話しは纏った。

 

「先生」

 

 この一言だけで根津達も察せられた。

 

「すまなかった不死黒君」

「先生が謝ることはないですよ」

「・・・」

 

 

 それから少し気まずい雰囲気のなか話しは進み、一騎が少し寮で要望を出すぐらいで話しは無事に終わった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

「迷惑かけてごめんなユエ」

「はぁ~」

 

 根津達が帰り片付けをしているなか一騎が謝るもユエは若干呆れ気味に溜め息をついて返す。

 

「別に迷惑なんて思ってませんよ」

「そう?」

「はい。お兄様がする事に迷惑なんて想った事なんて只の一度もありませんよ」

 

 朗らかに笑みを浮かべて抱きつくユエに一騎は安心して息を吐く。

 

「ただ約束して下さい」

「約束?」

「はい。もう少しご自身の体と命を大事にして下さい。お兄様の体はお兄様だけのものでは無いんです。その体は強佳御母様のお兄様に対する愛の証なのですから」

「・・・うん、善処するよ」

 

 そこはわかった、と言って欲しいのにとユエは思うもいうことは無かった。

 

「じゃあお詫びに今日はユエの食べたいもの作ろうか!」

「やった!あと今日は一緒に風呂入って寝ましょうね!」

「おう」

 

 一緒に住むようになってからはいつも風呂も寝るときも一緒の癖に態々言質を取るユエ。

 

 だが一騎にとってそんなのはどうでもよく抱きつくユエの頭を優しくなでる。

 

 

 ――ピーンポーン。

 

「ん?お客さん?」

「みたいですねお兄様。みてきますね?」

「いや俺が行くよ」

 

 玄関に向かおうとするユエの肩を掴み止めて一騎が向かう。

 

「・・・え」

 

 悪い気配は感じないものの何があるか分らないから警戒を強めた途端玄関から知っている、いやなじみのある気配を感じ急いで扉を開ける。

 玄関の前にいたのは。

 

「っ! 八百万」

 

 一騎の姿を見た八百万は何処か違和感の残る笑みを浮かべ頭を下げる。

 

「お久しぶりですわ。不死黒さん」

 

 頭を上げ開けられた瞳には光は無く暗い瞳をしていた。





因みに、オールマイトが無理矢理一騎にワン・フォー・オールのことを話そうとしたとき、才子が乗り込まなければ、心を閉ざすプラス体の所有権をエリク渡してました。

そして翼君イベントが無ければ一騎はユエの頼みをきいて雄英どころかヒーロー目指すのも辞めて安全な島でのんびりライフを送ってました。

次回「八百万百と知らない夢」

それでは、期待せずにお待ち下さい。
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