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時刻:13:34 天候:晴れ
彼女の持ってるグローザは正確な残弾は不明。ただし半分より少ないのは感じ取っていた。その上予備マガジンは無い。今装填しているマガジンが
救援を求め無線を弄る。しかしジャミングの影響を受けているせいで雑音しか流れてこない。チャンネルを変えても結果は同じだった。
「クソッ、なんでこんな目に遭うの……」
息を吸うように毒づく。自分が置かれてる絶望的な状況を再び認識した。抵抗しようにも敵の量が鰯の群の如く多い。残弾のせいで全てを倒すのは不可能だ。そもそも反撃したとして、敵に位置がバレて返り討ちに合うのがオチだろう。さらに長時間休まず稼働してるせいで、精密射撃が出来るかどうかも怪しい。
更に状況は悪化する。物音が聞こえ、耳を研ぎ澄ます。カサカサと茂みが擦れ合う音が聞こえる。それもかなりの量だ。ここに動物がいないのはブリーフィングで知っている。つまり音の主は鉄血だ。
聞こえてくる音の量、距離で圧倒される。いつもならどうともない有象無象。しかし今回は違う。貧弱な戦力に対し、鉄血の波がこちらに向かってくる。体が強張り、手が震える。恐怖で呼吸も荒くなる。同じような考えが浮かんでは消えていく。
"鉄血に倒されるくらいなら自害した方がマシだ"
そんな考えが頭をよぎる。それは氷のように冷たく脳内に響き渡った。その後の行動には迷いが無かった。おもむろに手をポケットに突っ込む。取り出したのはインスタントカメラのフィルムケース。ケースに傷がないのを確認すると、利き手の左側に穴を掘り始める。掘った穴は浅いが横に縦にな伸びていた。彼女はその穴にケースを埋めた。行動が終わると「ふぅ」と短くため息をつく。その時、口角が上がり微笑んでいた。
私は頑張った。指揮官の足を引っ張りたくない。そんなことを思いながら銃を
彼女が銃のトリガーを引こうとした。その一瞬の静寂を破ったのは、無線機だった。沈黙していた無線機が反応した。
「こち……願う……らまじ……」
初めて無線機が反応した。『誰か居る』そう思った彼女は無線機に飛びついた。チャンネルを一つ一つ丁寧に慎重に合わせる。せっかくのチャンス、決して無駄にはしたくない。希望を掴み取るためしがみついた。
「こちら"マジック"応答願う、繰り返すこちら"マジック"……」
「こちらS05地区の第3部隊のグローザ!」
無線の主は男だった。その声は落ち着いていて、明瞭だった。もしかしたら援軍が来るかもしれない。そう考えると安堵が体を駆け巡った。しかし、鉄血達の足音を聞き再び緊張が走った。
「我が部隊は偵察任務中、鉄血の襲撃に遭い部隊が全滅。生存者は私だけ……」
偵 察任務の内容は"鉄血のハイエンドモデルの写真を撮れ"という内容だ。ここ数日、目撃情報が増加していた。またそれに比例するように、人形達の被害も増加している。そこで司令部は対策を練るため偵察部隊を編成した。事は順調に運んだ。ハイエンドモデルを確認すると撮影を開始した。撤退しようとした時、部隊の1人が狙撃された。それを皮切りに潜んでいた鉄血達が攻撃を始めたのだ。その結果、部隊は散り散りとなり退却した。逃げ延びた仲間も追手に殺されていき、グローザただ1人となった。
「なんとか生き延びたけど、そろそろダメみたい。奴らがもう近くにいる……」
耳を傾けると草木を踏み前進してくる音が聞こえる。頭だけ出して周囲を確認した。鉄血のガードやヴェスピドが辺りを警戒し捜索していた。木々の裏を入念に確認し、気づかれないようにゆっくりと歩く。鉄血達とグローザの距離は約200メートル。見つかるのも時間の問題だ。彼女は生き残れる方法を考えた。今使える手札で、自分の置かれてる状況で、生き残る術を考えていた。
「了解した、30秒後航空支援を開始する。そこを動かないでくれ」
彼女の思考は分断される。……今なんて? 航空支援? 援軍じゃなくて? 彼女はその無線に戸惑う。それは衝撃的で謎だった。疑問点はまだある。何故こんなにも早く支援できるのか。グリフィンが使用している輸送ヘリは最短でも2分。しかしこれはあくまで理想値。通常でも+1分、森林のような悪地なら倍近くかかる。最も短いのは砲撃妖精や空襲妖精の火力支援を行える妖精であろう。一回切りではあるが1分内に必ず支援してくれる。ただしこれは人形の部隊と一緒に組む必要がある。そのためこの線も違う。そんなことを考えてると上空から騒音が聞こえてくる。それと同時に風が押さえつけるように吹いてくる。答えを知りたくて上を向いた。
VTOLの反撃が始まった。機関銃ガトリングから解き放たれた30ミリが鉄血を襲った。ガードの盾は粉々に砕かれる。頭部に当たった者は、頭部が破裂し倒れる。胴体に食らった者は、真っ二つに引き裂かれた。空薬莢が雨のように流れ落ちる。幸い、グローザのいる位置までは空薬莢は落ちてこない。
次にミサイルポットから風を切り裂くようにミサイルが放たれる。それが地面に当たると、轟音と衝撃が降ってきた。衝撃で物理的に視界が歪む。遅れて爆風が襲う。飛ばされそうになるほどの風圧だった。彼女は隠れてた木の後ろへ避難した。
次 は爆音と熱風が彼女を包み込む。そっと頭を出して周囲を確認する。その光景にゾッとする。地面から炎が舞っていた。立っている鉄血が歪んで見える。ガソリンの独特な匂いが充満する。そして遅れて何か焼け焦げる匂いが漂ってくる。焼夷弾ナパームだ。彼女は確信した。炎は鉄血達に襲い掛かる。鉄血は炎から逃げようと奮闘していた。しかし次第に動きは鈍くなり、止まってしまう。その間に炎は鉄血を飲み込み燃やしていった。
リッパーやヴェスピドのような量産型はオーバーヒートの影響をモロに受ける。初めはだんだんと動きが遅くなり、最終的には処理落ちしてしまう。処理落ちを起こした者は回復するまでその場に留まっている。そのため鉄血に火炎瓶を投げ込んだ場合、その後の運命は皆同じである。再起動中に回路が焼け、コアが破壊される。つまり死亡する。
騒音の主はVTOL。取り付けられている機銃やミサイルポッドを取り付けてあるのが下からでもよく分かるくらい低空で飛んでいた。地面と垂直になってる大きなダクテッドファンは騒音を立て前進していた。その姿にグローザは呆気に取られた。何故ならグリフィンにはこのような軍用機は無いからだ。
鉄血達も上空の異常に気付いた。呆気に取られたグローザに対し、即座に銃を向ける。そして射撃を開始した。エネルギー弾の弾幕が機体を襲う。鉄血の群れは想定の倍以上いた。あちらこちらから放たれる青い光は空を駆け巡った。しかしVTOLは無傷だった。鉄血の武器では機体に傷をつけるので精一杯だった。
そしてグローザの前の方から銃声が聞こえてくる。軽くて弾けるもの、重くて空気を切り裂くようなもの。まさに選り取り見取りだった。その音たちは段々と大きくなる。どんどん近寄ってくる。
「よっ、大丈夫か?」
急に話しかけられ、ビクッと身体が震え振り向く。目の前には1人の戦術人形が立っていた。気怠そうな態度、目元には真っ黒な隈。その状況に似合わないような大きなあくびをした。その人形が寝不足なのは見れば明らか だった。
「貴方は、AA-12……?」
グローザは慎重に丁寧に確認をとった。それに比べてAA-12は、
「そうだよ、あんたを助けに来たんだ」
と軽く単刀直入に話した。AA-12は棒キャンデーの包みを確認しながら答える。それを聞いた途端、グローザは安堵の気持ちでいっぱいだった。力が抜け地面へ座った。力んでた体が布団のように軽くなる。しかし自分が置かれてる立場が解決してないと思い出す。急いで起きあがろうとした。それを見たAA-12は驚いた。
「おい!起きちゃダメだろ。そこにじっとしてろ」
AA-12は起きようとしたグローザを静止するように、肩に手を置き押さえつけようとした。しかしグローザはその手を払い除けて起きあがろうとする。その目は闘志に満ち溢れていた。
「……私だって反撃しないと気が済まない」
「あのなぁ、あんた怪我してんだよ?そこじっとしないとダメ。分かった?」
「ふふ……それでもよ。あたしを追い込んだ蛆虫どもにお礼がしたくてね」
グローザは微笑むと手に持ってるOts-14を半コッキングした。薬室に弾丸が装填されてるのを確認する。グローザの姿は負傷兵のようだった。彼女が着てるコートは穴が空いていた。逃亡中に撃たれたのが原因だろう。また砲撃にあったのか、一部焼け焦げ黒くなっていた。朱色の髪も黒く焦げた跡が見て取れる。長髪も相まってその跡は非常に目立っていた。身体には目立った外傷は無い。しかし一直線に赤くなってる跡が頬や二の腕、太ももにはっきりと見える。その数は片手で数える程度だが、鉄血がかなりの数いた事を物語っていた。普通に考えてそのような出来事を体験したのなら恐怖し体はすくむ。だが彼女は違った。その顔は闘志と殺意に満ちていた。
そんなグローザを見ていたAA-12は思わずため息をついた。その顔はどこか諦めていた。グローザの表情を見て考えを変えたのだ。いつもの調子でポケットから飴を取り出し口の中に放り込んだ。先程触った棒キャンデーではなく、プラスチックの包みに包まれている飴だ。
「別に死ななきゃいいか」
AA-12はそう自分に言い聞かせた。
束の間の静寂と平和。しかしそれは呆気なく崩壊する。炎から1人、また1人。人のようなシルエットがこちらに向かってくる。AA-12はそれに銃口を向けた。飴を噛み砕き臨戦態勢をとる。味方では無い。そのシルエットは鉄血の生き残りである。だんだんと姿が見えてくるとAA-12は毒ついた。
「ちえっ……ブルートか」
炎から現れたのはブルートだった。鉄血の中でも白兵戦に長けており、高速で接近し対象をナイフで切り付ける。高火力で足も速く、処理に手間取ると前衛が崩壊する。唯一の救いは耐久値が低いところだろう。敵は3体。ブルート達はAA-12を視認するとナイフを構え突撃した。いつものような速さでは無い。しかしその気迫は現在だった。
AA-12は右から攻めるブルート以降同じに銃口を向ける。右から左へ流れるように処理することに決めた。AA-12はトリガーを引いた。グローザの目の前に空薬莢が流れ落ちる。その弾丸は吸い込まれるようにブルートの胴体へ飛んでいく。そして弾丸はブルートに当たった。ブルートの体は破裂し右腕が吹き飛ぶ。右腕は宙を舞い、爆発した衝撃で破壊された胴体は地面に叩きつけられた。
次は真ん中のブルート。距離にして約150メートル。素早く片付けるためAA-12は2発、胴体に撃ち込んだ。2発撃ち込まれたブルートは見るに耐えない姿となった。上半身はどこかに消えてしまい、下半身は制御を失った。大きく足を開くとその場に一回転し地面に着地した。ドサッと音を立て、鉄の塊へと変化した。
最後は左のブルート。距離にして100メートル。最後の1体は素早く距離を詰めてきた。オーバーヒートから回復し、本来の速さとなっていた。AA-12はそんな姿を見て愚痴を呟いた。
「……ウザい」
AA-12は頭に照準を合わせた。一撃で葬り去るために。さっさと終わらせて帰るために。AA-12は1発、素早く撃ち込んだ。頭部が破裂し、大きく後ろによろける。制御を失った胴体は地面に倒れ込む。大きく上がった足も同じように倒れる。襲撃を試みたブルート達は1分後、鉄屑となっていた。その姿はスプラッタ映画のような無惨な姿へと変貌した。
そんなブルートの残骸を見てAA-12は笑顔になった。自分も含め損害ゼロ、つまりパーフェクトゲームである。
「よしっ!」
ささやかな勝利だった。AA-12は嬉しくなり小さくガッツポーズをした。グローザはその姿を見て驚いた。いつもネガティブで気怠そうな彼女が、他の子達と同じように嬉しそうにしているのだ。驚いたのはそこだけでは無い。何故ブルートが爆発したのか。SGショットガンに装填されている弾薬はスラッグかバックショット。どう考えても爆発を引き起こすものとは無縁である。いくら量産機でも誘爆するような雑な設計では無い。それも老舗である鉄血なら尚更である。グローザはAA-12の空薬莢に注目をした。付近に落ちているものを拾い目の前で見る。その空薬莢は黄緑色をしていた。緑でも赤でも黒でも無い、黄緑色である。グローザは1つの仮説を立てた。
『彼女の装填している弾薬はフラグ弾では無いか』
フラグ弾、正式名称"Frag12榴弾"。AA-12の専用装備。この弾薬はグレネードに比べ、小規模ではあるが爆発させることが出来る。これを装填したAA-12は、小さなグレネードランチャーとして生まれ変わる。連射性と破壊力が併せて凶悪な武器に早変わりする。そのため"多数の相手に有利"、"破壊活動にうってつけ"という謳い文句を聞いたことがある。しかし、そもそもの使い道がニッチすぎる点。さらに
突如、AA-12は後ろを振り返る。AA-12の目はどこか見つめていた。グローザは誰かの視線を感じた。そしてAA-12の視線を追う。じっと見ていると、後ろから人影がゆっくりと近づいてくる。遠く木々の影響で見にくいが、銃を持っているのは分かった。AA-12はその人影が味方であると分かると、口を開けた。その一言にグローザはまた驚愕した。
「よっ、指揮官。残念だけどあんたの獲物は無いよ」
後編へ
続きはなるべく早く出す予定です。