第27地区   作:アハトラ

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 大変遅くなりました......待たせて大変申し訳ありませんでした。次回はなるべく早く投稿するように頑張ります。


3-2 降下

 FG42は輸送機であるC-47スカイトレインに乗りながら、窓から見える景色を眺めていた。あたり一面広がる青空に、お菓子のようにフワフワとした白い雲がポツリポツリとある天気は、晴天そのものだった。高度340メートルから見る青空という普段は見ることができない風景は、絶景といっても過言ではなかった。これがもし任務じゃなかったらきっと他の子たちと会話してたに違いない、彼女はそう思った。

 しかし、他の人形たちと会話することはほとんどなかった。というのも選ばれたメンバーの多くは寡黙で、多くは武器を弄っていたり、持ち込んだレコーダーで音楽を聞いていたりと各々時間を潰していたからだ。声の他に聞こえるとすれば輸送機のエンジン音だろう。扉を閉めていても、そのけたたましい音だけは聞こえた。普段搭乗するヘリのローター音で騒音に慣れているとはいえ、爆音であったのには変わりない。さらに機体は少しであるが振動しており、揺れは自分の足を通じて伝わる。そのため体は小刻みに揺れていたが大した悪影響はなかった。 むしろ不規則に揺れる感じが、ヘリとは違う揺れで心地よかった。FG42はチームメイトを確認するため辺りを見渡した。自分が最後尾にいるため、全員の顔ぶれを確認出来るのだ。先頭からAK-74M、AK-74U、モンドラゴン、89式、ベクター、PK、M6ASW、SVD、PP-19。そして目の前で腕時計を見ながら葉巻を吸ってるプライス大尉の計12名。これが3チームほどあり合計で36人程が作戦に参加することが決定している。更に航空隊の支援や援軍も数に含めると、総勢50人以上は確定している。今までこれほど大規模で大胆な作戦を経験したことはないFG42は、緊張で顔が固くなった。いつも真面目な彼女だが、いつも以上に表情がガチガチになっていた。

「こういうのは初めてか?」

 彼女の表情を見かねた大尉は話しかけてきた。吸っていた葉巻はまだ手に持っている。ついさっきまで吸っていたのか、先端は赤く燃えモクモクと煙があがる。タバコ臭い匂いがふんわりと漂うが、そこまで不快ではなかった。話しかけられたFG42は背筋を伸ばした。

「ええ。今まではヘリボーンが中心的だったので、このようなエアボーンは初めてです」

 彼女は背中に背負ってあるパラシュートを揺らした。かなり重たく、初めて背負った時は度肝を抜かれた。彼女が扱っているFG42は、大戦中のドイツの空挺部隊である降下猟兵向けに設計された銃だ。しかし、PMCという立場上空挺部隊めいたことはできなかった。そのため大半の人形達はパラシュートを使ったことすら無いのだ。作戦前、空挺降下用の報告書を読み込んだものの、ここにいる全員がリハーサルなしの本番であった。

「バンジージャンプと何ら変わりはない。そう身構えなくてもいいさ」

 大尉はFG42を安心させるために笑みをこぼした。FG42も緊張を紛らわせるため、笑おうとした。突如、機内のランプが赤く光る。それは人形たちの肌を赤く染め上げた。

 レッドランプ、それは空挺降下準備を知らせる合図である。人形たちは一斉に立ち上がり、カラビナにロープを通す。自分と機体をつなぐ唯一の命綱。一通りの儀式を終えた人形たちは、ただグリーンランプになるまで待機する。彼女たちの目つきは穏やかではなかった。これから鉄血の命を刈り取る......狩人そのものだった。

 大尉は立ち上がると、吸っていた葉巻を空に投げた。葉巻の煙が空へ吸い込まれ、どこかに消えていった。大尉は人形たちを見つめた。その攻撃的で闘志を隠そうともしない目つきは獲物を探す狼のように鋭く、そこに自慢に溢れた笑みが加わり、獰猛さが際立っていた。大尉は2,3歩人形たちの前へ歩くと、人形たちに訴えかけるように話しかけた。

「お前が(鉄血)を殺せばお前が上。お前が奴に殺されれば奴が上だ」

 人形たちに発破をかける。いくら鉄血が占拠している駅とはいえ、所詮は有象無象の集まり。苦戦し予定時間をオーバーすることはあってはならない。ましてや苦戦など論外だ。人形たちはそのことを肝に命じた。

 ランプが赤から緑に変わる。それはほんの一瞬の出来事だった。しかしパラシュートを背負った狩人の目は、その一瞬の変化すら感じ取った。人形たちは扉に向かって走り出す。道のりは遠くなく、あっという間に入り口にたどり着いた。空は自分たちは無防備だと敵に知らせる場所である。反撃できず、隠れるところもない。ましてやパラシュートが撃たれない保証も無い。ひとたび外に出れば、あらゆるリスクという死神がまとわりつく。言ってみれば弾幕の嵐に晒されながら、敵陣に突撃をするようなものだ。しかし人形達は青空に向かい飛び出していった。その目には恐怖心はなかく、そこには恐怖を乗り越えた自信と狂気があった。

 

 FG42は風圧を感じながら重力に身を任せていた。風圧は凄まじく、顔に当たる風が不快に思うほどなびいていた。常に風を切り裂く音が耳元で聞こえ、その轟音は恐怖心を掻き立てた。それと同時に何か凄いことを成し遂げようとしているかのような高揚感も心の底から感じていた。降下して数秒後、FG42はパラシュートを展開する紐に手をかけた。彼女は素早くそれを引き、擦れた布の音と共にパラシュートが展開した。パラシュートが展開し終えると布が広がる音が鳴り始めた。パラシュートのおかげで降下時のスピードがゆっくりとなった。体が風になびいて揺れる。勢いよく聞こえていた風切り音も落ち着いてきた。FG42は仲間達が降下するところ、仲間たちが階段状に降下するところを見ていた。その光景はどこか幻想的であった。白いマッシュルーム達が空を覆い尽くし、ゆったりと落下する様はどこか幻想的な雰囲気でもあった。

 しかし下界は違った。地上から空襲警報が騒がしく鳴り響き、随伴していた攻撃機達は既に攻撃を行っていた。所々炎上しており、赤く燃え上がった炎と煙が上がっている。攻撃機の多くは、古代の遺物であるJu87スツーカであった。FG42は高射砲付近のストライカー達めがけて急降下するスツーカを目撃した。風切り音とは到底思えない甲高い音。それと共に投下される250kg級榴弾が鉄血を襲い、爆風と共に鉄血たちの四脚が吹き飛んだ。破滅の象徴であるジェリコのラッパが鳴り響いていた。改めてFG42は地面を見ていた。ゆっくりとであるがその地獄に近づいている。爆音、銃声、空襲警報。混沌へゆっくりと近づく.......

 この混沌に秩序をもたらすのは我々しかいないのだ。

 FG42は降下に成功すると背負っていたバックを脱いだ。パラシュートを展開したバックは非常に重く、機動力は全く無い。勿論、背負っている状態で戦闘をしようものならいい射撃の的になる。FG42は素早くバックを放棄すると自身の得物を手に取り、マガジンを差し込むとコッキングレバーを慎重に引いた。重い金属音を響かせ薬室に7.92×57mmマウザー弾が装填された。貨物倉庫とあって付近には貨物コンテナが並んでいた。FG42はコンテナの間からひょっこり現れたヴェスピドと遭遇した。ヴェスピドはこちらを発見すると銃を構えたが、FG42の方が早かった。FG42は頭部を狙うとトリガーを引き、銃声と共にライフル弾がヴェスピドを襲った。数発受けただけでバイザーが割れ、頭部の配線やパーツが飛び散った。残骸となったヴェスピドは後頭部から倒れる。素早く敵を倒すと、目標を達成するため前進した。

 前進し始めて1分後、無線から作戦の指示が入った。

『こちらマジックから全小隊へ。各自目標を達成せよ。スツーカの攻撃は中止とするが、各隊長の指示から実行出来る』

 長距離からの無線なのか雑音が混じる。本来なら雑音を無くすためにチャンネルを再設定し、もう一度無線を行うのが一般的であるが、今回のような一刻を争う場合は、無視される行動でもある。FG42はコンテナの角を確認しながら素早く移動していた。

数分後、FG42は目の前で炎上していたガードを目撃したが、その後銃声と共にガードは地面に倒れた。

「ベクター?」

 FG42は思わず呟いた。運良く無線越しだったのか聞こえていた。

『そこにいるのはFG42?』

 ベクターはコンテナの角からひょっこり現れた。銃口は下を向いており臨戦態勢から離れていた。ベクターは燃え尽きたガードの亡骸を蹴って、死体かどうか確認していた。

「他の人形達は何処に降下したか分かりますか?」

「いや、私もわからない」

 ベクターは装填したマガジンを一度取り出し残弾数を確認し、それを再び装填し直すとFG42の方を見直した。ベクターの表情は、心ここにあらずといったところだった。

「だけど、あそこから銃声があった」

「わかりました。では、一緒に行きましょうか」

 ベクターはFG42の提案を了承した。小さく頷くと向こうを見ていた。

「ええ、行きましょうか」

 

・作戦開始から2時間後。Cチーム、防衛装置。

 M200は防衛施設に入り込んだ。ほんのちょっと前までここは激戦区だった。2階からイェーガーや鉄血に乗っ取られたタレットの精密射撃。それに加えて、地上ではスカウトやリッパーの後ろからヴェスピドやストライカーの弾幕が飛んでいた。SGやSMG、HGはこちらにヘイトを向けるため、最前線に突出する形で陣取った。一方でRFやAR、MGはありったけの火力を防衛部隊に浴びせた。

 200以外にはギムレット、KSVKがコンソールへ集まっていた。

「汝、これをハッキングできるとは本当か?」

 KSVKの改まった質問とは対照的にギムレットはフランクに答えた。

「まぁね......時間はかかるけど、ちょっと待ってて」

 ギムレットは手元にあるキーパッドを操作した。モニターにはおびただしい文字列が現れた。ギムレットのタイピング速度はどんどん速くなった。施設にはタイピング音だけ聞こえた。周りにいる人形達は彼女が成功するか、失敗するか見守っていた。数分後ギムレットはエンターキーを押した。ロックがかかってたモニターは解除され、ホーム画面が現れていた。

「ふー終わった」

 ギムレットは一息つくと肩をおろした。緊張で力んだ体がゆっくりと柔らかくなる。

「お疲れ様です、ギムレットさん」

 HS2000は一声かける。見守っていた人形たちから感嘆や驚きの声が上がった。

「ありがとう。けどまだ任務は終わってないけどね」

 ギムレットはコンソールを弄ってある項目を探した。それは目標とは関係ないものだが、我々にとっては必要なことだった。

「えーと......まずは高射砲の電源をシャットダウン......列車の出発許可をこちらに移管、起動してない鉄血の起動無効と......」

 彼女が発した言葉の多くはこちらの戦局を有利にするものばかりだった。ギムレットがコンソールを弄り始めて1分後、作戦本部から無線が聞こえてきた。

『こちらマジックから各小隊へ。高射砲の沈黙を確認。これにより対地支援が可能になった。繰り返す、対地支援が可能になった』

 無線のチャンネルが変わる。先程のクリアな無線とは違い雑音だらけだった。さらに音質も悪い。航空機からの無線だと一瞬でわかるほどである。

『こちら”ミラージュ1”。いつでも対地支援ができる。もし俺たちの支援が必要なら、敵陣にフレアを焚くか、座標を教えてくれ。いつでも更地にしてやる』

 ミラージュ1と名乗ったパイロットの声は年季が入っていた。年齢は30後半〜40前半で、かなり落ち着いていていた。声も興奮せずとても静かで、雑音があるのにも関わらず聞き取りやすかった。それと対照的に慌てふためいた無線が入り込んできた。

『こちらチームA!思った以上に敵の攻撃が激しい!支援を要請する!』

 

・時を同じくして

 チームAは駅構内に立て籠もってる鉄血たちに苦戦していた。数が多い上にこちらが隠れられる場所があまり無ため、その結果あまり有効打を与えられていなかった。

WA2000は制圧した監視塔から狙撃をしていた。倒した鉄血人形達はバリケードとデコイを兼ねてWA2000の側に立てかけてあった。スコープを覗き駅構内に立て籠もっているイェーガーへカウンタースナイプを開始した。スコープの逆光、銃声やマズルフラッシュ。ありとあらゆる手がかりを集め、狙撃手を特定し一撃で沈める。WA2000は殺られる前にイェーガーを狩り尽くす。次のイェーガーを探す時だった。スクラップになったヴェスピドに至近弾が命中し、灰色のヘルメットに青い光線がぶつかった。鈍い金属音を響かせてヴェスピドは高台から落下する。

「ぁぁああああ!!もう!!」

 WA2000は悲鳴のような叫び声をあげると無線機を乱雑に掴んだ。

「ねぇ!まだ突入してないの!?さっさと突っ込みなさいよ!」

 WA2000の無謀な提案に指揮官は冷静になだめた。

「無理だ。この弾幕で突撃したら蜂の巣になる。航空支援を待ってくれ」

「待ってる間に死ぬわよ!このまま撃たれて死ねっていうの!?」

「少し待ってください」

 無線に割って入ったのはM82A1だった。M82A1は貨物コンテナの上にうつ伏せで陣取り、バイポッドを展開しスコープを覗いた。今回、M82A1はIOPからとある装備を受け取っていた。その名もBORS*1このスコープは計測データを元に自動的にダイヤルを回すという、狙撃を補助する弾道コンピューターが備えられており、TEC-9から受け取った観測データに加え自身の観測データを使い位置を予測した。彼女はWA2000を襲ったイェーガーの位置を割り出した。Raufoss Mk.211多目的弾*2を装填すると、改めてスコープを覗いた。WA2000を襲ったイェーガーを発見するとトリガーに指を掛け、敵に気づかれる前に素早くトリガーを引いた。その瞬間、頭が割れるほどの轟音と射手を覆うほどの発射煙がM82A1を包み込んだ。弾丸はイェーガーの頭へ吸い込まれ、頭部に被弾したイェーガーは大きく後ろに飛んだ。命中した頭部から乱雑に引きちぎられた配線やパーツ、粉々に砕けたバイザーが宙を舞った。しかしそれはあまりにも短い出来事だった。空を舞った亡骸と頭部の一部は地面へ落下し、そして鈍い音と共に地上へ落ちた。

 脅威を排除したM82A1はすぐさま指揮官に報告した。

「脅威の排除を確認。WA2000、大丈夫ですか?」

「あ、ありがと......」

 WA2000は頬を赤らめ口を窄めた。心配されてるとは思ってもいなかったのだ。

『こちらミラージュ1からチームAへ。対地攻撃を敢行する。巻き込まれないように離れてくれ』

「到着時刻は?」

 指揮官が食いつくように質問する。

『もうすぐだ』

 

 その宣言通り何処からともなくあの不気味な音が聞こえる。サイレンとも思えるあの風切り音。思わず身を隠し耳を塞ぎたくなるほど不気味な音。一度聞いたら脳内にこびりついて剥がれない、あの音が聞こえるのだ。

 指揮官たちはその場に伏せて身の安全を確保した。一方の鉄血は音の主を探した。

…それが彼女らに破滅をもたらすものと知らずに。

 スツーカ隊は鉄血防衛隊に向かってダイブを行った。ありったけの爆弾や機銃を敵に浴びせ、破壊の鐘の音を響かせながら支援を行った。轟音を響かせ防衛陣地が更地へと変わる。

次々と振ってくる暴力の嵐の前で指揮官は準備を開始した。スモークグレネードを掴むと、

「チームに通達、スモークグレネードを投げろ。スモーク展開後、全力で駅へ突っ込む。RFやMGは火力支援を。それ以外の人形はまっすぐ駅へ走れ。寄り道して倒されても回収しないからな」

 と釘を刺した。指揮官達はマガジンの残弾をチェックしたり、合図があり次第スモークグレネードを投げられるように準備を開始した。そんな時、誰かが指揮官の隣へ身を屈めバリケードに背中を預けた。

「戦力は十分か?」

 大尉だった。

彼は笑みを浮かべながら質問した。

辺りを見渡すと、大尉のチームがすでに合流していた。その目は命令を今か今かと待っている猟犬そのもの。

 指揮官の回答は1つしかない。

「問題ない」

 大尉と同じように笑みを浮かべて答えた。何か悪いことを企んでそうな、自信に満ち溢れた笑顔だった。爆撃が止み辺りが静寂に包まれる。先程まで鳴り響いていた銃声はパタリと消えた。不気味なほど静かな戦場に、指揮官はなんのためらいもなくスモークグレネードを投げる。軽い金属音をなびかせ地面に転がり落ちる。数秒後、煙幕が霧のように辺り一面に広がる。その光景を見た指揮官は立ち上がり銃を構えた。

「突撃!前進!進め!!」

 

 煙幕が展開している中、戦術人形は全速力で走った。コンクリートで舗装された大地には、生々しい爆撃痕が辺りに広がった。前が見にくい中、彼女たちはその穴を器用に避ける。IOP製のスモークグレネードは通常のものとは違い、戦術人形の目には煙幕の影響はまったくない。これはIOP製のスモークなら、予め処理パッチを装備することで煙幕のデメリットを無くすことが出来るためであった。手足や胴体が吹き飛んだ鉄血にトドメを刺しながら前進する。奴らは一見無力な存在にも見えるが、実際は違う。片手が吹き飛んでも銃を手に取り戦術人形を狙い、仮に手が無くても足を動かし接近する。

「死守」その命令を遂行するため動き続ける。戦術人形達はそんな彼女らを葬り去った。銃撃、打撃、刺突。様々な方法でトドメを刺していく。その姿は狩人というよりも、むしろ殺戮者であった。

 駅構内へたどり着くと抵抗はほぼなかった。防衛戦力は駅を守るように展開していた証拠だった。2階に陣取っている残存部隊は散った仲間と同じように抵抗するが、そんな抵抗は些細なものだ。鉛玉や焼夷グレネードの嵐を浴びなき者へとなり変わり、残存部隊が壊滅するのに数分もかからなかった。指揮官は腕時計を見た。目標時間より早く任務を達成し思わずガッツポーズをしそうになるが、なんとか我慢し報告を最優先で行った。

「こちら、チームAより司令部へ。予定時間より早く駅構内の制圧に成功。繰り返す、制圧に成功。どうぞ」

『こちらマジックから全チームへ。作戦の第1フェーズを完了した。これにより、第2フェーズへ移行する。補給物資をそちらに送る』

「了解、通信終了」

 指揮官は無線を切ると部隊を集結させた。

「第2フェーズ......???」

 ギムレットは困惑した。ブリーフィングにはなかった単語ゆえに、何をすればいいのか分からなかった。唖然としている彼女を放っておいて、大尉と指揮官は下ごしらえを開始した。操作パネルでクレーンを操り積荷を搭載していく。鉄血の素体や弾薬、武器等が無傷の列車に積まれていくその様子は、どこかへ向かうことが確定しているかのようだった。

「ねぇ......何してるの?」

 ギムレットは困惑した表情で大尉に話しかけた。大尉は表情を曇らせた。

「......聞いてないのか?」

「全然。何かプランBがあるのかしら?」

 それを聞いた大尉は深いため息をついた。そして

「あのオイボレが......」

 と小さく毒づいた。彼はギムレットにデータパッドを見せた。そこには”フェーズ2”と書かれていた。そのまま操作すると膨大な文字が現れた。これが作戦概要というのは聞かなくても分かる。

「フェイーズ2の簡単な説明をする。この列車を奪い、この先にある鉄血の大規模な貨物集積場を襲う」

「いきなりすぎない?」

「まぁな。秘密事項だし何より外部に漏れることを危惧したんだろう。敵を騙すときはまずは味方から....いかにも好むみそうな手口だ」

 大尉はポケットから葉巻を取り出し口に加えた。さらにジッポライターも取り出して火を付けた。葉巻の独特の匂いがふんわり香ってくる。大尉は一杯吸い終わると話し始めた。

「秘密主な爺さんのことだ。『後で教えるつもりだった』とか言うつもりだったんだろうな」

「はぁ......貴方の上司、複雑すぎない?」

「いつものことさ。交渉と秘密が大好きな爺さんさ」

 大尉はふと笑った。苦笑いにも見える笑みだが、場を和ませるには充分だった。その顔を見たギムレットも思わず笑みを浮かべた。戦術人形たちと指揮官達は貨物列車を整備し始め、貨物室には起動していない鉄血人形や防衛用のタレットを詰めた。しかし勿論これらは鉄血を欺く囮であり、本命はわざと積荷を積んでいない貨物室である。この中に武装した戦術人形を乗せ、目的地に到着次第防衛戦力に鉄の雨を降らせる。貨物室の分厚い装甲と戦術人形の火力が擬似的なトーチカとなることで、チームの生存性が増加する算段であった。

指揮官と大尉は先頭に乗り込み、それぞれ準備を開始した。指揮官はタブレット端末を操作し目的地と走行速度を設定する一方で、大尉は対鉄血用のジャマーを起動した。これは鉄血のIFF*3を妨害することができ、さらにこちらの存在は味方(鉄血)として認識させる装置である。

「こちらCチームのM200です。全員乗り込みました」

 その連絡を聞いた指揮官は運行ボタンを押す。するとエンジンがゆっくりと音を立てて起動した。予め設定した目的地まで一切操縦せず自動的に動く。画期的なシステムだが指揮官は緊張していた。何故なら自ら敵陣に向かう、それは自殺行為に等しい作戦だったからだ。大尉はその緊張を見抜いていた。指揮官の肩を叩くと、

「緊張してるのなら、何か話して気でも紛らせたらどうだ?ここにいる全員にとかな」

「あぁ、いいアイデアだな」

 指揮官は無線のチャンネルを設定し直した。

「こちら指揮官から全人形へ。先程の襲撃はとてもいい動きをしていた。予定より早めに達成できたのは皆のおかげだ。ありがとう」

 数秒間の無言の後、指揮官は再び口を開いた。表情は先程に比べるととても明るかった。

「さて、次の行き先は終点の”ラカスタ”駅だ。ここは鉄血のボスが常駐してるかもしれない。かなりの激戦区になると思われるだろう」

 これから起こるであろう逆境や苦難、試練を考えた。しかし今はそんなことはどうでも良かった。何故か心が軽く自身に満ち溢れていた。指揮官の顔に笑顔が生まれた。その笑顔は いつにも増して自信に満ち溢れていた。

 

Welcome to the battlefield.There is no exit.(戦場へようこそ。お出口はありません)

*1
Barrett Optical Ranging System(バレットオプティカルレンジングシステム)の略

*2
徹甲弾・炸裂弾・焼夷弾の三つの機能を持ったHEIAPの一種。タングステンの弾芯により高い装甲貫通力を持ち、貫通後に内蔵した爆薬が炸裂し被害を拡大させる。あまりにも高威力のため、この弾薬を使用している大多数の国は、人間に対して使用しない訓練をしている。

*3
Iidentification Friend or Foe 敵味方識別装置。電波などを用いて索敵範囲内の艦船、航空機が味方であることを確認する装置のこと




 何回も書いてますが、大変遅くなってごめんなさい。次回はなるべく早く投稿しますので楽しみにしてもらえるとありがたいです。
 今回も添削してくださった方に感謝を。そしてコラボしてくださった瑠璃の炎(ID:386899)さんに感謝を。ありがとうございます。

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