これは変わった認識を持つ青年と、声をかけてきた女性の恋愛物語。その始まりの序章である。
はい。そんな設定で書いてみました。アイデアは著者がすやすや寝ている時に見た夢です。
今日は12月24日、キリストの降誕を祝う前夜祭の日だ。
「確か、クリスマスイヴって12月24日全部じゃなかったよな?24日の日没から深夜にかけてのことだったような」
喧騒とした繁華街の光景を見て、人混みから気を逸らすかのように変な豆知識を独り言として呟く。いつもなら思考にまで留めているのに口に出してしまうのは、やっと病院から引退した安堵感からだろうか。
「はあ〜、ほんと人が多いと堪える」
別に人が多いところが嫌いな訳ではない。ただ、俺の視界に見える人の顔が同じように見えてしまって、どこか落ち着かなかったからだ。
周りに心の声が聞こえていたら、21歳になっても厨二病が治らない可哀想な人と思われるだろうが、本当に視界に見える人物が同じ人にしか見えないのだから笑えない。
生まれてきた時からこうなっていた訳ではない。2ヶ月前、暴走した車に衝突した事故が原因だ。事故の際、頭をコンクリートの歩道に強く打ち、脳の人を認識する機能が壊れた。それにより、人の顔が全て同じように見える後天性の相貌失認…通称、失顔症を患った。
「まあ、同じ事故の現場にいた人達はひどい怪我をした訳ではないらしいから良かった」
俺一人に災難が降りかかったわけではなく、近くに歩いている人は他にもいた。2人だったか、3人だったか正確な人数も覚えていない。そんな見知らぬ人達だったのに、なぜか身体が動いて近くにいた人達に向かって咄嗟にカバンを投げたりタックルすることで、車の衝突範囲外に移動させた。
「強引な手だったから、捻挫とかしたみたいだけど車にぶつかるよりはマシなはず…たぶんメイビー」
他に良い方法があったかもしれないし、車に轢かれた方が軽症だった可能性もある。もしも要らないお節介をしたせいで怪我を酷くさせたなら…そんな思考を切り払うように自分自身を納得させる。
「あ〜、本当にこれからどうしようか。普通のバイトはもう出来なくなったし。てか、来年は大学4年…うーん就職すら危ういよな」
事故の後遺症が直ぐに見えるような足や手の喪失なら良かった。周りは足や手が喪失してるのだから、パフォーマンスが下がっているのは仕方ないと勝手に認識してくれるからだ。
しかし、見えない精神面や脳機能となるとそうはいかない。見えない範囲だから、周りから少し変わった人として認識される。また、その人の培ってきた思考や、症状のレベルも複雑に絡み合い、症状を知っている人でも既存の情報から齟齬が生じる厄介な面がある。
「はあ〜お先真っ暗という言葉を使う日が来るとは思わなかった」
「ねえ、そこのあなた!」
声をかけられた気がするが、スルーする。普通に考えて、こんな独り言多いやつに声をかけてくる奴が頭が大丈夫な訳がない。そうなるように独り言を増やしていたし、実際に歩いていた道では周囲から避けられていた。
何故なら…今、声を掛けられても人が同じようにしか認識出来ないから。話すのが苦痛でしかないから。そんな鬱屈とした気持ちを声をかけてきた人にぶつけることになってしまうことを考えると気が狂いそうだ。
「ねえねえ!お願いだから、話を聞いて!」
「えっと、どちら様ですか?」
ああ、話を聞いてしまった。どうしてだろうか…目の前にいる周りと同じように見える人の声音にどこか切迫な気持ちが篭っているような気がしたからか。
「そう…そうよね。うん。」
彼女から悲しげな声音が聞こえる。もしかしたら、何処かで会ったのかも知れない。しかし、申し訳ないが、周りにいる人と区別がつかない…ああ、本当に嫌になってしまう。この感情が気持ち悪い。
「ねえ、アルバイト探してるところなの!良かったら私の居酒屋で働かない?」
「えっ!?アルバイト…居酒屋ですか?」
まさか、あんな悲しげな雰囲気から急に求人されるとは思わなかった。どう考えても普通に怪しいが、引っ掛けてやろうという悪意は感じられない。
純粋なお願いなのだろうか…だとしても、人と交流が多い仕事が自分自身に務まるはずがない。むしろ、迷惑をかけてしまうはずだ。
「あ〜申し訳ないが、アルバイトは考えてないんだ。」
「えっと…そうよね。あっ、もし考え直してくれるなら、この電話番号に掛けてきて!じゃあね!」
俺の手に彼女の電話番号とお店の名前が書かれた名刺を渡すと、猛スピードで視界から消えていった。
「居酒屋 福寿 川村 由香里…いや、やっぱり会ったことないわ」
渡されたものを見ても、その名前に身に覚えがない。
「いや、怖いな。てか、福寿とか喧嘩売ってるようにしか見えないんだが…」
印象はハッキリといって最悪な初対面の人に、これから出会うことはもうないだろうと結論付ける。
「はあ〜、どうやら退院した日は厄日だったみたいだし、早く帰ろ」
これ以上何かあったら自分自身の心臓が持たないなと思いながら、雲がひとつない青い空を見る。
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ー居酒屋 福寿ー
繁華街から少し離れた場所にある居酒屋。割合としては常連客が多い。提供されるメニューは和食関連が8割、店主の姉妹娘が考案した洋菓子が2割。
この洋菓子、意外にも人気がある。常連客の奥さま達が、どんちゃん騒ぎしている旦那達を冷めた目で見ながら子どもと一緒に注文するからだ。
そんな変わった居酒屋の姉妹の長女 川村 由香里は先程のことを考えて負のオーラ撒き散らしていた。
「えっと、由香里ちゃんはどうかしたの?」
お客の奥様が長女を見かねて隣にいる次女の川村 葵に尋ねる。
「お姉は愛しの王子様に会いにいったらしいよ。見ての通り、結果は良くなかったみたいだけど」
「うっ!?そんなことないはず!ちゃんと名刺を渡したんだからね!」
いつも通りの妹の辛辣な言葉に由香里は反論する。…ちゃんと目的も達成したことも含めて、成功したのだから結果は良好である。
「いや、話を聞いてる感じキャッチかハニートラップ系の詐欺でしょ」
「ひぐっ!?やっぱりダメなんだ。私なんて……ぶつぶつぶつ」
そんなダメダメな姉を妹の葵は一刀両断して事実だけを伝える。
「まあ、残念だったわね…ほら、由香里ちゃんは可愛いんだから大丈夫よ。それに男なら他にもいるんだし。切り替え大事よ?そもそも、結婚が良いとは限らない訳だし」
長年生きてきて失恋も多いからこそのアドバイスと慰め。どんちゃん騒ぎをしている男達を見ながらお客の奥さまは語る。何故か目が突き刺さるかのように鋭いのは無視した方が良さそうだ…。
「うっ!?お礼も言えなかった私なんて…」
「お姉は天然だから仕方ない」
「天然じゃないからね!さっきから、妹がいじめてくる!」
由香里は妹の辛辣さに泣きながら、事故のことを回想する。
当時、居酒屋で扱う食材が足りなかったため、買い出しに雫は向かっていた。
「えっと、こんにゃくと卵…はあ〜、何で葵はメモを私の手に書くのかな」
いつも辛辣な言葉をぶつけてくる妹を頭に思い浮かベて、深いため息を溢す。
「毎回、お姉にメモ帳を渡しても無くすから意味ないとかいって、本当に悪魔!」
帰ったら妹に徹底対抗しようと決意した時、周りが騒がしいことに気付く。そして、自分自身が吹っ飛ばされた衝撃が来る。
「痛っ!?何す…えっ?」
タックルしてきた相手に文句を言おうとしたら、血だらけで地面に倒れていた。認識した瞬間、身体は強ばり、思考は混乱し、救急車を呼ぶという手段が取れなくなる。
そんな固まっている由香里の端を抜けて、近くにいた女性が応急手当てを始める。
「心臓は動いている。全身から血が出ているから酷い場所は止血して。後は安全な場所に…ダメ、頭を打っているなら動かさない方が良い。ねえ清潔な布は持ってる?」
由香里は声を掛けられたのに反応が出来ない。身体が現実を拒否する。
「はあ〜、あなたのタオル勝手に借りるから。早く救急車ぐらい読んで!」
「あっ…はい」
落ち着いて由香里のタオルを取って、止血を始める女性がどこか非現実で…それでも自分自身が何かをしなければいけないことは分かったから、救急車を震える声で呼ぶ。
自立的に動くことが出来ない自分自身を悔やみながら…。
「お姉聞いてる?お姉!」
由香里の肩を掴みながら妹の呼ぶ声が聞こえる。それにより、過去を思い出していた由香里は現実に戻る。
「あっ、ごめん。考え込んでいたみたい」
「やっぱり、お姉は天然。まあ…頑張れば。知らないけど」
「知らないってなに!?」
由香里は今日話しかけた男性の影が頭から離れないまま、いつもの日常を送る。彼が連絡をくれるといいなと思いながら。
登場キャラ 走り書き
・伊藤 慎二
名前が出てこなかった主人公。
21歳の大学生。
黒髪、黒目の中肉中背。
趣味は映画鑑賞で、事件前は1ヶ月に6回は映画館に通っていた。
事件後は顔が認識出来ない分、全体の雰囲気を見て判断する力を養った。
身長 165センチ
体重 60キロ
・川村 由香里
居酒屋の姉妹娘の姉の方。
20歳の大学生。
ヒロイン??天然??
見た目は青髪、青目。
友人関係は広く浅く。
自分自身の胸の大きさを気にしていたりする。
彼女が無くしたメモ帳は数知れない。ある奥様によると、毎日なくしてるとかなんとか…。
ケーキの考案が彼女がしている。いわゆるアイデアが超越している人。
・川村 葵
居酒屋の姉妹娘の妹の方。
18歳の高校生。
毒舌。裏表がない性格からか、意外にも友人は多い。
見た目は青髪、青目。
何処がとは言わないが、姉より小さいことを気にしている。
彼女が歩くと、野良猫がついてきて軍隊のように行進するという…猫好きな紳士淑女は彼女を探すと良いかもしれない。
・主人公を応急処置した女性。
そのうち出てくるかも??