「停電…………ですか?」
「予備通知はしてあるじゃろ?」
学園長の言葉に数秒思考し、そう言えば、とそれを思い出す。
確かに一週間くらい前から通知はあった。その日どうやって本を読もうか考え、灯りを買いにいけばクラスメートたちも大勢いて驚いた覚えがある。
「問題はエヴァをこの地に縛る封印と魔力の封印が別々で、魔力の封印は電力を使っとることじゃ」
「二重の封印? でもマクダウェルさんにそれを知った様子は無かった……?」
「エヴァは昔ナギのやつが連れてきてな、本当は三年で封印を解く約束じゃったんじゃ、ただ本人たちはそのつもりでも周りがそれを許さん、今はどうあれ、過去のエヴァは危険な存在には違い無かったからのう。エヴァを討つべきだという魔法先生を抑えるためにその魔力を封印したのじゃ」
学園長と高畑先生を見ていると、上も上で、下は下で大変なのだと思わされる。
そして相変わらずの魔法使いの底の浅さも聞いていて嫌になる。
私自身、学園長と高畑先生がいなかったら学園と敵対していたかもしれない。
私は魔法使いが嫌いだ…………けれど、教師としてのあの人たちを否定するわけではない。
実際、普段は極普通の教員たちなのだ…………ただ、魔法使いとしての思想が大本の都合の良いように歪められているだけで。
「魔法使いの間のいざこざはどうでもいいんですよ…………私が聞いても仕方の無いことですし。今はマクダウェルさんについて話してください」
私の軌道修正を促す言葉に学園長が、すまんすまん、と笑いながら続ける。
「電力自体は問題ないのじゃ、封印の結界を維持するための予備電源があるからの…………ただ、停電の間、予備電源と結界維持を管理するシステムを守るための防壁が丸裸になる。エヴァ一人なら問題無かったんじゃが、今は絡繰君が居るからのう」
「なるほど。つまり、停電の日にマクダウェルさんが魔力を取り戻す可能性が高い…………と?」
私の確認のような問いに、学園長が頷く。
なるほど…………先に話して置いてもらって助かった。
時期が正確に分かるのは助かる。
「まあそれも全部、エヴァが気づいていたら…………の話じゃがな」
「気づいていますよ」
密かにスタンドで監視は現在も続行中だ。
だからこそ相手陣営の作戦は丸分かりする。
そして話していた内容からすでに気づいている、と容易に推察できる。
「と言う話があったのが数日前です」
「それボク聞いていないんですけど」
ジト目でこちらを見てくるネギ先生の視線を流しながら、眼前の敵を見る。
「…………言ったよな? 『今度また邪魔をするならお前も叩きのめすだけだ』と」
感情を窺わせない瞳でこちらを見つめてくるマクダウェルさん、その隣には最初から茶々丸さんもいる。
「仮契約主ですから」
その一言で、マクダウェルさんの怒気が強まる。
それと同時、魔力の高まり…………目に見て取れるほどの魔力の奔流。
隣のネギ先生を見ると、驚いてはいたが、震えてはいない。
「ネギ先生………………大丈夫ですから」
そう呟く私に、はい、と笑顔で頷く先生。
その表情に怯えは無い…………行ける。
そう確信すると同時、叫ぶ。
「“Bad apple”!!!」
来た。
見えはしないが、そう確信する。
あの感知不可能の攻撃が迫ってきている。
「茶々丸!」
自身が従者に命令をすると、自身も魔法の詠唱に入る。
茶々丸は優秀な前衛だ。そう簡単に抜かれるはずも無い。
本当なら半吸血鬼化させたクラスメートたちでも嗾けてやろうかと思っていたが、宮崎が先手を打って魔法先生を配置されていたので、使えそうなのは以前吸血した佐々木まき絵くらいだ。
その佐々木まき絵もすでに術を施され、いつの間にか使えなくなっていた。
あの坊やにそんな知恵があるとも思えない、つまり全て宮崎の入れ知恵。
もしもこの前の満月に後悔することがあるとすれば…………宮崎のどかの前で余裕を見せて姿を現したことだろう。
一撃に全てを込め、全力で攻撃すれば人間でしかない宮崎はどうしようも無かったはずだし、そもそも姿を見せなければ邪魔されることなく坊やを襲えたかもしれない。
けれど今さらそんなことを呟こうと、後の祭り。
「今日の私は全力だ…………精々死なないように足掻け!」
そう言って嗤い…………会戦の号砲を上げる魔法を唱える。
「リク・ラク ラ・ラック ライラック」
「
空中戦では使えない、地表から氷柱を飛び出させ攻撃する魔法だが、ここは橋の上だ、横幅の決まった地形故にこの魔法は最大限の威力を発揮できる。
坊やから果たし状を受け取った時は罠でもしかけてあるのかと思ったが、地形と言い時間と言い、こちらに都合の良いものばかり…………結界外に近いのが難点と言えば難点で、逃げられれば追いかけれないのが問題ではあるが。
「さあ…………これで逃げ場は無くなったぞ」
背後から飛び出る鋭利な氷柱に歯をかみ締める坊や。飛べば逃げれるが、今の坊やの力量で飛びながらたいした魔法が使えるとも思えない。つまり良い的である上に、停電で周囲一体真っ暗だ…………この状況で飛ぶにはかなりの神経がいるだろう。
これで坊やに逃げられる心配は無くなった…………根絶したわけではないが、簡単には逃げられない。そもそも逃亡を許す私ではない。
だが問題は宮崎のどか…………当てれるかと思って試しに魔法で狙ってみたが、下から生える氷柱をあっさりと避けた。やはりあいつが最大の敵か。
次の魔法を詠唱しながら、私は茶々丸とやつとの戦いを見た。
右、右…………もう一度右、と見せかけて左。
茶々丸さんが放ってくる拳をスタンドで捌きつつ、ネギ先生の様子を見る。
「ラス・テル マ・スキル マギステル」
詠唱を始めたネギ先生を見て茶々丸さんの攻撃の苛烈さを増すが精密なスタンド操作で全て防ぐ。
茶々丸さんはスタンドに触れることは出来ない故の一貫したネギ先生を狙った攻撃が逆にやり辛いがそれでも捌く。
高畑先生との特訓の成果がこんなところで現われるとは思っても見なかったが。
それもまた良し、と笑う。振り上げられた足を“Bad apple”の持っている短剣の柄で落とし、逆にその足を掴もうとした時にはすでに足は降りて、下からのアッパー。
それを避けている時に見えたのはマクダウェルさんの詠唱する姿。だが茶々丸さんがその視線に気づき、その攻勢をさらに強め、こちらは手一杯だ。
もうすぐネギ先生の詠唱が終わる。あと少し…………そう思ったのが悪かったのか。単に茶々丸さんに私の理解を超えたギミックが搭載されていたからなのか、その右手が飛ぶのを…………そのロケットパンチに一瞬反応が遅れる。
飛んでいく右手…………ネギ先生は詠唱に集中して気づいていない。今から防ごうにももう遅い…………茶々丸さんの目がそう語って。
「“Bad apple”!!!」
私の声が響く。
そして。
「
ネギ先生の魔法が完成し、その右手から雷を纏った嵐が吹き荒れる。
そして、茶々丸さんの右手は……………………私のスタンドが掴んでいた。
「
数瞬遅れて、マクダウェルさんの魔法が完成する。
ぶつかり合う白と黒の衝撃が二人の間でせめぎあう。
先に撃ったネギ先生のほうがやや優勢かに見えるが、地力が圧倒的にマクダウェルさんが上だけあって、このままでは負ける。
だから…………そう、だから。
「今です!」
私の声に従い…………。
「合点で!」
「なっ?!」
驚くマクダウェルさんを置き去りに…………。
その下着を盗んで逃げた。
「…………は?」
「なっ!?」
「あ…………」
「…………へくしゅ」
呆然とする私、驚くマクダウェルさん、目を丸くする茶々丸さん、そしてくしゃみをした途端に魔法の威力が増大するネギ先生。
「な、なあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」
それは、オコジョのせいで集中の途切れたマクダウェルさんの魔法をあっさりと飲み込み。
その
「あ………………」
やっちまった、みたいな顔のネギ先生に。
「何か言い残すことはありますか?」
笑顔の私。
「それでもボクは悪くない!」
「“Bad apple”この女の敵を討って!!」
つまりそんな落ちだった。
1R1分25秒、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……KO。
多分、次辺り、のどかとカモのスタンドについて詳細が分かる気がする。