こっから原作開始です。
「今日からこの学校でまほ……英語を教えることになりましたネギ・スプリングフィールドです。3学期の間だけですけどよろしくお願いします」
現われたのは一人の少年。どう見ても自身よりも年下の男の子。
ていうか今、普通に魔法って言いかけたよね。それにさっきも入る時に障壁張ってたし。
聞いた話によれば魔法は秘匿されるべきものらしいんだけど…………。
「大丈夫なのかな…………」
やや不安気に呟いた自身の言葉が、けれどいつでも賑やかなクラスメートたちの嬌声にかき消された。
本当に大丈夫なのかな、この先生。
今日一日で起こった学級崩壊寸前の授業風景を思い出しながら、私、宮崎のどかは内心呟く。
アレをフォローしないとダメなのか…………。
了承しておいてなんだが、その内容の想像以上の難易度に、軽く頭痛すら覚える。
「今さらですけど…………あの頼みごと無かったことにできませんか?」
思わずそんな弱音を吐いてしまうが、目の前にる人物、麻帆良学園のデスメガネこと高畑・T・タカミチ先生はあっさりと却下する。
「あなたには多少なりとも借りがあるので引き受けましたけど…………あまりにもひどいようなら私は降ります」
「僕としては君に降りられるのは非常に困るんだけどね」
困惑した表情で頬をかきながらそう言う高畑先生。けれどそれこそ私の関知する所では無い。
「そちら側のことは原則そちら側だけで対処する…………それがあなたたちと私との約束だったはずですが?」
私のジト目にけれど慌てた様子も無く、分かっている、と答える。
「と言ってもこちらとしても今回のネギ先生の修行は予定外だったんだ。僕としてはアスナ君と極力会わせたくは無かったんだ。学園長も賛同してくれていた…………けれど上はそうではなかったようでね、無理矢理に捻じ込まれたせいで僕たち関係者は一般への処理に多忙を極めていてどうにも手が足りないんだ…………」
だからこそ、猫の手でも借りたい状況なのだと、そんなことを言う。
「わざわざA組に入れるだなんて、その上と言うのは私たちに従者にでもなれとでも言うんですか?」
私の言葉に高畑先生がぐっと拳を握り、悔しそうに歯を食い締める。
「次代を担う英雄の誕生のためなら…………そういう考えらしいね」
気に食わないけれど、と冷めたような視線で遠くを見る先生に、私は溜め息を吐く。
「組織と言うのは大変そうですね…………けど」
その大変さは理解できる、先生が頑張っていることも知っているし、私たちをちゃんと考えてくれることも分かっているし、誰かを助けたいというその思いは共感できる。
けれど。
「私の親友たちにまで手が及ぶようなら…………止めます」
高畑先生の大事な人らしいので、手は出さないが間接的にでも止める。
戦わなければ何も得ない。
この日常を守るためなら、私はいくらでもその手を血に染めよう。
「ああ…………君がそういう人間なのは分かっている。もしそんな事態になるなら止めてくれも構わない。少なくとも僕は、彼女たちには平穏に過ごしてい欲しいと思っている」
それは元担任としての責務なのか、それとも教師としての思いなのか。
それとも…………その『彼女たち』の中に神楽坂明日菜が入っているから故なのか。
それは知らない。
「今さらですが、人払いは?」
「勿論やっている…………まあ学園長はこの会話を聞いているかもしれないけれど」
「まああの人なら良いです」
結局、こうして高畑先生と会話していても最終的にはどうせ学園長の耳にも入るのだから。
「とにかく、もうしばらく頑張ってみてくれないかい?」
「………………分かりました」
渋々ながら頷く。奇しくも、それは私の目的とも一致するのだから、元より否定する理由が無い。
けれど、さすがに初日だということを差し引いてもあの有様はひどい。
思わず辞退を申し出る程度には。
「頼んだよ…………? エヴァがどうにも妙な動きを見せている。僕がずっとこの学園にいられたらいいんだけど」
この人がいつも出張ばかりでろくに学園にいられないことは分かっている。
「マクダウェルさんですか…………そちらでは有名な人らしいですね」
「根はいい子なんだけどね…………」
詳しい事情は聞いていないが、教室で見る限り、理知的な印象を受ける人だ。
同じクラスメートの絡繰さんと常に一緒に行動していること、絡繰さんが彼女を『マスター』と呼んでいることから考えて、あの二人が主従である可能性が非常に高い。
「と、なると…………人手がちょっと足りないかも」
どちから片方なら監視することもできるのだが…………。
「恐らくエヴァが行動するとしたら満月の夜だけだろうから、その日を重点的にお願いできるかな?」
満月…………まるで吸血鬼か狼男のようですね、と言うと高畑先生が、ははは……と乾いた笑いを返す。
察するものはあったが、あえて黙認する。深入りはせず、深入りさせない。それが私と彼らとの約束だから。
「っと、そろそろ会議の時間だ、先に失礼するけど…………くれぐれも頼んだよ」
さらに念押しして、高畑先生が歩いていく。
「そう言えば、図書館に本を運ばないと…………」
自身もやるべきことを思い出し、足を動かす。
満月はまだ遠い…………が。
「頼んだよ? “Bad apple”」
虚空に向かって呟くと、風が頬を一撫でする。
そのまま何事も無かったように歩きだすと、後には何も残らなかった。