明けて翌日。
朝から宴会の体をなしているような乱痴気騒ぎな朝食の場で私は、木乃香さんに追いまわされる刹那さん(昨日のうちに名前で良いと本人に言われたので)を見ながらエヴァンジェリンさんと話していた。
「ふん、あの桜咲刹那は随分と様変わりしたな」
いつもクールな印象だっただけに、今木乃香さんから逃げている刹那さんの姿をクラスメートたちも不思議そうな顔で見ていた。
「昨日、木乃香さんを無事な姿を見て、感極まって抱きついたらしいですよ。そしたら木乃香さんが仲直りのチャンスだ、とか言って朝からあの様子です」
私の言葉にくすくす、と苦笑を漏らすエヴァンジェリンさん。
さて…………余談はここまでにして、本題に入ることにする。
「昨日の戦闘の話しになりますが、こっちは犬上小太郎と名乗る少年が一人です。戦い方を見ている限り、陰陽師としての力も幾分かはあるようでしたけど、どちらかと言うと戦士タイプですね…………ただ、スタンド使いらしく、能力が面倒です」
スタンドの概要については以前に説明したので、今回は省いておく。
「一定範囲を空間ごと隔離されました…………私のスタンドはたまたまその範囲外にいましたが、スタンドを呼び戻せませんでした…………感覚の共有はできたので、完全に繋がりが途絶えたわけではないようですけど、少なくともあれは遠隔操作型のスタンド使いにはかなり鬼門です」
その他気づいた細かいことをいくつか伝え、エヴァンジェリンさんがそれに頷く。
そして私が話し終えると、エヴァンジェリンさんも昨日戦った相手について語り始める。
「こっちは名前は知らんが、眼鏡の女だったな…………どうやらそっちと違って完全に術者タイプの人間らしい。基本的に式神とか言ったか、それを召喚して戦わせていた。本人はそれほど強くも無いな、あれは…………ただ」
言葉を濁すエヴァンジェリンさん。そのことに首を傾げつつ、言葉の先を促す。
「方法は分からんが…………時折、私が放った魔法がその女の目の前で防がれた。中にはそれなりの実力の者であっても防げんくらいに強いやつもあったんだが、それすらあっさり無効化された…………が、その方法が分からん」
お前らの言うスタンドとか言うやつじゃないのか、と言う問いに、思考を巡らせて見る。
たしかに有り得ると言えば有り得る。少なくともエヴァンジェリンさんが魔法では無い、と断定している以上私はその可能性は排除していいと思っている…………こと魔法に関しては素人の私よりも圧倒的に詳しいはずだから。
だとするとたしかにスタンド能力の可能性は高い。特にスタンド能力は、時に魔法を超越することだってある。
と、言うか。
根本的に相容れないらしい…………魔法とスタンドは。
魔法は技能だ…………一定の法則があって、その法則下の創意工夫によって作られる。
だが、スタンドはその法則を完全に無視して動く。
物理法則にも魔法法則にも関わり無く世界に干渉を起す…………それがスタンドの最大の強みなのかもしれない。
だからエヴァンジェリンさんの魔法をあっさりと防いだというそれは、スタンドの可能性は高い。
だが決定的なわけでもない。世の中全てが魔法とスタンドで回っているわけではないのだから。
個人的に麻帆良の魔法使いに足りてないのは、その自覚だと思っている。
「可能性は十分にあります」
何より、仲間であろう犬上小太郎がスタンド使いであることがその可能性に拍車をかける。
「だとするなら、能力は防御系でしょうか」
いや、それ以前に。
「この間、私と戦った時みたいに、いきなり攻撃された、とかは無いですか?」
もしスタンド使いなら有り得る可能性だから聞いてみたが。
「いや、無かったな…………基本的に陰陽術しか使ってこなかった。唯一分からんのがさっきも言った防御方法だ」
と、なると…………もしスタンド使いならあまり戦闘向きではないのかもしれない。
だとするなら、そんな防御系の能力が芽生えるだろうか?
「下手の考え休むに似たり…………ですね」
しばらく考えてみたが、取りあえず、防御にも使える能力を持っている、と言うこと以上の情報は出ないだろう。
だったら、しばらくは様子を見るしかない。
「そう言えば…………昨夜ぼーやはどうしていたんだ?」
ふと、エヴァンジェリンさんがそんなことを尋ねるので、朝食前に聞いておいたことを伝える。
「外周りをしていたらしいです…………まあ教師ですから仕方ありませんね」
夜に旅館を抜け出している生徒がいないか、そう言った外周りの仕事が教師にはあるらしく、ネギ先生はそれをしていたらしい。
「ただ、収穫はあったようですよ」
曰く、白い髪の少年に襲われた。
「本人の印象だと、以前の魔力全開のエヴァンジェリンさんと同じかそれ以上に強かった、と言っていました」
そう伝えると、エヴァンジェリンさんが不審そうな顔で。
「そんな相手がそうそういるのか、と言う疑問は置いておいて、そんなの相手に良く戻ってこれたな、ぼーやは」
「そうですね………………ある程度戦ったら退いた、と言っていましたから、恐らくやつらの仲間でしょうね」
「前途多難だな…………しかしそれにしては機嫌が良さそうだな、宮崎」
表情に出ていたのか、私の顔を見てそう呟くエヴァンジェリンさん。
それはきっと…………今朝の問いのせいだろうな、と内心呟く。
もし戦いが続いていたら…………どうなっていただろうか?
そう尋ねた私にネギ先生は。
逃げます…………それから今度は勝ちます。
そう言った。
走り続けなければ追い抜かれる。
上を目指さなければ、より上に蹴り落とされる。
だから走り続ける、上へと登り続ける。
宮崎のどかの根幹にあるその精神にとって。
その言葉は……………………。
ただ、それをエヴァンジェリンさんに伝えることなく。
「内緒です」
そう言って私は苦笑した。
「スタンド使いの嬢ちゃんが一人、護衛の剣士が一人…………それから西洋魔法使いのガキが一人に、恐ろしゅう強い子供が一人…………最後の一人以外はどうにでもなる戦力やな」
眼鏡の女、天ヶ崎千草がそう呟く。
今日の襲撃では目的の近衛木乃香を誘拐することは出来なかった…………が、千草の目に失意の色は無い。
元々がただの威力偵察のようなものだったのだ。
近衛木乃香の傍にいつもいる剣士と言う分かっている相手側の戦力を小太郎で排除…………そうやってこちら側の知らない戦力を引きずり出して、計画のズレを修正するためのただの威力偵察、それが昨日の襲撃だった。
まあ小太郎の側にスタンド使いが一人隔離されたことと、残った戦力がとんでもない相手だったことは、予想外ではあったが。
昨日の様子からして、あの四人が向こう側の戦力の全てと考えてよいだろう。相対するこちらもちょうど四人。
つまり、誰か一人が二人相手すれば近衛木乃香の傍に護衛はいなくなると考えて良い。
「計画に狂いは無い…………このままいくで」
千草が嗤い、そう言い放つと、その場にいた三人も頷く。
「ならさっそく今日………………ん? なんや」
電話の音。それが自身の携帯だと気づくと、千草は携帯を取り出し通話ボタンを押す。
「もしもし? なんや、あんさんかいな………………はぁ? なんやて?」
怪訝な表情の千草、そして雲行きの怪しい会話に、残る三人がじっと千草を見つめる。
「…………っち、しゃあない。分かりましたわ、では後ほど、よろしゅうに」
ピッ、と携帯を切る音。同時に舌打ち。
携帯を仕舞った千草が、予定変更や、と告げる。
「今日は動かれへんようになった。たく、しょうも無いことで呼び出さんといて欲しいわ。追って連絡するさかい、解散や」
そう言ってとっとと歩き出す千草の後姿を見て。
残りの三人もそれぞれ動き出した。
もしかすると、明日から二日に一回更新になるかもしれません。