アグレッシブな本屋ちゃんは嫌いですか?   作:水代

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三日かかったことをお詫びし、腹を切ります…………南無三。


二十話 修学旅行二日目中編

 修学旅行二日目、奈良公園や東大寺と言った名所を回る今日は、自由行動が許されている。

「…………と言うわけですから、刹那さんは今日一日木乃香さんと一緒です」

「おおきにな、のどか」

「そんな殺生なぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 と言うわけで、私は夕映とハルナたちと一緒に回ることにし、木乃香さんには刹那さんを差し出しておいた。

 縄でグルグル巻きにしておいたので、さすがの刹那さんでも逃げ出せないだろう。

 と言うか、木乃香さんは刹那さんのそんな状態に対するツッコミは一切無しで縄の端を持って楽しそうに引っ張って行ったが…………まあ木乃香さんだし、と自分を納得させる。

 

「いや、納得しちゃダメでしょ、本屋ちゃん」

 どこか遠くでそんな神楽坂さんの声が聞こえた気がするが、多分気のせいだと言うことにして夕映たちと三人で今日の予定を立てていた私だった。

 

 

 

 

 

 桜咲刹那は神鳴流剣士の端くれだ。

 その実力は、麻帆良の中にあっても一角のものであり、木乃香の護衛を任されたのも、それが一つの理由である。

 近衛木乃香は幼馴染だ。幼い頃から仲が良く、よく共に遊んでいたが、とある一件から疎遠となってしまったが、その友情は健在であり、刹那が木乃香の護衛となった最大の理由はコレではないか、と考えている。

 理由はどうあれ、桜咲刹那は幼馴染であり、最も大事な友人、近衛木乃香の護衛だ。

 護衛となれば当然その傍で守り続けなければならない…………のだが。

 

 桜咲刹那は溜め息を吐く。

 修学旅行も二日目…………初日は木乃香お嬢様も楽しんでおられたようで一安心と言ったところ。

 だったのだが。

 その夜に敵襲。それを退け、慌ててお嬢様の無事を確認した時、感極まってしまい、ついついお嬢様を抱きしめてしまったのだ。

 勿論すぐにはっとなって頭を下げたのだが…………どうにもそれ以来、お嬢様がアクティブになってしまった。

 朝食の場ではお盆を持ったまま追いかけられ(逃げるから)、今日の自由行動を共にと言うお嬢様に追いかけられ(逃げるから)、最終的に宮崎さんには縛られ、お嬢様に引き渡された(何度も言うが逃げるから)。

 まあ多分、一番の原因は抱きしめた時に思わず昔の呼び方をしてしまったことなのだろうけれど。

 

「宮崎さんの裏切り者」

 思わず呟いてしまったが、宮崎さんは最初からお嬢様との復縁(要するに仲直り)を望んでおり、私のスタンスに反対していたので、別に裏切ったわけではないのだが、それでも言わずにはいられない。

「せっちゃん」

 お嬢様が私の名を呼ぶ。その度に、嬉しさと怖さが湧き出る。

 まだ昔の頃のように名前を呼んでもらえる嬉しさと…………。

 昔のようにまだ守りきれないかもしれない怖さが。

 結局自身がお嬢様を避ける理由は一つ。

 

 過去の負い目なのだから。

 

 

 午前中積極的にこちらへアプローチをかけるお嬢様を躱しながら周囲の警戒を緩めない。

 宮崎さんは宮崎さんでネギ先生の手助けもあるらしく、何かと忙しそうにしていた。

 宮崎さんは表面上何事も無いかのように友人たちと交友しつつ、その裏でいくつもの案件を片付けている。

 そしてそれを決して友人たちには悟らせない。

 さすがとしか言ったところか。自身と同等の実力を持ちながら、宮崎さんの力の本質は単純な暴力ではない。

 この修学旅行期間中、彼女が護衛であることでどれほど安心を得られただろうか。

 もし彼女がいなければ、私は最悪の場合、ネギ先生と二人でお嬢様の周囲を警戒しなければならなかったかもしれない。

 それはさておき、そろそろ昼になる。お嬢様たちは午後からは大仏殿を回る予定らしい。

 夕方には嵐山の旅館に帰るので自由時間はあと三時間ほど、と言ったところだろうか。

 今日くらい平穏無事に終わって欲しいものだ。

 

「好きです。ネギ先生」

 

 ……………………………………え?

 

 

 

 朝から夕映たちと奈良公園や大仏殿を回って、昼過ぎ。

 何故か夕映とハルナがいつの間にか誘っていたネギ先生と共に行動していたのだが、いつの間にか夕映とハルナがいなくなっていた。

「ゆえたちとはぐれちゃいましたね」

 そう言って隣で串に刺さった団子と格闘しているネギ先生を見て苦笑する。

「すみません、僕があちこち見て回ったせいで」

 団子を食べる手を止め、そう言って申し訳なさそうな表情で頭を下げるネギ先生。

「まあ同じ日本人でも物珍しい場所ですから、ましてや外国人のネギ先生なら仕方ないですよ」

 実際、奈良公園で鹿と戯れている時はともかく、正直、イギリス人のネギ先生に大仏殿ってどうなんだろう? と思わなくも無かったが、遠目にエヴァンジェリンさんが茶々丸さんとテンション最大ではしゃいでいる様子を見て、ああ言う人もいるのか、と少しだけ認識を改めた。

 

「それにしても大仏大きかったですね」

 見上げるほどに大きさその大仏の大きさに圧倒されていたネギ先生がその時のことを思い出して呟く。

 存在自体は授業で習っていたが、実物はまさしく圧巻の一言に尽きた。

 大仏の鼻の穴と同じ大きさだという柱も潜ったが、お尻が少しつっかえて、麻帆良に帰ってからのダイエットを心がけたことは誰にも秘密だ。

「宮崎さん」

 そんな時、ふとネギ先生が私の名を呼ぶ。

 なんでしょう? と言う私の返しに、ネギ先生は意を決したような表情で。

 

「明日の自由行動の時間、僕に付き合ってもらえないでしょうか?」

「いいですよ」

「そうですよね…………ダメに決まって………………………………え?」

 私の答えに驚くネギ先生…………最初から諦めているなら聞かなければ良いのに、と思ったりもする。

「明日が最後のチャンスですから、ネギ先生は密書を届けに行くんですよね?」

 何故そのことを、みたいな表情で私を見るネギ先生。

 まあ密書のこと自体は学園長から聞いているし、そのフォローも頼まれた。成功報酬だが報酬もあるし、昨日の襲撃のことも気になる。全部纏めて考えると、損は無い。

「けど…………いいんですか?」

 何が? と問うと、恐る恐ると言った様子で。

「宮崎さんが手を貸してくれるのはエヴァンジェリンさんの時だけみたいなことを言っていたので」

「ああ…………そのことですか」

 正直、もうネギ先生に手を貸す理由も無い。この間の一件で高畑先生への義理も果たしたことだし。

 ただ今回に限っては、学園長からの依頼もあり、もう少し助力を続けることになっている。

 その旨をネギ先生に伝える。

 ついでに言えば………………少し、そうほんの少しだけ。

 

 ネギ先生を助けてあげても良いと思い始めている自分がいた。

 

 普段はまさしく年相応の子供でしかないが、時々…………そう、覚悟を決めた時のその瞳は、普段の雰囲気を全て払うような決意を秘めた確固たる意思のある目をする。

 その瞳は、激しく自身の心を掻き立てる。

「まさしく将来に期待…………ですね」

 ネギ先生に聞こえないくらいの小声で呟く。

 もしももっと多くの経験を積めば……………………この先生は、化けるかもしれない。

 そう思うと、こんなところで駄目にするのは勿体無い、そんなことを思ってしまうのだ。

「さて…………これからどうしますか? 宮崎さん」

 簡素ながら食事を終え、店を出るネギ先生が私に問う。

 まずは夕映やハルナたちを探すのが先決だが…………。

「のどか、でいいですよ、ネギ先生」

 

 

 

 信頼と言うのは大事だと宮崎のどかは考える。

 特に今日明日にも敵が攻めてくるかもしれないこの状況で、信じられない味方など敵以上に厄介だ。

 いざと言う時の信頼関係は、時に実力以上のものを発揮させ、時に背後を警戒させる。

「つまり今結束を高めるために、名前で呼びましょう」

 何が言いたいかと言うと、つまりいい加減、知らぬ仲でもあるまいし、宮崎さんと言う呼び方はどうだろうと思ったので何かに理屈をつけて名前で呼ばせようとしているだけだ。

 大して意味があるわけでもないのだが、全く意味が無いかと言われればそうでもない。

 自身がマクダウェルさんをエヴァンジェリンさんと呼ぶように、桜咲さんを刹那さんと呼ぶように。

 下の名前で呼ぶという行為はある程度の親密さが無いと簡単にはできないことだ(ネギ先生はみんな親しみを込めて下の名前で呼んでいるが)。それは無意識的なものであっても、信頼と言うものに繋がるものだ。

 

「の…………のど…………宮崎さん」

 だと言うのに何だろうこのシャイボーイ振りは。

 女の子の下の名前すら呼べないなんて、将来女の子に告白でもされたらどうするつもりなのだろう。

 それを言うと、ネギ先生に子供っぽく「むぅ」と頬を膨らませ。

「僕は英国紳士ですから、その時はちゃんと対応しますよ」

 そんなことを言うので。

 

「好きです。ネギ先生」

 

 ちょうど周囲に人のいない、公園の端で。

 私は…………そう言って先生をからかった。

 




初めての刹那さん視点。二日目は刹那さん中心にもう一波乱起す予定だが、所詮予定は未定。
ネギ先生が素直に名前で呼べないのは本屋ちゃんだけなのだということには、本屋ちゃん自身が気づいていない罠。
のどか姐さんだってまだ14,5の子供ですし、仕方ないと言えば仕方ない。

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