アグレッシブな本屋ちゃんは嫌いですか?   作:水代

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今回少し短いかもしれないです。


二十二話 修学旅行三日目 前編

 

 あ、ありのまま昨日起こったことを話すと、神楽坂さんとネギ先生が仮契約した。

 私自身何を言っているのか分からない。

 

 とまあ冗談はさておき、昨日行なわれた…………何だったっけ?

 あ、思い出した。ラブラブキッス大作戦…………何か恥ずかしい。

 優勝者は神楽坂さんでした。

 木乃香さんの付き添いで行っただけなのに足元に転がった枕に気づかず転びそうになって、持ち前の身体能力で体勢を立て直したところにちょうどネギ先生がいてキスした…………ってどんなタイミングなんだろうか。

 問題は…………そう、問題はあのオコジョが仮契約の魔法陣を敷いていたこと。

 そのキスのせいで神楽坂さんはネギ先生と仮契約することに。

 

「…………あれはノーカン、あれはノーカン、あれはノーカン」

 十歳の子供だからあれはキスにならない、と自己暗示を続ける神楽坂さん。

 視線を反らし気まずそうなネギ先生と溜め息を付く私。

 五班に割り振られた部屋で朝食へと先に言った三人を差し引いた私たち二人とネギ先生の一人が室内にいた。

 因みに現況のオコジョ妖精は吊るしておいた。なんでも朝倉さんと共謀(いつの間に関係者になったのかと思ったらネギ先生が知らない間に自爆していた)していたようだが、そっちは新田先生にしっかり絞られたようなので後回しで良いだろう。

 さて、どうしようか、と考えてみる。

 

 不味いのはネギ先生と契約してしまった、と言うこと。

 これで神楽坂さんは完全に魔法関係者として扱われる。

 現状考えられる行動は主に二つ。

 

 一つは神楽坂さんの仮契約を破棄する。

 仮契約は仮と名の付くだけあって、ある程度自由に契約及び破棄ができる。

 だったらこれが一番手っ取り早いかもしれないが。

 内心、これは悪手かもしれないと思っている。

 神楽坂さんが魔法関係者として扱われる、と先ほど言ったが…………。

 

 高畑先生が保護者、と言う時点で魔法関係者では無いと見るほうが難しい。

 

 また本人の様子から察するに、自身がそうであると気づいてない可能性が高く。

 だとするなら、それは隠されている、と言うことに他ならない。

 高畑先生が魔法なんて無縁な世界で生きていて欲しい、と願って遠ざけているのだとするなら私が考えるに可能性は二つ。

 一つは純粋な親心。確かに魔法は便利ではあるが、その分危険も多い。知らずに済むならそれに越したことは無い。

 ただ、もう一つ可能性がある。

 

 魔法関係者からその存在を隠すこと。

 

 不審な点はいくつもある。

 その最たるものが、高畑先生曰くの『魔法無効化能力』。魔法界でも希少なその能力を何故彼女が持っているのか。

 そしてそのことを知っている人間が麻帆良の中ですら極一部だけだということ。

 それから、左右で色の違う瞳はけれどどちらも日本人のソレではない。

 極めつけは、高畑先生が彼女を麻帆良に連れてくる以前の足取りがまるで分からないこと。

 私が調べた程度ならまだしも、千雨さんが調べて分からないと言うの尋常では無い。

 

 そうやって考えれば考えるほど彼女は後者の可能性が高く。

 だとするなら、麻帆良から切り離された現状、彼女はあまりにも無防備だ。

 麻帆良なら高畑先生を筆頭に、多くの魔法先生が影で守ってくれている。

 だが今は修学旅行中。同行する魔法先生はネギ先生を除けば一人だけ。

 その一人も基本的、クラスの人間の安全を優先するため彼女一人に気を配っていられないだろう。

 だとするなら…………。

 

 

 京都、シネマ村。

 私、桜咲刹那はその中にいた。

 と言っても自分から来たくて来たわけではない。

 昨日の敵…………月詠に白昼堂々町中で襲われ、お嬢様を抱えて逃げた先に来た。

 月詠…………昨日も戦った同じ神鳴流を収める少女。

 そして…………自身が負けた相手。

 

「っく…………!」

 思わず呻く。大丈夫なのだろうか、と言う不安が心の中で渦巻き、昨夜付けられた傷が痛み出す。

 おめおめと負けて帰ってきながら…………この体たらくで本当にお嬢様を守りきれるのか?

 ネギ先生も、宮崎さんも…………今はいないと言うのに。

 

 思い出すのは幼少の頃の後悔。

 川で溺れるお嬢様…………助けられなかった無力な自分。

 

 ギリィ、と歯を噛み締める。

 今度こそは…………絶対に。

 

 

「せっちゃんせっちゃん」

 思考に耽っているところにかけられた声にふと振り向く…………と、そこに着物姿のお嬢様が。

「その格好は?!」

「なんやあっちの更衣所で着物貸してくれるみたいえ。せっちゃんも着替えよ?」

「ちょ、お嬢様。わ、私は遠慮させてもら」

「ええやん、ええやん」

 お嬢様に腕を引かれ…………着せられたのは陣羽織に袴、腰に刀を差した侍の衣装。

 どう見ても男物なのだが…………暗にお嬢様に言ってみると。

「似合うとるで、せっちゃん」

 笑顔で返された…………まあいいのだが。

 狙われていると言うのに気づいていないのもあるが、どうにも空気が柔らかい。

 

 守らなければ。

 

 改めて決意する。

 絶対に…………絶対に守るのだと。

 

 

 

 月詠が現われたのは、ちょうどそんな時。

 パカラッ、パカラッ、と馬の足音が聞こえたと思うと。

 ガガガガガガー、と地を削りながら私たちの前で馬車が止まる。

 そこから降りてきたのは。

「どうもー。神鳴流です~…………じゃなかった、そこの剣士はん、借金のカタにお嬢様を譲り受けに来ましたえ~」

 昨日とは別の服装(向こうも衣装を借りたらしい)の月詠がそう言って降りてくる。

「こんなところで何のつもりだ……!」

 そう言って睨む私の袖を、お嬢様が少し引っ張り。

「せっちゃん、せっちゃん、これ劇やで、お芝居や」

 そう耳打ちする。

 シネマ村では突発的に客を巻き込んで芝居を始める、と言うことがある、と補足で説明される。

 …………なるほど、これなら衆人観衆の中でも関係無い。全部芝居、と言うことにすれば怪しまれない、と言うわけか。

 不意打ち気味では無くなったが、厄介なことには変わらない。

 

「そうはさせん、お嬢様は私が守る!」

 

 それは意気込み。決意、覚悟。

 ない交ぜになった全ての篭った言葉。

 そんな私の言葉にくすくすと笑い。

 

「ほな、仕方ありまへんな~」

 

 そう呟きながら右の手袋を外し。

「え~い」

 それを投げつけてくるので、掴み取る。

 目晦ましか、と一瞬思ったが見えている範囲で動く様子が無いのでそれも無いか、と思考を破棄する。

 

「このか様を賭けて決闘を申し込ませて頂きます…………三十分後、シネマ村正門横『日本橋』にて待ってます」

 

 そう言い残し、来た時と同じ馬車で去っていく月詠を見ながら、内心では失敗したと思っていた。

 やられた…………完全にやり込められた。

 これだけの観衆の中で告げられ、そして行かないと言う選択肢が無くなった。

 何よりお嬢様が劇だと思っており、行かないという選択肢を許してくれないだろう。

 あれはあなたを狙う刺客です。と言うのは簡単だが、それでは私がいる意味が無いし、信じてくれるかも分からない。

 お嬢様を巻き込まれた…………その時点で私はまた負けたのだ。

 

 




目算で修学旅行編だけで15話くらいとりそうだったので大幅にカットしてみました。
二次創作なんで原作どおりの展開に必ずしないといけないわけでも無いんですが、今回はそのほうが都合が良かったので原作沿いです。

一日一話はきつくなってきたのでご勘弁を。

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