へったくそな心理描写ですみません。
刹那に閃く三線の銀色。
キキン…………と言う金属音。
「これが三度目か…………お前と斬り合うのは」
「そうですなあ」
一度目はただ遊ばれるだけに終わった。
二度目は中途半端のままに終わった。
そして、三度目は……………………。
剣士としての腕前は互角だと思っている。だが獲物の相性が悪い。だからと言ってそれだけなら負ける気はしない。問題は月詠にあって自身には無い力…………即ち、スタンド能力。
だがそれも言い訳にもならない。勝てるか、勝てないか…………そんなこと問題ではない。
勝たなければならない。それだけの話だ。
一つ分かったことがある。
自身…………桜咲刹那はどうしようも無くバカだということ。
自分のこと、役目のこと、大事な人のこと…………色々なことがあって、けれどどれほど考えようともそれらに答えを出すことはできない。結果的に、考えすぎて自身は中途半端だった。
だから。
そう、だから。
自身のようなバカが考えたところできっと一生悩んでも答えは出ないのだろうから。
思考を止める。
ただ言われたことを果たす。
持ち主の意に従うだけの、一振りの刀と自身を化す。
そうした瞬間…………。
世界が変わった。
一閃。
真横に薙がれたその一撃は今までのどんな一撃よりも速く、そして力強かった。
「っと、今のは危なかったですぇ…………っ!!」
「……………………っ」
受け止めることより避けることを選択した月詠が少し間を離してその一撃を避けた…………瞬間に月詠への間を詰める。
距離を離すことはあっても詰めることはしなかった私の突然の挙動に虚を突かれた月詠だったが、すぐに短いほうの小太刀を振るい、私はそれを体を沈めるように右に傾けることで避ける。
それから傾けた体を捻り、その勢いで振り切った野太刀を振り上げる。
月詠の左手は先の攻撃で小太刀を振り切っており、さらに間を詰められているせいで今から下がったのでは回避は間に合わない。無傷で済まそうとするならいっそ私に密着してしまうのが一番だろう…………が。
最早受けることも避けることもできない凶刃が月詠に迫り。
「“オーエン・ソウエン”」
月詠がバックステップで距離を取ろうとする。けれど間に合わない、腹部が真っ二つになることは無いが、それでも腹が半分以上抉られる結果になるのは自明の理で。
けれど私の放った刃が切り裂いたのは地面。
何が起こったのか、恐らく相手のスタンド能力で届くはずの刃を捻じ曲げられた…………あの能力は自身の刃だけに適用されるものではない、と言うことだろう。それと密着してこないのは予想外と言えば予想外だった。
ああ…………それなら。
だが、それだけだ。避けられたなら次を出す。本当にそれだけの話なのだから。
振り上げられた刃とそれを持つ右腕。月詠は私より背が低い、ならば、そのまま月詠の頭へ肘を振り下ろす。
「それはもらえませんえ」
だがこんな分かりきった点での攻撃はあっさりと避けられる。そんなことは分かっていた。
だが関係無い、腕を下ろすとまるでそれはフェンシングのような構え方の状態、そしてそのまま…………腕を延ばし、野太刀で突きを出す。
「なっ!!!」
女の片腕で、それも野太刀で突き…………重さで斬線はぶれるだろう、狙ったところに当たらないかもしれない。
だが……………………効果は覿面だ。
肘鉄を避け、仰け反った不安定な体勢で狙いの定まっていない突き。
先も言ったが私と月詠の腕は互角。互いに精密機械のように狙った場所を攻撃し、そんな互いの狙いを読み合って防ぐ、そんな戦い方をしてきた。
だがそう言った水域にまで上がると、素人のような狙いの定まらない攻撃は逆に読めないことが往々にしてある。
そう言った時はそれまでに培った経験で対処するのだが、今の不安定な体勢でそれを発揮できるだろうか?
できるかもしれない、まともな精神状態なら。
以前にもあったが、神鳴流の太刀の技に突きは存在しない。
私がそう思い込んでいたように月詠も思い込んでいたに違い無い。
私が突きなど使うはずない、と。
結果。
「…………ふふ。うふふふふ」
右肩から血を流す月詠。それを淡々とした目で見ている私。
一矢報いはした…………少なくとも、一度目の借りは返した。
だから次は、二度目の決着と行こう。
そうして、刀を握る手に力を込め。
「あははは…………あはははは」
瞬間、月詠から漏れるおぞましいほどの殺気。どす黒く、歪で、心の底から怖気がする。
「あはははははははははは………………ええわあ」
その笑い声がピタリと止むと、残ったのは凄絶なほどの笑みを浮かべた月詠。
肩から滲む血を気にも止めず、ただ笑んで私を見つめる。
次の瞬間、視界から月詠が消え、瞬時に目の前に現われる。
「あはっ」
「くっ!」
咄嗟の判断で刀の柄で右の小太刀の一撃を弾いき、そのまま下がる。
視界から消えてから私の目の前に来るまでの僅か一瞬。それで三メートル以上の間を詰めた?
考えるのはさきほどの移動方法。一つ思い当たるのは…………。
「瞬動術…………」
それは一つの歩法。文字通り、瞬間的に移動する術。達人ともなれば刹那の間に数十メートルの距離を詰めることもできる。
一応私自身もできるが、月詠のそれは私よりもはるかに上の技術を持っている。
何せ、技の入りが全く分からなかった、互いに剣を使うこともあり、常に一メートル程度の間しか空けなかったからこそこれまで使ってこなかったのだろうが、これはかなりのプレッシャーだ。何せ近づき過ぎれば相手の間合い、遠すぎれば瞬動を使われる。
直線的にしか動けないのが欠点だが、その速度は並ではない。さきほどは体が反射的に動いたが次も大丈夫だという保証も無い。
だが瞬動は一度使えば三メートルは移動してしまう、単純に最速で静止してもそれだけ移動してしまうのだ。
つまり私の間合い二メートル付近の位置関係を保ち続ける必要がある。
「ほな…………今度はこちらからも行きますえ」
その言葉と共に月詠が突っ込んでくる。じぐざぐとした軌道、そしてさきほどとは段違いの速度。
瞬動ではない、あれを使ってこんな軌道を描くのは不可能だ。
つまり、月詠の実力にまだ一段底があった、と言うこと。
つまりそれは。
「くぅ!!」
同じだったはずの剣の腕前も均衡が崩れる。
さらに速度を増した月詠の剣にほとんどギリギリで受けている状況。
キンキンキン、断続的な金属音。その一撃一撃がさきほどよりも強く、そして速い。
元々二刀流と言うのはその手数の多さに重きを置いたもの、そして小太刀はその速さに重きを置いたものだ。
だからこそ、二刀流と小太刀を使いこなす人間は圧倒的な手数と速さで相手を倒せる。
元々人間など首元を軽く小太刀で斬れば、簡単に致命傷に至るほど脆弱なのだ、そこに力は必要ない。
神鳴流に必要なのは逆だ、少々の攻撃ではびくともしない悪鬼妖怪を調伏するための剛の剣。
だからこそこの相性は最悪だ。
妖怪を相手にするための剣と人間を殺すための剣。対人戦でどちらが強いかなど自明の理だった。
これだけ不利だと言うのに、月詠にはまだ切れる札がある。
それが。
「“オーエン・ソウエン”」
スタンド能力。
歪む高速の斬撃。野太刀をすり抜け飛来するその凶刃を。
「っく!」
袖の下から取り出した小太刀で受け止める。
止められたことが予想外だったのか、一度仕切り直しと言わんばかりに月詠が下がる。
追いかけねばならない、距離が離れれば瞬動で詰められる。
だが、体が動かない。一瞬も気が抜けない今のやり取りで、体中が疲れを訴えている。
「…………はぁ…………はぁ」
荒い息が口から漏れる。一呼吸が一呼吸が辛い。このまま太刀を放り投げて倒れ込みたい衝動に襲われる。
だがそれでも倒れることはできない。目の前の敵を倒さねばならない。
状況は絶望的。
スタンド能力対策に忍ばせた小太刀が役に立ったが、今のでネタも尽きた。
次に月詠がスタンド能力を使うなら、絶対に防げない必殺の時だろう。
今までもそうさせないように間合いを取り合っていた…………が、もう無理だ。
今の月詠は明らかに私より上の実力を持っている。
間合いは取られたまま、ろくな反撃もできていない。そして防ぐことすらそろそろ怪しくなってきた。
“逃げれば良い”
そんな声が心の中で聞こえた気がする。きっとそれは私の心の声。
“逃げてしまえば私は助かる”
だがお嬢様を見捨てることになる。
“たかが他人でしか無い人間に命を賭けるのか?”
他人? お嬢様が? 他人?
“違うのか?”
違う、違う、違う、違う!!! 断じてそれだけは違う!!!
“じゃあ私にとっての近衛木乃香とは何だ?”
私にとってお嬢様は…………このちゃんは。
そうして私は。
「命より大事な…………友達だ」
それを認める。
浅ましくて、醜い、私の本心。
「絶対に失くしたく無い…………ずっと傍に居て欲しい、大切な人なんだ」
“ふむ…………だがこのままではそれも叶わない”
全く持ってその通り。
“ではどうする?”
どうする? 決まっている。
「私は剣だ」
一振りの剣。
主を守るための剣。
主の敵を倒すための剣。
そして。
熱い…………全身が焦がされそうなほどに猛る炎が胸の中にある。
呼べ。
今こそその時だろう。
熱い。
呼べ。
その名を。
熱い!!!
呼べ!!!
「“レブナント”!!!」
迷いを振り切ってただ目の前の敵を倒すことだけに集中させたら前半みたいにスタンド無しで圧倒しちゃったので、後半月詠を強化。そしたら想定どおりの展開に。
ここまで引っ張っておいて次、のどか陣営の話やります。
ルート刹那はここで終了。
だって節約しないと修学旅行編だけで30話くらいやりそうだし。
まあちゃんとこの続きは後々書きます。