アグレッシブな本屋ちゃんは嫌いですか?   作:水代

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三十話 修学旅行三日目決戦 中編

 

 

 

「時間がありません…………このまま行きましょう」

 そう言った私の言葉にネギ先生と明日菜さんが待ったをかける。

「桜咲さんを待たないんですか?」

「桜咲さんは? 置いていくの?」

「携帯に電話をかけてみましたが、電源が落ちていました。多分今それどころじゃないんだと思います」

 基本的にすぐ連絡が取れるように互いに電源を入れっぱなしにするように話し合ったはずなのに通じない…………と言うことは携帯の電源が落ちた、もしくわ壊れたと考えるべきだろう。

 となれば、今まさに刹那さんのほうも襲撃中と考えるべき。

 それが分かったのか、ネギ先生が暗い顔で黙りこくる。

「だとするなら刹那さんのほうに一人敵が行っている………………下手すればもう刹那さんも敵の手にかかっているでしょうから行くだけ無駄です」

「な! …………無駄って!!」

 冷たい私の言葉に、明日菜さんが憤慨する。

 けれど間違えてはならない。どれだけ気がかりでも、優先順位と言うものがある。

「今は木乃香さんが最優先です。冷たいかもしれませんが、刹那さん一人に構っていられません」

 それは、感情を抜きにすれば正論で、だからこそ明日菜さんには受け入れがたい。

 本当に、優しい人だから。

 だからこそ。

「大丈夫です。刹那さんは強いですから…………信じましょう」

 そう言って割り切らせようとしている自分が、非道な人間に見えてしまう。

「…………………………っ、分かったわよ。すぐに木乃香を助けて桜咲さんと合流しましょ」

 噛み締めた奥歯が決して納得したわけではないことを如実に示していたが…………けれど攫われた親友のことも気がかりで、だからこそ葛藤しながらも片方を切り捨てる。

 否…………切り捨てさせた、私が。

 こうなったことを悔いてはいる、だが、そうさせたことを反省する心算は無い。

 これが私の立ち位置なのだから、仕方ない。

 ……………………そう、仕方ないのだから。

 そう言い聞かせ、チクリと突き刺す胸の痛みに気づかない振りをした。

 だからだろうか…………こちらをじっと見つめるネギ先生の視線に気づかなかったのは。

 

 

 

 鬱蒼と茂る暗い森の中を走る。

「あっちです。このまま真っ直ぐ」

 携帯の画面を見ながら、二人に指示を出しつつ走る。

 森の中をしかも携帯を見ながらだから、かなり足元が覚束ない。故に私の速度に合わせた二人の動きは本来よりも随分と遅い。

「けど良くそんなものつけてたわね」

「龍宮さんから買いました」

 少しばかり呆れた視線の明日菜さんが私の携帯に目をやる。

 転移によって痕跡を残さず消え去ったアーウェルンクスたちをどうやって追いかけているのか、と言われれば答えは私の手元の携帯。

 クラスメートの龍宮さんから買った発信機とそれの受信機内臓携帯。万が一を考えて刹那さんに言って木乃香さんの着物に付けておいてもらったのだが、まさか本当に使うことになるとは…………。

 これだけで軽く十数万の買い物だったが、後で学園長に経費で落とさせてもらうから良しとして、何で龍宮さんがこんなもの持っているかと言われれば、龍宮さんも魔法使い側の人間だから。詳しくは私も知らないけれど、とにかく腕の立つ人であることは間違いない。

 高畑先生曰く、傭兵。つまり金を出せば雇えるらしい。つまり金を出してまで雇うほどの強さがあるらしい。

 と、言われても、A組だしなあ…………で済むのがウチのクラスだ。多分、明日菜さんやネギ先生にそれを言っても驚くだろうが、特に何か言うことも無いだろうことは予想できる。

「…………近いですね、少し速度を落として見つからないようにしましょう」

 わざわざ自身の有利を捨てることも無い、発信機からの情報を見れば距離にして二百メートル弱と言ったところか。だが木々が邪魔で相手を見ることはできない…………逆に言えば相手からも見えない。

「こんなゆっくり行ってて、逃げられたりしねえのか? のどかの姐さん」

「バカ正直に真正面から行ったほうが逃げられます…………って何ですかその呼び方?」

 カモの奇妙な呼び方に眉を顰める。

「何となく雰囲気が姐さんだぜ」

「意味が分かりませんよ」

「あ、ボク何となく分かります」

「私も」

 ブルータス…………お前もか。

 とそんな戯言は置いておいて、いよいよ相手を目視できる距離に入る。

「見つからないように隠れてください」

 私の言葉にネギ先生と明日菜さんが頷きそっと腰を落とし、草葉の影に身を潜める。

 

「やるやないか、新入り。どうやって本山の結界抜いたんや?」

 

 声を潜めれば相手の会話が聞こえてくる。どうやら今すぐに動く様子も無いようなので、ネギ先生たちと顔を合わせる。

 

「これでお嬢様は手に入った、後はあの場所まで連れて行くだけやな」

 

 どうやらあそこにいるには天ヶ崎千草とアーウェルンクスの二人だけ。月詠とか言う神鳴流剣士がいない…………と言うことは刹那さんと戦っている最中と考えるべきだろうか?

 

「さあ、祭壇に向かいますえ」

 

 不味い、相手が移動する…………瞬間、がさり、と音を立てて視界の端で影が動く。

 それが明日菜さんだと気づいたのはその直後。

 

「待ちなさい!!!」

 

 敵前に飛び出てハリセンを構える明日菜さんを見て、思わず溜め息。

 どうする? とこちらを見てきたネギ先生に首を振って立ち上がる。

「そのまま祭壇とかにまで付いていけば良かったのに…………なんで出ちゃうかなあ」

 ぼやきながらここで明日菜さんを見捨てない自分も甘いなあ、と思う。

「まあ遅かれ早かれこうなってましたし…………良いんじゃないですか?」

 杖を構えてそんな気楽なことを言うのがネギ先生。

 まあどの道アーウェルンクスを抜けなければ同じなのは同意だが。

「なんやあんたらか…………」

 振り返った天ヶ崎千草が私たちを見てそう呟く。

 それからすぐに傍らの式神の腕の中の木乃香さんを見て、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべる。

「ちょうどええわ…………あんたらでお嬢様の力、見せてもらうわ」

 そう言って一枚の札を木乃香さんの胸元に貼り付ける、瞬間札が光りだし、木乃香さんが苦しげに呻く。

 

「オン キリ キリ ヴァジャラ ウンハッタ」

 

 紡がれた言葉に感応するように周囲に光が溢れる。光源を見れば、それは地面に現われた魔法陣の光。

 それも一つ二つではない、百かそこらはありそうなほどの大量の魔法陣。

 光の中から湧き出るように現われたのは異形。人の形をしていながら明らかに人の容貌を持たないモノたち。

「あんたらはその鬼どもと遊んでてもらおか…………ま、殺さんよーにだけは言っとくわ」

 ほな、と手をかざし木乃香さんと連れたまま飛んで行く天ヶ崎千草とアーウェルンクスを見て…………それから正面の鬼たちを見る。

 ちらり、とネギ先生と明日菜さんの様子を窺うと、余裕の無い表情で自身の武器を握っていた。

 仕方ない…………か。

「ここは引き受けます、だから二人は先に行っててください」

「「えっ?!」」

 私の言葉に二人が驚く。とすぐに慌てふためき始める。

「こんな数一人でなんて無理に決まってます!!」

「そうよ、危険過ぎるわよ!」

 言いたいことは分る…………が。

「今すぐ木乃香さんを追う必要があります。あの人たちはすぐにでも木乃香さんを使って何かをする気です。それが何かは分かりませんが、絶対に不味いことは確実です。となれば誰か一人ここに残る必要があります」

 残ったあれらを足止めする一人が必要だ。

 本来なら明日菜さんがベターなのだろう。明日菜さんのアーティファクトは魔力によって引きとめられたあの鬼達を一撃で糸を断ち切り送り返すことができる。

 だがいかんせん数が多過ぎる…………さすがに百を越える鬼たちを相手に、いくら動きが良いと言っても素人の明日菜さんでは分が悪い。

「ならボクが!」

「ネギ先生が一番却下です」

 ネギ先生が最前線にいればパクティオーカードの機能によって私たち二人がどこにいても呼び出すことができる。

「だからネギ先生が祭壇にたどり着くことが第一条件です。それから祭壇にたどり着いたネギ先生が私を召喚してください」

 時間が無いから、と急かす私に渋々と言った感じだが頷くネギ先生。

 そして武器を構えて向かってくる鬼たちに向かって。

 その名を…………呼ぶ。

 

「“Bad apple”」

 

 超高速で飛び出した自身がスタンドが真正面の敵を殴りつける。

 スタンドが見えていない鬼たちからすれば突然仲間が吹き飛んだように見え、動揺が生まれる。

「今です! 先生!」

雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!!」

 突き出した左腕から吹き荒れる魔法の暴風が動揺によって動きを止めた鬼たちの中心を抉っていく、と同時にネギ先生が杖に乗って空を駆け、鬼達の視線が一瞬空に釘付けにされる。

 そして、それを好機と見た明日菜さんが魔法が削った鬼達の空白地帯を駆けていく。

「あ、待たんかい!」

 その様子に気づいた鬼達が明日菜さんを追いかけようとして…………“Bad apple”に吹き飛ばされる。

「さっきからなんなんだ、いきなり殴り飛ばされたような衝撃が!」

「あの嬢ちゃんか?!」

 それが私の仕業だと気づいた鬼がこちらを指差し…………。

 

 そうして、一対数十と言う絶望的な図式が出来上がり。

 

 けれど私は嗤った。

 

 

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