アグレッシブな本屋ちゃんは嫌いですか?   作:水代

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八話 混迷極まる第一戦

 

 

「もしもし…………高畑先生ですか? はい、宮崎です。ええ、今桜通りでマクダウェルさんとネギ先生が戦っています…………ネギ先生が優勢、なんでしょうか? そっちのことはちょっと分かりませんが、私から見るとそう思えます…………ええ、と言ってもマクダウェルさんも余裕そうな表情をしているので、まだ何か隠してますね。それに絡繰さんが出てきていないのも気になります…………はい……えぇ? 私? でもそれじゃ…………分かりました」

 

 電話を切ると、一つ溜め息を吐く。

 相手は高畑先生。現状報告として電話したのだが、余計なことを頼まれてしまった。

「ネギ先生の援護……ですか」

 仕方ない…………と割り切る。宮崎のどかの高畑・T・タカミチへの恩は大きい、受けた恩は返す、それが仁と言うものだろう。

 だから…………。

「頼むよ?“Bad apple”」

 そう呟き……踵を返した。

 

 

 十歳にしては中々…………それがエヴァンジェリンのネギに対する評価だった。

 たしかに十歳の魔法使い見習いとしては中々の実力だ…………だがそれは父親譲りの強大な魔力あってのこと。

 魔法使いの実力はそれだけで決まるわけではない。魔力の制御、術式、媒体…………上げていけばキリが無い。

 ネギ・スプリングフィールドが飛びぬけているのは魔力だけ…………つまり。

「この程度か…………」

 心に去来する失望……いや、十歳の子供に何を期待するというのか、だがヤツの息子ならもしかしたら、と言う思いもあった。

 けれど魔力以外は十歳の子供と何ら変わりない…………所詮この程度。

 自身の従者……茶々丸にデコピン一発で詠唱を阻害されている子供の姿を見て意図せず溜め息が漏れる。

 十五年……自身を縛り続けた呪い。それを解くために行なったことだが、これほどまでに容易に進むと苛立ちすら覚える。

「茶々丸」

 自身の呼びかけに答え、ネギを締め上げ、動けないよう固定する。

「これでようやくこの忌まわしい呪いも解ける…………」

「え……? 呪い?」

 ああ、そう言えば、この先生は自身が何故襲われるのか、知らないのだったな。

 ああ、思い出すだけでも腹が立つ!!!

「私はお前の父、サウザンドマスターに敗れて以来、魔力を封じられたまま十五年もあの教室でノー天気な女子中学生たちとお勉強させられてるんだよ!!!」

 怒り過ぎて思わずネギ・スプリングフィールドの胸倉を掴む…………っと自制だ、自制。

 その忌まわしい呪いもようやく解けるのだ。

「このバカげた呪いを解くためにやつの血縁の血が、つまりお前の血が大量に必要だ…………悪いが死ぬまで吸わせてもらうぞ」

 そうして口を開き、ネギ・スプリングフィールドの首筋に向かい…………。

 

 直後、体が吹き飛んだ。

 

 

「わわ…………あだるてぃーです」

 一人、寮への帰り道を歩きながら呟く。

 “Bad apple”と共有した視界では茶々丸さんに捕まったネギ先生がマクダウェルさんに血を吸われようとしている姿。と言っても、マクダウェルさんが吸血鬼だと知らない人から見れば後ろから抱きしめているようにも見えなくもなく…………。

「なんだかちょっぴり淫靡な感じです」

 邪魔しちゃ悪いような気もするが、高畑先生との約束もある。血を吸おうとネギ先生の首筋に近づくマクダウェルさんへ自身が操作するスタンドを体当たりさせる。

 

 スタンドは本体と感覚を共有することがある。自動操縦型のスタンド以外はだいたいこの例に漏れることは無い。

 さて、何が言いたいのかと言うと…………。

「………………ぃ……痛…………」

 マクダウェルさんは常時障壁か何かを展開しているらしく、さきほどもだが攻撃した箇所が痛い……。

 今回の場合、岩にでもタックルしたような痛みが半身を襲う。

「これどうにかならないのかな…………」

 後で高畑先生に相談してみよう、と心に決めながらまたスタンドと視界を共有した。

 

 

 

 予測不可能、発見不能、しかも自身の魔導障壁を一発で貫いてこちらにダメージを与えてくる。

「やはり出てきたか…………宮崎のどか」

 さきほどは殴られたような一点への衝撃だったが、今度はまるで体当たりでも受けたかのような衝撃だった。

 そしてまた気づかなかった、茶々丸も驚き目を丸くしていることから気づかなかったということだろう。

「茶々丸、付近に誰かいるか?!」

 どこに隠れて今の攻撃をしてきたのか…………はっきり言って自分には分からなかった。

 けれどどこか近くにはいるはずだ、それを探し出し叩く。

 そう決めて…………けれど茶々丸の回答に唖然とした。

「マスター…………付近数百メートル圏内に私たち以外の人はいません」

「なん…………だと…………?」

 いくらなんでもおかしい…………ではやつは一体どこから攻撃してきたというのだ!?

 

「…………引くぞ」

 数秒の逡巡、導き出した答えは退却だった。

「よろしいので?」

 足元で倒れたネギ・スプリングフィールドを見て茶々丸がそう呟く。

「良い…………坊やは来月にでもまた捕まえればいいさ」

 私の言葉に坊やがビクリ、と体を震わせる。

 そう、坊やは問題無い…………この程度の実力ならば来月も勝てる、が。

 

「宮崎のどか…………この屈辱は忘れんぞ」

 

 攻撃方法不明、敵の現在地不明、なのに一方的に攻撃は届く…………この謎を解かねば安心して吸血することも出来ない。

 まずは宮崎のどかを排除する………………そして、その上でネギ・スプリングフィールドから血を絞り取る。

 心の中でそう決定付け…………そして闇の中へ消えて行った。

 

 

 負けた。

 殺されかけた。

 ネギ・スプリングフィールドの心の中に去来する恐怖。

 全身が震える…………自身がついさきほどまで殺されかけていたのだと、理解に感情が追いつき震えが止まらなくなる。

 涙は溢れる……だが恐怖に固まった口はカチカチと歯を鳴らすだけで声を出さない。

 手も足も、全身が震えるばかりで固まってしまったかのように動こうとはしない。

 いや…………それは間違いだ。正確には…………ネギ自身が動かそうとしていない。

 恐怖に思考が塗りつぶされて、それ以外を考える余裕も何かしようと言う思いも無く。

 ネギ・スプリングフィールドは屋根の上で一人震え続ける。

 

 コツン

 

 音がした。そう足音が…………瞬間、ビクリ、とネギの体が一際大きく震える。

「大丈夫ですか? ネギ先生」

 聞こえたのはさきほど自身を襲っていた少女、エヴァンジェリンとは別の声。

 聞こえた声にほとんど無意識的に顔を上げると。

 

 そこに、宮崎のどかがいた。

 

 

 




普通10歳の子供が命の危機に瀕したら、ガチでトラウマな気がするんですよね。

さて、問題は…………原作の準拠してのどかはネギに惚れるか否か。
そこが問題だ…………。

ああ、今さらな気がしますが、この作品には麻帆良アンチ、ネギアンチはあまりありません。ネギアンチは多少あるけど、基本的に主人公として成長します、ちゃんと。
その辺はのどかの手腕次第…………。

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