のろいぎつねポケモン 作:通りすがりのヌメラ
1日目
俺はゾロアーク。今日をもってこの群れの長になった。更なる精進のため今日この日を1日目とし、毎日自らの行いを振り返ることにした。ポケモンらしくない行為であるが、頭の中で勝手にしている事なので別にそれまでである。自己研鑽にはこれが良い、という思考があるのだから実行しているだけだ。
しかしなぜそんなことをしよう、だなんて思いつくのだろう。
10日目
長になってから、メスのゾロアやゾロアークからのアピールが凄まじい。だがなぜかゾロアに関しては小さすぎてその気が全く起きなかった。別に問題なく子供は作れるはずだし、ゾロアークとゾロアの番は雌雄問わずぼちぼち存在する。何故だろうか?
40日目
1匹のメスのゾロアークとの間にもうけたタマゴが孵った。幼いゾロアたちはよく俺を慕って暮れている。直接子育てに関わることは少ないが、俺の群れの俺の子供たちだ。大切に育てよう。
70日目
もうすぐ冬がやってくる。秋の間に食糧を貯めておかねばならない。だが最近は森が騒々しく、思うようにいかないのが現状だ。
100日目
森が人間に因って切り拓かれるようだ。人間は力が弱く1匹では非力だが、その道具や知恵、数は侮れない。激臭のする煙が焚かれ、毒入りの食べ物が撒かれた。火を放たれる前にと、俺たちは住処をさらに奥へ進めるしかなかった。
120日目
同じような境遇のポケモンが森の奥に押し寄せ、今度は森の恵みを奪い合うようになった。不幸にも、数年前の寒波が響いてこの群れの今代のゾロアークの数は少なく、俺たちは早々にこの奪い合いに参戦することを諦めた。
だが俺たちには幻影という特技があった。俺は群れを数少ないゾロアークたちに任せ、幻影を見せるのが得意なゾロアを数匹選び、人間の耕作地に赴いた。かつて森だったとは思えないほどの土地が、人間によって耕されていた。
俺は人間に化けて耕作人の気を逸らすのが役目だ。最も危険な仕事である。小さな迷子の子供のフリをして視線を集める間に、幻で姿を消したゾロアたちが農作物を集め、持ち帰る作戦だった。これがハマった。怪しまれないよう、狙いの耕作地は日毎にばらばらにし、その日の食糧を賄うだけの比較的少量の日から、荷車ごと盗む日まであったがどれも成功した。ゾロアークの数も増え、俺たちの群れは持ち直した、かのように思えた。
190日目
噂をどこで聞きつけたのか、別の場所で暮らしていたゾロアの群れたちがこの群れを頼って森にやってきた。ゾロアークはひと個体もいないようである。弱りきった群れだ。正直、この群れも余裕はない。だが俺たちは同種を見捨てない。ゾロアたちを受け入れることにした。
数が増えたので、必要な食糧が増えた。しかし森には苦手なむしタイプが多い。盗む回数と量を増やすしか無かった。
???日目
何年か経った。息子たちはみなゾロアークに進化し、加えて各地のゾロア、ゾロアークたちがしばしば群れに合流した。それなのに、群れが大きくなるばかりで食糧の見通しは立たないままである。近頃は俺たちが盗みを働いていることが人間にバレており、罠が仕掛けてある程度なら安いもので、猟銃で威嚇射撃してきたり、珍しいケースでは人間に手なずけられたポケモンに襲われることもあった。
しかし、今はかつてなかった数の力がある。リスキーな人間相手の盗みをしなくとも、森で一定の食糧を得ることができるはずだと考え、俺たちは森に目を向けた。森は狭くなる一方だった。
???日目
負けた。むしポケモンの力を侮っていた。一匹の力は大したことないが、やつらの本質は無限とも言える数の暴力にある。俺も群れのゾロアを庇って深手を負い、群れ自体もボロボロになってしまった。
さらに悪いことに、このタイミングで人間たちが大掛かりなゾロア駆除に乗り切ったらしい。追い払うのが目的でない銃弾や、人間に媚びを売るいぬポケモンたちの追いやりによって、俺たちはこの地を去らざるを得なくなった。この時点で、群れの数は俺が長となったあの時よりも少なくなっていた。
???日目
港湾都市を目指すことにした。貨物に化けて海を渡るのだ。人間に脅かされない新天地があると信じている。
???日目
貨物船の中は暗くて不潔だった。食糧を積んである船を選んで乗ったため、一応食事もできる。最早その程度の数しかゾロアたちは残っておらず、息子も皆死に絶えていてゾロアークも俺と番が最後の個体になってしまった。
???日目
排泄物は決まった木箱にするように指示していたが、それでも不衛生な臭いが篭っている。
???日目
食糧を盗み食べていることがバレた。船中を人間が俺たちのことを探し回っている。震えるゾロアたちを宥めながら眠った。……これでゾロアークは俺が最後だ。今後はもっと少ない量の食事で我慢するしかない。
??? 日目
ゾロアが1匹餓死した。残りのゾロアたちにその死骸を食べるように指示をした。俺も1口食べた。骨がちでまずかった。
???日目
もしもの時のために積んであるのだろうボートをみつけた。俺は急いでそれを使える状態に持っていったが、ゾロアたちはそんなことに気を散らしている余裕はないようだ。日持ちする高カロリーな食糧を積めるだけ積め、俺たちは貨物船を脱出した。ゾロアーク1匹、ゾロア7匹である。
???日目
ゾロアが1匹溺れ、それを助けに行こうとした他のゾロアが海に飛び込んだ。俺は急いで2匹を救出に向かったが、1匹は海流に流され助けられなかった。
???日目
食糧が尽きかけている。寒さに震えるゾロアを温めながら海を眺め、バスラオらしきポケモンをたまに見つけては仕留めて腹を紛らわせた。
???日目
コイキングは不評だった。しかしもう食糧はなく、我慢してもらう他生き残る道はない。寒い。
???日目
十何日かぶりの睡眠から目が覚めるとゾロアが1匹減っていた。襲いかかってきたギャラドスの囮になったようだ。ゾロアはもう5匹しかいない。俺のせいだ。
???日目
流氷に囲まれてしまった。ボートはもう動かない。ここからは氷の上を歩くしかない。たてがみの中で疲れたゾロアを交代で眠らせながら、俺たちは歩き続けた。
???日目
1匹脱落した。
???日目
氷が小さく歩きづらい。4匹全員を背負って歩くことにした。
???日目
地平線の先に陸らしき影が見える。地平線に見える地点というのは大体5キロ先のはずだ。あと少しだ。
???日目
陸にたどり着いた。柔らかいタマザラシが無警戒に転がってる。影に引きずり込んで1匹を仕留め、ゾロアたちに肉を与えた。
???日目
親であろう身体の大きなトドグラーが襲いかかってきた。衰弱した俺がゾロアたちを守りながら戦えるわけもなく、疲弊した自らにむち打って逃亡した。
???日目
腹が減った。ゾロアたちはなにやら肉を食べていた。数が減っているような気がするがわからない。
???日目
腹が減った。安全な場所はないのだろうか。
???日目
腹が減った。木の実を見つけたのでゾロアに与えた。
???日目
腹が減った。今日見つけた丸くて大きな木の実は硬く渋くて食べられなかった。
???日目
雪の地下に氷の洞窟を見つけた。ここなら温度変化も少なく地表より暖かいだろう。ゾロアたちにここで休むよう伝えた。
???日目
腕いっぱいのキノコを収穫した。ここまでたくさんの食事は久しぶりだ。
???日目
ここに住むことにした。キノコも崖によく生えているし、ウリムーの数が多い割に親のイノムーの執着が少ない。寒いのが難点である。怪我を癒しながら安全に食料を調達できる環境は、恐らくここ以外にはない。
???日目
芋を見つけた。葉っぱが大きく見つけやすい。寒い。手先はもはやしもやけ状態だが、このおぼつかない手でも採りやすいのがいいところだ。
???日目
豆を見つけた。肉も食べるがやはり植物やキノコの方が性にあっている。ゾロアたちも嬉しそうだった。
???日目
ゾロアがタマゴを持っていた。俺が狩りに行っている間につがっていたらしい。寒さで震える腕でタマゴを抱えた。ここからだ。ここから俺たちの群れを再興するのだ。
???日目
ユキノオーとユキカブリの群れが襲ってきた。食べ物の奪い合いである。治らない傷と霜焼けで身体が思うように動かない。ゾロアたちとタマゴを守らなければ。
???日目
強い。既に2度日が登り日が沈んだ。このユキノオー、体が大きく力が強い。雪の上はまだ慣れず踏ん張ることが出来ないので、掠っただけで大きく吹き飛ばされてしまう。ああ、森を追われる前の俺だったらこうはならなかっただろうに。この、腕が震え、視界も端が白くぼやけている状態では荷が重い。
腹が減ったなァ。
???日目
ユキノオーは情けなのかトドメをささなかった。洞窟に戻るため、俺は雪と氷の上を這って進んだ。流れる血があたたかく、反対に身体は冷えていくのがよくわかった。
???日目
ようやく帰った洞窟にゾロアは1匹もおらず、血痕と、激しい戦闘の痕が何が起きていたのかを物語っていた。氷と岩の狭間に隠れるように静かなタマゴが置かれていた。それだけだった。
???日目
もうすぐ俺は死ぬだろう。生きる気力もなく、治癒も間に合わず、ただ小さくなって丸まっている生活にもいつか終わりが来る。タマゴはピクリとも揺れない。元気なポケモンなぞはじめからあの群れにはいなかった。当然のことだ。
こうなったのは何故だろう。あんなに美しかった森を追われ、生きるために必死だった俺たちがこうも惨い最期を迎えるのは何故だろう。
人間が故郷から追いやったからだ。人間が森を拓いたからだ。人間のせいで妻も子も、孫も群れも、力なきゾロアたちも、切磋琢磨しあうゾロアークたちも、タマゴも、みな死んだ。
かつての己がどうこうだとか、そんなことはクソほどどうでもいい。
そうだ。人間を許してはならない。
???日目
人間を許すな。
???日目
人間を許すな。
???日目
人間を許すな。
???日目
人間を許すな。
???日目
人間を許すな。
???日目
人間を許すな。
???日目
人間を許すな。
???日目
人間を許すな。
???日目
人間を許すな。
気がつくと、俺は白い毛並みのゾロアとして息を吹き返していた。
ゾロアーク(あくタイプ)♂
Lvでいうと80前半。うっすらとかつての何者かの記憶があるようだ。
とある地方の巨大なゾロアの群れのボス。
人間に追われ海を渡り、少ないゾロアたちと共にヒスイ地方にやってきたものの、怪我の悪化や栄養不足、慢性的な凍傷で為す術なく現地のポケモンに敗北。群れは全滅した。
その後、既に死んだタマゴに取り付き、誉ある一匹目のヒスイゾロアとして息を吹き返す。
なお、そのゾロアの身体はメスのようである。TS……ってコト!?