恋姫♰無双 紀霊の章   作:秋月 了

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徐州編
10話 下邳城


反董卓連合から、一ヶ月の時が過ぎた。南陽はいつも通りだが

北はそうでもないようだ。

洛陽では献帝陛下にかわり新たな皇帝が即位した。

さらに冀州の袁紹が公孫賛を破り幽州を手に入れたらしい。

その公孫賛はどうなったかわからないが。

袁紹はさらに青州や并州にも勢力を伸ばし、河北四州をほぼ手中に納めた。

また南でも孫策が黄祖を攻めた。

勿論袁術殿の許可は得ている。

袁術殿は相変わらずなまけた毎日だ。

事あるごとに蜂蜜水を飲んでぐうたらな毎日を送っている。

あれでよく太らないものだ。

そんなある日俺は袁術殿に呼び出された。

 

「紀霊さん、今し方戻って来た使いから、

呂布さんと交渉の席を設けられたって報告がありましたよ〜。それで向こうは

どうやら、兵を養うための兵糧が底を尽きそうになっているとかぁ」

 

よし、この一か月の地道な努力が実を結んだ。

 

「わかりました。それでいかほどでしたか?」

 

「四千人分だそうです。すでに六千人分を用意してますから持って行ってください。

それで兵士はそれほど持っていかれますか?」

 

「俺と華雄の隊二千で向かいます」

 

「わかりました。ではお願いしますね」

 

それからしばらくして、連れて行く騎馬隊の準備と兵糧の準備が

完了した。袁術殿が関わらなくなると、とたんに仕事が早くなるんだよな。

良いことだけど。

 

「よし! 紀霊隊、行軍開始!」

 

手綱を引き、馬を歩かせ始める。相手はあの飛将軍とまで謳われた

呂奉先、そう簡単な交渉とはいかないかもしれない。

最悪、決裂して戦にでもなったら全滅は免れられないだろう。

心して交渉に臨まないといけないな…。

 

数日の行軍ののち俺たちは下邳城にたどり着いた。

州境は特に問題なく超えられた。

どうやら劉備たちは南の州境にまで手が行っていないらしい。

城門を守備している兵士に自らの身分を明かし、兵士が確認を取った後、よ

うやく城の中へと入れて貰う。こちらです、と董卓軍の装備を身に付けた

兵士に案内された場所に向かうと、赤毛で二本のくせ毛が特徴の女性と、

その隣に小さな女の子がいた。確かに呂布と陳宮だった。

 

「お久しぶりです。呂布殿、陳宮殿。袁術軍が客将の一人、紀霊と申します。

此度はこのような交渉の席を設けて頂き、ありがとうございます」

 

「ん、良く来てくれたのですぞ。知っているようですが礼儀として名乗らせてもらいますぞ。

ねねは陳宮、そしてねねの隣におられるのが呂布殿です。

こちらもそろそろ兵糧が尽きそうだったから、助かったのです」

 

「そうでしたか。…では、率直に聞きます。貴女方は今、何人分の兵糧が必要ですか?」

 

「四千ほどですが、そんな量―――「すぐに用意できますよ」何ですとー!?」

 

「今回の交渉においてこちらは六千人分の兵糧を用意しました。

同盟を組んでいただけるのならばすぐにでも城内に搬入させていただきます」

 

「……でも、袁術は信用出来ない」

 

そりゃそうだろうな。なにせ連合に参加し、最も手柄を上げた人物の一人だ。

今更信用しろと言われても無理である。

たぶん今、呂布の中には言い表せない思いが渦巻いているだろう。

それは俺に対しても同じだろうけど。

 

「…なら、先に兵糧をお渡しします。もちろん、毒などは一切

入ってはいません。それに関しては、俺の命に替えて約束致しましょう。

ですがもし、たった一人でも身体に異変が起きたのなら、俺の首を差し出します。

これでも、信じて貰えませんか?」

 

「華雄と話をしたい」

 

「わかりました。すぐに呼んでまいりましょう」

 

一旦退室し外で待つ華雄を呼びに行く。

共に戻れば三人で話をしたいとの事だった。

再び部屋を出て外で待つ。

しばらくして呼ばれたので中に入る。

 

「…ちんきゅー」

 

陳宮に声を掛けると、一度だけ頷いた。

 

「了解なのです! 紀霊殿、我らは貴方に力をお貸ししますぞ!」

 

「良かった…ん? 今、貴方って言いました?」

 

「……袁術は、やっぱり信じられない。でも、お前は信じる」

 

「そういうことなのです! ですから、我らはこれより

紀霊殿の指揮下に入らせて頂きますぞ!」

 

予想以上の結果だった。

 

「そうですか。じゃあ、二人からの信頼を預かるのですから、

俺の真名を二人に預けておきましょう。俺の真名は、識と言います」

 

「……恋は、恋」

 

「ねねは、音々音ですぞ。ねねと呼んで下され!」

 

「じゃあ改めて…恋、ねね、これからよろしくお願いします」

 

想定した中では最高の結果と言えるだろう。

華雄も俺に従ってくれるし自軍の強化できるのはいい。

後で知った事だが恋はこんな可愛らしい容姿をしているのに、

食べる量は軽く十人前は食べるという。いや鈴々も似たようなものだったな。

それでも何ともまあアンバランスな事実を知ったのは、他でもない…。

 

 

 

 

 

一刀side

 

桃香が徐州の州牧に就任し新たに麋竺と麋芳、そして孫乾が仲間に加わった。

それぞれ雷々、電々、美花という真名を交換した。

そしてこの一か月で徐州の生産高や産業の状況を把握するためだけに消費された。

でも、おかげで色々知ることが出来た。朱里からの報告によると、

ここの生産力は平原よりもはるかに高く、鉄や銅の産出が可能だとい

うこと。人口も多く、交通の便も良いことから、

力を蓄えるのに適した豊かな土地だということだ。逆に言えば、

それだけ治世が難しく、狙われやすいという事を意味すると、雛里は言っていた。

 

「なら、速急に軍備の拡張をしなくちゃいけないな」

 

「…だが北郷、拙速な徴兵は民が不満を抱く元となる。

上手くやらないと、すぐつぶれてしまうぞ?」

 

この一か月で一番変わった事と言えば公孫賛、白蓮が仲間に加わった事だ。

正直白蓮の加入は助かってる。

影は薄いけど州牧だった経験で地味に生かしてくれてる。

 

「う〜ん、そうか…。朱里と雛里の意見は?」

 

「私達の意見としては、内政をして国力を充実させつつ、

徐々に軍備の増強を図るしかないかと…」

 

二人がそう言うなら、やっぱりそうするしか無さそうだな。

 

「でもさ、その二つを同時に進行させて行くのって、すごく難しくないか?」

 

「それはそうですよ。背反する二つの命題を、達成させないといけませんから…」

 

「軍備とは、即ち兵。兵というのは、基本的には非生産階級ですから、

兵を増やせば生産力は必然的に落ちて行きます。さすがに、簡単なことではありませんよ…」

 

やっぱりそうだよな。そして今のうちには軍備の責任者に任命できる人材がいない。

これが一番の懸念点だ。どうしても愛紗と星がいればと考えてしまう。

そうなるとますます紀霊の奴が忌々しくなってくる。

 

「…今は、難しいとか言ってても仕方ない。

とりあえず俺と桃香と朱里は、内政に力を注いで、雛里と白蓮と鈴々は、

軍備の方に力を注いでくれ。電々たちはそれぞれの補佐を任せるよ。

定期的に報告しあって、それによって微調整を加えて行くって感じで行こう。

それで…良いかな?」

 

「問題ないと思います」

 

「よし! じゃあそれを基本方針に―――」

 

「報告いたします! 何者かが国境より領内に侵入! 現在は、

彭城より南方に位置する下邳城へと進行しております!」

 

「数は?」

 

「およそ二千。ですが持ち運んでいる兵糧の量は六千を超えます。

また紀と華のも確認しました」

 

またあいつか。つくづくあいつとはいやな縁があるらしい。

ん、待てよ。下邳城って確か。

 

「皆、出陣準備だ! 俺達にとって良くない方向に働く可能性がある!

そうなる前に、危険の芽を摘んでおこう!」

 

「ご主人様、相手は二千程度ですよ? 全員で行かなくても…」

 

「いや、ある程度の主力は必要になると思う。今紀霊のやつが向かっている場所には、

俺の知ってる史実通りなら呂布がいるかもしれない所だ。断定は出来ないけど、

最低でも全軍で出ていかないといけない。

後朱里にも来てもらう。雛里と桃香には念のためここに残っていてくれ!」

 

「了解だよ、ご主人様♪ 鈴々ちゃん、ご主人様を守ってあげてね? 

朱里ちゃんも、ご主人様達に力を貸してあげて?」

 

「わかったのだ。桃香お姉ちゃん。お兄ちゃんのことは、鈴々が必ずや守るのだ」

 

俺達は一万五千の兵士を連れて、下邳城へと軍を進めた。連合の時は、

苦汁を嘗めさせられたんだ。この借りは、必ず返してやる。そう決心して出撃したが、

この出撃が自らの首を絞めることになろうとは、この時は思いもしなかった…。

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