恋姫♰無双 紀霊の章   作:秋月 了

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14話 董卓参入

彭城。

 

 

誰もが黙ったまま会議室は異様な空気を漂わせていた。

原因は先日の下邳での戦。

劉備軍1万2千に対して紀霊軍、六千と圧倒的に数的優位を保ち、

さらに作戦通りに事を進めていたのにもかかわらず結果は惨敗。

しかも主力であった張飛をはじめとした部隊は未帰還のまま。

また、軍師の孔明もまた未帰還のままだ。

戻ってきたのも半分にもならない四千弱。

もはや絶望的な状況だった。

本来ならばここで一刀がその原因を究明し次に生かすべきなのだが

自身がそそくさと逃げだした手前偉そうなことを言えるはずもなく、

うつむいたまま黙ったままだ。

 

「と、とにかくこのまま黙ってても仕方がないし切り替えていこうよ。

雛里ちゃん。私たちはどうするべきかな?」

 

結局鳳統にまる投げの劉備の励ましだったがそれも事実であり、

このまま黙っていても仕方がないと全員が無理やり気持ちを切り替える。

 

「とにかく紀霊さんの下に使者を送るしかありません。

この状況で鈴々さんや朱里ちゃんたちが帰還しないのであれば、

もし生きているのならば捕虜になったと考えるのが妥当です。

交渉して何とか返還してもらうしかありません。

ですが我らは連合で紀霊さんに対して賠償責任が生じています。

それの上乗せですからかなり厳しい物になる事は間違いないかと」

 

「いやそもそもその賠償だって、正当性がない」

 

そういう一刀に全員がそちらを見た。

 

「そもそもあいつは裏切り者だ。それをなぜ俺たちだけが

悪者にならないといけない?それに今回だって目的も告げずに

勝手に徐州に入ってる。それに対して討伐軍を出した。

どこに攻められる筋合いがある?」

 

「本来ならそうなのですが、それは州境の段階での話です。

州境を超えた時点でこちらがそれを止めて目的を問いただしていない以上、

下邳は無法地帯扱いととられています。

さらに戦闘開始時に詰問の使者も送っていないという事ですから

その主張は向こうに対してどこまで効果があるか」

 

「なら孫策さんと手を結ぶのはどうかな?」

 

「孫策と?」

 

「うん。孫策さんと組んで挟撃すれば何とかなるんじゃないかな?」

 

「ありだな。よし、すぐに孫策に手紙を送ろう」

 

八方塞がりな状況に唯一にしてほんのわずかに見えた一筋の光。

一刀が勝手に進めた手紙だったがそれは最悪の結果で帰ってくる。

そして、

 

「月、やっぱりボク達は、あんな腐れち○こ太守の下にいるべきじゃないわ!

恋やねねや華雄もいるんだし、説明すれば何とか分かって貰えるかもしれない!」

 

「で、でも詠ちゃん、分かって貰えなかったらどうするの?

もうご主人様の所には、戻れなくなるんだよ?」

 

「そ、その時は、ボクの全てに掛けて、月を必ず涼州へ返してみせる。

だから、あの男一度と話してみよう?」

 

その日数人の女性が彭城から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

建業

 

 

その孫策は建業を中心に揚州の掌握に頭を働かせていた。

元々揚州の豪族は孫策派が多く、揚州の掌握にはそこまで時間がかからなかった。

しかし未だ問題は多い。

一つが降伏した旧袁術軍をどうするか?

弱兵ぞろい袁術軍をこのまま呉軍に入れても何の役にも立たない。

かといって使えるレベルにまで鍛えようとしてもそもそもその気概がないので

ついていけず脱落してばかりだ。

完全にお荷物状態だった。

そしてもう一つが袁術の御用商人をどうするかだった。

袁術が正式に揚州牧に任命されたことで袁術は本拠を南陽から

この揚州に移していた。

それに伴い御用商人も揚州に移ってきており、

すでに完全に根を下ろしているのだ。

 

「はぁ~~~~、土地を取り戻してもままならないものね」

 

「そういうものだ。とにかく一つずつ解決していくしかない」

 

「そうね。唯一の安心は紀霊と同盟が結べたことね」

 

「しかし、血盟については断られたのだろう?」

 

「少し違うわね。お互いが落ち着いたらゆっくり話そうと書かれているわ」

 

「そうか」

 

「それよりも問題はこっちね」

 

「劉備からの手紙の事か」

 

「正確にはあの変態御使いね」

 

簡潔にまとめると、手紙にはこう書いてあった。

『徐州のに下邳に袁術軍の残党が逃げ込んで占領している。劉備は下邳を取り戻すためで、

孫策達は袁術軍の殲滅を行うため。双方目的は違うけど利害

関係は一致しているのだから、袁術軍残党の討伐を手伝え』と。

 

「ねえ、冥琳。これ私たちに何の利益があるの? てか、あの男は私達のことを嘗めてるの?」

 

「相応の謝礼はすると書かれているが、こちらの調べでは奴らは治世が行き届いていない。

下邳と彭城周辺は治安がいいが下邳は紀霊がいるおかげだろうし、

実質劉備たちが治安を維持できているのは彭城だけ問う事ね。

それに紀霊への賠償も支払えていないようだし」

 

「なら私たちに利益はないってことで無視ね。・・・・ハイ決定」

 

孫策は手紙をくしゃくしゃに丸めて放り投げた。

投げられた紙はきれいな放物線を描き、屑籠に入った。

 

「さて、少し気分転換にお昼でも行きましょう。ちょうど時間もいいころ合いだし」

 

「わかった」

 

二人は町へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

下邳城

 

 

 

 

 

その日、紀霊の下に来客が来ていた。

 

「これは霊帝陛下に献帝陛下」

 

紀霊を筆頭に二人の前で拱手の礼を取る。

 

「出迎えご苦労様。確かあなたとは洛陽であったわね」

 

「はっ、数年前に洛陽の御前試合で」

 

「そう、あの時の」

 

「失礼ですがなぜこのようなところに?」

 

「そこからは僕が話すよ」

 

「あなたは?」

 

後ろに控えていた眼鏡をかけた少女が歩み出てきた。

紀霊は立ち上がり訳を聞く。

 

「ボクは賈駆。こっちは董卓。訳あって死んだことになっているけど

この間まで劉備の下で保護されていたんだ」

 

「存じています。まさか陛下も一緒だとは思いませんでしたが」

 

「そう。それでここに来たのはあなたに保護を求めようと思ったからなの」

 

「大体は予想が付きますが。とりあえず陛下にお部屋を。ねね、頼む」

 

「わかったのです。一番上等な部屋にご案内するのです。ささ、こちらへ」

 

霊帝と献帝はねねについていく。

 

「お二人はこちらに。詳しい事情を聞かせていただけますか?」

 

「わかったよ」

 

「はい」

 

二人を別室に案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別室には董卓、賈駆、俺、趙雲、そして双方を知るものとして案内を終えたねねとが

朱里がそろっていた。

 

「さて詳しい話を聞かせてもらえますか?あとその服装についても」

 

どう見てもメイド服だよな。

なんでそんな物を着ているんだ?

まぁ想像はつくが。

 

「これはあの腐れち○こ太守に着させられてたんだ。

着の身着のままで来たから着る服がないからこのままだけど

決して僕たちの趣味じゃない。そこは勘違いしないでほしい」

 

「それは存じています。というか、そこまで言ってません」

 

お、女の子が堂々とそんなち○ことか破廉恥な言葉を。

いや、そこはいいか。

 

「とにかく、事情を聞かせてもらえますか?」

 

「良いけど、でもまず先に、ボク達がどういう経緯で保護されたか

僕らがを、念のため説明しておいた方が良い?」

 

「それは省いていただいて結構。大体の予想はつきます」

 

「そう、じゃあ面倒な説明は一気に省いて、さっさと本題に入らせて貰うわ。

端的に言うと、月の身と貞操に危機を感じ取ったからよ」

 

ああ、やっぱり。

 

「あなただけではなくて趙雲も同じ顔をするという事は大方察しがついたと思うけど

私がそれを確信したのは、あんた達とあの腐れち○こが戦った時よ。

あいつは、恋がいることを予想していたのに敵の戦力を大幅に見誤って、

結果的に一万近い兵士達を駄目にした。

その時点でまず、軍事的手腕が無いことは証明されたわ」

 

そうだろうな。しかも部下を見捨てて一人でそそくさと逃げたんだ。

どうしようもないだろう。

それにしても恋がいたのを予想していたにも関わらず、あんなにお粗末な采配だったのか……。

 

「次は政務に関してね。ボクが見る限りでは一応やってはいるんだけど、

基本的に朱里と雛里、諸葛亮と鳳統の二人に頼りっぱなしで

どちらかと言うと本人は、さぼってどこかに抜け出してる時間の方、が圧倒的に長かったわ。

一番上に立つ人間が決断しないといけないような案件とかも、

優柔不断なのか全然判断が下せない。要するに、

しかも自分たちが入ってきて元々の徐州にあった基盤を利用せずに自分達中心で

勝手にやっちゃったから基盤がボロボロになっちゃって一からやり直しになって

この一か月でやっと生産高とか産業の状況を把握できたばかり。

政治的手腕もないってことね」

 

遅すぎない?近くには曹操や袁紹がいるんだぞ。そんな悠長なことをしてれば確実に

攻められても何も出来ず、蹂躙されて終わりだ。

南の州境に見張りの兵士がいないのはてっきり北や西を警戒しているんだと思っていたが

そこまで手が回っていなかったのか。

 

「そんなあいつとあんたを比べたら、正式な下邳の城主ではないとはいえ、

あんたの方に身を寄せた方がまだ多少は月も安全だし、

結果的にそれがボクの安全にも繋がるっていう答えが自ずと出て来たわけ。分かった?」

 

「なるほど、身の危険にに関してはわかりました。それにしても細かく見ているんですね?」

 

まるで嫁の行動を見張る姑みたいだな。

 

「当り前でしょ! 月とボクを保護した人間が、

どういう人物なのかくらいは見極めさせて貰う権利があるわ!」

 

「それは、そうですね」

 

賈駆のいう事は尤もだ。保護してもらった恩があるとはいえ

その恩人が無能なら二人のように逃げ出しても無理はない。

それが政治的重要人物である董卓や陛下ならなおさらだろう。

 

「なら次は貞操の危機という観点から説明していただけますか?

まぁ、大方の察しはついていますが」

 

「そうね。まず何といってもぼく達を見る目がいやらしいし、

いつも女の尻を追いかけまわしてばかりだったわ」

 

それから賈駆の口からは一刀の醜態が出るわ出るわで聞いているこっちが

恥ずかしくなるようなことばかりだった。

 

「決定的だったのは何も知らない霊帝を張忠の目を盗んで口説こうとしてたりもしていたわ」

 

今何と言った?

 

「ちょっと待ってくれ。一刀が霊帝を口説いていたのは置いとくとして、

いや、置いといたらいけないんだが、あの十常侍の張忠が生きてるのか?

董卓殿に殺されたと聞いたが」

 

思わず立ち上がってしまった。

 

「落ち着きなさい。張忠は良くも悪くも何もしないわ。

ただ全身全霊をかけて霊帝陛下を甘やかしているだけ」

 

「そうですか」

 

一度座りなおす。

 

「しかし、陛下にまであれの魔の手が及んでいたとは」

 

「そうよ。そこで私たちはさっさと見切りをつけて恋やねねや華雄がいる、

あんたのほうに鞍替えしたってわけ」

 

「なるほど。こちらも彼の女性を見る目がいやらしいのは重々承知しています。

何せ、連合の時もそうでしたから」

 

特に呉の人たちを見る目はすごかった。

なんせ、呉の女性陣は露出度が高いからな~。

 

「そうなの!? ほら月、やっぱりあんな腐れち○この下から去って正解だったのよ!

それとあんたに聞いておきたいことがあるわ」

 

「なんでしょう?」

 

「あんたはどうなの?考えてみればあんたも男でしょう。

もしやあんたもあの腐れち○こみたく、ボクの月のことを

やらしい目で見てたりするんじゃないでしょうね!? 答えなさい!」

 

「まず明確に宣言しますが、俺の直属部隊の人間はあれの直属の被害者の集まりです。

関羽や趙雲を含めてね。そんな人間を率いる以上、

そのあたりは気を付けているつもりです。

失礼ですが董卓殿や賈駆殿の容姿は大変見目麗しいと思います。

ですがそのあたりの節度は弁えています。

それとだな、俺をあんな変態と一緒にするな。不愉快極まりない」

 

つい素の口調が出てしまった。いきなり喋り方が変わったものだから、

目の前の二人も驚いている。

 

「そ、そう、それは悪かったわ……。でもあんたにその気が無い以上、

ここにいる限り月の貞操の危機は訪れないと言っても過言じゃないわね。

ふふふ、これでボクの月に手を出す人は誰もいない……」

 

何か最後、危ない一言が耳に入って来た気もするが、

ここはあえて聞かなかったことにしておこう。主に、自分のために……。

 

「まあ、だいたいの事情は分かりました。では、最後に一つだけ。

本当に、戻らなくても良いんですね?」

 

「ボクには、月を守り通すっていう使命がある。あそこにいたら、

月のことを守れない。だから……戻らないわ」

 

今の賈駆はさしずめ、姫を守る騎士と言ったところか。

それほどまでに、強い意志を彼女から感じた。

 

「そうですか……。では改めて、二人のことを歓迎させて頂きます。

それと、これから俺のことは識と呼んで下さい。仲間として迎え入れた以上、

堅苦しいのは嫌ですので」

 

「それなら、私達も真名をお預けします。私の真名は、月です。

識さん、これからよろしくお願いします」

 

「ボクの真名は詠よ。今はこんな恰好してるけど、これでも軍師だから。よろしく頼むわね」

 

「ええ」

 

その後、軍内での二人の立場はどうするのかを話し合った結果、

月は文官として働き、詠は軍師をすることが決まった…。

 

 

 

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