恋姫♰無双 紀霊の章   作:秋月 了

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15話 公孫賛 伯珪

公孫賛SIDE

 

今日も今日とて軍議が開かれている。

勿論前向きな軍議ではなかった。

今の劉備軍は一刀の暴走状態に振り回されている状態だった。

無理な徴兵に重税。民の不満は増す一方だ。

それを止めようとする人間はいない。

誰もが怖がってしまい、委縮しているのだ。

 

「はぁ」

 

軍議が終わり、自室に戻る途中、溜息をつきながらもじもじとしている雛里を見つけた。

 

「どうしたのだ?雛里」

 

「あ、白蓮さん。実はこれを」

 

「ん。なんだこれは?」

 

「とにかく読んでみてください」

 

中身を見ればそれは孫策からの返答が書かれた書簡だった。

内容は意訳すれば『あなたのような変態と関わる気はございませ~ん。

徐州の事に徐州牧であるあなたたちで何とかしてくださ~い。

それと我々は紀霊と同盟を組むことにしたので二度とあのような無礼極まりない

手紙を送ってこないでください』と書かれていた。

 

「この書簡をご主人様に見せれば絶対に怒ると思うんです。

それでも見せないといけないし今後を考えると少し厳しいですし。

どうしたらいいかって」

 

今の雛里は委縮しきっている。

元々極度の人見知りで恥ずかしがり屋なところがあるが朱里がいないのが大きい。

それに加えて一刀の今の状態が拍車をかけていた。

あれ、もしかしなくても詰んでるのではないか?

 

「それで雛里はこれからどうするんだ?」

 

「一度これを見せてみようと思います。

それでご主人様が思いとどまってくれるならいいんですけど

もし思いとどまってくれないのなら下邳に向かうつもりです」

 

まずい。非常にまずい。もしここで雛里が下邳に行ってしまえば

天然で理想家の桃香に目も当てられない暴走状態の一刀を私一人で

止めないといけなくなる。尚且つこの軍の頭脳を失うことになる! 

それだけは、それだけは、何が何でも避けないといけない!

私には、そんな中でやっていける自信はない!

想像するだけで胃が痛くなってくる。

私の精神衛生的にもそれだけは避けなければならない。

私も腹をくくろう。

 

「なら私も説得を付き合おう。そして説得が無理ならば、

私も部下を連れてここを出る」

 

「え!白蓮さんまで一緒に来なくてもいいんじゃ」

 

「良いんだ。元々転がり込んできた身なのに、まだ大して役に立ててない。

このまま穀潰しになるよりかは、その方がはるかにマシだ。

それに、雛里の護衛も必要だろ?」

 

言えない。いや言えるわけがない。ともに残ってほしいなんて

今の雛里を取り巻く状況を考えると言えなかった。

「白蓮さん、ありがとうございます! 三人で力を合わせて、ご主人様を説得しましょうね?」

 

「お、おう!」

 

やめてくれ。そんなつぶらな瞳で私を見ないでくれ。

輝かせた瞳でこちらを見る雛里に私は胃が痛むのを感じていた。

今は、昼時から一刻半ほど過ぎた時間だ。この時間なら、北郷は桃香と共に

政務に励んでいるだろうから、ちょうど良いだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

私たち二人は桃香の執務室の前についた。

うう。胃が痛い。説得を手伝うと言った手前、やはり緊張する。

それは雛里も同じようでさっきから動きがぎこちない。

だが私たちの緊張とは裏腹に部屋の中からは嫌な音が聞こえてくる。

その音の正体が想像できた私たちは音をたてないように気を付けながら扉を開ける。

みえたのは二人分の下着と衣服。そしてベットの軋む音と桃香の喘ぎ声。

私はすぐに扉を閉めた。と同時に何かが消えた気がした。

 

 

「雛里、二人は今、性務が忙しくて手が離せないそうだ。

書簡は私の方で何とかしておくから、二人は荷物を纏め始めてくれ」

 

「……………」

 

ああ、雛里の顔がすごいことになっている。主に失望方面で。

私が必死に考えていたのは何のためだったのだろうという考えがひしひしと伝わってくる。

 

「とにかくここは私に任せて急いで準備してくれ」

 

雛里は一度頷いて持っていた書簡を私に渡して私室に向かっていった。

 

「さらばだ。桃香、北郷。今まで世話になったよ」

 

書簡を扉の前に置き、自分も部屋から離れ、兵舎に向かう。自分に付いて来た兵士達を呼び出し、

付いて来たい奴だけ付いて来いと言う前置きをしてから、事情を説明した。

兵士達は私の話を聞き、どこまでも付いて行く覚悟は出来ていると言ってくれた。

兵士達に出立の準備を急がせ、私も私室へと戻る。

着の身着のまま転がり込んできたせいもあってか、

私の部屋にはこれと言ったものはない。あっても精々、剣と鎧に兵法書。

何と可愛げのないことかと、自分が恨めしく思う時もあったが、今この時だけは好都合だった。

 

「白蓮さん。いらっしゃいますか?」

 

「ああ、すまない。もう、良いのか?」

 

「はい」

 

雛里を連れて兵舎に向かい城外での部隊訓練を装って城を出る。

 

「これで本当にさよならだな。北郷、桃香。世話になった」

 

「さよならです。桃香様、ご主人様」

 

私たちは下邳に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

識SIDE

 

 

 

 

 

 

 

下邳の統治が行き届いてきた。

 

「下邳周辺の生産高と流通の流れは安定し、民の協力もあり生産高については

上昇傾向にあります」

 

「また、産業についても成果が上がりつつあります」

 

この地を劉備から奪って一か月。ようやく安定してきたという朱里や董卓の報告をきいて

治世に安心しつつ、次の手を打つ。

 

「本来なら税の徴収権はないのだが」

 

「そこは献帝陛下からいただきました」

 

さすが董卓いや月。行動が早い。

まぁ、都にはすでに新しい帝がいるにはいるが退位を宣言していない為、

未だ正式な皇位は献帝陛下にある。

要は説得次第で好き勝手出来るわけだがそれをした結果が黄巾の乱だ。

同じ轍を踏むほど俺は馬鹿じゃない。

 

「わかった。指示した検知と戸籍制作のほうはどうなってる?朱里」

 

「すでに終わっております。税の徴収も可能になります」

 

「税の徴収は四公六民にする。何より民には安定した生活をしてもらいたい」

 

正直、月と詠の加入は大きい。

袁術殿が領地を失ったことで多くの文官が職を失い、

俺の下に流れてきた。

これによって政治における手足は手に入れたが頭脳が朱里とねねしかいなかった。

月と詠が入ってくれたことで頭脳面でも問題は処理されつつある。

 

「次に軍事方面はどう?愛紗、ねね」

 

「はい、識殿が提案された遺族見舞金制度のおかげで順調に志願兵が集まりつつあるのです。

しかしよくこれだけの見舞金を用意出来ましたな」

 

「もともとこの城に放置されてた金だよ」

 

運がよかったな。偶々、荷物を置いた場所が地下への扉で

偶々鍵がさびててそこで偶々大量の金が出てきたんだから。

計算すれば向こう二年は遊んで暮らせるくらいの金額だったからな。

本気で驚いた。

俺はそれを四つに分けて一つは治世の資金に一つは軍資金にまわして

もう一つはさらに細かく分けて兵士や幹部たちに渡した。

そして最後の一つはに貯金している。

 

「まぁ、ねねとしてはあるのならいいのです。金に綺麗も汚いもないのです」

 

「そうだな。それで愛紗、調練のほうはどうなってる?」

 

「部隊訓練のほうは星が鍛えてくれているので問題ありません。

新兵の調練は予定より少々遅れていますが調整すれば何とかなるかと」

 

「わかった。今後も任せるからその調子で頼む」

 

『はい』

 

こうして軍議が終わる。

ああこうして考えてみると俺、まともな軍議に参加するのって始めたな気がする。

なぜか感動してきた。

 

「軍議中に失礼します」

 

一人の兵士が駆け込んできた。

 

「どうした?」

 

「城門に公孫賛と名乗る方が兵士を連れて来ており紀霊様と面会を求めておられるのですが」

 

「は?」

 

おいおい、今頃使者か?対応遅すぎない?

 

「とにかく会おう。通してくれ。兵士の方にはそのまま待機してもらうように言ってくれ」

 

「わかりました」

 

しばらく待っていると公孫賛殿が鳳統を連れて入ってくる。

 

「お久しぶりです。公孫瓚殿。今日はどのようなご用件で?」

 

さてさて今回はどんなことを言ってくるのか。一周周って少し楽しくなってきている。

 

「単刀直入に言わせてほしい。私たちを雇ってくれないか?」

 

『は?』

 

今雇ってほしいと言ったか?

いやいや、そんなわけがない。俺の聞き間違えだろう。

 

「失礼ですが聞き違いがあったようなのでもう一度お願いできますか?」

 

「え、あ、ああ。私たちを雇ってほしいんだ」

 

聞き違いじゃなかった。

マジかよ。ふつうこの間攻めたところに来るか?

嫌来てくれる分にはうれしいんだが。

 

「事情を聞かせてくれますか?」

 

「ああ」

 

事情を聴けば一刀が暴走状態にあるらしい。

そのくせ政務はサボってばかりで何かあれば劉備と睦あっているとか

大体が俺らの下に来た旧劉備軍の者たちと同じ理由だった。

理解はできるが。

 

「事情は理解しました」

 

正直言ってしまおう。鳳統を拒む理由はない。

彼女の能力を考えれば多少の負債を抱えてでも欲しい人材だ。

だが正直言って公孫賛がどれだけの能力を持っているのかがわからない。

州牧だったのだからある程度できるのはわかるが。

 

「それで公孫賛殿は何ができますか?」

 

「元は幽州の牧だったから政務も軍務も、兵士の調練だって一通りある程度できるぞ」

 

「ある程度ですか?」

 

「むう。そうだよ。悪かったな、ある程度で。

どうせ私は、どこにでもいる普通な女だよ……ふんっ」

 

そう言うと、拗ね始めてしまった。星達は見慣れているようで、

苦笑いを浮かべていたが、俺はちょっと違う。彼女は政務が出来て、

軍務が出来て、おまけに兵の調練まで出来ると来た。

政務か軍務のどちらかに偏る将が圧倒的大多数を占める中、

こういうオールラウンダーな武官がいてくれるというのは、

軍にとっても非常に有益なことだ。両極端になりつつある今の内なら尚更。

北郷も、勿体無いことをしたもんだ。

 

「素晴らしい」

 

「へ?」

 

「何かに突出するわけではない代わりに、どのような仕事でも卒なくこなしてくれる。

これはとても素晴らしいことですし、誰しも皆が出来ることじゃありません」

 

「で、でも、私は星のように腕が立つわけでもなければ、

朱里や雛里のように頭が良いわけでもないんだぞ……?」

 

「確かにあなたは星のように先人に立ちその武による活躍で見方を鼓舞したり、

朱里達のように策を練り確実に敵に対して大打撃を与える事は出来ないのかもしれない」

 

そこで公孫賛は落ち込んでしまう。

 

「しかし、あなたは一つの事に特化した将にできないことができる。

例えば武官と文官の間で起きるであろうすれ違いの調整だ。

政務も軍務は両極端な位置にあるから調整が難しい。

どちらかに力をかけすぎればどちらかが衰退する。

その力調整をあなたは両方できるからこそそれらがわかる。

どうだろうか公孫賛殿、こちらからお願いする。

我らの下で働いてくれないか?」

 

「私のほうこそ喜んで」

 

本人も、思ってた以上に褒められたのが嬉しかったのか、

今度は一人だけ照れ笑いを浮かべている。……今まで、どれだけ評価されてなかったんだ?

 

その後、三人と真名の交換を済ませ二人の所属部署を決める。

結果、雛里を軍務寄りの軍師として白蓮をその補佐に着けた。

白蓮は俺が思っていた以上に幽州で補佐としていい感じに活躍してくれてる。

ほんとどれだけ評価されってなかったんだ。この人。

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