紀霊軍にとって大勝利に終わった戦いから一夜明けた徐州の彭城。
その本城には大量の物資が運び込まれた。
「これはすごいな」
「はい。計十万人分の食料です」
「でかした、朱里。これで明日にでも出発できる」
徐州脱出を宣言して約一か月。紀霊が未だ徐州にとどまっていた最大の理由は
食料の確保に難航していた。
それを朱里が一気に解決してくれたのだ。
「さて始めるか。全員を集めてくれ」
「はい」
数分後全兵士と文官たちが整列して集まった。
目の前の壇上に俺が立ち、その壇上の横に愛紗や星、朱里たち文武のトップ達が
壇上を中心に左右に分かれて立つ。
静かにしゃべる。
「もう知ってると思うが曹操がこの徐州を狙っている」
兵士たちがざわつきだした。
愛紗が「静まれ!」と叫び、全員が静かになる。
「ありがとう、愛紗。さて、敵は強大だ。その数は先日の戦いで12万。
そしてその数倍がその後方で備えている。
曹操軍は強大だ。次の戦いを生き残ってもまた次が来る。
まるでそれはイナゴの群れのように」
まさにその通りだ。いきなり襲来して全てを奪っていく。
自分で言ってていい得て妙だなと思った。
「そして俺達にはそれに抗うだけの力はない!」
今日の戦いを勝利してもそれはその場しのぎでしかない。
物量に物を言わせてせめて来れれればどれだけ奇策を講じても
それは濁流の中に小石を投げ込んで少しの間波紋を起こす程度のものだ。
大局を動かすことは出来ないだろう。
それがなんとなくわかっているのか全員が黙って聞いていた。
「俺はここを、この徐州を捨てる。そして益州に向かう。
そこから俺は一からやり直す。
そして俺は曹操に勝つ。勝ってこの国を明るい国に作り替える。
無理を承知でお前たちに俺は命令する。
俺達と共に来いと!俺達と共に掛けろと!命令とは言ったが選ぶのはお前たちだ!
決めろ!今、ここで!」
誰もが黙っていた。ダメだったか。仕方ねぇか。
その時だった。
「勝利!」
『勝利!勝利!勝利!勝利!』
一人が叫んだ勝利という言葉。それに倣うように全員が持っていた槍を石附で地面を打つ。
「お前ら」
「紀霊様!我らはどこまでもついていきます。ご命令ください。付いて来いと、敵を討てと」
「そうです。われらはあなただからこそここまでついてきたのです」
『そうだ、そうだ』
うれしかった。思わず涙が出た。
「ありがとう」
『うおおおおおおおお』
全員が叫んでいたと思う。
しかし全員ではなかった。
「納得いかないです!」
「そうだ、そうだ!」
「俺達は残らせてもらう」
そういったのは徐州主出身の兵士たち百人ほどだった。
「故郷を捨てる事なんて出来ない。紀霊様がこの地を出るのなら俺はここで去らせてもらう」
「わかった。決めるのはお前たちだ」
その百人はさっさとその場を去っていった。
俺はこの後彼らを止めて離さなかったことを後悔することになる。
でもこの時はそれを知る由もなかった。