袁術殿が連合参加の意思を示されて約十日後。
全ての準備が整い、連合軍の合流地点へと向かった。
到着後は袁紹は以下の顔良殿の指示で陣を敷く。
やはり注目を浴びるのは十万の兵士の内半分の五万が孫呉の旗である事。
「まぁ、注目をあびるのは当然だよな」
「そうですね。袁術殿の嫌がらせが完全に裏目に出てる」
「愛紗、それは言うな。聞いてるとなぜかむなしくなる」
「すまん。星」
「とにかく俺たちも天幕を張ろう」
天幕を張る作業を始める。
すると一人の女性から声をかけられた。
「お久しぶりです。識さん」
振り向くとそこにいたのは顔良殿だった。
ちなみに真名は斗詩。袁紹殿の配下で汝南袁氏の苦労人代表。
だが彼女はその苦労を楽しんでいる。ある意味最も尊敬するべき人かもしれない。
「お久しぶりですね。顔良殿」
「真名は交換しいますし、真名で構いませんよ。
それより袁術殿はどちらですか?」
「奥の一番大きくて派手な天幕にいますが」
そういって奥の天幕を指さす。
「わかりました。ありがとうございます」
そう言って顔良は奥に向かっていった。
「識様先ほどの方は?」
「ああ。袁紹殿配下の顔良殿だ。
俺と星は義勇軍に参加する前は袁紹の下にいたからな」
「なるほど」
「その時も大変だった。袁紹の無茶に何度付き合わされて死にかけた事か」
「だから二人は袁術殿の客将になるのを嫌がっていたのか」
「ま、背に腹は代えられないしな。それに金払いがいいのは変わらんしな。
名門は無駄に誇りが高いからそれ相応の示しを示さないと配下が付いてこない。
金払いがいいのはその目的の一つだ」
「そうだったのですね」
それからしばらくして天幕を張り終えて休憩していると
「紀霊、妾は七乃と軍議に行ってくるぞ」
「いってらっしゃいませ」
「何言っているんですか?あなたも行くんですよ」
「え?」
「あなたは客将ですが今のわが軍では中心的人物でもあるんです。ほら、早き来てください」
「わかりました」
袁術殿についていく。
なぜこうなるんだ?
袁紹陣地、軍議用天幕内。
軍議が始まった、そう思っている時期が俺にもあった。
今、中央にある大天幕の中には、袁紹と顔良達、美羽様と俺達、
曹操に孫策の名代である周瑜、公孫賛に劉備一刀に馬騰がいて
自己紹介までは終わったのだが話がいっこうに進まない。
理由はこの連合軍の総大将が決まらないのだ。
誰もが立候補せず唯一立候補したそうな袁紹殿も自ら名乗りでしょうとせず
うずうずしている。ほかの諸侯も自らの言動に責任を取りたくないのか
誰も立候補しないまま無駄に時間が過ぎていく。
「もう発起人である袁紹殿でいいんじゃないのか?
こんなことしてる場合じゃないだろ!? 董卓の圧政に苦んでいる人達がいるってのに、
こんなことしている場合じゃないだろ」
一刀の一言いうと待ってましたと言わんばかりに袁紹は立ち上がった。
それにしても一刀の奴、全く変わってないな。
自分を天の御使いと特別視して相手の立場を考えずにずけずけというところとか。
「言い方は気に入りませんが名が挙がったのでお引き受けしましょう。
皆さんもよろしいですか?」
誰もがうなずく。やりたいくせに仕方ないという感じの雰囲気を出している
がだれもがそれはわかっているような感じがした。
「それと一刀さんでしたか?名門でもない貴方がこの私に対して
随分と慣れ慣れしく物を言いますのね? 礼儀というものを知りませんの?」
袁家の人間はこういうところには敏感だ。
これは面倒なことになりそうだな。
ここは助け舟を出すか。
「まぁまぁ、袁紹殿。彼もこの場で緊張していたのでしょう。
ここは大目に見てあげればどうですか?それよりも軍議を進めませんか?」
「そうですわね。では寛大な私に免じて不問としましょう。
次は気を付けてください。一刀さん」
頼むから素直に空気読んでうなずいてくれよ。
そう念じるように一刀を見る。
それは諸侯も同じようでほとんどの諸侯が似たような視線を一刀に送っていた。
「わ、わかりました」
諸侯の視線に気づいたのかその場は収まった。
だが明らかに不満があるようだ。
本当に面倒な奴だ。
それからも軍議は続いて結果全軍で汜水関を責めることになり、
その先鋒を劉備軍が務める事となり解散となった。[
袁術殿と共に陣に戻る。
「おい、紀霊」
自分の天幕近くで
名前を呼ばれて振り返る。
「おや、お久しぶりですね。一刀殿。いやそれとも御使い殿と呼んだほうがいいかな?」
こちらに声をかけてきたところで張勲に目配せをする。
それに気づいた彼女は、
「さぁさぁ美羽様。戻って準備しましょう。紀霊さん、先に戻りますね」
この男に袁術殿を会わせるのは面倒だ。
さっきの軍議でも居並ぶ諸侯を見ながら鼻の下を伸ばしていたしな。
何を言い出すか、わかったもんじゃない。
「それで俺に何の用だ?」
「目的は一つだ。愛紗と星を返せ!」
「これは異なことをいう。彼女達は自分の意思でついてきたんだが?」
「ありえるか。彼女たちは特に愛紗は俺を慕ってくれていたんだ。
それをお前がたぶらかしたんだろう」
阿保を通り越して馬鹿なのか。セクハラされて喜ぶ奇特な人間なんて劉備くらいだ。
「そんなくだらない話をしている時間があるのなら作戦でも考えたらどうだ?
汜水関攻めの先鋒なんだろう」
「なんだと」
怒ってる、怒ってる。
「裏切り者の分際で」
「違うな。俺はお前を裏切ったんじゃない。見限ったんだ」
「同じようなものだろうが」
「全然違うな。裏切るとは約束・信義を破り敵に味方して、元来の味方にそむくという事だ。
そして見限るとは見込みがないと考えてあきらめてやめるとか
愛想をつかして、関係しないようにするという意味だ。
要は俺達はお前には今後の俺たちの理想を叶えることが見込みがないと判断したんだ。
わかるか?」
「くそっ」
「おい、剣を抜くのはいいがそれ相応の覚悟を持っておけよ。目撃者は多いぞ。ここは」
一刀はそこで初めて周りを見回す。
そこにいたのは槍を構えた俺の部隊の者たちだった。
「はっ。天の御使いである俺と一客将のお前、どちらの言葉を信じると思う」
開き直ったな、こいつ。
まぁいいが。
「だからどうした。天の御使いの効果があるのは劉備軍の中だけだ。
所詮、お前は無位無官だろう。それはさっきの袁紹のお前に対する対応で理解できたはずだが?」
まぁ、袁紹がそれに気づいていたかは知らないが。
「もういいか。俺もここまでの行軍で疲れてるんだ。
さっさと陣に帰れよ。愛おしい。愛人衆が待ってるだろうよ」
周りからはクスクスという声が聞こえる。
そりゃそうだ。あれだけ大声でべらべらとしゃべったにも関わらず
俺に全く相手にされていないのだ。
そりゃわらわれるだろうよ。
「くそっ、覚えてろ」
「はい、はい。明日に忘れてるだろうけど覚えとくよ」
怒り心頭で一刀は帰っていった。
「何しに来たんだ。あいつ」
俺は天幕に入り眠りについた。