春休み明けの4月上旬。
半日登校である今日の日は部活をやっている面子にとってはとても貴重な1日だ。
なぜならまだ入学式が終わって一時間も経っていなく、教師たちの今日の1日の予定は黒で埋め尽くされていることだろう。だから部まで面倒を見きれずに休みになる。
まあ俺自身には関係ないが、実は一概にも言えない。
この今の時間、これは今回のクラス替えでなった俺の担任によって出来た空白の時間だ。
担任曰く、「自己紹介とか上っ面の関係とかスクールカーストとか面倒だから自分たちでやってろ」とのこと。本当に教師かよ。
まあ本当にそんな訳で出来た時間である。
そこで、今までの比企谷八幡だったらどうするか?
…答えは何もしないだ。意識を宙に浮かせてありもしない無に集中力を向かわせる。
詰まるところは睡眠である。
あるいは本を読むか勉強するか、だ。完全に根暗な奴である。
それがどうだ、今の周りの状況は?
「あーし、クレープが食べたい。隼人今日暇?」
今話題を提供して来たのは金髪クルクルの、一目見ただけで女王タイプの周りを威圧して自分の思い通りに持っていきそうな雰囲気を漂わせている三浦さんだ。名前は普通なのに性格がアレだな。
「ああ、今日は部活も無いし」
こっちはこっちで金髪爽やか美青年のクラスで一番…どころか学内でもトップ独走真っ最中のイケメン野郎である葉山君である。因みに余談としてこの高校の全男子の嫉妬の対象でもある。去年、「葉山そろそろ後ろから刺されろ」とか呟いてた目が腐っていた男子高校生はきっと俺ではない。
「隼人君やる〜!これは俺も着いて行くしかないっしょ!」
戸部…、お前はどちらかと言うならまずその頭悪そうな言葉遣いを治すことから始めた方がいいと思う。
そんな本音を引っ込められる俺超大人。余裕で俺の悪口を聞いたらそいつの悪評流せる。
そんな、俺思ったより幼稚じゃね?とかいう類の思考を脳みその奥に捨てる。
「マジパネェ、超パネェ!」
こいつは……こいつも戸部だ。ホントにこいつの脳みそ、どうやったらこんなにバグるんだ?
チャラい=カッコいいみたいな方程式がこいつの頭の中には存在しているのだろうか?全くもって俺には理解出来ん。
「比企谷君、君はどうするの?」
そこで俺に振るか葉山。確かに話題の中に入るのはとても有意義……でもないな。会話の内容が内容だし、その上バカ(戸部)もいると来た。
多分この会話で得られる経験値なんてスライム相当だろう。
「ああ、まあ俺はちょっと用事があるから遠慮するわ」
「それじゃ仕方ないっしょ」
三浦、俺が断りを入れた瞬間に喜びの表情を表に出すな。妙に傷つくから。
と言ってもまあ仕方ないか。葉山はイケメンだしな。本当は2人で行きたかったんだろうな。イケメンだしな。
…もはや、「葉山はイケメン」で殆どの理由が説明出来るんじゃないか?
……。
葉山はイケメンだからコンビニの弁当が売り切れた。
葉山はイケメンだから野良猫が増えた。
葉山はイケメンだから電車が遅れた。
おお、なんかそれっぽいな。流石日本語、葉山という名字だけでここまで遊べるなんて。
……ってそんな事を言おうとしたわけじゃ無い。
俺が言おうとしたのは、何故このようなリア充グループに属しているのか、と言うことだ。
因みに俺の高1の2月の時は完全なぼっちだ。人間関係反対を地で行っていた。ついでにデモも起こせたら良かったが、当然出来なかった。まずデモ出来る程の人間関係が無い。
まあともかく、俺がリア充グループに入った理由。それは春休み初日まで遡るので割愛するが、その期間で俺は自分自身の人生観を変えた。返させられた。
まあ、つまりアレだ、さっきの話で散々出してきた人間関係。それを今までよりもう少し大事にしようと思い、取り敢えず隣の席の奴に話しかけてみたのだ。
…まあ、その対象がどう言うわけか葉山であったと言うことだ。葉山隼人のハと比企谷八幡のヒ、番号順だと隣同士。出来ればこの番号、三浦女王に譲りたいまでである。
そうして葉山と話していると三浦が絡んできて、終いには訳の解らん戸部もここに入って来た。
…次に話しかける相手はもうちょい普通の相手にしようと決意を表明した瞬間だった。
「あー悪い、他の人にも挨拶して来て良いか?俺が葉山に話しかけたのはただ単純に席が隣で話しかけやすかっただけだからさ」
俺は自分の席を立ちつつその場を後にする。
「ああ、別に良いよ」
「比企谷君少しノリ悪いっしょ!」
葉山は相変わらず爽やかな笑顔で、戸部は意味不明な言葉で俺を見送った。因みに我らが女王三浦さんは終始俺のその言動にはノーコメントだった。まあ別に構わないが。
俺は取り敢えず先ほどの席から離れ、教室を見渡す。
担任が担任だったために各自、既存の仲が良いグループを囲って談話をしている。流石にその中に混ざるのは俺的にはキツイ。てか無理だ。
だから一人で余っている人を探す。人数的には多くはないが、ポツポツと所々には存在する。
例えば、あの長い銀髪を後ろに垂らした気が強そうな女子とか。まあ女子に話し掛けるのは話題とか度胸とか色々と無いからしないけど。それに何か気難しい雰囲気を放っている気がする。だからあくまで例示として取り上げただけだ、決して何かしらの邪な感情を抱いたわけじゃ無い。抱いたとしてもそれは今の俺じゃなくて数分後の俺だ。結局抱いちゃうのかよ、そんな感情。
そうして話しかけやすそうな人を探していると、一人の人物を見つけた。
浅黒い肌を持っていて、ツンツンと尖った髪を光らせ、ひ億劫そうな表情をして憂鬱そうにため息を吐いてる男子だ。名前は確か、寒川祐二だったはず。昨日クラス名簿を写メして何とか暗記したんだ、違うはずない。多分。
「寒川…だったよな?ちょっと話さないか?」
そう話しかけると寒川は顔を上げた。顔立ちはそこまでイケメンと言うわけではなく、まあ女子で「あの人意外とかっこいいよくない?」とか言われそうな感じだ。
「突然名乗りもなく話しかけるなよな…、流石の僕でもそれは戸惑うから」
「あ、ああ。悪いな。俺の名前は比企谷八幡、まあ何とでも呼んでくれ」
因みにヒキガエルとかそんな感じのあだ名を付けられたら即殴る所存である。
「うーむ、…じゃあヒッキーとかはどうだ?…って分かった!分かったからその握りこぶしは止めてくれ!」
次にヒッキーと読んだら取り敢えず顎にアッパーを加える所存である。
先程の処刑よりさらに過激になった自分の思考回路に薄々恐怖を抱きつつも、会話を続ける。
てか初対面の相手を会って30秒程度で殴ろうとした時点で過激かもしれない。
「じゃあ八幡で」
「話して間もない奴を名前呼び…、まあいいか。じゃあ俺は寒川って呼ぶがいいか?」
「ああ、それで」
べ、別に寒川が俺を名前したのにチキった訳じゃ無いんだからね!
……これは無いな。最早ツンデレというかチキデレだ。
そんな変な妄想をしていると、寒川は俺の胸ポケット辺りに目線を持って来て問いかけた。
「ところで八幡、さっき聴きたいことが有るんだが」
「何だ寒川?」
「お前のそのポケットに入っているお札のようなもんは何だ?」