「ここだ、着いたぞ寒川」
駅から歩いて15分、割と駅近に建つこの施設はとてもアットホームだ。
各県に約三つずつある紱魔の団支部の中でもこの施設…と言うより支部は屈指の実力者が揃うと同時に殆どがタメ語で話し合っている。
60代くらいの見た目が物凄く硬そうな霊紱士がだいたい20歳くらいの受付の青年とタメで話していたのには最初は本当に驚いた。
かく言う俺もタメ語で話し合う一人である。
まあそんな訳でこの支部は超絶的にアットホームなのだが、更にそれが嘘の様に超が付くほどの一流が多い。
実は霊佛士にも悪霊と同じランクがあり、つまりD〜A、S、SSとなるのだがこの支部の殆どの人がA以上の実力者だ。
Aランクと言うのは大体平均的な霊佛士だと10年程かかると言われているにもか変わらずにもだ。
まあ纏めると、この支部は強くてアットホームな人が多いと言うことだ。
「僕は施設と聴いた時に少しデカイのを想像していたが、まさか民家だと思わなかったぞ」
因みに付け加えるならば施設の見た目もアットホームで、一見すると唯の一軒家に見える。この外見は確かここの支部の長である…名津慎吾…だったか?そんな感じの名前の老人の趣味だ。何でも若い頃にマイホームが欲しかったから…との事、意味が分からない。
だが施設の隠蔽には一役買っているのもあって直談判に繰り出せないのが悔しい所だ。
そうして、俺はドアノブを普通に回してドアを開けた。
「おいおい…、ここいつも鍵空いてるのか?」
「いや、実際はドアノブに指紋トレーサーって言う訳の分からん無駄なハイテクノロジーを使った防犯システムが活用されてるからそこまで心配する必要はないと思うぞ。」
「何だよそのテクノロジー、3000円くらいで売ってくれないもんかね?」
「普通に売ってくれんだろ」
そんな軽口を叩きつつ俺と寒川はドアをくぐって中に入る。そうするとそこにはどこにでもあるような普通の家の普通の玄関があった。
靴はペアで四つあることから客観的に考えると四人家族に見えるだろう。具体的には両親に兄弟と言った家族構成だろうか?
「…おい、ここ普通に一般家庭じゃねぇの⁉︎」
ほら、一人ここにもそう考えた奴がいた。
まあこのくらい当たり前だ。ここは謂わば秘密組織のような機能をする施設なのだ、は少しくらいカモフラージュくらいしなきゃダメだろう。
「いや、寒川ちょっと扉閉めてくんない?」
「僕に不法侵入の片棒を担げと⁉︎」
「いいから早く閉めろよ」
「…分かったよ」
渋々といった感じで寒川はドアノブを握って、ドアを閉めた。
すると、突然目の前の玄関に一筋の線が入る。
瞬間、昔のテレビで深夜に放送されていた砂嵐の画面が俺の視界、それどころか今さっき入って来たドアにも砂嵐じみたものが掛かってドアの輪郭が埋まって見えなくなっている。
つまり、砂嵐だらけの現実離れじみた異次元の空間がそこには広がっていた。
しかし、それも一秒程続いたところで画面内のチャンネルが切り替わるようにこうけいが切り替わり、眼前には今まで存在していなかったドアが新たに現れていた。
玄関の面影はもはや一切無く、玄関だった場所は空間では無くグレー色の壁に変化していた。
俺も最初はこの超常現象にしこたま驚いたものである。
「にしても寒川、お前凄いな。良くこんなん目にして驚かずに居られ…」
寒川の表情を見ると、目が白くなっていて、口がへの文字を描いたまま静止していた。
というか気絶していた。
「…説明無しで見せて悪かったな、だが勝手に負ぶって中に入らせてもらうぞ」
何となく、本当に何となく気絶している寒川に軽く謝って、俺はその気絶して完全に足以外の力が抜けている身体を負ぶった。
なるほど、考えるのを止めるというのはこのような事を言うのか、なるほど。初めて知ったぞ。ありがとう寒川、安らかに眠ってくれ。
そんな感じで俺は背中に60キロ程の重みを感じつつもドアノブをカチャカチャと回してドアを開けた。
始めに眼前に飛び込んできたのはカウンターだ。例示法を使うならばまるで個人経営の病院のよう、木製で作られたシリアスさを感じさせないこの雰囲気はこの支部の人全員が気に入ってる。もちろん俺もその一人である。
「こんにちわー」
カウンターに座っている受付の人に挨拶をする。因みにこのカウンターに座っている、と言うのは誤字にあらず文字通りの意味である。カウンターの中にある椅子が何か寂しげに見えるのは気のせいではないだろう。
「うっす比企っち。学校お疲れさん」
この受付の見た目爽やか青年中身チャラい系大学生である人の名前は横田禊人と言う。何かどっかのラノベの主人公のような名前だが、本人曰く書類とか書く時にこの名前の部分の漢字を書くのが面倒くさいらしい。更に言うなら男子校出身でもあるのでラノベの如く高校生活ラブラブなんて言うのには無縁らしい。親近感が超湧く。
「ああ」
カウンターに座っている受付の青年、横田さんはやはりカウンターに座ったままである。あれは俺が来た当初からやっていて、最初見た時は少し驚いたもんだ。懐かしい。
「そう言えば、横田さんは今日は大学無いのか?」
「いんや、今日は午前中の講義だけなんだぜ」
なんと羨ましい。俺も早く大学に入りたい、まじで。
「そうっすか。じゃあまた後で」
「りょ〜かい〜」
と言うわけで俺はカウンターを通り過ぎて一番デカイ部屋に入ろうとする。と言うのも、そこがこの支部唯一の交流場であるからだ。
「……んっ?ここどこだ?」
と、入る前にやっと寒川が起きた。気絶したまま何の反応もなく、受付の横田さんですら見過ごした寒川がやっと起きた。
……こう言う言い方すると存在感が無く、何と言うかドンマイだよな……。
「なあ、起きて早々なんだけどまずこの状況とそのお前の哀れんだ目線を説明して欲しいんだが…?」
おおっと、いけない。危ない危ないギリギリだった。寒川の事をちょっと慈しみの気持ちを持ってたり、受付の人にスルーされているのを見て残念臭をしていたのがバレるところだった」
「口に出てる!口に出てるからな!」
「おっと口が滑ったわ、悪いな」
「口が滑るってレベルのセリフ数じゃないからなそれ!」
またもやキレのいいツッコミを見せてくれる寒川、もうお前芸人になれ。
「…で、状況説明だったな」
「ああ、手短に頼む」
そうして俺は気絶してから今までの説明を大体30秒せずに終えた。
「…受付の人にスルーて….俺そんな影薄かったのか……」
「まあ気にすること無い、別に人が一人背負われて帰って来るなんて日常茶飯事だからな」
「…それはそれで不味くはないか?」
いいや、実際悪霊が見える人をそのまま放置する方が不味い。一般人が悪霊の事を見えると言うことは即ちしに直結すると言っても間違ってないからだ。
悪霊は自分の事を見える人を大抵は殺し、喰ってしまう。しかし、周りの人には悪霊が見えないために突然その人が肉が抉られ、血が噴水のように吹き出して居るように見えてしまう。しかしそんな超常現象を前にしても、やはり悪霊を普通の人が見ることは出来ない。
…やけに詳しく語ってしまったが、これで悪霊が見える人の危険な点を分かってもらえたのではないだろうか?
ーーーそう続けたかったが、まだ寒川は何も知らない、無知である。
無知とは罪であるとはよく言ったものだ。実際こいつはもしかしたら今後の事によっては死んでいるかもしれないのだ。ホント、見つけられて良かったと思う。
「…まあ、それにおいてはおいおい説明していくから安心しろ、それにアフターケアもしっかりしてやるから」
「は、はあ…」
何かと釈然しない様子だが、どうにか飲み込んだようだ。よしよし、良い子だ寒川。出来れば真実を知っても叫ばないようにな。
そんな俺でも無理だったことを願いつつも俺はドアノブに手をかけ、カチャッと軽く一捻り回す。そのままドアを開け放とうとして一瞬、自分の行動を留める
「…と、その前に一つこの支部に入団する時の洗礼の文句があったんだったな」
「何だよ突然…、なら早くゲロって楽になれ」
ゲロるとは何と、寒川は表現が汚いやつだったのか。これから寒川の魂名はサムゲロんで決まりだな。
そんな事を思いつつ俺はそこには突っ込まずに話を続ける。
「分かった、分かったからなサムゲロん。そう言うなら早く言ってやるよ」
「サムゲロん⁉︎何だそれ⁉︎…まさか寒川の寒とさっきのゲロを掛けたつもりか⁉︎」
「よく分かったな、その通りだ。じゃあささっと洗礼の文句言うぞ」
「…何か扱いがぞんざいになってないか?」
んな事知るか。ゲロとか言ってたお前が悪い。
「じゃあ言うぞ」
「無視でせうか…」
「ああ、無視だ。じゃあ本当に言うぞ。
【ようこそ、同士にして同志である友、紱魔の団へ。我が団は各所の地方に潜み潜まれ魔の者を悪の限り紱解く者なり。それでは、覚悟は良いか?】
……まあこの通りだ」
「………中二病かよオイ」
「言いたいことは凄く解る。だがこれ、お前もこの団に入るにあたって覚えなきゃいけないんだぞ?」
「…まじか……」
その気持ちも分かる、分かるぞ俺なら。何しろまだ入って一ヶ月ちょいだからな。
だがこの中二病宣言、入団して二日後の記憶力筆記試験に出るんだよな。それで覚えていないとまた1から叩き込まれて翌日に再追試なんだよな。俺は一発で受かったが。
そんな事を考えつつ俺はドアノブを再び強く握り、カチャッと回してドアを開けるために力を加えた。
「…まあ、なんだ。寒川、お前を歓迎する」
「………ああ」
そうして俺と寒川は支部の大部屋へ入った。