彼は勇者ではない   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ。


本編
彼は今、世話役である


―――神樹歴三百年、七月。

薄暗い部屋の壁一面には紙製人形が張られ、床には木製の人形がところ狭しと並べられている。

その部屋の中央にあるベッドの前には鳥居が建てられており、その鳥居の前で仮面を被った神官らしき人物が大麻(おおぬさ)を左右に振りながら祝詞(のりと)を淡々と唱えている。声の高さからして男である。

 

そのベッドの上には病服姿の金髪の少女と銀髪の少女が横になっており、その奥に置かれている桃色の猫“サンチョ”型の枕の上で一羽の鴉が丸くなっている。部屋の内装と相まって、彼女達は奉られているように見える。

否、実際に二人の少女は奉られているのだ。彼女達の意思を一切介さずに。鴉の方は間借りだが。

奉られている理由は多々ある。その最たる理由は、今の彼女達は人目に晒せず、半分神様のような状態だからだ。

 

その金髪の少女は右目を覆うように、隣の銀髪の少女は口と鼻を覆うように包帯が巻かれている。

そんな彼女達が横になっているベッドの正面には数十本の電子書籍が保存されたノートパソコンと、イネスで買ってきたお持ち帰り用の(権力乱用して強引に作らせた)醤油ジェラート、皿に盛られた芋けんぴが台座の上に置かれている。

これが奉られている彼女達への“供物”。四国の最大の組織である大赦の神官達を説得して(殴り飛ばして)認めさせた供物である。

 

『毎回思うけどその祝詞ってやる意味ある?園子はともかく聴こえないアタシには無意味と思うんだけど』

 

神官が祝詞を唱え終えると、顔の下半分が包帯で覆われている銀髪の少女は手元のタブレットに入力した文字を神官に見せる。その目は呆れを如実に含んでいる。

彼女はそのタブレットの文字の通り耳が聴こえず、何を言ってるのかすら分からない。音声入力を応用した端末で周りの声を自動的に、ベッドの机に置かれたもう一つのタブレットに入力させることで何とか互いの意思疎通を可能としている。音声ゆえに誤字が多いが。

 

「だよね~。この部屋には私とミノさん、こーりんしかいないのに」

「形だけでもしておかないと、頭のネジが外れている彼らはグダグダと文句を言うだろう」

 

こーりんと呼ばれた神官は仕方がないと言わんばかりに告げる。実際、この部屋のすぐ外に頭のネジが外れている大赦の人間が待機しているのだ。

実際、供物を献上する際は私服ではなく正装で行わなければならない。仮面や冠は終わればすぐに外すが。

なので、儀を終わらせたこーりんはその場で仮面と冠を外す。髪は黒髪の短髪で、その顔は半分以上が包帯で隠れている。そして包帯から僅かに見えるその下は酷い火傷の痕が窺えた。

 

「……綺麗に治らないかな?こーりんの顔はモデルさんみたいに綺麗だったのに」

「重度の火傷だったからな。皮膚移植は繰り返しているが、完治はしないだろうな」

 

その言葉に園子と呼ばれた金髪の少女とミノさんと呼ばれた銀髪の少女の瞳が翳る。実際、最初の火傷の痕を見た二人も思わず目を逸らしてしまったのだ。その火傷の原因は自分達にあるのに……

 

「何を考えてるか一発で分かるぞ。大方、自分達のせいとか思っているだろ?」

 

こーりんは二人のその反応に呆れた溜め息を吐く。二年前の事をこうも引き摺られるのは彼としてもうんざりしてしまう。

 

「何度も言っていることだが、この火傷は俺の“選択”の結果だ。誰のせいでもない。むしろ名誉の負傷とさえ思ってる」

「……私達の()()も、そうだと思えたら楽なんだけどね」

「前提が違うから無理だろう。俺は知った上だったが、お前と銀、須美は騙し討ちのようなものだからな」

 

すべてを知ったのは二回目だが、とこーりんは内心で思う。

園子とミノさん改め銀、此処にはいない須美という少女はかつて神樹に選ばれた“勇者”である。“勇者”とはゲームやアニメに出てくる空想の存在ではなく、神樹の力を宿した少女のことを指す。その勇者は無垢な少女にしかなれない存在な為、男や大人は勇者になることはできないのだ。

 

その勇者は“樹海”と呼ばれる、神樹が作り出した結界の中で“バーテックス”という存在と戦い、勝利しなければならない。勇者がバーテックスと戦っている間は時間が止まっているので、一部の人間を除けば知覚すらできない。

当然勇者が負け、神樹がバーテックスに殺されれば世界が滅びる。だから選択の余地はなきに等しい。

 

それだけでなく、バーテックスは実質無限に湧いてくる。この事実を園子と銀は“満開”の事実の後で知ったことだが。

満開は端的に言えば自身の身体機能を供物として捧げ、その見返りに勇者の力に一時的なブーストをかけるシステムだ。大赦は、その身体機能が供物となるリスクを意図的に隠した。知ったら戦いに出向かわなくなるからと。

 

その結果、園子は十三回、銀は九回、須美は二回満開した。須美は二回目の満開で小四から小六の二年間の記憶を捧げられて戦線離脱。

銀は九回目の満開で聴覚を捧げられた事で、これ以上は戦わせられないと園子が新しい精霊の力を借りて眠らせたのでそこで離脱。そこから園子は途中まで一人で戦った。

 

彼女らの両親には満開の代償を伝えていたそうだが、その時点で“汚い。ずるい”が成立する。我が子一人と四国に住む人全員の命。どっちを取るかと言えば大人は後者を取らざぬを得ない。

実際に戦う本人達に伝えず、沈黙を強要させられる親にしか言わないのだから、勇者を敬っているのか軽んじているのか分からない対応だ。いや、本人達は敬っているつもりだろう。この部屋に祀ることを本気で正しいと思っているのだから。

 

その点で言えばこーりんはまだマシな方だろう。神樹ではない神から全部教えられてた上で選択できたのだから。

……ちなみに初めて周りの時間が止まったことを、こーりんは白昼夢だと勘違いしていた。しかもすぐに見つけた喋る三本脚の鴉も同様の白昼夢だと考えていた。

その鴉が神であり、これは現実だと教えられた時はさすがに驚いたし、その超状現象に園子が関わっていたのにも驚きだった。

 

「あの時は本当に驚いたし哀しかったんよ?意識が戻ったと思ったら、樹海から帰ってきてた上にこーりんが酷い火傷と怪我を負って意識を失っていたんだから」

『アタシとしては、それがなかったら死んでただろうから複雑だけどな』

 

そう入力した銀は複雑そうに眉間にシワを寄せている。実際、あの三体の連携で園子と須美という少女は気絶して戦線離脱。一人立ち向かった銀も何度も攻撃を食らい、血だらけとなった。

もしあの場に彼が現れなければ、追い返せはしても命はなかっただろう。実際、バーテックスの攻撃で千切れかけた右腕には後遺症が残ってしまったのだから。

それもこの右腕以外が不自由な身体となったせいかおかげか、後遺症を負う以前のように動かせるまで快復したが。

 

『しかも大橋の決戦まで昏睡してた上に、目が覚めて早々に加勢に向かったと聞かされた時はマジで頭を抱えたからな。コイツの頭の中は本当にどうなっているんだって』

 

そう。こーりんはあの決戦に駆けつけたのだ。怪我が治っていないにも関わらず、夢の中で非情な現実を知りながらも加勢した。理由は世界の為でも大赦の為でもない。『友達を助ける』ただそれだけの為に。

 

「ホントだよ~。それでこーりんの怪我と火傷が更に悪化しちゃうし……」

「全治七ヶ月の大怪我となった上に、昏睡状態もあの後二月と続いたからな」

 

こーりんは何てことのないように言うが、実際彼の状態は非常に危ういものだった。特に身体の右半分の殆どが焼け爛れていたのだから。

 

『しかもその間、園子の右手を一切離さなかったからな。大赦の人達がマジで焦ってた時は思わず吹き出しそうになったよ』

 

実際、こーりんの治療と園子と銀を祀り上げる為、大赦の人達はこーりんの左手と園子の右手を引き離そうとした。だが、大人数人がかりでもこーりんの左手を引き離せなかったのだ。園子の右手を握る手の力が全然緩まず、絶対に離さないを文字通り実行していた。

 

「あれは本当に嬉しかったんよ~」

 

園子が心の底から嬉しそうに口にする。このまま目を覚まさないのではないかという不安もあったが、それ以上に手を離さないを有言実行した事の方が嬉しかった。特にこーりんが目を覚ました時はみっともなく大泣きもした。

三人がそう話している間に精霊と呼ばれるマスコット的存在―――鈴鹿御前と鳥天狗がそれぞれの供物を主へと運んでいく。

 

「端末なくてもセバスチャンが出てきてくれるから、ホントに楽だよ~」

『だよなあ。神樹様以外の神様だっけ?本当にいい仕事するよな。千晶にしか知覚できないけど』

 

その神様は二人の後ろで羽を広げて嘴を器用に使って毛繕いしている。園子と銀は知覚できないから、三人の会話に参加しないのは当然であるが。

 

「その神様曰く、西暦時代の縁ある人物の子孫だからだそうだ。そこに初代勇者の血も混ざっていることには驚きだったが」

 

こーりん改め(こおり)千晶は本当に驚いたのかと疑うくらい淡々と言葉を返す。

その縁のある人物は口だけのバーテックスを食って死にかけたそうだ。それをサンチョの上で寝転がっている神様が気紛れで助けたそうだ。……助けても九割の確率で死ぬそうだったが。

 

結果的にその人物は一命を取り留めたが、代償として記憶を全部喪ったとのこと。ついでにバーテックスの因子も取り込んでしまったとか。

ちなみに勇者がバーテックスを食べても神樹の加護によって死にはしないそうだ。十分の一の確率で腹痛に見舞われるそうだが。

 

「初代勇者かぁ……本当は四人じゃなく五人だったとはね~」

『確かゴールドタワーの別名だっけ?そこにその人の名前が使われているんだよな?』

千景殿(せんげいでん)だな。その勇者の名前は千景(ちかげ)だそうだから、ほぼ間違いないだろう」

 

神様の知る限り、彼女は当時の切り札の影響もあって初代勇者のリーダーを殺そうとしたそうだ。それも神様と縁ある人物が割って入って事なきを得たそうだが。

その事実は驚くことに、大赦のトップである乃木家と上里家の現当主も知っていた。それも後世に名前が残っていない理由まで。

 

その勇者、郡千景の名が後世に残っていないのは、当主のみに伝えられる口伝の限りでは本人の意志からだそうだ。それ以外にも理由があったそうだが、その辺りは伏せられて伝えてきたそうなので、現当主でさえ分からないそうだが。

ゴールドタワーの方は当時の巫女の働きの結果で、大赦を既に去っていた彼女自身は一切関与していないとのこと。

ちなみに顔と表面の性格は神様曰くその初代勇者似だそうだ。根幹部分はその縁の人物似だが。

 

「つまりこーりんは結婚した二人の子孫―――」

「そこはどうなんだろうな?話を聞く限り、彼女はレズ気味だったみたいだからな」

 

しかも園子の先祖である乃木若葉の幼馴染みもそうだったみたいだし。それも気味ではなくガチで。

 

「もー、夢がないな~。もっとビュオオオー!な夢を持とうよ~」

「ビュオオオー!な夢とやらを俺に求められても困るんだが」

『夢以前に、今のアタシらは隠居生活だけどな』

 

鈴鹿御前に醤油ジェラートを食べさせてもらいながら、口元の包帯を外している銀が無情な現実を突き付ける。

実際、園子は満開の代償“散華”により心臓が動いていないし、銀も同じく散華で肺が動いていない。脈なし呼吸なしのビックリ人間が出歩けば、町中は間違いなくパニックである。

だから、園子と銀は仕方なしと諦めてこの部屋ですごす事を我慢している。千晶も似たり寄ったりだ。

 

『あー。月に一度の日光浴が待ち遠しいな。この部屋を掃除する数時間の間だけだけど』

「面倒な手順と徹底した屋上の立ち入り禁止で、何とか実現できているものだがな」

「それもこーりんの脅しで通したんだけだけどね~」

 

園子のその言葉に千晶は苦笑いの笑みを浮かべる。

奉るなら部屋はちゃんと綺麗にしないといけないよな?奉って放置は罰当たりだよな?という理屈を並べ、右腕の凶器をちらつかせて強引に通したからだ。

千晶は園子と銀と違い、勇者アプリが入った端末がなくとも戦う姿に変身できる。厳密に言えば端末という触媒がなくても、だが。

 

もちろん端末を介した変身の方が負担が少ない。実際、大赦を脅す際に端末なしで変身した際は全身から激痛が迅ったのだから。

だから千晶の存在は大赦にとっても悩みの種である。園子と銀は端末さえなければ大丈夫だが、千晶にはそれが通用しないのだから。

故に大赦は千晶を二人の“世話役”にし、この部屋に閉じ込めている。もっとも、千晶は供物の購入で頻繁に外へ行くが。

そんな中、千晶が持つ端末から音が流れる。画面には【樹海化警報】と表示されている。

 

「……来ちゃったね」

『ああ、来ちまったな』

「そうだな。今の俺達は動けないがな」

 

三人は複雑な顔で端末に視線を向ける。神樹の神託では残りのバーテックス―――一番厄介なレオ・バーテックスを含めた七体が攻め込んで来る。

現在の勇者の数は五人だが、その半分以上が戦闘経験不足。満開なしで勝利するのはほぼ不可能だ。

実際、完成状態のレオは園子達の満開ありでも一旦壁の外へと追い出すのがやっとだった。再び攻めてきたレオと未完成体のレオ数体を園子と加勢した千晶が力を合わせる事で何とか倒せたが。

 

「散華の事は……伝えられてないよね」

「一応リスクが存在する事は伝えるよう言いはしたが……誤魔化しているだろうな」

『大赦だからなぁ。秘密主義の背景を考えると複雑だけど』

 

銀のその文字通り、大赦の秘密主義はある程度は仕方ないと理解はしている。納得はしていないが。

奥でふんぞり返っている神様の話では、西暦時代は悪意がそこら中に蔓延していたそうだ。

当時は大々的に勇者の存在をアピールしていたそうだが、その分誹謗中傷も受けていたそうだ。それもバーテックスと戦って死んでしまった勇者二人に心なき言葉を浴びせるくらいに。

 

当然、その話を千晶はもちろん、千晶から話を聞いた園子と銀も信じられなかった。命懸けで戦った人物にそんな酷い仕打ちをするなどと。

だが、同時に理解も出来てしまった。大赦の秘密主義は、当初は少なくとも勇者を守る為のものだったのだと。今は悪い方での秘密主義になってしまったが。

 

「その上で暴走したら園子達に止めてもらおうと考えているから、余計にタチが悪い」

「ホントだよね~。あの人達はなにも分かってないよね。言動が矛盾しまくりだし~」

『さすがに世界が滅ぶとなったら止めに行くけどな。大赦の人ぶっ飛ばした後で』

「私は場合によりけりかな~」

「俺は一線を越えない限りは放置だな。大赦の人が幾ら殴られようと心底どうでもいいが、殺すとなると止めに行くさ」

 

大赦の人間なんぞ知らん、ボコボコにされればいいと言わんばかりに口にする三人。やらかした事を考えれば当然である。

 

(まあ、私も実際には止めに行くだろうな~。ミノさんやこーりん、わっしー達の為に)

 

口では状況次第と言いつつも、内心は結局止めに行くことに園子は自身に対して苦笑するのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

―――二ヶ月後。

 

「……誰よ、あんた」

「そうだな。敢えて名乗るなら……通りすがりの、御免ライダーだ」

「どこの特撮ヒーローよ!?」

 

完成型勇者のツッコミをスルーしつつ、少年は円を描くように羽を広げた三本脚の鴉のアイコンが表示されたスマホの画面を、勇者部部長に見せつけるように構える。

 

「変身!」

「「!?」」

 

少年は二人の勇者の目の前で変身する。黒い装束と黄色い彼岸花の刺繍が施された紅の羽織、頭巾と鳥を模した金の仮面を被った姿へと。

 

「改めて名乗ろう。俺の名は郡千晶。またの名を……御免ライダー、コーヴァスだ」

「だからどこの特撮ヒーローなのよ!?ひょっとしてふざけてるの!?」

 

 

 




続くかは未定。
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