彼は勇者ではない   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ。


それが彼の選択

―――それは突然だった。

 

「なにっ!?」

 

急にその場にいる全員の目の前でスマホが現れ、アラーム音が流れたことに友奈は驚きと共に自身のスマホの画面を確認する。

画面には【樹海化警報】ではなく【特別警報発令】……聞き馴れた警告を知らせるアラーム音だけでなく、危険を知らせるサイレンが鳴り響く音まで混じっている。これまでとは違う、緊急事態と一目で分かる警報に約一名を除き、誰もが困惑し、混乱する。

 

「なんで敵が来るのよ!?バーテックスは全部倒した筈でしょ!?」

「それに警報も鳴り止まないよ!なにがどうなってるの!?」

「一体なにが……」

 

夏凜は慌て、友奈も困惑する中、同じように困惑していた風は気付いた。千晶だけが、取り乱すことなく無言で自身のスマホを見つめていた事に。

 

「その反応……アンタはこの状況がどういう事なのか、知っているの?」

「知っている……というより検討が付いていると言った方が正しいな」

 

風の質問に千晶はそう答え、顔を壁がある方向へと向ける。その先には、樹海化の光が迫って来ている。

そしてすぐに光に呑み込まれ、五人は神樹が作り出した樹海へと召喚される。

召喚されてすぐ、夏凜は厳しい表情で千晶に駆け寄って胸ぐらを掴み上げた。

 

「あんた!知ってるならこの状況を今すぐ教えなさい!!本当に何がどうなってるの!?」

 

今にも射殺さんばかりの鋭い目付きの夏凜の詰問に、あくまで千晶は冷静な態度で口を開いた。

 

「おそらく壁が破壊されたんだ。今この場にいない勇者の手によって」

 

千晶のその答えにその場にいた全員が息を呑む。四国を守る壁が破壊されたことにも驚きだが、それが勇者の手によって引き起こされたのだからさらに驚く。

そして、この場にいない勇者は一人しか思い浮かばない。

 

「東郷さんが!?どうして!?」

 

友奈は信じられないといった表情で千晶に問い掛ける。そんな友奈に、千晶はあくまで冷静に答えていく。

 

「おそらく彼女は世界の真実を知ったんだろう。それ以外に、この暴挙に出た理由が思い浮かばない」

「世界の真実……?」

 

茫然とした表情で、千晶の言葉を反芻する風。未だに風を抱き締めている樹も視線で詳しい説明を求めている。

そこに更なる衝撃的な情報が飛び込んでくる。

 

「なによこれ!?どうして敵がいっぱい来るのよ!?」

 

千晶から少し離れて自身のスマホを確認していたらしい夏凜の驚愕の声に、千晶以外は急いで自身のスマホを操作してマップを表示する。

そのマップには……敵を示す赤いマークが塗り潰すように大量に表示されていた。壁には隙間が出来ており、そのすぐ近くに美森がいる事実と共に。

 

「ちょっ、友奈!?」

 

その状況で、友奈は一足先に動いた。本当にこの事態を美森が引き起こしたのか。どうしてこんな事をしたのかを確かめる為に。

そんな友奈を追いかけるように夏凜も慌てて友奈の後に着いていく。その場に残されたのは風に樹、千晶の三人だけだ。

 

「すまないが、俺はあの二人の後を追う。構わないか?」

 

千晶のその言葉に、樹がコクリと頷く。本当に強い子だと千晶は思いつつ、届くかどうか分からないメールを送ってからすぐさま友奈と夏凜が向かう場所……美森がいる壁の上へと目指していく。

その道中で口だけの白いバーテックス―――通称“星屑”がまるで餌に群がる魚のように千晶に襲い掛かった。

 

「……やっぱりこうなるか。向こうからしたら、俺は怒りを買う存在だからな」

 

千晶はそう呟くと、群がってきた星屑達を薙ぎ払うように振るった手甲鉤で容易くバラバラに切り裂く。

切り裂かれてパラパラと崩れていく星屑達。そんな星屑達に構わず他の星屑達が千晶に迫るも、今度は銃剣の餌食となり、撃ち抜かれて四散していく。

そんな片手間の作業の如く星屑達を倒しながら千晶は進んでいく。そして、三人の姿を視界に捉えた。

 

「……分かってる。分かってるから、やらなければならないの!」

 

先に到着していた友奈と夏凜に対し、この状況を引き起こした張本人である美森はそう告げて壁の外に向かって飛び立つ。

あのまま美森に壁の外に向かわれると、千晶としてはまずい。何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()

 

千晶は降り立った場所で力いっぱい蹴り、弾丸のごとき跳躍で壁の向こうへ行こうとした美森を追い越す。そして、()()()()()()()()()()()()()を足場にしてさらに蹴り、そのまま美森に体当たりを食らわせた。

 

「!?」

 

突然の千晶の登場と、空中を蹴るという光景に虚を突かれた美森は対処出来ずにその体当たりをマトモに受けてしまう。

美森はそのまま、受け身も取れずに壁の上を転がっていった。

 

「こーりんさん……?」

 

美森を攻撃した千晶に向かって震える声で呟く友奈。千晶はそんな友奈と、刀を持って身構えていた夏凜に顔を向けて口を開いた。

 

「友奈に夏凜。お前たちは壁の外に行け。それを見てからどうするのか決めろ」

「え?」

「壁の外に行けって……」

「弾かれる心配をしてるなら安心しろ。あれは俺にしか作用しないからな。行けば、彼女がこうした理由も分かる」

 

そう話している間にも、星屑達は壁の穴から侵入し続け、その内の十数体が千晶達に向かってくる。それを千晶が手甲鉤から三つの斬撃を、銃剣から散弾を放って一気に片付ける。

 

「早く行け!」

 

千晶の強い口調に押され、友奈と夏凜は意を決した表情で壁の外へと向かって行く。

それを確認した千晶は、散華の後遺症を補完する為の装飾である四つのリボンで立ち上がった美森と改めて対峙した。

 

「美森……いや、敢えて須美と呼ばせてもらう。これ以上馬鹿な真似をするな」

 

銃口を突きつけ、実力行使も辞さない態度を示す千晶。そんな千晶に対し、美森は信じられないといった表情をする。

 

「どうしてなの?あなたも知っているんでしょ?壁の向こうは……!」

「全部が火の海でバーテックスだらけ、だろ?とっくに知っている。その正体がウイルスではなく、人間を殺す為だけに生まれた存在だということもな」

 

バーテックスの正体は四国以外を滅ぼしたウイルスが生み出した存在ではない。

バーテックスは“天の神”―――人類が神の領域に踏み入れようとした事に神々が怒り、集合体となった神が、人類を粛清する為に生み出した存在だ。

 

それに対して人類に味方したのが地の神―――同じく神々の集合体となった神樹だ。

三百年前の奮闘の末、人類は多くの犠牲を出しながらも一時的な平穏を勝ち取った。だが、同時に滅びを約束させられた敗北でもあった。

 

それは天の神の要求―――勇者の力を捨て、二度と四国の外へ出ない。とある神が二百年眠りつく事を生け贄を条件として誓約したからである。

その為に天の神は四国以外を火の海に作り替えた。二度と人類が繁栄できず、滅亡を約束させる為に。

そんな千晶の返しに、美森は理解できずに問い質す。

 

「知っていながらどうして!?あなたも勇者が犠牲になっていいと思ってるの!?」

「そんな訳がないだろう」

 

そう思っていたら満開の真実も教えていないし、世界の真実を近い内に話そうとも思っていない。

そんな鼻を鳴らして否定する千晶に、美森はますます彼のことが分からなくなる。

 

「第一行動が極端過ぎる。戦わせるのが嫌なら端末を回収するなり、破壊するなりやりようは他にもあるだろう。それがいきなり無理心中に走るとか……」

 

千晶が美森の行動を極端と評する途中で、後ろに振り向きながら左手の銃剣を横薙ぎに振るう。

銃剣に切り裂かれ、両断される星屑。美森はそのタイミングで千晶の頭部に目掛けて銃撃を放った。

それを千晶は首を横に傾けて避ける。しかし、完全には避けきれずに頭巾が少し千切れてしまう。

 

「え……?」

 

その光景に美森は我が目を疑う。その一瞬の隙を付いて、千晶は美森との距離を目と鼻の先にまで縮めた。

 

「七人同行!!」

 

千晶は美森の腹に蹴りを叩き込むと同時に精霊の力を発動させる。

途端に一列に並ぶように千晶が七人に増え、すぐさま一つに重なる。

その瞬間、強い衝撃と共に美森の精霊バリアが発動。その衝撃に耐えられずに美森は壁の上から吹き飛ばされた。

 

千晶が従える精霊―――七人同行は千晶の攻撃の威力を七倍にする力を備えている。同時にその反動も七倍に引き上げるので、単純ではあるがあまり多用はできない能力だ。

壁から強引に引き剥がされ、生い茂る木の根へと落下した美森は、同じく美森を追いかけて木の根へと降り立った千晶に顔を向ける。

 

「なんであなたの精霊バリアは発動しなかったの?精霊は確かにいるのに何で……?」

「ルーツが違うからな。精霊の力は借りれるが、守る為のバリアは存在しない。良くて散華が原因で死ぬことはないだけだ」

 

平然と告げた千晶に対し、美森はそんな都合の良いものがあるのかと視線で訴えかける。それを察した千晶は肩を竦めて説明する。

 

「無論、そんな都合良くはない。そもそもの前提で死にかけたし、精霊の力もこの銃剣同様に後付けだ。その前提も、俺にしか通用しないものだしな」

 

そもそも神様に直接訴えて要求するという、非常に畏れ多いことをやらかしたのだ。しかも二回だ。それが二度も昏睡状態に陥った最大の理由である。

そんな千晶を知ってか知らずか、美森は悲痛な表情で訴えかける。

 

「ならどうして!?こんな救いのない世界で、どうしてそうまでして戦うの!?こうするしか、みんなを救う方法がないのに!!」

「それは“救い”じゃなく“逃げ”だ。少なくとも今はな」

 

世界を終わらせるしか救われる方法がないと叫ぶ美森に、千晶はそれを逃げているだけと真正面から否定した。

自分の行動を逃げと否定された美森は、あまりの衝撃に言葉を失う。そんな美森に対し、千晶は言葉を続けていく。

 

「そもそもこれはお前達……勇者部全員の問題だ。なのに誰にも話さずに勝手に自己完結した上に、仲間の意見にも耳を貸さない……みんなみんなと言いながら、そのみんなをないがしろにしている時点で言葉に説得力がないぞ」

「……れ」

「むしろ自分の我が儘と言った方が納得がいくくらいだ。俺の行動も、結局は自身のエゴだからな。ある意味似た者同士だな」

「……まれ」

「だから俺は介入するし止めもする。俺自身が守りたいものの為にもな」

「ぁああああああああああああああああああっ!!」

 

千晶の言葉に我慢の限界が達したのか、美森は怒りが籠った表情で感情を露に叫び、両手に召喚したハンドガンを千晶に向かって無茶苦茶に撃ちまくっていく。

 

「私の思いを侮辱するな!!何も知らないあなたが否定するな!!みんなを生け贄から救うことを、否定するなぁあああああああああッ!!!」

 

もはや般若のごとき表情で、ビットモドキまで召喚して美森は千晶に攻撃を仕掛けていく。さすがの銃撃の多さに、精霊バリアがない千晶は木の根を駆けて避けていく。

そのタイミングで、大量のオレンジ色に輝く巨大な針が降り注いだ。

 

「!?」

「クッ!?」

 

美森は自身の精霊である青坊主がバリアを張って無事だが、千晶はそうはいかない。手甲鉤から斬撃を放って無数の針を弾き飛ばすと、大慌てで樹海の陰に隠れる。

 

「今の攻撃は射手座の……バーテックスが入れるほど守りが弱まっているのか」

 

おそらく壁の修復の為に全体の強度が一時的に弱まっているのだろう。この分だと射手座以外のバーテックスも侵入している可能性がある。

いや、確実に侵入している。二年前も、大橋の破壊を察知して大量の未完成体を強引に侵入させたのだから。

千晶が苦虫を噛み潰したような気持ちで思考に耽っていると、視界の隅に何かが入る。それは……蟹座の反射板だった。

 

「まずい!」

 

それに気付いた千晶はすぐさまその場から離れる。離れてすぐ、蟹座の反射板で跳ね返った射手座の大量の針が先ほどまで千晶が居た場所に突き刺さった。

 

「さすがに使うしかないか……神気解放!!」

 

ここで時間を食らうのは得策ではないと判断した千晶は、二つある切り札の一つを切る。

その瞬間、千晶の右腕から碧色に揺らめく光が溢れ出し、チリチリと焼ける音が聞こえ始める。

 

「これで一気に仕留める!!」

 

右腕が焼かれる痛みに顔を顰めながらも、千晶はそれに耐えて天高く跳躍する。そこには射手座と、少し離れた位置に蟹座が漂っている。

それを確認した千晶は右腕を突き出し、手甲鉤の鉤爪部分を手甲から分離させる。それを右手を覆うように配置し、爪の長さを延長しつつ宙に漂う状態で維持する。

その状態で手首を軸として爪を回転させ、碧色の光を巻き込むようにして巨大なドリルへと変化させた。

 

「ぉおおおおおおおおおおッ!!」

 

千晶は左手の銃剣を霧散させながら雄叫びを上げ、手甲の肘先部分から噴き出した炎をブースターとして空を駆け、射手座へと突撃していく。

射手座は突撃してくる千晶に威力と貫通力を重視した一際巨大な針を放つも、その針は千晶が突き出しているドリルによって粉々に砕かれる。

そしてそのまま、射手座は千晶のドリルによってその身体を大きく穿ち貫かれた。

 

「次!」

 

射手座を貫通した千晶はその勢いのまま空を駆け、頭上から蟹座へと突撃していく。その道中で星屑達が千晶に群がるも、ドリルの餌食となって無惨に散っていく。

蟹座はそんな星屑達に構わず、六枚の反射板を千晶の正面に配置する。

大量の星屑で勢いが殺され、強固な反射板にぶつかった千晶のドリルは火花を上げて止まるも。

 

「はぁあああああああああああああッ!!!」

 

裂帛の咆哮と共に、ドリルと化した爪の回転と噴き出している炎の勢いが強まる。

回転と勢いが強まったドリルは、蟹座の反射板にヒビを入れ、砕け散る音と共に穴を空ける。

そのまま反射板は次々と砕かれ、蟹座はそのまま頭から尻尾にかけて大穴を空けられる。

 

内部の御霊をも砕かれたことで、虹色の光を放ちながらその身体を砂と化して消えていく射手座と蟹座。そんな二体のバーテックスを倒した本人である千晶は、降り立った根の上で右腕を押さえて踞っていた。

 

「ぐううっ……一度解除しないとまずいか……」

 

切り札の反動で現在進行形で焼かれ続ける右腕の痛みに、千晶は脂汗を浮かべながら切り札を解除する。切り札が解除されたことで燃え広がる痛みは収まったが、火傷の痛みは消えることはない。

 

「はあ……はあ……」

 

痛みから荒い息を吐きながらも、千晶はスマホを取り出して美森の現在地を確認する。

その美森の現在地は……壁のある位置に表示され、すぐに消えてしまった。

 

「……しまった!?」

 

美森の位置情報が消えた意味―――壁の外へと行ってしまったことに千晶はやられたと歯噛みする。

美森は千晶がバーテックスに攻撃されたのを良いことに、今までの会話から手出しができなくなる壁の外へ向かったのだ。外から壁を破壊してバーテックスをさらに呼び込む為に。

その直後、爆発が千晶を襲った。

 

「グアッ!?」

 

スマホに注視していたことで気付くのが遅れた千晶は爆発をほとんどマトモに受けてしまい、派手に転がっていく。

千晶は痛みに耐えて口から血を吐きながら顔を上げると、空には新たなバーテックスが攻めてきていた。

 

「乙女座に蠍座……天秤座に山羊座まで攻めてきたのか……それも完成した状態で」

 

それに加えて大量の星屑も相変わらず壁の穴から侵入し続け、その壁の穴も徐々に大きくなってきている。しかもよく見れば、溶け合った鉄のような色をした未完成体のバーテックスまで侵入し始めている。

 

「神気解放は……さすがにキツいか」

 

右腕の痛みから、身体が焼かれる“神気解放”はこれ以上は使えない。次使えば右腕を物理的に喪ってしまう。

そう判断した千晶はどこか諦めたように呟くと、スマホの画面を操作して黄色い彼岸花のアイコンを表示する。これを使えば勇者達の切り札―――満開を発動できる。

当然、使えば身体の機能の何処かが供物として捧げられる。その供物ちなる部位が何処なのかはどちらも選べない。

 

スマホの画面を確認した千晶は空を見上げるように顔を上げ、目を閉じる。脳裏には、包帯で隠れる前の彼女の笑顔が過る。

記憶を失う恐怖はある。友達を忘れてしまう恐怖はある。

それでも……彼女を、友達を守りたい。これからも共に、生きていたい。

千晶は意を決したように目を見開き……左手のスマホを右腕の手甲鉤に翳した。

 

「―――満開」

 

その瞬間、右腕の手甲鉤に数多の光が集い、樹海に黄色い彼岸花が咲き誇る。

咲き誇った花の中心に立つ千晶の服は、色合いこそ同じだが僧兵か忍者を思わせる格好から一転、修験者のような格好へと変わっている。顔は仮面と頭巾で隠れたままだが、背中に金色に輝く鋼鉄の翼が浮くように漂っている。

 

そして右手には手甲鉤ではなく、長銃に大鎌の刃がくっついたような、片手で持つには余りにも不釣り合いと呼べる程に巨大な武器が握られている。

身体能力欠損を約束させられている満開を発動した千晶は、その長銃とも大鎌とも取れる武器を肩に担ぐと、バーテックスに向かって飛び立つのであった。

 

 

 




『あの口だけバーテックス、まるで豆腐だよな』
「食用には全く向いていないがな。一般人が食べると、罰当たり的な意味で死亡するからな」
「勇者の場合は?」
「神樹が無害化してるから大丈夫だ。腹を下す可能性は稀にあるそうだが」
『体液的なやつは?』
「それも同じだ」
『アタシ、勇者で良かったよ』
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